第96話、鈴子「ナニ…シテルノ?」
書きあがりましたので投稿します!
ぜひ読んでほしいです!
頭が痛い……意識も薄い……
相手の言葉で冷静さを失うなんて…私って馬鹿。
カッとなって、怪我の事を忘れて、両腕が咄嗟に上がらなくて、頭に拳を受けて…
最後は壁を背に、腹部を蹴られて……その後は……
ん?枕…?
ちょっと硬いけど、何か…あったかい…
「何……これ……?」
前髪が邪魔で何も見えない。
何が起こってるの?
「んっ……」
震えながらゆっくりと前髪に手をかける。
「っ……ん?……」
視界がぼやけてた。
視覚の強化の代償か、頭蓋を揺らされた影響か。とにかく目の前にあるものが分からない。
でも、その影と匂いには、覚えがあった。
「詩織……大丈夫か?」
なんで、
「……………………ぇぇ、大丈夫よ」
彼だった。
どうして私に膝を貸してくれてるのかは、今はどうでもいいと感じた。
近くに彼がいてくれれば、それだけでいいと思ってしまった。
久しぶりの感覚。
イベントの任務が始まる前までは、私が彼の側に居られた。
近くにいられる高揚感を独り占め出来ていた。
それなのに…
「広樹……私の小さなお願い……聞いてくれない?」
「なんだ?」
「頭に……手を……置いてくれないかしら?」
「……いいぞ」
一瞬の沈黙にも関わらず、二つ返事で彼は手を伸ばしてくれた。
どうしてこんなお願いを口にしてしまったのか。
答えは簡単だ。
少しでも彼が私の近くにいる実感が欲しかっただけだった。
きっと戦闘学中がこの光景を見ていると思うけど、今回だけは正直になりたい。
だって、この場所は元々、私の──ガァッン!!
「殺気が凄いわね…余所見をしてても分かる」
「詩織っっ!」
「まるでさっきの私ね。そんなに分かりやすかったんだ」
──大丈夫か?
怖いけど、敵意が無い事を証明しようと、日常的な姿勢で心配の声を送った。
──いいぞ
逆らったら終わると思い、迷った末に手を伸ばした。
──ガァッン!!
建物の穴から捻り切り取られた巨大鉄パイプが、投槍の如く飛んで来て、それを突如と現れた黒棘が防いだ。
ハイ、心の中で言わせてください…
俺を巻き込むのはやめてくれぇええ!!
今のコースは完全に俺も巻き込んでるよね!!
「鈴子、その片手に持った『ガシッ』すまん、言い直す。その両手に持った巨大鉄パイプを──」
「広樹、その女から離れて」
人が喋ってる時は最後まで聞いて!
そして何気に跳ね返って宙を飛んでいた鉄パイプを難なくキャッチしてるし!
双槍姿勢でこっちに歩いて来ないで!!
「何をやってるの?どうして詩織の頭に手を置いてるの?」
「これは──」
「分からないの?鈴子」
上半身だけを起き上がらせ、俺の手を頭に強く固定しながら喋り出す詩織。
「この行為の名前を分からないの?」
スリスリ、スリスリ。
そして何やってるの!?
俺の手を頭に摩擦させて何してるの!?
「子供でも知ってる行為だと思うけど──」ガァッン!!
「離れろっ…じゃないと、ただじゃあおかないっ…」
そして鈴子……本当にお願いっ!
絶対に投げられそうにない巨大鉄パイプをポイポイ投げてくるのはやめてぇえ!
跳ね返って湖にドボォンッしてるけど、絶対に女の子が投げられる様な物じゃないよねソレ!!
「広樹は私を倒さなかった。絶対の好機を捨てて、私に膝を貸してくれた」
正直に思います。
怖かっただけです。
率直に言うと、一撃では絶対に仕留められないクリーチャーとして見ていました。
そんなのを相手に敵意を出せと?
イベントのルールで簡単に倒したとしても、後が怖いよ!
「そんな広樹が私を異物として判断しなかった。そして私も広樹と同じ気持ち。お互いが同意の意図を示しているのに、どうして汲み取ろうとしないの?」
勝手に何を言ってるんですか詩織さん。
同意なんてありませんよ。
俺は殺されたくない。
貴女は敗退したくない。
そんな同意はあったけど、俺が貴女を異物として見ていなかったというのは誤りだ。
ハイ!でも死にたくないので、異物だろうがクリーチャーだろうが逆らいません!
「し、詩織」
「っ!…何?広樹」
「お、お前は…何をしたい?」
「っ…わ、私は」
あれ?震えてる?
