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3 夜道の襲撃者

長めです。

 翌朝から、王女の護衛が始まった。

 護衛は朝から晩まで、交代制で行われる。

 騎士団はオレだけしかいない為、護衛の時間も僅かにしか与えられていない。

 その中で結果を出すというのは、非常に困難だ。


 そこで、オレは護衛の番がくる時間まで、城内で聞き取り調査をすることにした。

 王女の護衛をする上で、まずは敵を知らねばならない。

 でないと、いざという時に判断が鈍るからな。

 オレは広い城内を一周し、掃除中のメイドや休憩中の料理長などに話を聞いて回った。

 彼らに聞いた話をまとめると、こんな感じだ。


・王女はその美貌から国内で大きな人気を誇っている

・城の内部にも派閥が存在し、大きく分けると、改革派と守旧派の二つ

・改革派であるソフィア王女は、守旧派の貴族から疎まれている


 ちなみに、改革派とは従来の体制などを改めてより良い国や組織を目指す勢力のことで、守旧派とは従来の体制保持を求める勢力のことだ。

 両派閥の具体的な目的はまだよく分からないが、聞き込み調査の内容から推測するに、今ソフィア王女の命を狙っているのは、守旧派の人間である可能性が高い。


 とまあ、現時点で分かったのはこれくらいだ。

 まだまだ敵は不透明……引き続き調査が必要だ。




 調査を終え、午後三時ごろ。

 オレは城の裏庭へと足を向けた。

 今日のオレの仕事は、ティータイム中の王女の護衛。

 ナイルズを筆頭とする軍の連中に睨まれながら護衛を引き継ぎ、オレはテーブルで紅茶を嗜むソフィア王女の下へ。

 ソフィア王女は近くにやってきたオレに気づくと、ぱあっと顔を明るくした。


「まあ、お次はゼクス様ですのね。よろしくお願いいたしますわ」

「はい、よろしくお願いします」


 丁寧に敬礼したのち、オレは彼女の背後に立つ近衛兵、シャノンを見た。


「シャノンも、よろしく頼む」

「……気安く僕の名前を呼ぶな、ならず者」


 ならず者、か。

 どうも騎士団は嫌われているな。

 国内での立場が低い現状では、仕方がないか。

 やはり、今回どうにかして実績を上げる必要があるな。


「ゼクス様、わたくしに冒険の話を聞かせてもらえはしませんこと?」


 とソフィア王女にそんなことを言われ、オレは少し考えた後、印象に残っている過去の冒険をいくつか言葉で紡いだ。

 それらをソフィア王女は子供のように目を輝かせながら聞いていた。


「まあ、ドラゴンを単独で……やはりゼクス様は冒険譚の主人公そのものですわね! こんなに興味深い話を聞いていたら、創作意欲が湧いてきますわ……あっ」


 言いながら、王女ははっとした顔になって口元に手を当てる。

 創作意欲……なるほどな。


「王女様は、創作がご趣味で?」


 問うと、ソフィア王女はやや恥ずかしげに「ええ」頷いた。


「昔から冒険譚や英雄譚が好きで……自分でもあのような素晴らしい物語を作りたいと思うようになるまで、時間はさほどかかりませんでした。あの……このことは外部には内緒ですわよ? その……まだ未熟ですし、少々恥ずかしいので」


 別に恥ずかしいことではない気がするが。

 まぁでも、気持ちはなんとなく分かる。

 小説を書くことは、読者に己の恥部を見せるようなものだ、という言葉を聞いた事があるしな。


「承知いたしました。いつの日か、王女様の書いた物語を読める時を楽しみにしています」

「うふふ……はい、いつの日か多くの人に読んでいただけるよう、日々精進したいと思います」


 とそんな風にして会話を楽しんでいたら、


「王女様と気安く話すな」


 とシャノンに睨まれてしまった。厳しいこって。


「シャノン、そこまで厳しくする必要はないのよ? ごめんなさいね、ゼクス様。昔はもっと穏やかな子だったのだけれど」


 この二人は昔からの付き合いなのか。


「お言葉ですが、王女様。この世に変わらないものなどありません」

「わたくしはそうは思わないわ、シャロン。大切なものというのは、決して変わることはないわ」

「……人は変わるものです。僕も、誰であろうと。あの方のように――」


 そこまで言って、シャロンはハッとした顔になった。


「いえ、失礼しました」

「別にいいのよ」


 ソフィア王女が寂しげに微笑む。


(あの方……?)


