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第9話、ぬいぐるみ「おい!俺をそう簡単に取れると思うニャよ。マタタビをくれるなら手加減してやってもいいニャ。」

なんとか書きあがりました!

コメント待ってます!

これからもよろしくお願いします!


ちょっぴり変えました。


6月17日に助言をもらい、間違った部分を修正しました!

廊下を疾走する。

驚く生徒や教師に脇目を振らず、ただ全速力で地面を踏み抜き続ける。


後方から感じるのは彼女の気配。最初の角を曲がってからも、彼女の殺気が身体の芯にまで届いている。


「広樹ぃいいいい!!」


彼女が上げる声は、広樹の心を深く抉る。


(なんでいるの!?なんで名前知ってるの!?)


広樹と詩織の鬼ごっこが幕を開けた。


学校の通路をよく知る広樹は、迷わずに走行する。


中庭に続く窓から飛び降り、理科室に繋がる窓に飛び込み、非常階段を登り、音楽室から繋がる広いベランダに出る。

広樹は彼女を引き離そうと必死に走り続ける。


「!?」


まさにホラーだった。


有利な条件を満たしていた広樹の耳に、聞いたことのない音が近づいてくる。


周りを見回す広樹。場所は四階、空が見える広いベランダだ。

彼女の姿は見えない。


だが、聞こえてくるコンクリートを踏み砕く音は本物だった。


そして広樹は見てしまった。

右の別校舎の壁を疾走する彼女の姿を。

重力を無視し、コンクリートを抉り取りながら広樹に向かって来たのである。


「うっ、わあああああああああああ!?」


広樹のメンタルは限界を超えた。


(ばっ、化け物ぉおお!?)


恐怖のあまり正常な判断が出来ず、ベランダを蹴り、空中へと身を乗り出してしまった。


ここは四階。地面に落ちれば死ぬ。

















(なにを!?)


詩織の目の前で、広樹は空中に身を乗り出した。

その先には建物も何もない。あるのは敷地外の道路だけだ。


(人体強化による着地!?能力による着地!?それとも飛行するの!?)


次の広樹の行動を先読みしようと、思考を回転させるが、答えを得られない。

それほど広樹は未知数の存在なのだ。


だが、さらに確信した。ただの一般人がそこから飛び降りるわけがない。

彼は絶対に戦闘力を持つ人間であると。


(姿が見えない!)


飛び降りた彼の姿は、伸びている木と敷地を囲むコンクリートのバリケードによって見えなくなった。


詩織は壁走行で広樹の消えた道路へ向かう。

















ブゥゥゥゥゥゥゥゥ!!


オートバイは出せる限りの速度を出して走っていた。

顔に擦り傷ができた広樹は、斉木が運転するオートバイに乗っているのだ。


「ナイス!斉木!やっぱり斉木!俺が女だったら間違いなく惚れてた!」


「お前、テンション壊れてるぞ」


広樹は死の恐怖から救われたことにより、テンションMAXになっていた。


飛び降りた先には、偶然にもゴミ回収場所だった。この地域で集められたゴミ袋の山が衝撃を吸収し、軽傷ですんだのである。


そして、偶然にもオートバイに乗る斉木と遭遇し、後ろに乗せてもらった。


「じゃあ、このままゲーセンだな!」


「ああ!どこでもいいぜ!とにかく学校から遠い場所ならどこでもいい!」


「了解!」


オートバイのエンジン音が天使の歌に聞こえる。

広樹は今、救いに満ち溢れていた。


















(どこに行ったのぉおおお!)


詩織が着地した場所に広樹の姿はなかった。


(気配もない!痕跡もない!なんで!?)


