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志を継がせる者(前)

完結済みの小説「賢英帝劉禅」の馬謖と姜維の出会いを書いた小説です。賢英帝劉禅をお読みになっていない方は、話が分かりませんので是非賢英帝劉禅をお読みになってからご覧ください。よろしくお願いいます。

 山上の見張りの兵士が、馬謖の元に走ってきて、魏軍が移動すると連絡してきた。驚いて見に行くと、なるほど魏軍は漢中方面に向かって移動していく。しかもかなり急いでいるようだ。

「どうしたことだ?」

馬謖は驚いた。早速、趙兄弟も駆けつける。

「馬謖将軍、これは?」

「私にも分かりませんが、援軍が来たのでしょうか?それしか考えられません」

「援軍?」

「陛下がお二人を助けに見えたのだと思います。しかし、魏の後方は万全の構えのはず・・・、しかし、あの慌て振りは・・・?」

「追撃しますか?」

馬謖はちょっと考えてから、

「止めておきましょう。100人ではほとんど何の損傷も与えられない。悪くするとこちらに死人が出るかもしれない」

「しかし、何か功を上げて陛下にお許しを願わないと将軍の命が・・・」

馬謖は大きく頭を振って、

「いいえ、私の為にあなた達を危険にさらすことはできない。元々は、自分だけではなく何万という兵士を死に追いやる罪を負うはずだった。それが無くなっただけでも感謝しています。軍令違反の罪は大きい。私の死は当然です」

ここまで、強い口調で言う馬謖だったが、急にやわらかい表情になり、

「せっかく敵が空けてくれたのです。この死地から皆で逃げ出しましょう」

そういうと下山の命令を出す。下山をする馬謖の胸に一抹の寂しさが募った。

(これで私の生は終わる。それは仕方が無い。それだけの事をしてしまった。しかし・・・)

「いいのか?」

馬謖は小さく呟いた自分に驚き、昔を思った。


 馬謖は幼少から偉い兄達に囲まれ、自然と勉学に励むようになった。荊州の名家、馬家に生を受けたときからそれは定められていたのだろう。馬謖は大きくなるにつれて非凡な才を示したが、彼の長兄、「白眉、特に良し」と世間で称賛される馬良には中々及ばない自分を感じ、奇手に走ることを覚えた。奇手であれば馬良を超えることが出来る。この快感に捕らわれた馬謖は常に奇手を考える癖が付いた。

 そんな彼が長兄の親友、諸葛孔明に出会うのも自然な流れであろう。この出会いは馬謖に衝撃を与えた。頭脳の明晰さ、知識の深さ、精神の尊さ、人としての格・・・。

(このような人が居るのか?完璧だ。完璧な人間だ。この人のようになりたい。)

馬謖は強く憧れ、孔明に師事した。そんな馬謖を孔明も愛し、我が後継者たれと様々な事を教えた。やがて馬謖は孔明と志を共有することになる。

 志!

(なるほど)

 先ほどの「いいのか?」の答えに馬謖は気付いた。自分の生が終わるのは構わないが孔明の志を継ぐ者が居なくなるのはいいのか?駄目だ。駄目に決まっている。志は国の柱、これを持つ者が国を動かさなければ国は欲にまみれ、民のための物ではなくなる。それだけは断じて防がなければならない。

(よし、最後に志を継ぐ者を孔明様のもとに届けよう。それが陛下と孔明様にできる唯一のご恩返しだ!)

馬謖は下山すると趙統に、

「趙統殿と趙広殿は全軍を率い、本軍と合流してください。その際、あまり急ぐと敵の待ち伏せに会いますから、余り急がない方がよろしい。しかし、遅すぎると無視されて敵の行軍が速くなり味方の有利にならないので、ここは付かず離れずがよろしいと思います・・・。まあ、実戦経験の豊富なお二人には釈迦に説法だとは思いますが・・・」

