市街戦
何発かわしたかわからなくなったころ、わずかに時間が空いた。田中はクラッチを切ると思い切りハンドブレーキを引っ張った。ギャァァァッという音を立ててサイドブレーキが軋み、後輪がロックされる。前輪は駆動したままだ。四つのタイヤがかん高い悲鳴を上げながらドリフトする。車体は左に90度回転し、わずかな時間、ミサイルに対して長大な腹を見せて停止した。ブレーキを下ろしながらクラッチをつないでアクセルを踏み込む。重い車体が覚醒したように動きだす。加速させながらそのまま路地に突っ込んだ。噴煙をなびかせて飛ぶミサイルが、ルームミラーごしに見えた。狭い路地でもスピードを緩めない。両脇に迫った石の壁がものすごい勢いで後ろにとんでいく。木箱、外に出された家具、そのほかいろんな物を蹴飛ばしながら直進する。建物の上からカラシニコフの銃弾が雨のように降ってくる。屋根にガンガンぶち当たる音と衝撃が伝わる。真横から攻撃される恐れこそないが、袋の鼠には違いない。幅員ギリギリの小道をアクセル全開で走る。出口が見えてきた。RPG7を持った、真っ赤なシャツの民兵がひとり飛び出してきた。真奈美が叫ぶ。
「12時の方向、攻撃機動!」
左右に避ける幅はない。後退しても命中する。あの距離から撃たれて外れるわけがない。ならば…。
「田中! わかってるな!」
「レインジャー!」
剛能く柔を断つ。