プロローグ
「ゼクス、お前はクビだ!」
「なっ……」
ギルドマスターの宣告にオレは耳を疑った。
「クビって……冗談ですよね?」
「冗談なものか! お前はいつもいつも仕事をサボって遊んでばかり! 私はな、お前のような怠け者が最も嫌いなんだ!」
ギルドマスター、もとい、ギルマスの怒号がギルマス室に響く。
「いや、オレは別にサボってなんか――」
「言い訳なんて聞きたくないわ! もうこっちは我慢の限界なんだ! お前のような無能に払う金はない! さっさと荷物をまとめて、出て行け!」
「ち、ちょっと待ってください。オレにはまだ仕事が残って――」
どん!
ギルマスが机を叩く。
「口答えするなっ! お前のクビは我々上層部の総意、今更何を言っても覆らん! ふんっ……そもそも私は、前からお前のことが気に食わなかったんだ。特にその面、多少は女好きする顔かもしれんが、その顔には何も乗っていない。のらりくらり適当に生きてきた証拠だ」
あんたの顔には脂が乗ってるがな、なんてもちろん言わない。
理不尽なクソ上司だろうと、一応は年上だ。
年上には敬意を払えと師匠に習った。オレはギルマスを軽蔑しているが、師匠は尊敬しているんでな。
オレは小さく息を吐いた。
「分かりました。ギルドを出て行きます。それで、今月分の給料はもちろんくれるんですよね?」
「そんなもんあるかっ! これまで散々怠けてきた癖に、よくそこまで厚顔無恥になれるものだな!」
その言葉、そっくりそのまま返すけどな。
このギルドの上層部はいつも女遊びばかりしていてロクに仕事なんてしやしない。
お前らの怠慢のせいで、一体どれだけ下がしわ寄せを受けているか……。
まあ、こいつらが知るわけないか。
逆らう奴はこれまで全員、クビにしてきたんだからな。
それでもこの冒険者ギルド『白亜の太陽』は実績があるから冒険者協会よりSランクギルドに認定されている。
だから上がツケ上がる。実際は下の者と冒険者の血と汗と涙の上に成り立っていることも知らずに。
「……オレは少なからずこのギルドに貢献してきたと思っているんですがね」
ギルマスが鼻で笑う。
「そんなわけないだろう。お前の代わりなんていくらでもいる」
そうか……そんな風に思われてたのか。
じゃあ、オレはこれまで一体なんのために……
五年前。
十六歳の時、当時はまだEランクギルドだった『白亜の太陽』の戸を叩いて以降、オレは自分なりに仕事に全力を注いできた。
オレは特段器用な方じゃないが……自分にできることはとことん全力で取り組んできた。
その結果、同僚の職員や冒険者たちのなかには慕ってくれる人もかなり増えたし、ギルド自体も冒険者協会からSランク認定されるまでに成長した。
職員と冒険者、みんなで力を合わせてようやくここまでやってきたんだ。
休みもない上に薄給の酷い職場だが、それでも汗水垂らしながら必死にやってきたんだ。
それがこの仕打ち……力がどっと抜ける。
「……分かりました。五年間、お世話になりました」
「ふんっ。無能が、二度と顔出すんじゃないぞ」
背中を向けたオレに追い打ちとばかりに罵声を浴びせてくるギルマス。
はぁ……とことん最低の上司だったな。
「面白かった」
「これから面白くなりそう」
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