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6 初任務

 一時間後、オレとピーアを乗せたガルダは西の渓谷に到着した。


「相変わらず凄まじいスピードだな。助かった。また後で呼ぶよ」

『分かりました。木の実を食べて待っています』


 光に包まれたガルダが消えた後、オレは後ろでぐったりとした様子でうつ伏せに倒れるピーアに歩み寄った。


「大丈夫か?」

「全然大丈夫じゃないニャ……うぅ……地面があるニャ……」


 どうやら空を飛ぶのに慣れていなかったようで、地面と熱い抱擁を交わしている。

 そこは配慮が足りなかったな。

 帰りはガルダに頼んで低空飛行にしてもらおう。


「少し休んだら出発しよう。ドラゴンが現れたとなると、早急に討伐しないと渓谷の生態系が崩れる可能性がある」

「了解ニャ……」


 十分間の休憩の後、オレはピーアとともに出発した。



 西の渓谷。

 ピーアの話によると、ラストンベリーから徒歩で丸二日、馬車で半日の場所にあるそこは、本来、比較的安全な場所だという。

 生息するモンスターの平均危険レベルは10。といっても危険なモンスターはほとんど奥地にいるため、一般人でも危険な目に遭うことはほとんどないだろう。


 そんな平和な場所に突如現れた、圧倒的捕食者。

 ドラゴン。

 この世に人類が誕生する以前から世界に存在した怪物。

 常にあらゆる生態系の頂点に君臨し、その凶暴性と雑食性から生態系を破綻させることもしばしばある危険なモンスター。

 いわば全生物にとっての天敵だ。

 危険レベルは個体差があれど、平均して40はくだらない。

 危険レベル40というと、村や小さな町なら一瞬で滅ぼすほどで、一国の軍隊が出動するくらいの脅威度だ。


「ピーアはいくつなんだ?」

「十六ニャ。ゼクスはいくつニャ?」

「いくつに見える?」

「んー、二十四くらいニャ」

「それは少し複雑だな。オレは二十一だぜ?」

「そうは見えないニャあ。悪い意味じゃなくて、大人っぽいって意味ニャ」


 ちょろちょろと緩やかに流れる浅瀬の川沿いを歩きながら、オレはピーアと雑談に興じていた。

 これから一緒に仕事をする仲だ、コミュニケーションを取っておいて損はない。


「ピーアはいつから騎士団にいるんだ?」

「二年前だから……十四歳の時ニャ。当時あたしは盗賊としてぶいぶい言わせていたニャ。自分でも言うのもニャンだけど、それはもう恐れられていたニャ。主に旅人を追い剥ぎして生活をしていたニャ。でもある時騎士団を襲っちゃって、あっけなくボコボコにされた挙句、騎士団に無理やりいれられたニャ。でも居心地はいいし、文句はないニャあ」


