第一話 戦後の始まり
禁衛府とは宮内省警衛局皇宮警察部と帝国陸軍近衛師団を前身とする機関である。
パーシバルはこの禁衛府に目をつけ再軍備の足がかりにしようと考える。
前に述べたようにGHQは日本軍の武装解除をある程度先送りにし続けていた。
徴兵された者は軍籍から外され地元へ返されたが、職業軍人はそのままで放置されていた。
やっと全部隊の解体が始まったかと思えば、異動が命じられた。
禁衛府は兵部省に名称を変え宮内省から独立し、旧日本軍の人員が集められたのである。
しかし兵部省のトップである兵部卿の人選は困難を極める。
貴族の中から選ぶのは決まっていたが、皇族公爵から選出するのは憚られた。
そこで白羽の矢が立ったのが五摂家である。
五摂家の中でも筆頭の近衛家は除外され、一条家・九条家・鷹司家・二条家の四家の中から選ばれる事になった。
家の格式的に一条家か九条家の二択となったが、一条家の当主が強い国家主義者的な考えを持つ人物だった為、九条家が兵部卿に任ぜられることになる。
九条家は皇族公爵ではないものの天皇とは近縁にあたるのも都合が良かった。
兵部卿が決まるとさっそく軍の編成が始まった。
とりあえずリー・エンフィールドとウェブリー・リボルバーが渡され、軍隊としての体裁を整えられる。
軍服は日本軍のままでブロディ・ヘルメットを被った格好ではあったが、供与される装備がすごいのである。
機関銃もルイス軽機関銃やブレン軽機関銃、ヴィッカース重機関銃が供与される。
お払い箱になった巡航戦車と歩兵戦車が供与され、ついでに大砲まで供与され陸軍としてはそれなりの戦力となる。
余剰になった駆逐艦や小型の艦艇も供与され海軍も充実、旧式の戦闘機も供与され空軍まで作られた。
どれも要らなくなった物を押し付けただけではあるが、それでも敗戦国に対しては大盤振る舞いである。
彼らはイギリス軍に倣って天皇陛下の軍、つまり皇立軍として設立された。
近衛兵もイギリスに倣い伝統を重視し、御親兵として緑色と赤色の軍服を着たものへ変わった。
もちろん政府もイギリスに倣って天皇陛下の政府となっている。
これでは戦前と変わらないように思えるが中身はしっかりと民主化している。
軍隊が忠誠を誓う最高司令官は天皇陛下であるが、天皇大権は首相ないし内閣に委任されるため事実上の総指揮権は首相にある。
総理大臣も戦前と違い同輩中の首席ではなくなり、行政の長として強い権限を持つようになった。
民主化の為に五大改革指令や公職追放・財閥解体・農地改革なども行われた。
こうして大日本帝国(Empire of Japan)は日本皇国(Japanese Empire)として、新しい憲法と共に戦後の第一歩を踏み出したのである。