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第99話、鈴子「人間の領域を捨てる事」

お久しぶりです!

投稿が遅くなって申し訳ありません!

書きあがったので投稿します!


今回は少し長めに書いてあります!

次回が100話目になるので、記念的なものを感じて少し調整しました!


今回はたぶんいつもの2、3話分あります!


これからもよろしくお願いします!

「鈴子ぉおおおおおおおお!!」


詩織はあらぬ限りの咆哮を叫ぶ。

全てをぎ込んだ限界必死の特攻。

感情を爆発させた奮起の意思。


そんな詩織の姿に、


──鈴子は口端を小さく吊り上げた。


「広樹、使うよ」


小さく呟きながら、鈴子は腰のホルスターから一つの武装を引き抜く。

それは広樹に黙って借りた、もう一つの武装。


詩織が手に握る武装と類似する、博士が創り上げた奥の手。


白縛はくばく


武装『白縛はくばく

三弾式リボルバーを組み込んだ信号拳銃に似た拳銃。

筒穴が大きく、筒が短い小型形状。


その見た目は非戦闘用だと訴えてるかの様に小さかった。


ッ!ッ!ッ!

撃ち鳴らされた三つの銃声。

その三発の銃弾は、鈴子の能力によって旋回運動を発揮して、詩織を囲むようにして襲いにかかった。


「邪魔ぁあ!!」


怒声を上げながらの回転斬り。

それにより武装が持つ黒槍出現ブラック・アペアランスが発動し、黒い棘が床に姿を現した。


そして、


「ばーか」


子供っぽい口調で呟く鈴子。


「ッッ!?なに!?」


黒棘によって防がれた銃弾が爆散。

そこに広がりを見せるのは、霧を想像させる白い煙幕だった。


突然の事に判断が鈍り、その煙幕が身体にかかる。


そして、


「固くなってっ…!?…それに重くっ……!?」


煙幕が詩織の身体を飲み込み、凝固して黒棘ごと詩織を捕縛した。


その現象を受けて、詩織はある事に気付いて顔を歪ませる。


「能力の擬似再現化っ…アナタっ、それを何処で!」


「広樹から借りた」


「!?」


その答えに詩織は目を大きく見開いた。


「その煙幕は、空気中に存在する水分を急激に吸収して、接着剤に似た効果へと変化する」


鈴子の説明に、詩織は苦虫を噛んだ顔で身体を再確認する。


「そして太陽からの僅かな熱で、それはすぐに凝固し、対象を縛り上げる」


粉末から液体に、液体から塊へと変化する合成物質。

博士が用意した殺傷能力が低い武装。

その理由は高い捕縛性能によるものだった。


「これで終わり─」

「だと思う?」


鈴子の勝利宣言に被せて、詩織は暗い声音を漏らす。


「確かに常人には壊せない……でも、私達には関係ないでしょ!!」


バキバキと結晶が割れる音が鳴り響く。

凝固していた白い塊が、詩織の人体強化によって粉砕され、上半身を剥き出しにしたのだ。


「こんなので私が縛れると思った?馬鹿なのはアナタだったようね!」


制服に白い破片を貼り付けながら、詩織は不敵に笑って鈴子を見る。

だが、


「違う…」


全ての捕縛を解こうとしている詩織を前に、鈴子は変わらずの通常顔で口を開く。


「縛れるなんて思ってないよ。…もう私で検証したから知ってる」


「ッ!?」


広樹が眠っている間に効果を確かめ、序列者相当の人体強化なら数秒で破壊出来ると検証していた。


「私が馬鹿って言ったのは、何も考えず、『そこ』に走って来てくれたからだよ…」


「そこ?……!?」


見回せば、そこは船首せんしゅの中心部。

そこで詩織は身動きが取れず、許されたのは両腕のみの行動だった。


だがもし、この状況が鈴子によって仕組まれたものだったとしたら…

挑発によって自分が此処に誘導されたとしたら…


その可能性が本能に危険信号を鳴らし、詩織は即座に抜け出そうと両脚に力を入れた。


「なっ!?固いっ…!どうして脚だけがっ!?」


下半身に纏わり付いた塊は、上半身の時よりも格段に固かった。


「忘れてる?……私の能力」


「ッ!?脚付近への煙幕濃度を高めたのっ!?だから上半身だけが容易くっ…!」


詩織の推測は正しかった。

鈴子は能力で煙幕の濃度を調整し、上半身は薄く、下半身は濃くと誘導していたのだ。


「これで終わりになる」


王手をかけたと、鈴子は片耳に付けた小型機器に指をかけた。


「来るなら来なさい!両腕だけで対応してやるわ!」


「?…対応する事くらい、分かってる」


「!?何を言ってっ」


「全て織り込んである……だってこれは──」


焦りを見せる詩織に対し、鈴子は淡々とそれを伝える。


「──序列十位を倒す為に用意した計画」


「っ……最初から全て」


「突貫工事だったけど……これが確実だから」


「クッ!?ッ!ッ!──」


突貫工事の言葉でようやく気づく。


鈴子が狙撃銃を投擲する瞬間、動揺の色を目に浮かべていた。


私が木床を脚力で爆散させ、急接近に成功した事によって、鈴子の動揺に繋がったと思っていた。


だが、その理由が私の急接近にではなく、その破壊された木床に向けたものだったとしたら……


それが答えだと、本能が告げた。


鈴子の死の宣告に、詩織は必死にもがく。

だが脚に動く気配は無く、やがて手に持った武装で砕こうと力を振るった。


だがもう遅い。

今の詩織は、詰め将棋の末に王手をかけられた王将。

そして王手をかけたのは、事前にこの瞬間の為に計画を建てていた鈴子である。


「ねぇ詩織……数分前に言い合った言葉……覚えてる?」


「そんな事っ!今はっ!」


「確かこう言い合った……『此処は私達の戦いに狭すぎる』って」


「それがなんだって言うのよ!」


鈴子は微笑みを口元に浮かべながら、詩織へとゆっくり近く。

そして二メートルまで来たところで足を止め、もがく詩織の前で、鈴子はささやく声音で伝えた。


「思ってたよ……此処は狭過ぎる……でも」



──「詩織の棺桶かんおけにするには、十分過ぎるよ……『起動開始』」



決められた言葉ワードに反応して、耳元の小型機器は激しく光を点滅した。

そして、


ドドドドドドッッ!!