ごみ回収場所のゴミ袋は元から乱雑に捨てられていたため、痕跡に見えることはなかった。

完全に広樹を消失したのである。


(今から広樹の家に向かう?だめ、あそこまで拒絶されてたら、何が飛び出してくるかわからない……このまま、戦闘学に報告したら、広樹を戦闘学に転校させる計画が壊れるっ……)


自分の失態が首を締め付ける。

広樹の転校がなくなるのは絶対にダメだ。

詩織は最悪の結果を回避すべく、次の計画を必死に考える。





















『YOU LOSE!』


「まだまだだね〜」


「クッ、また負けた」


画面に表示された負け判定に、広樹は苦汁をなめる。


広樹と斉木はレーシングゲームをやっていた。

そして四戦四敗、広樹の連敗。


「レースはやめだ!別のゲームで勝負!」


「おうおう、負け惜しみか〜、まあ、いいけど〜」


勝者の余裕を見せる斉木に、広樹は敗北の苦汁をなめさせようと必死になる。

二人はレーシングゲーム台から立ち上がり、別のゲーム台を散策する。


「今更だけど、聞いていいか?」


「ん、なんだ?」


歩きながら斉木は広樹に質問する。


「姫路詩織との関係について」


「え……」


斉木が質問した途端、ぴたり、と。

広樹は固まった。

その様子に斉木はニヤァと気色悪い笑みを浮かべた。


「『広樹ぃいいいい!!』って、大声で叫んでたぞ〜、あのアイドルはお前と何かあるんだろ〜?」


「っ……」


「おいおいお〜い。言っちゃいなよ〜。めっちゃ気になるんだよ〜」


斉木が広樹を煽る。

だが、広樹は頑なに口を閉じる。

もしも、教えてしまったら一億円のこともバレる可能性があるからだ。

絶対に銀行の件を教えるわけにはいかない。


「あの時、オートバイでお前を拾ったのは誰だったかな〜?」


「ウグッ!」


「俺がオートバイに乗せてやらなきゃ、今ごろお前はどうなっていたかな〜?」


「ガハッ!」


「言っちゃいなよ〜」


「グゥ……」


斉木は恩を片手に広樹を叩き続ける。

広樹はそれでも口を閉じて、秘密を死守することに没頭する。


だが、それでも斉木に助けてもらったのは事実。

広樹は一部だけ教えることにした。


「最近知り合ったんだよ」


「どこで?」


「銀行で」


「……どうやって?」


「ここまでだ」


銀行の名を出した時に、間ができたのが気になるが、ここで打ち切ることにした。


「んーーまあ、いいや」


(ん、やけに素直になったな)


斉木の追求がなくなった。

少し気になることもあったが、一億を守れるのならどうでもいいと思う広樹。


話題が引き返さないうちに、新しい話題を見つけるため、あるゲーム台に視線を飛ばす。


「なあ、UFOキャッチャーやらね?」


「お、いいね」


提案を飲んでくれた斉木。

二人はゲーム台に入ってる商品を見る。


ガラス板の奥には猫の妖精をイメージしたぬいぐるみが座っていた。

男でも、遊び半分でならお金を払って挑戦しても良い景品だ。


「じゃあ、やってみるか」


広樹が一〇〇円を入れて、ゲーム台から音楽が流れ始める。


「広樹、これ女が欲しがるやつじゃね?」


「いいじゃねえか、取ることに意義があるんだよ」


「お前がいいなら、いいけどよ」


俺を見る斉木の目が、どこか不思議なものを見る目をしていた。

ぬいぐるみのサイズは少々大きめだ。

難易度もやや高めである。


(俺の腕を疑ってるな〜)


