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第90話、鈴子「ここに来られて良かった」

昨日は時間がなくて投稿できませんでした!すいません!

なるべる連続投稿を目指すつもりですが、予定があったり、内容を濃くしたい場合などは投稿が遅れるかもしれません!

どうかこれからもよろしくお願いします!

水中に黒い影が伸びる。

それは姿を現さずに暗い底を突き進む。


その影の最前には少女がいた。

伸びた影から、また新たに影を生え伸ばす。

四肢をきしませるほどの水圧に晒されながら、少女は止まる事を知らなかった。


少女は地形を見通し、迷わず進むことが出来た。

それは『半壊した頭蓋マスク』がそうさせた。


榛名が製作した頭蓋には、その知性の限りを尽くした機能に溢れている。

その一つとして、水中の物体と地形の把握を可能とする榛名特製のソナーが備わっていたのだ。


半壊したにも関わらず、その機能は生きており、微弱なノイズが走りながらも、水中を移動するには事足りた。


やがてそれは見えてくる。

水面と水中の間に浮かぶ鋼の城が。

強者しか立ち入れない世界がある。


だが、少女には権利があった。

目前まで来れた事が、城に入れる資格だった。


そして…


















────ッッ!?


船全体に揺れが走った。

なんだ?と疑問の反応をする広樹とは違い、鈴子だけがそれに気づいた。


「広樹、船首の一番奥に移動して…」


「ん?どうしてだ?」


「始まるから…」


身に付いた武装を再確認し、両手で狙撃銃スナイパーライフルを下げて持つ。

その雰囲気は、今までとは比べられない程に研ぎ澄まされており、まるで別人だった。


「広樹…教えてあげる」


「何をだ?」


「私の全部」


そして何かが建物を超えて飛んで来た。

広いウッドデッキに空っぽの音を鳴らしたのは、開いたシルバーケース。


それはずぶ濡れで、数秒前まで水中にあったと思わせる。


「武装の水害防止……」


これで納得した。

敵はどの経路を使って乗船して来たのかを。

数百メートル離れた距離を、水中を移動して此処まで来たのだと。


そんな芸当が出来るのは、出場者の中では一人しか思い当たらない。

鈴子は改めて、此処に来た敵を再確認した。



そして靴音が響き渡る。

静まった空間に鳴る音の正体は、建物横の廊下から現れた。


スゥ──スゥ──


水滴が張り付いた制服。

水に滴る長い髪。

半壊した黒い頭蓋。


「…………第十位」


鈴子の一言に、少女は頭蓋を脱ぎ捨てる。

そこに現れたのは、鈴子が考えていた答えだった。


「久しぶりね…第九位」


詩織は鈴子に向けてそう言い返した。




(え?第九位?)


















スタジアムが熱狂の渦で揺れていた。

それはモニターに映し出された光景が理由に他ならない。


『遂にこの瞬間が来ましたね!天乃さん!』


「ああ!誰もが待ち望んでいた瞬間が今あそこで起こってる!」


実況室にいる天乃と森子も、荒ぶる気持ちを声に乗せていた。

それ程の光景が今あるのだ。


序列十位と序列九位の衝突。

姫路詩織と内守谷鈴子の対面。

こんなにもワクワクさせる展開は、滅多に起こるものではない。


『一秒後には嵐が巻き起こりそうな状況だから、会話が聞き取れないのは残念だけどあの場所の音はほぼカットさせてもらうよ!』


『滅茶苦茶聞きたいのに本当に残念です!』


『本当にそうだね!でも会話に関してなら、僕が頑張るから問題なし!』


『え、それってどういう…』


面白い事を考えた子供の様な笑顔を作り、天乃は設置してあったマイクを握る。


『アフレコには自信があるんだ!』


『え!?』


『アドリブになっちゃうけど、それっぽくするから期待しててね!』


『アドリブじゃ意味ないじゃないですか〜!?』


















雨が止んだ黒い暗雲。

頬に撫でる淡い風。

白い鳥が船の周りを旋回する。


そんな幻想的な状況の中、俺は一つの言葉に心を震えさせていた。


(え?第九位?どういうこと?)


「広樹も、久しぶり」


「お、おう、久しぶり」


詩織はいつもと変わらない声だった。


(いや!そんな事はどうでもいい!なんで鈴子を第九位って呼んだの!?)


