第88話、鈴子「駄目……これは、広樹には見せられない」
書きあがりましたので投稿します!
前回の更新から期間が短かったので、読み忘れがないようにお願いします!
それは銃弾。
だが、その動きは銃弾とは全く異なった。
「おいぃ!?これは一体何なんだよ!」
彼等は身に起こっている事に絶叫する。
恐怖に負け、アクセルを全開に回し、ボートのエンジンを熱くさせる者が現れる。
だが、その銃弾からは逃げられない。
「なんで追いかけて来るんだぁああ!?」
ボートのエンジン部を的確に撃ち抜き、貫通した銃弾が別のボートのエンジンに抉り込む。
たった一弾で、二台のボートを停止状態に追い込んだ。
その動きは自由に空を突き進む柔軟性を持ちながら、正体の認識を許さないほどの速度を兼ね備えていた。
認識出来るのは、エンジンに抉り込んだその時だけである。
「チックショォオオオ!」
やがて最後の一台がエンジンを停止させられた。
そこには無残に抉られた破壊痕。
遂に彼等は水面上で活動停止を余儀なくさせられたのだ。
バラバラに逃げた末に出来上がったのは、何十台ものボートが散漫に広がった湖。
スタジアムが熱い興奮に包まれていた。
『敵全ての無力化に成功ぉお!発見から無力化までに一分とかからず、全てを撃ち抜きました!』
森子が鈴子の戦闘に白熱を伝える。
何十台もの高速移動をするボートを、一発の無駄も許さず、たった数発の銃弾で全てを撃ち抜いたのだ。
その光景に「完璧」の一言を誰もが思い浮かべた。
『…………』
『どうしたんですか天乃さん。ずっと黙っていますが…?』
『ん?ただ……』
『ただ?』
『地味過ぎる……本当はもっと凄いんだよ。鈴子ちゃんの能力は』
腑に落ちない顔をして、天乃は鈴子を語る。
『今回の戦闘程度じゃあ、鈴子ちゃんの本領は、──『誘導改変』の本領は一割も発揮できていないんだ』
『一割以内ですか!?多勢の参加者を移動不能に追いやったんですよ!』
それが内守谷鈴子の能力だった。
『誘導改変』
──自分が指定した対象の経過状況を、任意に誘導操作する能力。
今回の鈴子が行ったのは、『射ち出した銃弾の進路誘導』である。
それによって、銃弾は鈴子の思うがままに方向を変えて、目標を撃ち抜きに行ったのだ。
だが、その結果に天乃は納得の顔色を見せなかった。
『口で説明するのは簡単だけど、やっぱり本物を見て欲しいんだ。教師達と序列者が知っている彼女の力をね。だから……』
『だから?』
『詩織ちゃんとの戦いに期待しようか。……それでも五割出せれば良い方なんだけど……』
『詩織さんに対してでも五割ですか!?』
微笑いを浮かべる天乃の横で、森子は驚愕を表した。
序列順位が一つしか差が無いにも関わらず、鈴子は詩織に半分の能力行使で勝てると言うのだ。
『十分もしない内に見られるさ。今よりも比べ物にならない戦いがね』
いずれ起こる戦いに呟き漏らす天乃。
『まあでも、まずはこの戦いの結末を見届けようか』
『ええ。しかし、後は狙撃して終了じゃないですかね?』
『それはどうだろう。もしその気になっていたら、エンジンを壊さずに敵本人を狙いにいく筈なんだ』
『言われてみれば、確かにそうですね』
『きっと結末は、鈴子ちゃんにとって意味のあるものになると思うよ』
天乃の言葉は合っていた。
鈴子が敵の行動を停止させたのは、距離を十分に離しておく為だった。
これは保険。
もしもの時を考えての、危険を減らす行動。
そして鈴子は今、一つの娯楽を実行しようとしていた。
「広樹…使うね」
ケースを開けて、中身を外に抜き出す。
それは広樹から借りた武器。
鈴子が持ち出したのは、榛名によって製作された広範囲型殲滅兵器。
「スティンガーミサイル……良いぃ」
頬を赤く染める鈴子がいた。
顔を青くする観戦者達が大勢いた。
何も知らずに眠る広樹がいた。
だが、それは紛れも無くスティンガーミサイル。
銃弾とは比べ物にならないほどの威力を持つ破壊兵器だ。
「邪魔はさせない」
広樹が寝ているんだ。
私の所為で体調を崩した友達がいるんだ。
その眠りを下卑た笑いで起こされるのは万死に値する。
故に鈴子はこの手段を取った。
ただ倒すのではなく、ソレを使ってみたい欲求と、広樹の眠りを妨げる事へのお仕置き、この二つの願望を叶える為に鈴子はソレを持ったのだ。
「装填完了……」
ケースに入っていた弾数は二発。
その内の一発をスティンガーに装填し、ゆっくりと上空に向ける。
「誰も…来させない」
バシュッゥ──と、ミサイルが発射された。
その発射音は『誘導改変』によって誘導し、広樹には聞こえなかった。
白い糸煙を作り上げ、やがてミサイルは彼等の真上に辿り着く。
そしてミサイルは敵に──ではなく、上空で爆発した。
そのスティンガーミサイルを製作したのは誰か──榛名だ。
彼女が製作する武器は、常人の思考の斜め上を行く。
それ故に、その武器は本来の用途とはかけ離れていた。
いや、このイベントでは対人相手への爆発物使用は禁止となっていた。
だから、イベントに持ち込めたそのスティンガーミサイルは、許可された効果を有していた。
それが今巻き起こる。
────ッ!!??