馬謖は朗らかに笑った。

「肝に銘じます。しかし、将軍はどうされるのですか?」

質問する趙統に馬謖は、

「私は天水方面に探し物があるので、ちょっと探してきます。見つかり次第、陛下の下に駆け付けます。」

趙統は、一瞬何かを言いかけたがその言葉を飲み込んで、

「承知しました。早速向かいます。将軍もお気をつけて」

馬謖は色々聞かれるだろうと思って緊張していたが、趙統が自分を信じて何も聞かずに承諾してくれたことがありがたくとても嬉しかった。

「うん、ありがとう。よろしく頼みます。」

遠ざかる趙統たちを馬謖は見送った。暫らく経つと馬謖も馬に跨り天水方面に向かった。馬謖は魏領にいる有用な人物に志を説き、孔明の元に連れて行こうと決めていた。魏に居る隠れた人材を蜀に連れて行くだけでも、魏に大損害を与えられる。

(絶対にやってやる)

馬謖は固く心に誓った。


 それから馬謖は近くの町で薬を買い、それを自分なりに改良して良く効く薬売りとして人材を求める旅を続けた。酒場や街中で情報を集めると、噂に挙がっている人物の情報はすぐに耳に入った。しかし、良く調べてみると馬謖の眼鏡に適うものはなかなか見つからない。ある者は抜群の武勇を持ちながらも欲にあざとい、またある者は、君子との評判を聞いたが、上辺だけの薄っぺらい男であった。旅を続けて何日目であろう。

(中々見つからないものだな)

馬謖は溜息を吐いて宿に戻った。


 次の日、人材を求める旅を続ける馬謖の前に人だかりが見えた。

(何だろう?)

馬謖もその人だかりに加わる。人だかりの中には6人の役人が居て、その前に10代と見られる村娘がひれ伏している。

(どういう状況だ?)

理解できず馬謖は成り行きを見守る。

「父が倒れてしまい、これ以上の税を納めることができません。父の病が治りましたら、必ず不足分はお支払い致しますのでどうかお許しください。」

必死に平伏する娘に向かって、役人の長らしき男が、

「ならん。そのようなこと認められん。しかし・・・」

そう言いながら娘に近づき、その耳元で何かを囁いた。それを聞いた村娘は、驚いたように体を震わせると、「お許しください、お許しください」と幼さの残る顔に涙を浮かべながら必死に平謝りを繰り返した。

すると一人の若い役人が、隊長の元に進み出て、

「隊長、事情が事情だ。許してあげましょう」

と声を上げた。

「姜維、黙れ」

隊長と呼ばれた男が振り向きもせず若者を叱責する。

「黙りません。」

姜維と呼ばれた若者も負けじと大声を張り上げる。すると隊長と呼ばれた男が姜維に振り向き、

「貴様は毎度毎度・・・、それ以上言ってみろ。ただではおかんぞ」

隊長の眼は怒りに燃えている。どうやらこの光景は初めてではないらしい。

「しかし、義を見てせざるは勇無きなり・・・」

言いかける姜維に隊長の鉄拳が飛ぶ。それを喰らった姜維は派手に後ろに吹っ飛んだ。

「生意気言うからだ。」

薄ら笑いを浮かべながら隊長が姜維を見下ろす。姜維はすくっと立ち上がると、

「やりやがったな。この少女趣味の変態野郎」

喚きながら隊長に殴りかかる。それを周りの役人が止めようとするがいきり立った姜維は2人3人と同僚の役人を投げ飛ばし、隊長へと迫っていく。隊長の顔からは先ほどの笑みは消え、今度は怯えの表情が浮かんでいた。

(これはまずい。何とか姜維という義侠心あふれる若者を助けたいが・・・?)

「双方とも待たれい。その足りない分は私が払おう」

そう言いながら馬謖は姜維の前に立ち塞がった。突然の事に姜維の動きが止まる。これ幸とばかりに隊長は、

「おう、そうか。それならば我々としても異存はない。」とすぐに承諾した。条件を付けないあたり、姜維の剣幕に怯えていることがわかる。

「足りない分は?」

姜維を無視して馬謖は隊長に尋ねる。

「待て待て、お前は商人だな?」

「はい、各地で材料を仕入れ、それを煎じ薬にして売り歩く商いをしております。」

「薬屋か?」

「はい」

商人らしさを演じながら馬謖は慎重に会話を重ねる。その背中に姜維の痛いほどの視線を感じる。

(何だ?私が馬謖とばれたのか?)