 誰のことか……聞ける雰囲気ではないな。


「ところでシャロン、また昔のように名前で呼んでちょうだいな。ここには三人しかいないのだし」


 一瞬、静寂に包まれた場を和ませるように、ソフィア王女が冗談めかした調子でそう言った。


「それはなりません。僕は王女様の近衛兵なのですから」

「もう、相変わらずつれないわね」

「つれなくて結構です」


 というやりとりには、確かに二人の間にある年季を感じさせた。

 ソフィア王女がカップを口にやり、ずず、と紅茶を飲む。


「……ゼクス様、一つお聞きしてもよろしくて?」


 ふと、声のトーンを真面目なものにして、ソフィア王女は言った。


「――理想は、ありますか?」


 初夏の暖かな風が吹き、庭の草木を揺らす。


(理想、か)


 考えたこともなかった。

 常に今を生きる事ばかり考えていたせいだろうか。


「……理想なんていえるような高尚な考えは、オレにはありません。オレはただ、自分の手の中にある大切なものさえ守れれば、それでいい」


 かつて失ったもの。

 そして、今在るもの。

 もう二度と失いたくない。

 その為なら、オレはなんだってする。

 これは理想じゃない。

 あの時にした、オレの決意だ。


「もし」


 王女が言う。


「もしも貴方の大切なものに危機が迫ったら、その時はどうしますか?」


「戦います。オレにはそれしかできませんから」


 生憎、オレには戦う力(これ)しかない。

 飛び抜けた頭脳もないし、人の上に立つカリスマ性もない。

 唯一持っている武器で、守る為に戦う。

 たとえ、自分の身が滅びようとも。


「……くすっ」


 王女が微笑み、それからやや申し訳なさげにオレを見た。


「ごめんなさい。実は、今の問いは、わたくしが好きな冒険譚に出てくる台詞なの。理想を抱く王女が、自分を守る騎士に対して言った台詞。それにしても……うふふ。ゼクス様ったら、あの本の騎士と同じことを言うんですもの。驚きましたわ」


 ソフィア王女は言った。


「わたくしには、理想があります」

「王女様――」


 窘めるような口調のシャロンを目で制し、王女は言う。


「わたくしは、この世界から悲しみをなくしたい。今はまだ、力無き少女の夢物語にすぎない。けれど、わたくしは必ずやこの理想を実現します。ですが、それには現在のような軍拡主義をやめ、無用な争いを集結させなければなりません」


 だからこそ、と王女は続けた。


「わたくしがこの国の統治者となります。全ては……世界平和の為に」


 世界平和。

 突拍子もない話だが……それが王女の求める理想、改革派たる理由ということか。


「ゼクス様」


 彼女はオレを見た。


「これがわたくしの理想です。誰が相手であろうとも、わたくしはまだ力尽きるわけにはいきませんの。ですのでゼクス様、どうかわたくしを守ってくださいね」


 そう言って、王女は陽だまりのような笑みを浮かべるのだった。




 夜――星々が瞬く午後七時ごろ。

 一日の勤務を終えたオレは、騎士団寮に向けて暗い街路を歩いていた。


「世界から悲しみをなくしたい……か」


 魔石で灯る街灯を何本も越え、空に浮かぶ満月を眺めながら……

 昼間、王女が言っていた言葉を思い出す。


 他の国に比べると、アヴァロニア王国(この国)は比較的平和だ。

 それは、他国よりも戦力があったり、資源に富んでいたりと、様々な理由がある。

 とはいえ、全ての国がそうではない。

 今も、世界のどこかで争いが起き、悲しみは世界を満たし続けている。

 それらを全てなくそうなんてのは……単なる絵空事だ。

 若き王女が夢見る、淡い夢物語にすぎない。

 けれど……彼女は本気の目をしていた。

 理想を追い求める強さを、あの華奢な身体の奥に秘めていた。


 オレは……この長く険しい人生の果てに、一体何を求めるのだろう。


「いや……」


 頭を振る。

 悩むなんてオレらしくない。

 何もかも全て、いずれ分かる事だ。

 今はただ、目の前の事だけを考えていればいい。


「――――で、何か用か?」


 オレは人通りの少ない裏路地に入ってすぐ立ち止まり、後ろを振り返った。

 夜空で弧を描く満月。

 その下に立つ、マスクで顔を隠した黒ずくめの人物。

 性別は不明。

 武器も不明。

 だが、目的は明白。


(暗殺者か)


 王女の暗殺に邪魔な護衛(オレ)を消しにきた……そんなところか。

 だが、


「わざわざそっちから来てくれるとはな」


 これはチャンスだ。

 ヤツを捕まえて雇い主を吐かせる事ができれば、騎士団の手柄になる。

 この機会を逃す手はない。

『感知』で調べたところ、周囲に敵は一人。

 目立たないよう、単独で来たのだろう。


「!」


 チャキッ。

 妙な音とともに、暗殺者が僅かに動く。直後、


 ――ズガンッ!!


