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異世界転移も楽じゃない

ギルマスのお仕事

作者: 溶ける男

「ギルドマスターお仕事です」

「またか、今月でもう3件目だぞ」

「そうですね。先月から急激な増加傾向にあります」

「こうなると勇者召喚失敗のうわさも真実味を持ってくるな」

「あれ、その件は裏が取れたと報告しませんでしたか?」

「受けた覚えはないな」

「そうでしたか、うっかりしてました」

「おい!うっかりで済まされる事じゃないだろ」

「そんな事より早く仕事を片付けてください」

「そんな事って…分かった。分かったからその目で睨むなよ」

「それでは、コレが詳細になります」


そう言って書類を渡してきたのは、この冒険者ギルド【アルステル支部】の全権を握る副ギルドマスターのクレアだ。

ハッキリ言ってギルドマスターの俺より権限がある…というより俺の仕事はこの面倒事を片付けること以外にないのだ。

ギルドマスター室の奥にある転送部屋へと入り書類に目を通し対象者のギルドカード(ギルド控え)を装置に入力すると真ん中にある魔法陣が発光を始めるので中心へと進むと一瞬で対象者の元へと転送される

相変わらずこの時の眩暈と浮遊感には慣れないと思いながら頭をガシガシと掻きながら辺りを見回すと、一面高レベルのモンスターの死骸が山のように積まれ今まさに最後の一匹が倒されたところだった。

ズズーンと大きな音を立ててその巨体を横たえるモンスターの前に立つのはまだあどけなさを残す少年だった。

胸ポケットからギルマス七つ道具の一つである真贋のモノクルをかけて少年を鑑定する。


明田相馬

人族 男

年齢15歳

剣術Lv58 身体強化Lv60 闘気Lv43 神速Lv54 気配察知Lv53

鑑定Lv40


(トータルスキルLv300オーバーか、書類に書いてあった推定Lvよりも大分進行してやがるな)

内心愚痴りながら声を掛けようとしたところ


「誰だ?オッサン」

「冒険者ギルド【アルステル支部】でギルマスやってるゴルソフってもんだ。君はアキタソウマくんで間違いなかったかな?」

「ああ!嘘ついてんじゃねえよ!Lv0のゴミがギルマスなわけねえじゃん」

「まぁ信じられないのは分かるがな、これでも一応本物のギルマスだ」

「で?その自称ギルマスが俺様に何の用だ?」

「ギルドからも一度通達したと思うが、モンスターの乱獲を辞める用に注意しに来たんだよ」

「は?またその話かよ。こいつ等を殺して感謝されることはあっても注意される意味が分からねぇんだけど」

「それについても説明したはずだけどな。例えば君が今殺したモンスター達はこの辺りの食物連鎖の頂点に位置するんだけど、それがゴッソリ居なくなったら生態系に異常が発生して最悪、繁殖力の高いモンスターのスタンピートで町が飲み込まれるなんて事にも成りかねないんだよ」

「は!そしたらそいつらを狩って俺様の経験値にしてやるよ!」

「それを犠牲になった人たちの前でも言うのかい?」

「うるせえ!」

「あとね、急激なレベルアップは精神にも悪影響がって…君の場合はもうスキルに飲まれかけてるみたいだね」

「うるさい、うるさい、うるさい、俺様に指図すんじゃねぇ!

 俺様が最強だ!誰にも邪魔させねぇ!あいつらを見返してやるんだ!」


少年が突然声を荒げて剣を構えてこちらに斬りかかろうとゆっくりと動き出した、どうやら神速のスキルを発動したようだ。

少年が動き終わるのを先ほどまで彼が立っていた場所へ移動して待っていると


「くそ!Lv0のくせに何しやがった」

「お前がスキルの力を使ってる間は俺に勝てねえよ」

「何言ってやがる」


そう言ってまたゆっくりと動き出す少年の元へ歩いて近付き手から剣を奪って先ほどと同じように後ろに立つ。


「なんでだよ、なんでLv0のゴミが神速持ってる俺様より早く動けるんだよ」

「お前は考えなかったのか?

 なんで俺みたいなスキルを持たない人間が高レベルのお前の相手にやって来たか」

「知るかよ」

「Lv0ってのはなギルマスになる最低条件なんだよ。

 冒険者ってのはスキルレベルが高くなるとたまにお前みたいにスキルに飲まれて暴走する奴らが多いんでな抑止力がギルマスには求められるんだよ」

「だったらなおさらLv0じゃなくて高レベルの奴がギルマスになればいいだろ」

「Lv0ってのはな、スキルレベルが低いわけでは無くて持てないってことなんだよ」

「だから何だよ」

「俺みたいなやつはアンチスキル体と呼ばれていてな、スキルを持てない代わりにスキル効果を受け付けない」

「は?」

「お前が使った神速などの速度強化系スキルはお互いのスキルに干渉して体感時間を共有し引き延ばしてより高位スキルを持つものが素早く動くことが出来るというものだ。

 つまりスキル効果を受け付けない俺にはお前がゆっくり動いている様にしか見えないってわけだ。

他のスキルも同様に効果ないから年相応のたいして鍛えてないお前の攻撃で俺が傷つくことは無い」

「くそ、どんなチートだよ」

「チートはお前みたいなやつのことだろ。

 その年齢でLv300オーバーなんて転移者特有の加護のお陰だからな。

 高ランクベテラン冒険者でもLv100をぎりぎり超えるかどうかってところだからな」

「な、なんで俺が転移者だってわかったんだ」

「わからないと本気で思ってたんならそっちの方が驚きだ。

 まぁいい、付いて来いお前をもとの世界に戻してやるから」

「え、戻れるのか?」

「そう言ってるだろ、ただしお前が手に入れたスキルはすべて失うがな」

「…わかった」


近くの町で準備を終えた少年を連れてギルドへと戻り転送部屋へと連れて行き部屋の真ん中へと立たせた後は、装置のスイッチを押すと彼のスキルレベルの経験値を糧に送還用魔法陣が構築されていくのを眺めていると少年は憑き物が落ちた様な顔をしてこちらに一礼しそれと共に一段と光が強くなり光の中に消えた。

魔法陣が消えて光が収まるのを確認して部屋を出て執務席へと腰を下ろした。


「お疲れ様でした」

「ああ、ありがと」


クレアがティーカップと一緒に勇者召喚失敗についての報告書を机の上に置いた。

報告書に目を通し思わずゲンナリする。

あと20人以上転移してきているらしい。

お読みいただきありがとうございました。

召喚された勇者たちの暴走に対する抑止力としてのギルマスを思いついたので書いてみました。

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― 新着の感想 ―
[一言] こういう能力を持っている人がいる世界だと少し安心できますね。
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