連続する激しい爆音。

破片と煙を上げたのは、詩織を中心とした周囲の木床だった。


詩織を中心にして円を描くように爆発した船首。

そしてそこから起こるのは、


「じゃあね」


崩落だった。


「なッ──!?」


床に下半身を貼り付けられたまま、詩織は下へと崩落する。


だが、これだけ終わる筈が無い。

人体強化を成した序列者が、この程度の崩落で死亡判定を受ける事はあり得ない。


それは鈴子も承知している筈なのだ。


「なによこれっ、なんなのよぉおお!!」


思わず叫び散らした詩織の瞳には、自分に向けられた銃口らしき装置が四方八方に設置してある光景だった。


それだけではない。落下は依然と続いていた。

見回せばそこは、階層フロアごとにくり抜かれた空洞が続き、床は存在しない。


鈴子が時間と破壊を尽くして作り上げた『落とし穴』。


故に落ちる先は、鈴子が決めた階層までである。


そして耳に響き渡ったのは、びっしりと付けられた装置から発せられたブザー音。


そして始まるのは、数え切れない程の銃弾の大嵐だった。


「舐めるなぁああああ!!」


詩織は即座に黒鱗をその場で振り抜き、下半身に張り付いている白い塊と床に黒棘を出現させる。

それらで自身を覆い隠し、さらに自分が持つ能力で黒棘を増殖させた。


もう攻撃が出来ない完全防御。

呼吸のみが許された全体構造。


そして残弾が尽きれば行動が起こせる。普通ならそう思う。

だが、これも鈴子は予想していた筈だ。


故に次の手段が必ず講じられている。


「ん?」


そして気づく。

身体に湿り気が出来ている事に。


「湿ってる?……っ!?違う!これは!」


詩織は遂に、鈴子の言葉の意味を理解した。

鈴子はこう言っていた。


『詩織の棺桶にするには、十分過ぎるよ』


確かにその通りだ。

鈴子は最初からこれを狙っていたんだ。

客船自体を棺桶にする最悪の幕切れ。


頑丈な序列者を死亡判定に追い込むにはどうすればいいか。


最も簡単なのは、イベントで用いられる擬似塊フェイクによる攻撃である。

それが戦闘学が誇る序列者を倒せる方法なのだと、誰もが思っていた。


だが違う。方法はもう一つある。

それは簡単ではないが、単純なのである。


実力のある詩織でも、序列外者、一般人とともに共通する弱点が存在した。


人体強化によって、身体を頑丈にしても、免疫力を強化したとしても、その弱点からは逃れられない。


誰もが持っている最大の弱点、それは、


「鈴子ぉおおおおおおおお!!」



『人間』である事だった。






















──あぁ良かった。広樹の目の前で、『序列十位アレ』を『序列九位わたし』が倒せた。


限定されたルールの中で、序列者を倒すにはそれに合わせた準備が必要。今回の勝因は、詩織が私の参加に備えてなかった事。


イベントに持ち込める銃器機材の全体量制限が、参加者が人体強化で持ち上げられる重量分だった。


だから、久しぶりに人体強化を活用して、コンテナを一つ丸ごと持ち上げた。


(あの時の広樹の顔……ちょっと面白かったな……)


鳩が豆鉄砲をくらった顔と言うのは、きっとあの顔の事を言うんだろう。


そして運営委員会にも感謝しかない。

運営側が入場式の手違いを起こしてくれたおかげで、この客船に来られた。