湖に轟く。
一隻のボートも見逃さずに、高い水飛沫が全てを飲み込んだ。
『フレシェット弾』
──それは主に対人攻撃に用いられる小型の鉄の矢を子弾として、その子弾を多数内蔵した砲弾である。
上空で砲弾が爆発する事によって、内蔵された鉄の矢が円錐状に降り注ぐ仕組みだ。
それを榛名が、実現が難しいとされるスティンガー用のミサイルに作り変え、それを広樹に提供したのだ。
そしてそれが鈴子の手によって、雨に打たれる彼等に向かって、擬似塊で作られた何千本もの小さな矢が降り注いだ。
更に加えて、その矢の一本一本が、鈴子の『誘導改変』の管理下にあった。
故に無駄な流れ矢は無く、確実に彼等が乗るボートに狙い降った。
そして、そこに生まれる光景とは──
「んっ…………んっ〜〜っあ」
「おはよう広樹」
「ん、おはよう。てか、今お昼だけどな」
俺が目覚めると、目の前には膝を折った鈴子が微笑みを浮かべていた。
「敵は来たか?」
「何もなかったよ」
「そうか」
寝る前と変わらない鈴子がいた。
それに疑う余地は無く、ただ信じる。
「よっこら──」
「ッ!」
「おっ!」
立ち上がろうと膝に力を入れたが、それはすぐに止められた。
そして視界に入ったのは、鈴子に掴まれた片腕である。
「どうした急に?」
「もう少し休んでて」
「いや、もう十分だ」
「……体力温存の為に……座ってて」
溜めての一言に、何か隠れたものを感じた。
そして一つ分かるのは、鈴子に握られている腕が痛い事になっているという事だ。
「鈴子、分かったから腕を放してくれないか?俺の皮膚は雑巾ほど丈夫じゃないんだ」
「っ!ごめん」
本人も気づいたのか、その手をすぐに取り払ってくれた。
そして残ったのは、少々の赤痣が浮かび上がった腕である。
「っ!っ!ごめ──」
「そんなに慌てなくても大丈夫だ。人体強化か?」
「本当に…ごめん」
「だから気にするな。怒ってないから」
出会った頃の鈴子が戻ってきた気分だ。
もしかしたら怒り過ぎたのかもしれない。
いや、恐らく鈴子にとって、俺の軽い説教でも大きく感じてしまうのだと思った。
「本当に気にしてないから。ただ血管を抑えられて赤くなっただけで、数秒すれば治るよ」
「……」
「だから色々と緩めてくれ」
「……分かった」
やや気持ちを立て直し、平常に戻ろうと呼吸を整える。
顔の表情筋をゆっくり緩め、鈴子はゆっくりと立ち上がった。
「広樹……もう少しだけ、そのまま休んでて」
「分かった」
ここは何も聞かずにいた方が良いと感じた。
それで収まるなら、自分への不利益も無くて済む。
だから、今だけはそのまま壁に背中を預けた。
「……」
そして鈴子は広樹から視線を外し、真っ直ぐ広樹の後方に広がる湖を見つめた。
救出型飛行ドローン。
それは人を救出し、安全地帯まで上空から輸送する無人救出ロボットである。
鈴子の見つめた先には、雨の中で膨大な数のドローンが飛び回っていた。
備わったアームを使って、器用にソレらを掴み取る。
グッタリと身体をぶら下げる新入生達を。
願望を叶えた後に思ったのは、広樹の反応である。
もしこれを見たら、広樹はどんな反応をするのか。
確かめる勇気もなく、ただ隠すしかなかった。
雨に打たれる新入生の屍の群れは、あまりにも酷い光景なのだ。
「見せられない……」
「何か言ったか?」
「なんでもないよ」
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