そう思ったら、冷や汗が出始めた。

「55銭だ。払えるか?」

「はい、55銭ですね。」

馬謖は務めて平然を装いながら懐から銅銭を出すと、隊長に渡した。

「おう、羽振りがいいな。儲かっているのか?」

「お陰様で私の薬は良く効くと、御贔屓にして下さるお客さんが多いものでして」

ここが勝負とばかりに、馬謖は人の好さを前面に出し、もみ手をせんばかりにへいくだってみせた。

「ふーん、お前の名は?」

「はい、馬顔ばがんと申します」

「聞かぬなぁ」

「この地には、病気になったという幼馴染に会うため、一昨日着いたばかりでして・・・」

「そうなのか?ああ、あの娘の父親か?」

馬謖は神妙に頷きながら、

(我ながら良くもポンポンと言葉が出るものだ。もしも、生まれる場所が違っていたら、ペテンで生計を立てていたかもな)等と不謹慎なことを考えた。

「金は貰った。もう良いぞ」

帰り支度を始める隊長に馬謖が何かを渡しながら耳打ちした。すると、隊長はホクホク顔で

「おい、姜維。この人はここら辺が不慣れらしい。お前が薬剤の店を案内してやれ。それが終わったら今日は帰っていいぞ」

姜維の方を見向きもせずに命じた。それに返事もせずに姜維は馬謖に近づき、

「行くぞ」と短く言い隊長たちと反対方向に歩き出した。

ぐんぐん進んでいく姜維を馬謖は急いで追いかけた。相当早い。お互い無言で歩き続ける。暫く経って、役人の一行とかなり離れると姜維の歩くスピードが緩やかになった。

「礼を言うべきであろうな」

姜維が馬謖に聞こえるぎりぎりの音量で呟くように言った。馬謖はすぐに

「お礼などとんでもない。こちらこそ差し出がましいことを致しまして、大変失礼致しました」

商人らしい慇懃さを前面に出し、馬謖が応じる。すると姜維は一つ頷き、

「さよう。余計なことをしてくれた。どうせ出てくるのならば、あの気に入らん李嵐りらんのやつをぶちのめした辺りに出てくればいいものを・・・」

(なるほど、先ほどの視線は余計なことをするなという視線だったか・・・)

「いえ、私はあの時ちょうどあの場所にたどり着いたばかりで・・・」

馬謖が言いかけると姜維がそれを制す。

「嘘をつくな。お前はもっと前からあの場所に居た筈だ。」

「どうしてそう思われますか?」

問い返す馬謖に姜維は会心の笑顔で、

「あの状況で飛び出してくる奴は、後先考えぬ余程の馬鹿だ。お前は馬鹿にはほど遠かろう。そして、すぐに否定をせぬのが何よりの証拠よ。」

なかなか鋭い。馬謖は言葉に詰まった。しかし、姜維はそんなことには構わずに話題を変える。

「しかし、腹が減ったな。ちょうどうまい飯屋が近くにある。食事にしないか?」

「そういたしましょう」

飯屋につくと、店内は混雑していたが、ちょうど二人用のテーブルが一つ空いていた。そこに座ると姜維は手慣れた様子で注文を始めた。

「鳥の揚げたやつと、野菜の煮物、あとは酒をくれ」

注文を取り終わると店の者は引っ込み、すぐに酒を持ってきた。姜維が馬謖の盃に酒をなみなみと注ぎ、ついで自分の盃にも酒を注いだ。

「よし、では乾杯と行こうか」

「何に乾杯されますか?」

「そうだな?」

姜維はしばらく考え、二人の出会いの切っ掛けとなった村娘を思い出した。

「あの娘の無事に、でどうだろう」

「それは良いですな。それでは」

「うむ」

二人は杯を掲げると一気に飲み干した。そうしているうちに注文した料理も届く。二人は食べ飲みながら、話を続けた。

「姜維様は、こちらのご出身でいらっしゃいますか?」

「うむ、ここの近くに年老いた母と二人で昔から暮らしておる。馬願さんは?」

「元は荊州でしたが、戦乱で家族を亡くし、薬売りとして各地を転々としております。」

「それは・・・悪いことを聞いた」

「昔の話です。心の傷はとうに塞がっております。さあ、おひとつ」

「ああ、すまない」

馬謖が姜維の杯に酒を注ぐ。

「姜維様のご推察の通り、私は暫らく前からあの場所に居ました。」

姜維はその酒をぐいっと飲み干すと、

「そう、そしてあの娘と私を助けるために作り話をして金を払った。馬顔さんはもの凄い義侠心をお持ちだ。しかし、くどいようだがあの李嵐をぶっ飛ばしてから現れて欲しかった」