他にも作戦遂行に使える候補地もあったが、此処に来れるとは思わなかった。

おかげで確実に序列十位を死亡判定に出来た。


じゃあ、後は此処から離れるだけだ。


さぁ、広樹も早く行こう。


序列十位アレ』を倒した『序列九位わたし』と一緒に行こう。


これからは、私が近くにいるからね。

だから、ずっと私と──












「沈んでいく」


「な、なぁ、鈴子?」


「見て広樹…沈んでいくよ」


救命ボートの上で膝立ちを見せる鈴子は、目の前の光景に微笑みを向けている。

だが、隣にいる男はそうではなかった。


(詩織ぃいいいいいいいい!!)


心の中で発狂中である。

予想を遥かに超えた幕切れに、精神の崩壊は必死となっていた。


「な、なぁ、鈴子」


何かを言わなければ駄目だと強く思う。

とにかく詩織の安否や色々を言わなければ、取り返しのつかない事になる気がした。


だが、


「沈んでいく……まるで映画……」


「鈴子さん?」


「ねぇ綺麗でしょ、広樹」


「ちょっと話を」


「芸術的な光景でしょ、広樹」


「聞いてくれないでしょうか?」


「嬉しいでしょ、広樹」


(何が嬉しいの?何も嬉しくないよ!俺は知り合いが取り残された船が沈んでいく光景を楽しむ様なサイコパスじゃねえよぉお!!)


「これは私と広樹で、やったんだよ」


……え?今何言ったのこの


私と広樹で?

鈴子と俺で?


やった?…殺った?

いやいやいやいや!?

俺を共犯に仕立て上げるのはやめてぇ!

何もやってないよ!ただ見てるだけだったもん!!


「広樹が良い道具を集めてくれたから、あんなに早く船を沈められたんだよ」


「良い道具?」


「マニアックな注文をしたと思ったけど、広樹が見つけた製作者は良い仕事をしてくれた」


マニアック?

注文?

製作者?


あれ?何か引っかかって──



『今渡せる物はこれで全部です。少し特殊な物も注文にあったので、それは後日に配送でも大丈夫ですか?』



榛名ぁああああああ!?


いやでも、俺はただ装備を注文しに行っただけで、戦いの成果には貢献してないから!


「広樹と私の手で、倒したんだよ」


だからやめてぇ!

もう俺の成果とかはどうでもいいから!

とにかく詩織の安否確認が重要!


「す、鈴子…」


「なに?」


「俺……転校して来たばかりだから、此処の常識とか分からないんだ…」


「うん…」


「でさ、色々と聞きたい事があるんだけど、その前に」


言葉を詰まらせながら、汗ばんだ手で沈んでいく船を指差した。


「あれって、ルール違反じゃないのか?詩織が沈んでいくぞ。下手をすれば溺死に……」



「……………………心配するの?」



「!?」


あの…え、ちょっと…なにこれ?

鈴子の声音がいきなり変わったんだけど…


「イ…イベントで危険な行為は禁止って決まりだったからさ、あれがペナルティー対象になっていたら、鈴子の頑張りが無駄になるんじゃないか?…」


グイっ


「……私の心配」


「えっ…あ、ああ」


近い近い近いっ!!

そんな瞼を限界まで開いて顔を近づけないで!!


そして嘘つきました!

本当はかなり詩織の事を心配しています!

でも色々と挑発してたから、絶対に仲が悪かったのは明白!


