第19話 美少女JK、キスしてしまった事実を知る。
「ひまりー。体調どーう?」
「おはよーママ。体調ばっちりだよ♪」
「そっか、よかったじゃん。佐藤にあんなことされてさ。うち心配してたんよ」
「せんぱい? なに、あんなことって?」
「あいつなー。ひまりーが寝てる間にキスしやがったんよ」
「キ……キスっ!? えっ、せんぱいと陽葵がっ……!?」
「ほんと欲情したサルだよなぁー。次会ったらぶっ飛ばしてやるからさ。でもキスくらい慣れてるでしょ? ひまりーくらいのルックスならさー、学校でもイケメン取り放題じゃん? うちなんかもJKの頃は――」
「ママっ! 陽葵、ほんとにせんぱいとキスしちゃったのっ……?」
「んぇ? やっぱひまりー覚えてないん? 唇に感触とかあったでしょ?」
「う、ううん……。なんかせんぱいがずっと近くにいてくれたような、そんな記憶はあるんだけど」
「そっか。ほんとひどいよな、あいつ。代われるもんならうちが代わりたかったくらいだし」
「えっ?」
「う、ううん……覚えてないんなら忘れてよこの話っ……。にしても! ひまりーほんと昔から体が丈夫じゃん? またケロっと治ったし。これも剣道のおかげかねぇ~」
「剣道……」
それからはぼーっとしちゃって。
ママの話はあんま入ってこなかった。
先輩とキスした?
わたし、本当に先輩とキスしちゃったの?
☆★☆
佐藤先輩との出会いはけっこう前だ。
たしか小学校の中学年くらいの頃だったかな。
あのときはパパを交通事故で亡くして、わたしはずっと泣き続けてた。
よく覚えてないけど、塞ぎこんでるそんなわたしを変えるためにママが荒療法的にわたしに剣道の習い事をさせたんだって思う。
剣道界には上下関係があって、小学生であっても学年が上の人には敬語だった。
わたしは女子ってこともあったし、そんな環境になかなかうまく馴染めなくって。
正直、剣道なんてやりたくなかった。
そんなときに出会ったのが佐藤先輩。
最初、佐藤先輩の下の名前を聞いたときはびっくりしてしまった。
でも周りのみんなみたいに笑うことはできなかった。
だって、佐藤先輩は剣道にすごく真剣だったから。
道場でもひとりだけ雰囲気がちがったし、厳しかった。
よくひとりでいるわたしを稽古に誘ったりしてくれて。
女子でもそこは容赦ない。
めっためったにされた。
あの頃から佐藤先輩はわたしに遠慮がなかった。
わたしは昔から周りの大人たちから〝かわいい〟〝かわいい〟って言われて育ってきたから遠慮のない佐藤先輩がすごく怖かった。
体格もいまと同じように大きかったし、目も鋭かった。
佐藤先輩はわたしを〝かわいい〟なんて言うことは一度もなかった。
でもなんていうのかな。
そんな先輩の方が周りの大人よりもよっぽど大人に見えて。
気付けば、わたしは先輩の稽古に付き合っているうちに剣道に夢中になってた。
竹刀を交えて体を動かしていると自然と嫌なことも忘れて。
パパのことも自分の中で区切りをつけることができるようになっていた。
たぶん佐藤先輩はそんなわたしの事情なんかは知らなくて。
ただ単純にひとりでいるわたしが気になって、稽古に付き合ってくれてたんだって思う。
それからは先輩と自然とお話しできるようになって、家族ぐるみで遊びに出かけたりもした。
佐藤先輩は本当に強かった。
地区の大会ではほとんど優勝してたし、わたしもそんな先輩に追いつきたくて必死で剣道を頑張った。
でもある日。
都大会で負けちゃったときから先輩は変わってしまった。
あんなにかっこよかった先輩が自信なく見えるようになって、道場に来ることも少なくなって。
しばらくして先輩は剣道を辞めてしまった。
周りは冷たかった。
佐藤先輩が道場に来なくなってからは師範も手のひらを返すみたいだったし。
いま道場の関係者で佐藤先輩と付き合いがあるのはわたしだけだと思う。
それから先輩は周りとどんどん距離を取るようになって、中学でもいつもひとりでいるみたいだった。
わたしが先輩と深い関わりがあったのなんて道場で一緒に練習してた1、2年の間だけ。
中学だってちがう。
けど、わたしはずっと先輩に付きまとった。
先輩と同じ高校を受けたのだってそうだ。
だって……なんか悔しかったから。
思い出してほしかった。
また一歩踏み出してほしかった。
輝いていた頃の佐藤先輩をわたしは知ってる。
わたしはずっと感謝してるんだ、先輩に。