広樹は斉木から挑戦状を受け取った気持ちになった。

難易度は高い台だからこそ、燃え上がる。

さっきの連敗のこともあり、広樹は斉木に勝利予告をする。


「四〇〇円でこのぬいぐるみを落としてみせる」


「え、いや無理だろ。デカイし重いぞ。十五回以上はかかるって」


「その言葉忘れるなよ」


広樹の鼻から『フンス』と自信のこもった鼻息が飛び出す。

これに勝てば連敗は取り消しだと決めつけた。


一回目、アームをぬいぐるみの真上に持ってくる。


アームで挟むが、持ち上がる前にアームが外れる。


二回目、アームをぬいぐるみの後ろまで持ってくる。


アームがぬいぐるみを擦り、ぬいぐるみがやや上を向く。


三回目、アームを上に向いたぬいぐるみの頭部にハサミの先端が当たるように持ってくる。


下がると同時に頭が下に圧迫され、座っていた猫が横に寝転がる。


「無理だろ、これはアームでぬいぐるみをちょっとずつずらして、穴に落とすやつだって」


斉木はこの景品の正しい取り方を助言するが、広樹の耳には入らない。


四回目、アームを猫のやや右横に持ってくる。


寝転んで見えるようになった商品ラベルの輪っかにアームを引っ掛ける。

難なくぬいぐるみが上がり、吸い込まれるように穴に落ちた。


「お…おう」


「へっ!」


マヌケな声を上げている斉木に、決め口を吐き出す広樹。

受取り口からぬいぐるみを取り出し、片手で見せびらかしながら、ぬいぐるみを取った手順を解説する。


「一回目はアームの力を確認。二と三回目で猫を転がして、ラベルを出させる。四回目にラベルの輪っかにアームを通せばこんなもんだ」


広樹の説明する最中、斉木はぬいぐるみを凝視していた。

取れたことに不満でもあるのか。広樹はそう思い、ぬいぐるみを斉木に押し付けた。


「ほれ」

ムニュ…


「お…?」


「ほれほれほれほれほれほれ」

ムニュムニュムニュムニュムニュムニュ…


ぬいぐるみを斉木の胸板に押し付けるたびに、生地と綿が変な音を鳴らす。


「やるよ」


「え、でも、これは…」


「さっきの連敗記録はこれでチャラだ」


「あ……、でもこれ、お前の勝ちじゃないか?」


「ああわかった!はい!俺の勝ちな!はい終わりぃい!」


広樹は乱暴に会話を切った。斉木から伝わってくる後ろ目の雰囲気が嫌になったからだ。


(さっきまでの調子はどうした!)


斉木は受け取ったぬいぐるみを両手に持ち、その瞳をジッと見つめている。

猫が好きだったのか、何か思い入れでもあるのかと、不審に思う広樹。


「なあ、この雰囲気ちょっと嫌なんだが」


「あ…、ああ!ちょっと用事を思い出しちまった!」


「はぁ!なんだよいきなり!」


「悪いー!今度埋め合わせするから!じゃあなー!」


斉木は走り出し、建物の扉に消えていく。

その場には、広樹だけが取り残された。


(まあ………いいか。オートバイの件もこれでチャラだ)


グゥゥゥゥ


広樹の腹から音がなる。

右手を腹に添えて、学校の時を思い出した。


(あんなに走らされれば、腹が減るのも当たり前か。夕飯前だけど、食べに行くか)


広樹はゲーセンから出て、通いのラーメン屋に向かった。















(どこよぉぉぉぉぉ…)


詩織は涙目で歩いている。

広樹が自宅に帰ってきた気配はなかった。

まだ外にいるとわかり、必死に探していたのだ。


(もう二時間)


詩織は腕時計を見た。

時刻は六時をまわっている。

夕日が沈みかけ、空は夜色に染まりかけている。


グゥゥゥゥ


詩織の腹から音がなった。

二時間も捜索していたのだ。身体がエネルギーを必要とするのも当たり前。


(ご飯、広樹、ご飯、広樹、ご飯、広樹…)


崩壊しかけた精神でブツブツと欲しいもの呟き続ける。


商店街に入り込んだその足は、一つの匂いに誘われて、黒を主張した外観を持つラーメン屋にたどり着いた。


本当は広樹を探さないといけないのに、ここまで来てしまった詩織。

一秒でも惜しいのに、こんなことをしている場合ではないのに、早く広樹を見つけたいのに。身体は正直だった。


赤くした目を擦り、店のドアに手をかける。


(いつもは味噌ラーメンを頼むけど、きっと今日のラーメンは塩味に感じるだろうな)


ガラガラガラ


スライド式のドアを開け、入り口をくぐる。


「いらっしゃいませ!!お好きな席へ!」


店員の声が耳に届く。

詩織は適当にカウンター席を選んだ。

初めて来るラーメン屋。メニュー表を見なければ注文もできない。


(読めない…)


テーブルの上にあったメニュー表を見るが、さっきまでの涙目の影響か、視界がぼやけていて読めず、小さな呻き声を出してしまう。


「うぅぅ」


「良ければ、俺が代わりに頼みましょうか?」


「ぇ…!?」


詩織は目を限界まで見開いた。

その声、その顔、その姿。

隣に座っていたのは、さっきまで必死に探していた人だったのだから。

頑張っていきますねー!

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