(余程李嵐という男が嫌いらしい)馬謖は心の中で苦笑した。

「失礼いたしました。しかし、上官に手を出してからでは、姜維様のお立場が悪くなるのでは?と思いまして」

「手遅れだ。」

「はぁ?」

姜維は、手酌で自分の杯に酒を注いだが、酒は空になっていた。彼は酒の追加を注文すると、話の続きを始めた。

「私が奴の愚行に逆らったのは、今日あれで7回目だ。」

「なるほど、手遅れかもしれません」

「これでも我慢した方だ。何せ奴の一族はここら辺の権力者だからな。しかし、他の奴のように見ぬふりなどできん。性分なのだろう。私はそのうち他の部署に飛ばされる。どうせ飛ばされるなら、最後にぶっ飛ばしてやりたかった」

姜維が苦虫を噛み潰したような表情で言うと追加の酒が届いた。それを機に姜維は話題を変えた。

「つまらん。酒がまずくなる。せっかく義侠心あふれる人と共にいるのだ。もっと有意義な話をしよう。馬顔さんは各地を旅しているから各地の情勢に詳しかろう。是非聞かせていただきたい」

「いや、私はただの薬屋、姜維様のお求めになる情報などはこれっぽっちも持ち合わせておりません」

馬謖は姜維の求めに急いでかぶりを振った。馬謖は酒が強くない。すでに酔っている。姜維と情勢について語り合い、彼の人物を確かめたいのは山々だが、酔った勢いで正体がばれることを馬謖は恐れた。姜維の才幹はかなりのもので馬謖を警戒させるに十分であった。しかし、そんなことは知らない姜維はあきらめない。

「いや、こんな田舎で役人暮らしをしていると、情勢に疎くていけない。どんな事でもいいんです。馬顔さんが良く行かれる地方はどの辺ですか?」

「蜀によく行きます。」

馬謖はつい言ってしまった。馬謖は酔うと饒舌になる。さっきからしゃべりたくてうずうずしていた。

姜維はすぐに飛びつく。

「おう、蜀と言えばやはり臥龍孔明ですな。当代随一の智謀の持ち主だという評判だが?」

「はい、孔明様は智謀だけではなく、その生き方、志においても当代随一なお方でございます。」

「ほう、孔明にずいぶんな入れ込みようですな。まるで会って語り合っているような?」

姜維が笑いながら茶化してくる。

(しまった。慎まなければならん。私は酔うとしゃべり過ぎる)

馬謖は心の中で冷や汗をかいた。

「まさか、蜀の人々は会う人会う人そのように申しておりますので、それをお伝えしたまででございます。」

「ふむ」

姜維は腕組みをして、遠くを見る目つきをし、

「そうか。会うものすべてがそう噂しているのならば、きっとそういう人なんだろう。会ってみたいものだ」

「会ってどうされるのです?」

「論じてみたい。私が臥龍にどこまで通用するかを試してみたい」

(この人、孔明様に勝てる気でいるな。)

