貴方のいないクリスマスにぽつり、純白のひまわり。
―貴方へ―
今年のクリスマスは一層肌寒いです。
思い返せば私たちの初めては全てこの日でしたね。
出会ったのも、付き合ったのも、結婚したのも、全て。
窓から見える景色は何もかも美しく輝いていて、決して手の届かない夢のよう。
覚えていますか?
この鳥籠から逃げ出した夜の事。
貴方は何も知らない私の腕を引いて、何も言わずに走り出しましたね。
少しだけ騒がしい城下町、見たこともない青く広大な湖、極寒の空に舞う緑色の炎。貴方の隣は、少しだけ暖かかった。
どこへだって行ける気がした。天子様のような大きな翼で、この真っ白な空の向こうにだって。
別れ際、悲しげな顔を取り繕った私に、貴方は渡しましたね。氷で作った、純白のひまわり。
実は貴方の魔法よりも、その楽しそうな横顔に私の目は引き込まれていた事、気づいていましたか?
今もこのひまわりと供に、貴方の帰りを待っています。
純白のひまわりの花言葉は《ほどよき恋愛》。貴方はお花には疎かったようですけど。
村娘のような透き通った恋心を抱いて、初めてのワガママもそっと後押ししてくれた。素敵な思い出。
昨日も、今日も、明日も、明後日も、この先もずっと。色褪せる事のない私の気持ちは、ずっと貴方の胸の中にあります。
きっとお返事もないこの手紙と一緒に、一本のひまわりを貴方へ。
―貴方の永遠の妻、ソフィアより―
「あの、ソフィアさん。本当にせっかくのクリスマスに仕事が入った事。深く、深く反省しています。…って!だからって当て付けのようにこんな手紙を送らないでくれー!魔法研究室宛の手紙って事務の人が内容チェックするの知ってるでしょ!あの微笑ましい物を見たと言わんばかりの、生暖かい目を一身に受けた俺はどうすれば良かったの!?しかも同僚に勘づかれて洗いざらい話させられるし、もう良い酒のつまみだよ!こんちくしょー!」
クリスマスに妻を放って仕事にかまけてた夫へのちょっとしたイタズラ。大成功である。
「まぁまぁ、貴方。お帰りなさい」
「はい!ただいま帰宅しました!
それから……お揃いだね」
そう言った夫の手の中には一本のひまわり。
花言葉は…《一目惚れ》。
「やったー!ソフィアからのプレゼントー!」
…彼にはまだ内緒だけどね。