今は詩織に触れない線で聞くしか無い。


「大丈夫だよ」


心配ないと鈴子が言う。


「ペナルティーにはならない……即瀕死になる様な攻撃が禁止されているだけ」


「でもあれは…」


「戦闘学の救助用ドローンがいる…もう水中から向かってる」


「……本当に大丈夫なのか?」


「大丈夫だよ…ペナルティーにはならない」


いや、ペナルティーじゃなくて、詩織の心配だけど。

でも、本当に、


「本当に…終わったのか?」


「…どう言う事?」


「いやっ……俺、詩織の──」

グイっ

「……」


近い近い近い!もうなにこの

息かかってるし、目の色が怖いよ!


「し、詩織の凄さを知ってるからさ──」

フワリ

「……」


前髪当たってる!キスしそうなくらい近づいてる!


「ま、まだ終わってない。そう思えるんだ」


「……それは、詩織がまだ、敗北してないって事?広樹はそう思ってるの?」


「ま、まあ」


うん。だって凄かったよあの

壁を走ったり、バイクに追走したり、色々とやばいイメージが満載だった。


敗北した姿をこの目で見ない限りは、『ァアアアア!!』とか叫んで死に物狂いで復活しそうだからね。

少なからず俺はそう思ってる。


「アイツがそう簡単に負ける訳ない」


「簡単じゃなかった…準備も念入りにした」


「それでも、アイツは──」
















「終わったな〜」

「やっぱり序列が上の方が強いんだな」

「ほとんど圧勝だったもんな」


スタジアムでは彼女達の戦いの幕切れを見て、ぼそぼそと語り合う者達がいた。

驚く場面も多々あったが、観戦者のほとんどが鈴子の勝利を確信して見ていた。


それは序列の比較と、詩織の能力に理由がある。


黒槍出現ブラック・アペアランス。見た目は凄いけどよ、やっぱり黒い棘を出すだけで、ちょっと地味だよな」


「でも今回は相手が悪かったんじゃないか?だって誘導インダクション改変マダフィケィシャンだぜ。チートだろあんなの」


「詩織さんへの能力封じと、船全体を使った罠。条件が悪過ぎる」


黒槍出現ブラック・アペアランスじゃあ、到底太刀打ち出来ないもんな」


全ては詩織が持つ能力に敗因があったと語られる。

単純であり、目立った特徴が無い能力。


いくら人体強化が優れていて成績が高くても、序列者が相手となったら詩織は弱い。

この戦いの敗北によって、それは明確となった。


「やっぱり、黒槍出現ブラック・アペアランスって、外れ能力なんじゃないか?」


そんな言葉が、観戦席で広がりを見せていた。

















実況席に座っている光崎天乃こうざきあまのは、観戦者達が詩織に向けて何を言っているのかを感じ取っていた。


そして口元に微笑みを浮かべながら、目の色に悲しさを浮かべる。


『森子ちゃん…今回の二人の戦いはどうだったかな?』


隣に座るもう一人の実況者に、感じた事を語ってもらおうと言葉を投げた。

それに森子はやや困り顔で反応する。


『そうですね。二人の戦いは勿論凄かったです。私達が真似出来ない事を難なくやっていて驚きました。……でもやはり、序列や能力に鈴子さんがひいでるところがありましたので』


恐縮した口調で、正直な気持ちを声にした。


『最初から罠を張っていた鈴子さんに、分があり過ぎたと思いました』


『確かに、鈴子ちゃんは詩織ちゃんよりも序列が上で、船にも事前に対策を講じていた』


森子の感想に同意だと、天乃も心に思った事を伝えた。

だが、


『でも、能力に関してだけは、誤りがあるよ』


『えっ…』


『観たものが全てじゃない。あの一回で詩織ちゃんの能力を理解するのは早過ぎる』


天乃が滅多に見せない真面目な口調で、スタジアム中に本音を響き渡らせる。


黒槍出現ブラック・アペアランス。一見はただ黒い棘を出現させる能力だ。ただ出すだけで、他は何もない。そう思ってもしょうがない』


しょうがないのだ。

観戦席に座るほとんどの人間が、序列者や教職関係者が知る情報を持っていない。


そこには詩織が持つ黒槍出現ブラック・アペアランスに関する情報が集約されてる。


そしてそれを、天乃はよく知っていた。


『ただ黒い棘を出す能力…じゃあ、あの棘は何で出来ていると思う?』


『え、えっと……?』


『そう、未解明なんだ。その正体は誰も分からない』


詩織の能力にある未解明。

その中に隠されている謎。

天乃はその情報を重要視していた。


未解明と言う情報を。


『でも、二ヶ月前に分かった事があるんだ。まだ一部の人間にしか知られていない情報がね』


『それは一体……』


序列者が知り得た情報。

そこに森子は強い興味を口から漏らした。

その期待に応えるように、天乃は躊躇ためらう事なく、素直に事実を口にする。


黒槍出現ブラック・アペアランス。その正体、その構造は──』


────────ッッッッッッ!!

