2 魔力測定
更新が空いてすみません。徐々にペース上げていきます。
※追記11/16
次回の更新は11/17です。今週中に最低二話は更新します。
まばゆいほどに煌めくプラチナブロンドの髪。
サファイアよりも深い青色の瞳。
パステルブルーを基調としたドレスと、赤い宝石が嵌められたネックレス。
歳の頃は18くらいだろうか。
高貴なオーラを身にまとう目の前の女性は、ドレスの裾を摘んで優雅に一礼した。
「ごきげんよう。三すくみの皆さま」
そう言って浮かべた木漏れ日のような笑みに、この場の誰もが見惚れたことだろう。
「わたくしは、アヴァロニア王国第一王女、ソフィア・アヴァロニア。本日は、わたくしの為にお集まりいただいたこと、誠に感謝します。――シャノン」
と、シャノンと呼ばれた人物――傍に立っていた青髪の男が一歩前に出て、凛とした声音で言った。
「僕の名は、シャノン・ノルフェーン。王女様をお守りする事が使命の、近衛兵だ。非常に不本意だが……今回はお前たち三すくみに力を借りたいと思っている」
シャノン……新聞で何度か見た名だ。
ソフィア王女唯一の近衛兵にして、『魔弾』の異名を持つ最強の護衛。
その二つ名が何を意味するかは推測できないが……なるほど、確かに実力はありそうだ。
(だが……あれは何だ?)
シャノンが左右の太ももに提げている、謎の武器。
小型の黒光りするそれは、とても奇妙な見た目をしているものの、非常に精緻な造りであることが見て取れる。
だが、剣や杖の外見とはまるで異なる。
とても風変わりで、また、一切の使用意図が想像できない。
人生で初めて見る武器だ。
(『魔弾』……その名に秘密が隠されているのか)
シャノン・ノルフェーン、か。
少し興味が出てきたな。
「現在、王女様を狙う不届きものがいる。敵はまだ不透明だが……王女様は我が国の光。必ずやお守りしなければならない。そこで、三すくみの諸君には、これから建国祭までの期間……つまり一週間と少しの間、王女様の護衛を担ってもらう。では、宰相殿」
「ええ。皆さん、これを」
そう言って宰相クロムウェルが懐から取り出したのは、透明な球。中央で仄かに光が灯っている。
「これは魔法球。冒険者協会などが入団審査などに使う、触れた者の魔力を測定する魔道具です」
魔法球か。懐かしいな。
冒険者ギルドでは、現時点の実力や才能を見極める為、魔法球で新人冒険者の魔力を測る義務がある。
魔法球は触れた者の魔力量が大きいほど、輝きを増す。
のちにSランク冒険者となったアリスが初めて触れた時には、目視できぬほどの凄まじい光を放っていた。
実際には魔力量が多ければ良いってもんじゃないが……一つの指標ということだ。
「これを用い、ここにいる二十一人の魔力を計らせてもらう。君たちが王女様を守るに足る人材か、魔法球に見極めてもらうとしよう」
というわけで、軍から順に魔力測定が始まった。
「おぉ、凄い光だ……!」
「さすがは少佐!」
強く発光する魔法球。
手をかざしているのは、先ほどオレに絡んできた軍人の男。
「ふん、当然だろ。このナイルズ・マクレガーこそ、王女様を護衛するに最も相応しいに決まっている」
あいつはナイルズというのか。
少佐……やはりそれなりに偉い人物のようだ。
性格はともあれ、実力は十分らしい。
「ふむ……軍は全員合格だ。次、魔法省」
軍が終わり、魔法省の面々が魔力を測っていく。
と、不意に中庭にどよめきが起きた。
「こ、この光は……!」
「目が眩むようだ……これが『セブン』の魔力か」
思わず目をすがめるほどの輝き。
それを引き起こしているのは、小柄な少女。
イザベラ、だったか。
見込み通りの魔力量だな。
「おーほっほっ! 魔法大学を史上最年少首席で卒業した天才魔法使いとは、このアタシのことよ!」
高笑いするイザベラ。
それを、ナイルズたち軍の連中が憎々しげに見ている。
魔法使いが軍人よりも魔力量が多いのは、当然といえば当然か。
「魔法省も合格だ。最後は……」
ちら、と。
クロムウェルの目が、オレに向く。
その目は、『鉄血』の二つ名に違わぬ冷たさをはらんでいた。
「――おいおい、騎士団なんぞ測る必要もないだろ」
オレが前に出るのと同時、そう口を挟んだのは、ナイルズ。
「どうせ蝋燭の火程度の光しか灯らないだろう。測るだけ無駄ってもんだぜ」
ナイルズが言い、軍と魔法省の面子から笑い声が上がる。
「静粛に! ……貴様、早く魔法球に触れ」
近衛兵のシャノンに睨まれる。
なぜか、オレを見るその目は厳しい。
あいつも騎士団を嫌っているクチか。
(まったく……随分と舐められたもんだ)
オレが馬鹿にされるのはいい。
だが、ここまで騎士団をコケにされると、さすがに怒りが湧いてくるな。
「君がゼクス・レドナットだね?」
クロムウェルが興味深げに問うてくる。