 発光、轟音。


(何だ――)


 次の瞬間、


 ――ボガァァンッ!


 破砕音とともに足元の石畳が破裂し、直後、激しい炎とともに爆発が起きた。


「ぐあぁっ!」


 オレは後方に吹き飛ばされ、激しい熱風に揉まれながらもどうにか受け身を取る。

 素早く態勢を整え、制服についた埃を払った。


「くっ……!」


 危なかった。

【感知】で何か(・・)が飛んでくるのを察知して全身に魔力を纏っていなければ、今ごろ致命傷を負っていたかもしれない。


(なんだ……今の魔法は?)


 何が起きたのか、まるで分からなかった。

 あいつが僅かに動いたのとほぼ同時、既に攻撃されていた。

 思考を巡らせる間もなかった。

 超速の一撃。

 それしか考えられない。

 だが、一体どうやって――


「ッ!」


 ――ズガガァンッ!!

 再び轟音、今度は二回。


(【凝眼】ッ)


 眼球に魔力を宿し、こちらへ超速で飛来する小型の何かを見極めんとする。


(っ、見えたッ!)


 両目がそれを捉えた瞬間、オレは即座に両足へ魔力を集中、素早く後方へ飛び退さる。

 直後、オレが一瞬前までいた場所の石畳から二回、爆炎が巻き起こった。


「――っ」


 暗殺者が息を呑むのが分かった。

 お前の攻撃……ほんの少しだが、見抜いたぞ。

 赤い鉄の玉。

 それが、飛んでくるモノの正体だ。

 見たところ、あの鉄は魔力を含んでいた。

 あの爆炎は、特殊な魔法によって引き起こされたものと考えて間違いない。


(超スピードを生んでいるカラクリは不明だが……何が飛んでくるかさえ掴めば、避けるのは難しくない。何とか隙をついて近づければ、勝機はある。だが……)


 ここは裏路地とはいえ、街のど真ん中。

【雷撃】のような高威力の技は使えない。

 さて、どうしたものか……


「!」


 ――ズガガガッッッ!!


 音が連続して鳴り、赤い鉄の玉が目にも留まらぬスピードで飛んでくる。

 悠長に考えている暇はないか。

 バッ! と屈んで玉を躱し、同時に魔力の込めた右手、その指先で石畳に触れる。


(【エレキドラゴン】)


 バチチチチィッッ! とスパークした紫電が小さな竜の姿を象り、地を這いながら暗殺者へと迫る。


 第五階梯魔法、【エレキドラゴン】。

 竜を象った雷。【雷撃】などと違って派手な威力はないが、動くモノを狙うという変わった特性を持つ魔法だ。応用が効き、狭い場所での戦闘に向く。


「ッ!」


 暗殺者が横に跳んで回避を試みるも、紫電は角度を変えて暗殺者を追う。


「チィッ……!」


 回避は無理だと判断したらしく、ヤツは懐から黒光りする小型の武器を取り出した。

 暗くてよく見えないが、あれがヤツの得物か。


 ――ズガンッッ!


 音が鳴り、瞬きほどの光とともに武器の先端から鉄の玉が発射される。


(なんだ……?)


 超速で撃ち出されたそれは、さっきまでの赤色の玉ではなく、茶色の玉だった。

 茶色の玉が石畳に着弾。

 同時、一瞬にして土の壁が現れ、紫電を弾いた。


「な――」


 土、だと?

 攻撃は炎だけじゃないのか?

 チャキ、とヤツの武器がオレへと向けられる。


 ――ズガガガンッッ!


 今度射出されたのは、三発の玉。

 それぞれ、赤、青、緑。

 三発とも、オレの急所を正確に狙っている。


(くそ、まだ他の色があるのか――)


 悪態をつきたくなるのを堪えながら、オレは全身に紫電を纏った。

【ハイヴォルテージ】。

 紫電を肉体に宿し、身体能力を引き上げる技だ。

 ダッ! と地面を蹴り、飛来する玉の隙間を縫うようにして躱す。


「!」


 暗殺者が息を飲んだのが分かる。

 恐らく、あいつの目にはオレが空を駆ける稲妻に見えたことだろう。

 直後、後方で続けざまに爆音が鳴った。

 見れば、火が巻き起こり、水流が石畳を砕き、竜巻が路地に落ちたゴミを吹き飛ばしていた。

 土の次は、水に風かよ。

 ここまで多くの属性を使えるとは、こいつ何者だ――。


「!」


 スッ……、と暗殺者が空いた左手で取り出したモノを見て、オレは思わず目を見張る。

 ヤツの手にあるのは、右手にあるのと同じ、黒い武器。

 もう一個持っているのか――!


