悪役令嬢が歓喜する訳~~全肯定型ヤンデレ~~
タグに注意。この作品はヤンデレのタグをつけています。
「ヤミィーナ・デレーヌ! この王子である私、カリプス・ディア・クラウローと貴様との婚約を破棄し、同時に私の愛するクリアルに対する侮辱の罪でデレーヌ家から、いやこの貴族社会から追放とする!」
「その言葉、本当ですか? カプリス様」
クラウロー王国の貴族や優秀な平民が通う国内最高学府、クラウロー学園。そんな学園の卒業パーティーにてその場にそぐわない大音声が響き渡った。冒頭のカプリス・ディア・クラウローの婚約破棄宣言である。その発言を受けた漆黒のロングヘアーの美しき令嬢カプリスの婚約者ヤミィーナ・デレーヌ侯爵令嬢は、ついにこの時がやって来たと歓喜に打ち震えていた。
輝くような金髪とその見目の良さ、鍛えられていることが分かる薄っすらと筋肉のついた男、カプリス王子はヤミィーナの言葉に答えず側に控えていた薄桃の少女を抱き寄せ、続けざまにこう宣言した。
「そしてこの王子である私、カプリス・ディア・クラウローとクリアルの婚約をここに宣言する!」
「クラウロー王子……私、嬉しい!」
「ああ、私の愛しい天使よ。もう邪魔するものは何もない。どうかカプリスと名前で呼んでくれ」
「カプリス……」
その宣言を受けて嬉しそうに体をくねらせる薄桃の少女、クリアル。彼女は成績優秀の平民としてこの学園に来ていたようだが、マナーも何もなっていない姿である。そんな姿に周囲の令嬢令息たちは冷たい目を送っているのだが恋愛劇場に浸っている二人には届かないようだ。
「お待ちください。カプリス様」
そんな二人にも同じ劇場に立つ者の言葉なら届くらしい。彼らはヤミィーナの声に反応して彼女の方に向き直った。彼女の目の奥がその髪と同質の暗闇に染まっているのを見て王の側近に近い宰相、騎士団長、魔術局長の令息とその婚約者が親に早馬を送っていた。状況を自分たちで抑えるのは不可能と判断しより立場が上の親に任せることにしたのだ。
「私を貴族社会からの追放……平民に落とすという事でよろしいのですか?」
そう言うヤミィーナの目は昏く爛々(らんらん)と輝いているのだがそれに気が付くことなく王子は宣言する。
「そうだ! それだけでは足りぬぞ! この学園の歴史に泥を塗ったとして──」
「あああぁぁあ! 本当に嬉しい!」
カプリス王子がそんな権限もないのに学園からの追放という断罪も科すと言おうとしたが、狂気に満ちたヤミィーナの声にさえぎられた。その声を聞き訝しげな顔をする王子とクリアル、真っ青になる元側近候補の令息。彼らの反応の差はヤミィーナの本質を知るかどうかである。
「カプリス様が王になりたくないとお考えになっていることは分かっておりました!」
「待て、何のことだ!」
エンジンのかかったヤミィーナは止まらない。最初からおかしな前提で話が進む。
「王の仕事から逃れたいというカプリス様の思いを酌んで生徒会などの仕事を代行してきました! その間にカプリス様はそこの平民であるクリアルに近づいた! 平民になってからの暮らし方を相談されていたんですよね分かります」
前半は事実だが事実から推察される回答がおかしい。
「そんな訳ないだろう!」
カプリスがそういうがヤミィーナはやはり止まらなかった。
「それと同時にわざといちゃついているように見せかけ自身が王に相応しくないという振る舞いをし、この卒業パーティーで言い逃れの出来ない罪を重ねた! それと同時に私も平民に落とす。これはつまり平民になって王の責務から逃れ私とともに居たいという事ですよね王子!」
「え、相応しくない? 言い逃れできない!?」
ヤミィーナの発言に傷つき反射的に喚く王子。普段のヤミィーナはかなり厳しい淑女教育並びに王妃教育を受けていたため表面上は完璧な令嬢だった。そのため王子の行いがだめなのも分かっていたらしい。それが全て自分と結ばれるためのカプリス様の努力と認識しており尊敬と敬愛の念を重ねてきたのだ。