「これを預かっててほしいの」


単刀直入に笑顔でそう言った。


そこにあったのは灰色のコアラの縫いぐるみ。

何の経緯があって、彼女がそれを持っていたのかは分からない。

だが、その笑顔と雰囲気に、何か異様な雰囲気を感じた。故に、


「分かった」


意図を聞く事を忘れ、流されるままに了承した。

そしてそれは空中を投げられる。

何も起こらず、言われた通りに両手に収まった。


「ありがとう」


最後に詩織はそう言って、鈴子に向き直った。


「…………」

「…………」


詩織は先程まであった笑顔を一転させ、研ぎ澄まされた顔がそこにはあった。


鈴子も背後から感じ取れる程の、重圧的な雰囲気があった。


(え?本当になんなの?)


重圧が二人の間から感じ取れる。

その中で最初に声を放ったのは詩織だった。


「部屋から出られる様になったんだ」


「……」


「心境の変化?」


「……」


「それとも、やっと『吹っ切れた』の?」


「……」


まるで鈴子の過去を知ってる口ぶり。

そんな詩織の言葉に対し、鈴子は最初の挨拶から口を閉ざしていた。


「そう」


「……」


広樹からは背中しか見えなかったが、詩織からは真正面の鈴子が見えていた。

故に、詩織は鈴子の表情を見て答えを知ったのだと察せられた。




「前々から私はあなたの事が認められなかった」


暗い色彩を宿した瞳で言葉にする。


「どうしてあなたが第九位で、わたしが第十位なの?」


それは詩織がかかえていた闇だった。


「三年間を努力に費やした。才能があると認められた。なのに私は一日中引きこもってるあなたに負けているのよ」


それは詩織の過去。

序列者に至るまでにかかった代償は、海香に女らしさが欠けていると言われる原因にもなっていた。


「私は天才と評価されたけど、あなたは奇才と言われた。なんで三年間の努力を、あなたの奇才一つに否定されなきゃいけないの」


詩織は鈴子を認めないと言うが、それは鈴子自身の人間性に対してだった。

己の力が鈴子の力に負けている事は、一つの弁論も無く認めていた。


だから認めたくないのだ。

奇才一つで努力した天才を上回っている事実を。


「そんなあなたが、どうして…」


だが、そんな事実があるのにも関わらず、詩織が許せない光景がそこにはあった。


「どうしてそこにいるの…」


彼に背中を預ける鈴子がいた。

私の背中に彼はいない。

その事実が心を抉り、黒く禍々しい何かが溢れんばかりに埋め尽くしていた。


「どうしてそこに立っているの…」


どんな方法を使ったんだ。

また私の努力を否定するのか。

彼を引き入れた私の粉骨砕身が、こんなにも簡単に奪われるものなのか。


「どうしてよ…」


連続する心からの声音。

詩織は心の内の思いをさらけ出し、何もしなかった鈴子に打ちつける。

だが、その相手はというと、


「……」


鈴子は何も答えず、いつのまにか上を向いていた。

視界を埋め尽くすのは黒く染まった暗雲。

だが…


「……ん」


ある事に気づき、鈴子は小さく鼻を鳴らした。

長く続いていた暗雲が、徐々に薄さを見せたのだ。


やがて暗雲の隙間から広大な湖へと、太陽からの光が降り注いだ。


それは三人がいる船首にも伸びる。

だが、全てが光で覆われる事はなかった。


そこに出来上がったのは、光に覆われた鈴子と、暗闇に包まれたままの詩織。

その光景に鈴子は、一つの思いに胸を高鳴らせていた。


(広樹の言っていたとおりだ…)


数分前に広樹が言っていた言葉を思い出す。

船から見えた暗雲の光景。

その行く末に出来上がったのがこの光に照らされる舞台であるなら、鈴子にとってはそれは奇跡に等しかった。


「ねぇ──」


詩織が言葉を続けた。

その一言に、鈴子はゆっくりと前に向き直る。




「(広樹の隣を私から奪って、)今のあなたはどんな気持ちなの?」




そして、暗闇の中にいる詩織は、広樹を背にした鈴子に最後の問いを振った。


どんな気持ち?

この光景に出会えた私の気持ち?


だったら答えは一つしかない。

私は広樹と最終章を終わらせた物語ゲームに出てくる戦士キャラクターの名言を思い出して、この感動を言葉に変えた。












「最高だよ」


滅多に見せない満面の笑顔で、影の中にいる詩織にそう伝えた。





読んでくれてありがとうございました!


やっと、第61話、鈴子「奪われる前に奪う。それが私」の前半部分、ゲームの世界のラストで作った伏線を回収できました!

どうしても引き金となる鈴子の一言が欲しくて、第61話の長いゲームストーリーを書きましたが、今ではもっと良い方法があったのではないかと思います!

しかし、やっとここまで来れました!

ぜひ続きも楽しみにしていてください!

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― 新着の感想 ―
[一言] 見させられる葉月が可哀想ww
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