ユウの猫アレルギーと、猫の先輩意外と器用
「はあはあ、」
女子トイレに駆け込んで、鏡を見た。
少し、顔が赤くなっている。
アレルギーと緊張と両方だろう。
ポーチから洗顔料とタオルと薬のポーチをさっと取り出し、顔を洗ってから急いでアレルギーの錠剤を飲んで、タオルを顔に当てた。
ふわぁ、落ち着いた。
タオルをとると、赤みが少しずつ減っているのがわかった。早く対処できてよかった。
ほっとすると、先輩のことがよみがえってきた。
にわかに信じられなかったけれども、先輩は、猫になったんだ。ただの着ぐるみじゃない。猫に直接触らないと猫アレルギーが出ない私には、自分の身体の反応こそが、真実だった。
なぜ、こんなことになったかは、少しずつ聞いていこう。
まずは、先輩を普段通りの仕事ができるようにしよう。モフモフにかけて!いやいや、先輩のためにね。
心地よいモフモフ感を思い出しながら、猫のゼン先輩の元へ走り戻った。
「先輩、失礼しました」
そう言って、先輩が座るデスクのとなりに戻った。少し小さくなった椅子に、きちんと座り、パソコンを前にして、トントンと爪の音を立てながら、キーボードとマウスを器用に動かしていた。
「ゼン先輩、器用ですね、、」
パソコンの画面から私の方へ顔をむけた。
「なんとか、パソコンは出来そうだよ。でも、電話は耳の位置が少し辛いかな」
ちょっと困った顔で、受話器を当てた。高い位置に耳があるから、少し使いにくそう。
耳につけるタイプの電話があるといいかもしれないけれど、なんだかかわいいから、そのまま使ってほしいなぁ。耳もモフモフ動いてる。
「おい、ユウさん、楽しんでないか?」
切れ長の目で見られると、ちょっと怖いけど、かわいい。
「すみません、先輩。なんだか、ゆるいキャラクターのお付きのおねぇさんになった気分で、楽しくて。」
「もう、何言ってんだか、、そういえば、地域キャラクター好きだったもんなぁ。キャラの付き人になりたいとか、この間の飲み会で言ってたよな。そんな感じで気軽にやってくれるとたすかる。でも、オレは喋れるからね。」
「はい!わかりました!」
猫に頼まれると、嫌とは言えない私。キャラも好きだし、先輩も好きだから、なんだかたのしそうな気がしてきた。
「とにかく仕事するぞ。」
パソコンに向かいながらゼン先輩は言った。
「1つお願いなんだけど、、普段通りにしてほしい。みんなも最初は驚くと思うけど、ユウさんに習って動いてくれるとおもう。」
「はい、わかりました」
落ち着いた声で、優しく返した。すると先輩は、小さな声でボソッと言った。
「ありがとう、、まだ、オレ、現実を受け止めきれてなくてね。」
最後の一言は、聞こえない声だったけど聞こえていた。私は、電話を進んでとることにして、先輩はパソコンで作業するのに慣れることにした。
少しずつ出勤してきた同僚が、ドアを開けるたびに驚く。
ある人は叫び、ある人はものを落とす。先輩に駆け寄る人もいたが、
「おはよう」
という声と、切れ長だけど、優しいスマイルで返す猫の表情は先輩そのもので、ゼンさんだとみんなが納得した。
みんなの視線を感じるのか、ゼン先輩の耳は終始動いていたが、お昼近くになると、眠たそうな表情になってきた。