それは突如と起こった。

その光景が映し出され、誰もが目を大きく見開いた。


『あ、天乃さん……あ、アレはっ……一体……なんですか……?』


『森子ちゃん。ごめんね。ちょっと行ってくる』


『えっ!?天乃さん!!』


真剣な顔と声音をさらけ出し、天乃は笑みの一切を消し去った。

そして校長によって破壊されたままの出入り口を通って、その姿を消す。















『────』


「ああ本当にすまない。僕が蒔いた種だ。だからその責任も僕が取る」


『────』


「君の方から戦闘学にいる序列者全員に僕が言った事を伝えてくれないか?」


『────』


「一人で片付けるつもりだった?じゃあ、事前に手を出さない様に連絡は回したんだね」


『────』


「葉月ちゃんが?……分かった。とにかく僕は現場に向かうから」


『────』


「文句と説教は死ぬほど聞くよ。じゃあ──」


ある相手との連絡を済ませ、天乃は人体強化を成した状態で建物の階段を登り切る。

そしてそこには、息を切らせた灯花が待機していた。


「灯花ちゃん。いくら僕の付き人でも、今回ばかりは一緒に来なくていいよ」


「アナタに任せていたら、状況は余計に悪化すると思いますけど」


「厳しいな。でも今回は本気だよ。だから、灯花ちゃんは何もしなくていい。今ある仕事に専念してね」


「でもっ」


「真面目なお願いだ。時間も無いし、君を連れて行く程の余裕も無い」


「っ……これを」


灯花は悔しさを瞳に浮かべながら、天乃に端末を渡した。


「鉄塔の位置と、天候や気温などのデータをまとめて置きました。少しでもと」


「ありがとう。さすが灯花ちゃんだ」


端末に一目通し、必要な情報を全て頭に叩き込み端末を返す。


「じゃあ行ってくるよ。それともう一つお願いがあるんだ」


「何をすれば」


「実況席にある操作盤で、ドローンからの映像データをリアルタイムで僕の端末に送信してほしい」


「分かりました。しかし何の為に?」


天乃のお願いに承諾しながらも、その意図が分からず質問を返す。


「ああ、元々は僕の移動手段として鉄塔を設置していたんだけどね」


今回のイベントでは、破壊禁止の鉄塔が建設されていた。その理由は天乃の役割と能力に起因しての事である。


「もう一つの使い道があるんだ」


「もう一つ?」


「…………ごめん。内緒」


勿体ぶった言い方で、灯花に微笑みを示す黒幕あまの

そんな彼に、灯花は黙っている筈が無く。


「斬りますよ」


「怖いな〜。でも君はしてくれるだろ?」


「……………………はい」


長い沈黙と悔しさを見せながらも、灯花は返答を返す。それに天乃は一瞬申し訳なさそうな顔を作るが、すぐに元の微笑み顔に戻して、今の事態に目を向ける。


「現場には鈴子ちゃんと彼もいるから、最悪の事態だけは避けられるだろう」


現場の状況を想定して、天乃は対処出来ると判断する。


「現場に救われたね。もし陸地だったら、中止と避難勧告を余儀なくされていた」


陸地から遠く離れた湖の中心で起こった事態。

現場付近には、心配とされる参加者の姿は無い。

そして序列二位である天乃が、現場にすぐ向かえる準備が整っていた。


それらの要因が合わさり、今現在まで避難勧告が発令されていないのだろうと、灯花は推測した。


湖の中心で起きた事から、被害は無いと言っていいのだ。


「じゃあ行くよ。灯花ちゃん、後は任せた」


その言葉を最後に天乃は空中に身を投げ出した。


そして突如と、『姿を消した』。








そして今頃の運営委員会イベント管理室。

そこでは、


「校長!駄目です!緊急避難勧告が発令出来ません!」


「メインシステムの操作系が変更されてます!」


「他のシステムも滅茶苦茶に破壊されてます!」


「これでは戦場にいる参加者に避難指示が出せません!!何故このような事に!?」


操作盤が備わったモニターに汗を流す管理者達。彼らの意思は今、校長の指示を待ちながら現場に翻弄されていた。


そして校長はと言うと、



天乃アァァマァァノォォォオオ!!)