俺も震えています!
でもそんな事は関係ない!
とりあえず敵意が無い事を証明しなければ命が危ない!
「私はっ…」
「俺は詩織を尊重するよ」
「ぇ──」
「詩織だけじゃない、鈴子も」
「ん!?……」
不公平を作ったら怖い。だから二人の味方だよアピールをする。つまり中立である立場になりたい!
「俺は鈴子も尊重したい」
とにかく逆らわない意思を示す!
その上で言います!
「どうして喧嘩みたいな会話をしていたか分からないが、俺は出来るだけ二人の事を考えたい」
「それは…っ」
「私は…っ」
良し!無害アピールは成功した!後は謝罪して距離を離せば解決だ!
「邪魔を挟んで悪い。これだけが言いたかったんだ。だから…もう何も言わない」
何もしない宣言。これが重要単語。
これでもう俺は関わらない事を伝えた。
「もう俺は此処にはいない。そう思っていてほしい。そして俺がいないこの場所で、二人は何をしたい?」
「…………」
「…………」
そして少女達は動き出した。
片手に持っていた巨大鉄パイプを背後に放り投げ、床に倒れていた狙撃銃の端をトンッと上に蹴り上げる。
回転しながら跳ねた愛銃を両手で捕まえ、目端を尖らせた鈴子は歩き出した。
「決まってるっ…」
手を握るのをやめてゆっくりと立ち上がり、背後のポーチに手を伸ばす。
黒棘を消失させ、眼の色を変えた詩織が靴音を鳴らした。
「鈴子っ…」
両者の距離が着々と近づいていく。
今の彼女達の瞳には、日常的な色彩を持たず、そこには真っ直ぐな意思が宿っていた。
その姿に広樹は、身の安全への安堵に浸った。
鈴子の加勢も、詩織が自分を敵として攻撃する心配もない。
晴れやかな理由を持って、危険な事から逃げ切った。
これで──ヒュッー!
「ぇ──」
耳元にあった髪を何かが撫でた。
いや、通り過ぎた感触を感じた。
そしてその理由はすぐに分かる。
「硬いっ…」
危険はまだ目の前にあった。
そこは戦場。
動かない奴から消えていく地獄である。
詩織が再び出した黒棘に、鈴子が撃った銃弾が跳弾。
その銃弾が広樹に向かって飛んで来たのだ。
そして、それで終わりではなかった。
「っ!?どういうつもり」
「見ての通──」
『通りよ』の言葉を完全に伝え終わる前に、詩織の姿は何十本から成る黒棘によって、完全に覆い隠された。
黒い光沢を放つそれは、外界からの接触を断つかの様に、鋭く尖った棘先を光らせる。
「能力には必ず使用時間に限界がある。人体強化も使えない筈……時間稼ぎ?」
能力の使用中は人体強化が使えない。
故に時間稼ぎと容易く見破れた。
鈴子はポーチから予備マガジンを床に置き、
「その中で何をしているの?」
己が知る最善の姿勢で、狙撃銃を構える。
「だったら、全てを暴くまで」
鈴子の言葉を開幕に、狙撃銃から無音の火蓋を切った。
跳弾跳弾跳弾跳弾跳弾跳弾跳弾跳弾──
連続で撃ち放った銃弾の数は二桁を超える。防がれ跳ね飛んでいった銃弾は、その役目をまだ終えない。
鈴子の能力によって、余った威力と運動能力の方向は誘導され、弧を描いて再び詩織へと突貫した。
「確か、鉄程の強度だった筈。だから──」
漆黒の光沢に亀裂が入る。
「絶対にそれは──」
破片が飛び、生々しい音が鳴り響く。
「連続する衝撃に耐えられず──」
何十本にも乱立していた棘は、膨大な命中の大渦によって、
「崩壊する」
確実に破壊の一途を辿った。
壊され中身が剥き出すも、新たな棘が中に見える。
それもまた、乱雑する銃弾が衝撃を撃ち鳴らした。
「いつまで隠れているつもりなの」
──ええ、もう隠れる必要はないわ
「ッ!?」
ッ!ッ!ッ!ッ!ッ!ッ!ッ!ッ!──!!
銃弾の嵐は一瞬で沈黙した。
そこに生まれたのは、木の床にいくつもの弾痕を焦げさせた光景。
その中心には、『一本』の武装を構えた少女が立っていた。
「始めましょうか──いえ、違うわね」
──終わらせてあげる
読んでくれてありがとうございます!
ぜひ次話も読みに来てください!