 ――ドガガガガガガンッッッ!!!!


 激しい轟音とともに、二つの武器から無数の玉が発射される。

 数撃ちゃ当たる、か。

 だが、無闇に撃ってもオレには到底――


「ッ……!?」


 その瞬間、オレは自分の目を疑った。

 キン、キン、キンッ。

 ヤツが撃った、無数の玉。

 それらが一つ、また一つ。

 互いにぶつかり合い、掠め合うことで、各々の軌道を不規則に変え、オレへと迫る。


(まずい、軌道がまるで読めない――!)


 ぼそり、と暗殺者がつぶやいた。


「……【サーカス・ショット】」


 冗談だろ。

 あいつ……この人間離れした技を、狙ってやってのけたっていうのか……!


「く、ッ!」


 オレは魔力を宿した両手をパン、と地面に置いた。


(【エレキドラゴン】)


 途端、オレの両手と地面の隙間から這い出るようにして、何体もの紫電の竜が現れた。


 ――グオォォォォォォォ!!


 竜たちは雄叫びをあげながら、動くモノ――飛来する鉄の玉を次々と喰らっていき……あっという間に全ての玉を食べ尽くした。

 よし、次は――


「ふ、っ!」


 オレは紫電を纏うと、地面を蹴りつけ、暗殺者めがけて突貫した。


「ッ!」


 暗殺者が慌てた様子で攻撃をしてくるが、まるで当たらない。

 当然だ。

 どんな攻撃も、稲妻よりは遅い。


「しッ――!」


 瞬きの間に暗殺者の懐に入り込んだオレは、ヤツの腹部めがけて掌底を繰り出す。

 このスピードが乗った一撃だ。

 直撃すれば、ただじゃすまない。

 だが。


「はぁッ!」


 相手は武器を手離すと、片手でオレの掌底をいなし、さらにカウンターで回し蹴りを放ってきた。


「ちッ!」


 オレは腰を落として躱し、足払いを放つ。

 が、ギリギリで避けられた。


(こいつ……!)


 オレの動きに付いてきてやがる。

 さっきから薄々気づいていたが……こいつ、明らかに普通の暗殺者とは違う。

 バレルやアリスのような、超人の部類だ。

 その時、相手は背中からナイフを手に取り、突き出してきた。


「し、はッ!」

「ッ! くッ!」


 ナイフでの鋭い刺突やなぎ払いを避けながら、オレは口内で舌打ちした。


(こいつ、近接格闘術も使うのか――!)


 しかも、かなりの腕前だ。

 徒手格闘とナイフ攻撃を織り交ぜながら、的確にオレの急所を狙ってくる。

 恐ろしいヤツだ。


(だが、スピードはやはりオレが上だな)


 一瞬の隙を突き、オレは暗殺者のナイフを持った方の手を掴んだ。

 そしてそのまま手首を捻ってナイフを奪い、顔めがけて投擲。


「うッ!」


 思わず仰け反った暗殺者にタックルを敢行し、その場に押し倒す。

 そして最後は、ピタッ。

 オレは暗殺者の首筋に手を当て、言った。


「――オレの勝ちだ」

「……!」


 マスクの奥で、暗殺者の瞳が見開かれる。

 静寂に包まれる路地裏。

 ややあって、暗殺者は言った。


「…………僕の負けだ」


 聞き覚えのある声にはっとしていると、暗殺者は自らマスクを取った。


「お前は……!」


 暗殺者――シャノン・ノルフェーンの顔を見て、オレは困惑した。


「なぜ、お前が……」


 王女の近衛兵であるシャノンがオレを襲う理由など、思いつかない。

 すると、シャノンが答えた。


「貴様を、試したんだ」


 試した……だと?