「オレを知っているのか?」
「多少ね。オリヴィアくんが推薦した君の実力……期待しているよ」
薄く笑みを浮かべるクロムウェル。
……何を考えているのか分からない男だな。
ともかく、これ以上舐められないよう、ここで騎士団の力を示しておくか。
(……少し、本気を出すか)
魔法球に手を伸ばす。
さすがにあの魔力を出す訳にもいかない。
だから、今のオレが出せる全力の魔力を――
「!? こ、これは――」
クロムウェルが目を見張る。
直後、魔法球から膨大な光が迸り、中庭は白く染まった。
「くっ――そこまでだっ!」
白い視界の中でシャノンの声が聞こえ、すぐさまオレは魔力の注入を中断した。
徐々に晴れる視界。
中庭は静寂に包まれていた。
ややあって、眼前に立つクロムウェルが頰に汗を垂らしながら、口端に笑みを滲ませた。
「素晴らしい。合格だ」
それから少しして、軍と魔法省の連中が我に返ったように一気にざわめきだす。
「おい、今の嘘だろ……!?」
「あ、あんな光、見た事がないわ……!」
「あれほどの輝き…… 軍なら中将クラス、冒険者ならA……いやSランク並みだぞ……!」
流石にやりすぎたか。
いや……今回の仕事には騎士団の威厳がかかっている。
目立ちすぎなくらいで丁度いいだろう。
「ぐ……ぐぐ……騎士団の癖に……ッ!」
「こ、このアタシより目立つなんて……許せない……!」
ナイルズとイザベラが怒りと憎しみが入り混じった目で睨んでくるが、スルー。
触らぬ神になんたら、だ。
クロムウェルはメガネをくいと直すと、全員を見渡し、言った。
「では、ここにいる全員を合格とする。護衛は明朝から。そして交代制だ。よろしく頼むよ」
軍や魔法省の連中がぞろぞろと去り、オレも後を追うように中庭から出ようとすると、呼び止められた。
「待て」
シャノンだ。
王女の近衛兵である彼は、改めて見ると、驚くほど端正な顔立ちをしていた。
男にしてはやや長めのアイスブルーの髪。
切れ長の瞼の奥でたゆたう、磨き抜かれた大理石のような灰色の瞳。
やや低めの上背に、引き締まった肉体。
一瞬女かと疑うほどに綺麗な容姿だ。まるで御伽噺の王子様のようだ。
そういえば、新聞でも『話題沸騰中! 女性に大人気、最強の近衛兵!』とか見出しが付けられていた気がするが……間近で見ると、それも納得だ。
「王女様が貴様に挨拶したいと言っておられる。光栄に思え」
見れば、後ろにソフィア王女が控えていた。
シャノンが脇に避けると、王女が前に出てきて、穏やかな表情でこちらに一礼してきた。
「ごきげんよう。お会いしできて光栄ですわ、ゼクス様」
オレは咄嗟に胸に手を当て、
「アヴァロニア騎士団所属、ゼクス・レドナットと申します。こちらこそお会いできて光栄で……ん? どうしてオレの名前を?」
顔を上げると、王女はにっこりと笑みを浮かべた。
「噂は色々と聞き及んでいましてよ。まだ騎士団に入って短いながら、先日のスタンピードに引き続き、南の海での異常を解決するのに一役買ったと。スタンピードでは、ゼクス様がアンフィスバエナを倒したのでしょう?」
「いえ……仲間の力あってのことですよ」
思わず目をそらす。
これは謙遜ではない。
スタンピードの時に森を消しとばした事に対する責任転嫁だ。
悪いな、みんな。
「まあ、謙遜なさらないで。そうそう、南の海ではクラーケンと戦ったというのは本当ですの?」
王女が興味津々、といった様子で聞いてくる。
心なしか、目が輝いているように見えるのは気のせいだろうか。
『王女様は、英雄譚や冒険譚がお好きなのだ』
ちらと見れば、シャノンが魔法文字――指先に魔力を灯して宙に文字を描く基本技術――でオレにそう伝えてきた。
なるほど、だからオレに挨拶しにきたのか。
「ええ、本当ですよ。攻撃してもすぐに再生してしまう、手強いモンスターでした」
とオレが言うと、王女は目をキラキラさせた。
「そうなのですね! 一体どのようにして倒したんですの!?」
「体内にある核を破壊したんです。するとクラーケンは泥のようになって消滅しました」
「体内の核を……すごいですわ……! ゼクス様はまるで冒険譚に出てくる主人公ですわね!」
穏やかそうな見た目とは裏腹に、冒険の話ではしゃぐソフィア王女。
「王女様、その辺で……」
シャノンが言い、王女は我に返ったようにこほんと咳を一つ。
「も、申し訳ありません。少し舞い上がってしまって……。ゼクス様、明日からの護衛もよろしくお願いしますわ。では、ごきげんよう」
王女が踵を返す。
最後、近衛兵のシャノンがオレをキッと睨みつけた後、王女の後を追って去っていった。
オレ……あいつに何かしたか?
「面白かった」
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