全ての元凶である序列二位に、燃えたぎる怒りを心の中で叫んでいた。


戦闘学が誇るセキュリティーシステムにハッキングする事が出来る人物。

細工していた訳ではなく、数分前にたった数秒で行われた最速のハッキング。


それを可能とする存在は、ある『能力』を持っている序列二位しかあり得なかった。


天乃は運営委員会のシステムを崩壊させて、イベントを中止させない様にしたのである。


「校長!このままでは!」


「分かっている!今は復旧を──!?」

「「「──!」」」


校長と職員が突然絶句に追いやられる。その理由は、戦場全体に起こっていた現象によるものだった。


(なんて事をやってくれたんだぁあ君はぁああああ!?)


校長の精神は更なる奮起と怒りによって燃え上がる。


今起こっている事も、天乃の能力であれば可能だった。

天乃が次に起こした問題行動。

それは、戦場にある全てのモニター設備の同時ハッキング。


戦場に配置されてる鉄塔に光が走り、周囲にあるモニターが突然と発光を放つ。


見えたのは広い湖の映像。

そこにまず見えたのは、緊急ボートに乗っている広樹と鈴子の後ろ姿。


そして──



















「詩織……馬鹿だよ」


馬鹿みたいに目と口を開いた広樹の前で、鈴子は呟きながら上を見上げる。


そう、見上げないとソレは見えない。


そこには広樹と鈴子が想像出来なかった事実が生まれていたからだ。


『aaaa……Gaaaaa……』


微かに聞こえたのは、人間ではない生き物の唸り声。


それは『高い場所にある大型客船』の中から聞こえていた。


「過去の写真で見た事はあったけど、実物を見たのはこれが初めて……それも知り合いで、序列者のを見るなんて思わなかった」


『aaaa……Gaa……aaaa……』


「言葉じゃない……本当に知能が無くなるんだ……」


広樹とは違い、鈴子は戦闘学に長くいる。そして序列者でもある。

故に知っている情報も多く、今の詩織に何が起こっているのかが、容易く見て分かった。



「『DNA分解構築』……暴走によって知能を失い、人間である事を忘れ、破壊衝動のみで動く最悪の化物……」



それは戦闘力を持つ者にとって、最低最悪の禁忌。

身体に流れる戦闘力の情報が破壊され、滅茶苦茶に再構築される現象。


それは記憶だけではなく、姿形すがたかたちにも影響した。



今の詩織は『脈打つ黒い巨人』。



ドロドロに肌が溶解し、血管と筋肉繊維が丸見えとなった、黒く巨大な化物。


太腿ふとももを湖につけ、空中に伸びるその巨体は、高層ビルに匹敵する程に巨大だった。


そして一番に視線を奪われたのは、その頭部だ。

そこには顔が見えず、あるのは破損が見える巨大な船体。


巨人の顔は船体によって、完全に覆われていたのだ。


「此処には広樹もいる……そしてDNA分解構築で化物になった序列者がいる……」


鈴子は右手を開いて、手の平を空に向ける。


「最悪の事態を避ける為に……私は序列者として動くよ……」


捻れた空間がそこに出現する。

鈴子は能力によって、そこに一つの攻撃手段を作り出そうとしていた。


それは詩織を救う為じゃない破壊の塊。


「湖から出させる訳にはいかない。これは絶対厳守」


鈴子は能力による力の塊を宙に顕現けんげん

そして序列者としての責務に従って、今の詩織を明確な敵として認識し、全てを賭して今に臨もうと眼光を光らせた。


「この場で私が──」


『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA────!!!!』

読んでくれてありがとうございます!


『DNA分解構築』については、第18話、詩織「ああ!ああ!ああ!!!彼は絶対に誰にも渡さないっ!!絶対!!」で医者が説明しています!

簡単に説明すると、戦闘力が暴走して化物になる現象です!


忘れかけている設定でしたが、改めて出しました!


これからもよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
熱で凝固とはまた悠長な気がしなくもないけども 虫歯治療にも使われるUVレジンなら紫外線ですぐ固まるよ、まあ直射しないといけないけど
痴話喧嘩でこうなるとは・・・
[一言] これがもし無事に終わったとして天乃は多分とんでもない罰受けるんだろうな ここまで出番回ってこなかった広樹のターンかな?
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