第171話 目指せ会長
私の名はエレーン。
アレン領にある今では観光名所になった『ラウンド・アップ』の従業員。
10ヵ月前に開店しその時に、斡旋ギルドから斡旋され社員になった従業員の1人。
その時の勤務は8:30~15:30だったけど、今では宿泊できるようになっている。
だから私達も24時間交代で勤務よ、その分お給料も上がったけど。
以前はエリアス社長が本館の3階に住んでいた。
でも今はあのアスケルの森を開拓し国を興したって聞くわ。
それを初めて聞いた時は耳を疑った。
だってあのアスケルの森だもの。
それからエリアス様は会長になり、アルバンさんが社長になったの。
自宅は今でもここの敷地内にあるけど、昼間はアルバン社長も不在だわ。
だって以前はこの施設内にエリアス商会もあったけど、今はシャルエル教会内にお店を移転したから。
昼間ご自宅に居るのはアルバン社長の奥様のアルシア様、お子様のアディ様ね。
ラプタ(鳥)を養鶏していて最近では数も増え毎朝、お二人で新鮮な卵を自宅前で販売している。
社長夫人親子が自宅前で卵売りと言う絵面も変だけど。
でも数に限りがあるからすぐに売り切れてしまう。
だってその卵は茶色なの!!
普通、卵は白色でしょう?
黄身に弾力があってとても美味しいと評判だわ。
特別な『卵』だと言って、みんなありがたがって買っていくわ。
でもエリアス会長が言うには『親鶏や生活環境の違い』だけで中身は白色と同じだよ、と言うけど。
アルバン社長の奥様はとても優しい方で、いつも私達を気にかけてくれている。
ある日、質の悪い二人組が卵を買いに来て、奥様のアルシア様に絡んでいたの。
門番に私が呼ばれて門まで来てみると、奥様のアルシア様とお子様のアディ様だけだった。
門番に聞いてみても、『お、俺は知らない…な、何も見てない…』と怯えていたようだった。
よほど怖い目に合ったのね。
いったいなにが、あったのかしら?
そう言えば去年からシャルエル教会から慈善事業で施設の草刈りや、庭の剪定に来てくれる人が多くなったわね。
その時も教会からの慈善事業の人が居たけど、どうしたのかしら?
アルバン社長は気にするな、と言っていたけど。
店がシャルエル教会内に移転する前は、裕福そうな商人の男性が来たり、公爵様のお使いの方もよく訪ねて来ていたわ。
そして一番驚いたのは、シャルエル教大司教ヨハネス様がお見えになったの。
このウォルド領で、いいえこのジリヤ国のシャルエル教団の中で、一番慈悲のあるお方。
人々に仕事や恵みを与え病に苦しむ人のために、『薬』という薬学を解明した先駆者。
その富の山を人々に惜しげもなく与え、神に身を捧げる潔癖な聖職者。
その噂を聞き付け他の領から、いいえ他国から引っ越して来る人も多いとか。
その時に私も声を掛けて頂いたわ。
『なにか困っている事は無いか』と。
思わず私は舞い上がり『神様に守って頂いているので、なにもありません』と、答えてしまった。
すると大司教ヨハネス様は、『我々が神様を守っているので、なにも心配はございません』と真顔でおっしゃって。
ヨハネス様がそんな冗談を言うなんて。
更に親近感を覚えたわ。
それ以降、施設内で大声を出したり、私達を困らせたりする人がいなくなった。
どうしてかしら?
驚くことに、施設の入館料は1人1万円。
1万円よ、1万円?!!
1日働いて普通は3,000円くらいなのに。
しかも一般客は9~15時までしか利用できない。
それ以降は泊り客のみ。
泊りは1人5万円!!
泊り客は本館を利用できる。
本館の一階はホール、大階段、食堂、客間、居間、台所、洗濯場、風呂場。
二階、三階は部屋が七部屋ずつと各階にもトイレや書斎がある。
でも三階は会長用なので、普段は利用できない様に通路の階段を閉じている。
それでも随分、豪華だ。
見たこともない魔道具の数々。
照明魔道具の壁のスイッチと言うものを、カチカチしているだけでも楽しいと聞く。
部屋には見たこともない一流の豪華な家具。
そして夕食は一階の食堂で季節の果物や肉、野菜のバイキングと言う食べ放題。
やっと市販されはじめた綿と言う、高級布団に包まれて眠ることが出来る。
至福の時。
これで1人5万円なら安いかもしれないわ。
そして騒いでいるお客様がいると駆け付けると、その時にはもうみんな大人しくなっていて…。
決まってそういう時には、教会からの慈善事業の人が居るけど。
どうしてかしら?
それから驚くことがもう1つある。
私達が来る前は施設内のことや清掃は、エリアス会長が1人でやっていたと聞く。
庭や廊下、浴槽、全てやっていたら1人でなんてとても無理だわ。
今、従業員は25人いる。
それで会長1人分の働きと同じだなんて。
まだまだ努力が足りないわ。
『目指せエリアス会長!!』
それが私達の目標よ。