 目で続きを促すと、シャノンは恥ずかしげに目を逸らしながら言った。


「その前に……どいてくれないか? ……顔が近い」


 そういえば、押し倒したままだった。


「あ、あぁ。悪い」


 オレが素直にどくと、シャノンは武器を拾って立ち上がり、気のせいか若干顔を赤らめながら、話し始めた。


「僕が貴様を襲ったのは、ならず者集団所属の貴様に、王女様を護衛するに足る器か確かめる為だ」


 ……なるほど、そういうことか。

 こいつは王女に絶対の忠誠を誓っているようだから、国内で絶賛没落中の騎士団所属であるオレが王女を守れるかどうか、見極めようとしたんだな。


「理由は分かったが……ならず者集団ってのは聞き捨てならないな。オレたちは国を守る騎士団だ。出自がどうあれ、その気持ちはお前たちと同じだ」

「……どうかな」


 ぷい、と顔を逸らすシャノン。

 そこを訂正する気はなし、か。

 まぁ今はいい。


「しかし……それならそうと、言ってくれれば、手合わせでも何でもしたんだがな」

「本気の貴様と戦わねば意味がないだろう。結果には少し……驚いたがな」


 とシャノンは、ぷく、と頰を膨らませた不満げな表情で、だがオレを認めてくれるような発言をしてきた。


「シャノンこそ、驚いたぞ。あんなに強いとはな。まだ本気を出していないだろ?」

「貴様こそ、力の十分の一も出していないように見えたがな」


 そこに気づける辺り、こいつも“本物”だな。


「ほら」

「……なんのつもりだ?」


 オレが拳を向けると、シャノンは眉を寄せた。


「仲直りだ。騎士団ウチでは、挨拶や仲直りの時は、仲間同士でこうやって拳をぶつけ合うのが通例だ」

「……勘違いするな。僕は貴様の実力を認めたんだ。ならず者と仲良くするつもりはない。とはいえ……」


 と不意に、シャノンは頭を下げてきた。


「夜道に襲ったことは、僕の非だ。すまなかった」


 そう素直に謝ってくるシャノンに、やや驚きつつ……

 オレは今一度、シャノンに拳を突き出した。


「だったら尚更、仲直りしなくちゃな」

「何度言えば分かる。僕は貴様と慣れ合うつもりはない」


 ふん、と鼻を鳴らすシャノンに、オレはあえて低い声で言った。


「シャノン。もしオレの申し出を断ったらどうなるか……分からないのか?」

「な……何をするつもりだ」


 オレの威圧に気圧され、頰に汗を垂らすシャノン。

 オレは言った。


「今日のこと――王女に言うぞ」

「なっ……」


 その瞬間、シャノンは血相を変えた。


「そ、それはダメだ! 断じて許さないぞ! 僕がこんなことをしてるなんて王女様に知られたら、なんて言われるか……っ!」

「だったら、オレに従え」

「うぐ……こ、このならず者め……!」


 涙目になるシャノン。予想以上の狼狽具合だな。

 ……少し意地悪だったか。

 だがまぁ、オレは襲われた側だし、少しくらい良いだろ。相手は男だし。


「ぐ……ぐぐ……」


 シャノンは拳を強く握りしめていたが、やがて観念したように息を吐いた。


「はぁ……仕方ない。本来であれば、ならず者の言うことを聞くなど言語道断だが……」


 そう言ってシャノンは大変不本意そうに、こつん、と拳をオレの拳にぶつけてきた。


「……これで満足か?」

「ああ。これでもうオレとお前は仲間だな」

「なっ……ど、どうしてそうなる!」

「言っただろ。これは仲間同士でやる挨拶だって」

「な、なんだと!? 取り消せ! 今すぐに取り消せ!」


 この男……堅物かと思いきや、意外とからかい甲斐があるというか……

 なんというか、天然っぽいな。


「ところで、その武器はなんだ? 初めて見たが」


 話を逸らしがてら、左右の太ももに下げた武器について問うと、シャノンはこちらを睨みつけつつも答えてくれた。


「これは“魔銃”だ」

「“魔銃”……聞いた事がないな」

「当たり前だ。これは我が国に代々伝わる秘宝の一つなのだからな。ならず者の貴様が知らないのも当然のことだ。このならず者が」


 王女の名を使って言うことを聞かせたこと、相当根に持ってやがるな。


「――ゼクス・レドナット」


 ふと、シャノンは真面目な調子で言った。


「王女様の護衛……本来は僕だけで十分だと思っている。だが、世界は広い。貴様のような強者がいつ現れるかも分からない。僕は自分の力に自信を持っているが、決して最強などと言うつもりはない。だから……力を貸して欲しい。王女様を守る為に……そして、この国の未来の為に」


 初夏の夜。

 月下、そう言ったシャノンの灰色の瞳は、どこまでも真剣だった。


「……分かった。オレとしても、騎士団として国の未来は守る。約束する」

「その言葉……嘘でなければいいがな。まぁいい……今から言う事は他言無用だ。いいな?」

「ああ」


 オレが頷くと、シャノンは冷たい声で言った。


「――王女様の御命を狙っている黒幕は、王女様の実の兄、エリオット第一王子だ」

「面白かった」

「これから面白くなりそう」


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書きたいことを書きすぎると、長くなる上に粗が目立ってしまいますね。

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