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4 アリス

「――ゼクスをクビにしたですって!?」


 遡ること一ヶ月前……ゼクスがクビになってから二日後。

 週が明け、賑やかな雰囲気に満ちた冒険者ギルド『白亜の太陽』に怒声が響き、フロアはしんと静まり返った。

 それもそのはず、その怒りの主が『剣姫』アリス・セントラルだったからだ。

 アリスは十八という若さでSランク冒険者に上り詰めた天才女剣士であり、その強さと金髪金眼の美貌によって他の冒険者たちから嫉妬と憧憬を集めていた。


「あなたたち、一体何を考えてるの!? ゼクスがこのギルドに一体どれだけ貢献してきたと思ってるのよ!? それをクビって……薄情にも程があるでしょ!」

「わ、私に言われましても……ゼクスさんの解雇は上層部が決めたことですので……」


 泣きそうな受付嬢が言うも、怒りのおさまらないアリスはさらに詰め寄る。


「今すぐにゼクスを再採用しなさい。さもなければ、後悔することになるわよ」

「そ、それは無理です……! ゼクスさんの行方は誰も知らないんですから!」


 それを聞いたアリスは呆れた表情になり、踵を返した。


「ア、アリスさん!? どこにいくんですか!」


 受付嬢の呼び止めにアリスは足を止め、


「辞める」

「え?」


 アリスは振り返ると、スタスタスタ。

 受付嬢の前に行き、バン、とカウンターにカードを叩きつける。

 それは『白亜の太陽』に所属していることを示すギルドカードだった。


「私、今日限りでこのギルド辞めるから」


 途端、ギルド内がどよめく。

 Sランク冒険者は世界でも数少ない人材である。

 Sランク冒険者の在籍はギルドの箔に繋がり、ゆえにアリスはこれまで『白亜の太陽』の顔とも言うべき存在だった。

 アリス目当てに所属している冒険者も一定数いることから、そのアリスが辞めるとなると、ギルド側としては大問題となる。


「そ、それは困ります! アリスさんにはこのギルドにいてもらわないと――」

「ギルド側に冒険者の在籍を左右する権限はないはずよ。問答無用、私はここを脱退するわ。だって、ゼクスみたいな優秀な人材を切り捨てる場所には未来を感じないもの」


 そう言ってギルドから出て行こうとするアリスの行手を阻んだのは、一人の青年。


「まぁそう早まらないで。キミが抜けたら色んな人に迷惑がかかるんだよ、アリス?」

「……そんなの知ったことじゃないわ。そこをどきなさい、ジーク」


 アリスの強い口調にも肩を竦めるのみで動じない金髪の青年はジーク・フリー。

『勇者』の二つ名を持つ、アリスと同じSランク冒険者だ。


「どくわけにはいかないよ。なにせ僕はアリスが入っているSランクパーティ『光明の刃』のリーダーなんだから」

「あっそ。じゃあ今日限りで脱退するわ」

「そんな勝手な物言いが通じると思うかい? こっちにも都合というものがあるんだよ」

「クビになったゼクスも同じことを思ったでしょうね。いいからどきなさい、斬られたくなかったらね」


 アリスが腰の剣に手をかける。

 一触即発の雰囲気。誰もが唾を飲み込んだ。

 ジークがフッと息を吐く。


「アリスとやり合う気はないさ。しかし不思議だな、どうしてキミはたかがギルド職員一人が解雇されただけでそこまで怒っているんだい? あんな男、一人辞めたところで何も支障はないじゃないか」


 あんな男(・・・・)という言葉を聞いた瞬間、アリスは氷のように冷たい瞳をジークに向けた。


「ゼクスの凄さが分からないなんて。あんたも案外、見る目なかったのね」


 それを聞いたジークがスッと目を細める。


「僕の見る目がないだって?」

「ええそうよ。実力が確かでも他人を見る目がない人とは一緒にやれないから。さよなら」

「……そんなこと言わずにこれまで通り僕たちと冒険しよう。そうだ、気分転換に今夜二人で飲みに行ったり――」

「結構よ」

「なっ……」


 ジークの甘いマスクから放たれる誘いを一蹴し、ジークの脇を抜けてアリスはギルドを出る。

 雲ひとつない空の下、アリスはぽつりと呟いた。


「絶対に逃がさないからね、ゼクス」

「面白かった」

「これから面白くなりそう」


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