ついに王子の念願かなって平民になったという事でヤミィーナの淑女の仮面が壊れてしまったらしい。壊れているのは内面? 否定できない。彼女はいわゆるヤンデレだった。
「あああぁぁあ!王子王子王子! 私一生ついて行きますその金の御髪を食んで今まで頑張って来た王子をデロッデロにして何も考えなくていい二人だけの楽園を作りましょう。そこに子供がひとりふたりとおおぉ」
王妃、淑女といった柵から解き放たれたヤミィーナの声は震えておりそんな中で目だけが暗闇を溶かしたように真っ暗だった。それなのに餌を前にした絶食後の肉食獣のように輝いているような気がするのは気のせいではないのだろう。
「ちょっと! ふざけないで! 悪役をちゃんとやってよ! そこは絶望してつかみかかってきてよ!」
「あああぁぁぁぁああなたには感謝してるんですよでもカプリス様の腕の中に居られるのは今だけですので今すぐ離れて腕の感触を教えなさいあなたを働かせないといけないからその皮膚を捲るのを堪えているのですのぉおおおおお!」
「ヒッ!?」
首を大きく揺らし漆黒の髪を荒ぶるように振り回し一瞬でクリアルに迫るヤミィーナ。彼我の距離はある程度あったはずなのに騎士団長の令息も見逃すほどの俊敏さで迫っていた。正確には令息たちは恐ろしい深淵を見たくないと目をそらしていた。
「や、やめろ! クリアルに近づくなヤミィーナ!」
怯えたクリアルを庇う様に割り込もうとする王子だったが、ヤミィーナにとっては最愛の人がそばにきたのだ。止まるわけもない。
「ああぁ分かってますわその平民の女を連れて行くという事はその女に仕事をさせるんですねさすが王子です私は愚かにも養おうなどと思っておりましたがそんな必要もなく私と王子で日がな一日ずっと絡まるように溺れて快楽をいやもうずっと私との蜜月を過ごしたいという事ですよねカプリス様カプリス様カプリス様、ああ好き好き好き好き好き大好き」
「なっ、何を言っているんだお前はぁあああ!」
「ああぁもう我慢できないしなくてもいいのですねカプリス様の温度が匂いがアハハハもう一緒になりましょうでも人が多いですわあそこに行きましょう楽園に」
今まで最愛の人の温度も匂いも感じることが出来ない状態だったヤミィーナがカプリス王子の側に来て耐えるはずもなく、耐える必要もなくなったいろいろなスイッチが三つほど同時に入ったことでヤミィーナは王子をあらかじめ平民になった時の愛の巣として用意していた家に連れ込んだのだった。
当然、下働きとしてクリアルもお持ち帰りした。
いろいろな柵から解き放たれたヤミィーナ・デレーヌは止まらなかった。
その後、町はずれの一軒家を騎士が訪れたときには死んだ目で料理を作るクリアルと何かがきしむ音と狂気に濡れた声が断続的に聞こえてくる『愛の巣』と張り紙のされた扉があったが賢明にも騎士たちはそこに立ち入らず、第二王子が王となったのだった。
悪役令嬢テンプレ的なものと突き抜けた悪役令嬢を書きたかった。後悔はしてない。
ヤミィーナ・デレーヌ嬢
幼少のころからカリプス王子の事を一目惚れして、二人だけの世界に行くために監禁しようとして親に止められた。そして、親から王子に好かれるために、結婚するためにどうすればいいか聞き、淑女に育てばいいと言われたため必死に勉強して淑女らしく振舞っている
当然、王妃教育も並行して行っている
そのため、外面はいいし、思考も真っ当だがそれら全て王子のためという狂気が根底にある
『王子に関わるものは許さない』ではなく『王子のためならなんだってする』方面
その上で自分が王子と結ばれたいという欲が大きい
王子の望みを自分の中で自己完結させることも多い