 ニャハハ、と笑うピーア。

 十四歳で盗賊か。

 ピーアは一見して無邪気な少女だが、見た目に反して壮絶な幼少期を送ってきたのだろう。


「ゼクスは? 前はどんな事をしていたニャ? 盗賊? テロリスト?」

「なんで犯罪者前提なんだよ。オレは冒険者ギルドの――」


 その時だった。

 不意に遠くで咆哮が轟き、鳥たちが一斉に飛び立っていくのが見えた。


「ニャニャ! 今のまさか……!」

「ああ。ドラゴンだ。今の鳴き声からしてレッドドラゴンだな」

「そんなことが分かるニャあ? もしかしてゼクスって凄腕の冒険者ニャ?」


 ピーアの台詞に思わず苦笑する。

 当たらずも遠からず、って感じだな。


「ともかく、すぐに向かうぞ」

「でも、正確な位置が分からないと危険じゃないニャ?」


 オレは首肯する。


「その通り。だからまずは見つけ出す」


 魔力を神経に集中、咆哮がした方向に【感知】を開始。

 オレの【感知】の範囲は五キロだが、咆哮の大きさ的に、ドラゴンがいるのはそれ以内だろう。

 草木をかき分け、【感知】を進める。

 ドラゴンは種類によって住処に好みがあり、レッドドラゴンは洞穴を好む。

 だからまずは洞穴を見つけ、中を探索。


 一つ目。いない。

 二つ目。いない。

 三つ目。……いた。


「見つけた」


 ピーアが目をパチクリさせる。


「見つけたって……どうやったのニャ?」

「【感知】だ」

「え、そんな近くにいるのニャ?」

「? いや、三キロ先だ」

「?? なんでそんなことが分かるニャ?」

「いや……だから【感知】だ」


 なんだか要領の得ない会話だ。


「【感知】でそんな距離まで探せる訳ないニャ。もしかして適当言ってるニャ?」

「別に探せるだろう。オレの【感知】範囲は五キロだからな」

「へ……?」


 口をポカンと開けるピーアは、ぶんぶんと首を振って詰め寄ってきた。


「そ、そんなのあり得ないニャ! 【感知】なんて普通は精々十メートルが限界ニャあ!」

「え、そうなのか?」

「当たり前ニャ! 五キロなんて異常すぎるニャ!」


 ……そういえば、ギルドでも最初は皆全然【感知】を使えていなかったな。

 オレが【感知】のコツと重要性を教えてから、皆練習してまともに使えるようになったんだったか。

 【感知】を覚えたことでウチのギルドはクエストの成功率が上がり、死者が劇的に減ったんだ。


「だけど本当だ。嘘だと思うなら、付いてこなくてもいいが」

「ニャニャ……ゼクスの仕事を観察するのが仕事ニャから付いてくけど……」


 半信半疑、渋々といった様子のピーアとともに歩くこと一時間。

 とある洞穴に到着した。


「う……!」


 入口に立った瞬間、ピーアが顔をしかめた。


「血の匂い……それもすっごく濃厚ニャ……。ま、まさかほんとうに……?」

「だから言ったろ。行くぞ、集中しろ」


 オレたちは洞穴に足を踏み入れる。

 そして進んだ先……天井の穴から陽光が差し込む泉の傍に、そいつは眠っていた。


 赤黒い鱗。鋭利な牙と爪。

 体長は約30メートル。なかなか大きいな。

 年齢はおそらく五十前後。

 古傷はあるが、歴戦の個体とまではいかないだろう。


「ほ、ほんとにいたニャ……!」


 ピーアの頰に汗が伝う。

 オレはピーアの前に立った。


「退がってろ。ここはオレに任せてくれ」

「え……ほんとに一人でやる気ニャ……!?」


 後ろであたふたしているピーアに目で「大丈夫だ」と伝え、ドラゴンの下へ一歩、一歩と近づいていく。

 するとドラゴンの瞼が開き、真紅の瞳がオレを射抜いた。


『グルル……』


 ドラゴンがオレに気づいて起き上がる。

 こう見るとかなりデカい。


「危険レベルは42ってとこか」


 これまでの経験からそう推測するオレをドラゴンは真紅の双眸で睥睨し、息を吸い込んだ。


『――グルォォォォォオオオォォォォォォォ!!』


 大気を震わす、咆哮。

 オレはできる限り穏やかに、ドラゴンに語りかけた。


「オレはお前を殺したくはない。このまま大人しく元の巣に帰ってくれ。――って、聞く耳持たずか」


 ドラゴンが大きく息を吸い込んだ。

 直後、喉奥がカッ! と赤く光る。


 ――ゴオォォォォォォォォッ!


 迫り来る、豪炎のブレス。


「やるしかないか」


 両足に魔力を込める。【強化】。

 横に向かって地面を蹴り、十メートルほどの距離を一瞬で移動、ブレスを難なく避ける。火炎が洞穴の壁を赤く焦がした。


「ゼクスっ!」


 後ろでピーアが叫ぶ。

 見れば、ブレスがなぎ払うようにしてオレを追ってきていた。

 が、ギリギリまで引きつけてからの跳躍で危なげなく回避。

 着地するや否や、地面を蹴りつける。爆ぜる地面。

 オレは一足飛びにドラゴンとの距離を詰め、足を止めた。

 眼前に鎮座する、見上げるほどの巨体。


『グルァッ!』


 ブレスを中断したドラゴンが鋭利な爪で引き裂こうとしてくるが、最低限のステップでかわす。

 ドラゴンの攻撃が大振りになった一瞬の隙を見逃さず、オレは右手を横に伸ばした。


「第八階梯魔法、【雷霆剣らいていけん】」


 ――バチチチチチチッ!


