第六話
ある非番の日、たまたま祐一くんの通う学校の前を通りかかった。
フェンス越しに校庭を覗き込むと、どうやら集会をしているらしい。校庭に全校生徒が集められて、壇上で校長らしき男性がマイク越しに生徒へと語りかけている。
「えー、先日からボロボロのアンパンマン人形が学校中で見つかっているのは皆さん知っていますね? 犯人は未だわかっておりません。学校としても警備を強化していますが、みなさんも気をつけて、登下校は必ず誰かと一緒にしたり、なるべく一人にならないように注意してください」
生徒たちはみんな体操座りで行儀よく並んでいる。真面目に聞いている子も入れば、砂いじりをしている子や、居眠りをしているのか船を漕いでいる子もいる。
「もしも怪しい人を見つけた時は、絶対に近づかずに近くの大人や先生たちに報告してくださいね」
ふと、校庭の隅の桜が目に入った。太い釘でアンパンマンのパペット人形が打ち付けられている。
見てはいけないものを見てしまったような気がして、視線を落とす。砂場に焼け焦げたアンパンマンのソフビが投げ捨てられていた。
もしかして学校中この有様なんだろうか。まさかそこまでやるとは。
大人は得てして、子供を純粋なものだと思い込みがちだ。これが不審者の犯罪だと一度思い込んでしまえば、先生たちは祐一くんを疑わないかもしれない。彼は犯行現場を誰にも見られないように気をつけてさえいればいい。
ぴろん、とスマホが鳴った。田島からだ。あいつは今日仕事だったはずと思ってラインを開くと、「犯人捕まりました! 普通の空き巣でした!」とのことだった。
学校の怪談ってこうして生まれるのかもしれないな、と思ってその場を離れる。もうしばらくしたら学校の七不思議に数えられるかもしれない。
田島に「お疲れ様」と送りつつ、学校の様子を知らせる。彼の言う通り、なにか対処しておいた方がよかったかもしれない。
ぴろん、と田島からスタンプが送り返されてくる。ガクガク震えているうさぎのスタンプだった。