馬謖は姜維の自信に満ちた表情と声の強さからそう感じた。そして、

(かつての自分のようだ)とも思った。

「会えるといいですね。私からもひとつ姜維様にお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

姜維が何だ?という風に酒を飲みながら頷く。すると、店主が

「お客さん、そろそろ店を閉める時間だ。すみません。」

「やっ、そんな時間か?勘定してくれ」

「姜維様、ここは私が払います。御店主、おいくらか?」

そう言いながら、金を出そうとする馬謖に姜維が、

「いや、ここで飯を食おうと言い出したのは私だ。私が払うのが道理だ。親父、いくらだ?」

「そうですか。では今回は甘えましょう」

これ以上自分が払うと言えば喧嘩になりかねない。ここは姜維に甘えることにした。

店を出ると、

「いや~、旨い店でしたな。御馳走になりました」

馬謖が礼を言う。

「それは良かった。この店はここら辺では一番安くてうまい」

「私はここが気に入った。姜維様、私は明日の夕飯をここで食べようと思います。御一緒していただけませんか?」

それを聞いた姜維が笑い出す。

「馬顔さんは負けず嫌いだな~」

「私は利を追求する商人ですからね。金で借りをつくる訳にはいかないのです」

「なるほど。私もあなたとはもっと話がしたい。明日、勤めが終わったら伺います」

「あ~良かった。ありがとうございます。では、薬剤の店に案内してください」

姜維の先導で二人は歩き出した。店を回り十分な薬剤を購入し終わると、

「姜維様、今日は大変お世話になりました。」馬謖が慇懃に頭を下げる。それに対して、

「なんの、私の方こそ久しぶりに義人と話が出来て、胸のすく思いだった。」

「そういって頂けましたら光栄でございます。では、また明日」

「おう、楽しみにしています」

二人は別れた。


 宿屋に戻ると馬謖は横になり、姜維の事を考えた。何て気持ちの良い若者であろう。そして民を想う心は、孔明様の志と通じるところがある。

(良い若者に会った。明日、彼の評判を集め、確かな者であれば話をしてみるか)

心地よい酔いと疲れのため馬謖はそのまま眠りについた。それは久しぶりの熟眠であった。


 翌日、馬謖は薬を売りながら姜維の情報を集め始めた。馬謖はあっという間に姜維の情報を十分に集められた。それほど姜維はここら辺の民の間では有名だった。姜維、字は伯約、父は姜冏きょうけいであるが、夷狄との戦いで戦死している。それからは母と二人で生活していて、実に孝心篤い若者と評判であった。また、10代のころから土地の学者や古老達にもその才幹が天才的であると噂されるようになり、武芸にも精通し、襲ってきた賊を彼一人で撤退させたことがあるらしい。

(彼だ。私の求めていた者は姜維であった。ようやく出会ったぞ!)

馬謖は喜悦した。

(何としてでも姜維を説得し、孔明様の元へ連れて行かなければ・・・)

馬謖はどのように姜維を説得するか考えたが答えは出ない。答えを出すには姜維の人物を知らな過ぎるのである。しかし、幸にも今晩夕食を共にすることになっている。

「夕飯の時に探るしかないな」

馬謖は一人呟いた。


 馬謖は話をするのに都合の良い場所を確保するため、早めに昨日の飯屋に向かった。

「いらっしゃい」

昨日の店主が威勢の良い声を掛けてくる。すると、

「おや、あんたは昨日、姜維さんと一緒に居た人だね?」

「私を覚えているのですか?」

多少驚き問い返すと、

「御店主、何て薄気味の悪い呼び方されたのは俺は初めてだったんでね。さあ、どこにでも座ってくれや」

「とりあえず、酒とつまみを適当に、姜維様がいらっしゃったらまた注文をしますので」

「はいよ」

店主は愛想笑いを浮かべて返事をする。

馬謖は店内を見回し、端の二人用のテーブルに座る。程なく注文したものが届くと一人でちびちびやりながら姜維の現れるのを待った。

(さて、どのように話を進めようかな?)

そんなことを考えているとあっという間に酒が無くなり店内は込み合ってきていた。

(そろそろ来てもいい頃だが?)

あまり注文しなくても悪いと思い、馬謖は二人分の酒と料理を注文しようとしたが店主は、

姜維が来てからで大丈夫と言い、馬謖の分の料理と酒のみを出してくれた。そしてしばらく待っていたが姜維はなかなか現れない。

(流石におかしい。私の正体がばれたのか?)

姜維の前で孔明様の事を話したのはまずかった。そう思い至った馬謖は落ち着かなくなったが、ここを動くわけにもいかないので、

(もしも、追手が来るようであれば、己の不明を呪い潔く自害するまでだ。)と腹を決めて酒を飲み続けたが、結局、その日姜維は来なかった。

ご覧いただきありがとうございました。後1回の投稿で終わる予定です。最後までお付き合い下さい。


感想など頂けましたらありがたいです。是非お願いいたします。

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