 激しいスパークとともにオレの右手に現れるは、紫電の剣。

 それを握り、オレを切り裂こうとしているドラゴンめがけて袈裟懸けに振るう。

 刹那、視界を一筋の閃光が横切る。

 静寂。

 ややあって、ずるり、とドラゴンの体が真っ二つに裂け、ずぅぅん……、と崩れ落ちた。


「悪いな」


 ドラゴンに悪気があったわけじゃない、ただ生きていて、偶然この場所にたどり着いただけだ。

 だがそれでも、渓谷(この場所)の生態系を守り、付近の街や村を守るために討伐しなければならなかった。


「せめて素材は余すことなく使ってやるからな」


 解体しようと背中からナイフを取り出したオレの元に、ピーアが興奮した様子で駆け寄ってきた。


「すごい、すごいニャあ! ほんとに一人で倒しちゃったニャ!」

「言ったろ? オレに任せろって」


 言いながら素早くドラゴンを解体していくオレを、ピーアがキラキラした目で見つめてくる。


「ほんとに凄いニャ! ドラゴンを単独ソロで危なげなく討伐できる人なんて、騎士団にも一握りしかいないニャ!」


 そんなに褒められると気恥ずかしいな。

 ギルドでは認められること自体少なかったからな。

 上層部には「ドラゴンを倒した」って言っても逆に嘘つき呼ばわりされていたし、こうした素直な賞賛は背中がむず痒くなる。


「まぁ、慣れているだけだ。ドラゴン退治はそれなりにやってきたから」

「ニャハー! やっぱりゼクスは凄腕の冒険者ニャ!? 二つ名とかあるニャ!?」


 二つ名か……オレはただのギルド職員だったが、そういえばあったな。

 冒険者たちの手伝いをしている内に、いつの間にか密かにつけられた異名が。

 まぁそれもなんか恥ずかしいし、言わなくていいか。


「ピーア、解体を手伝ってくれ」

「了解ニャあ!」


 興奮冷めやらぬ様子で解体を手伝ってくれたピーアのお陰もあり、十五分ほどで解体は終わった。


「縄で縛って……よし、完了だ」

「完了にゃあ!」


 ピーアとハイタッチを交わしたことで、胸のうちに達成感が広がっていくのを自覚する。

 やっぱり良いもんだな、誰かと仕事をするってのは。


「さて、帰って一杯やるか」

「ニャハ! あたしも一杯やるニャ!」

「ピーアは未成年だろ?」

「ノンノン、アヴァロニアでは十五歳から成人ニャ!」

「なんだ、それならいけるな。良い店紹介してくれよ? 【召喚サモン】」


 閃光が広がり、木の実を食っている最中のガルダが姿を現す。


「食事中にすまないなガルダ、アヴァロニアまで頼む」

『もぐもぐ……承知しました』


 縄をガルダの足に括りつけた後、背中に乗るオレを見て、ピーアが真面目な調子で問うてきた。


「ニャあ……ゼクスって何者なのニャ?」


 オレはガルダと目を合わせる。

 何者、か。


「別に何者でもないさ。……でも、そうだな。あえて言うとすれば、」


 オレは冗談半分、といった感じでピーアに笑いかけた。


「ただのしがない元ギルド職員、ってところだ」

「面白かった」

「これから面白くなりそう」


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[気になる点] 感知は普通は10mが限界ってそれ感知の意味なくないですか?音や気配が分かるようになるにしても10m程度じゃ感知なんて使わなくても一般人でも気づきそうですけど。
[良い点] 戦闘シーンの体言止めの文章がテンポが良くて良いです。
[一言] 続き待ってます!
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