第87話、鈴子「広樹を起こさないで」
書きあがりましたので投稿します!
昨日も更新しましたので確認お願いします!
「ヒャッハァァアアアア!いくぜお前らぁああ!」
「何が序列者だ!みんなからチヤホヤされやがって!」
「あんな根暗そうな女なんか、俺達が瞬殺してやんよ!」
「ついでにあの男もやってやるぅうう!」
それは詩織が倒した集団と、行動が似ていた。
彼等もイベントが始まる前に打ち合わせをし、今回の同盟を結成したのだ。
そして彼等の目標はたった一つ、序列者を倒す事である。
「この人数を相手に戦えるかぁ?逃げても構わないんだぜぇ!」
「ハハ!相手はたった二人なんですから!逃げてもしょうがないでぇっせぇ!」
「そうだぜ!新入生が相手でもこの人数なんだ!逃げた言い訳はつくぜ!」
「それ恥ずかしいな!ハハハハ!」
エンジン音と笑い声が響き渡る。
彼等がボートを運転出来ていたのは、そのボートは戦闘学がイベントの為に用意したものだったからだ。
その運転には技術や経験が無くとも、数分の慣れで操れた。
そしてボートの数は数十台。
一台につき乗員は二人から三人。
それが群れを成して、湖の真ん中に浮かぶ大型客船へと水上を走らせる。
「全員であの船を蹂躙し尽くしてやろうぜ!!」
「「「「「「ヒャッハァァアアアア!!」」」」」」
『天乃さん、彼等は産まれてくる時代を間違えたんじゃないでしょうかね?』
『分かるよ森子ちゃん。何故か僕の目には、彼等が肩パッドを装着している幻覚が見えてるよ』
『奇遇ですね。私もモヒカンっぽい頭の幻覚が見えています』
モニターには大型客船に向かう新入生同盟が映し出されていた。
だが、その発言や雰囲気が、可愛い未熟な後輩達ではなく、世紀末からやってきた野郎共に見えてしょうがない。
『しかし、さっきと同じパターンですね。違うのは、攻め受けの立ち位置くらいでしょうか』
『今回は新入生が攻め込む側だからね』
そう言いながら、天乃は手元のキーボードを操作し、再びBGMソフトを立ち上げた。
『やっぱりこれかな…』
『次のBGMですか?』
『そうだよ。今回はこれが良いと思うんだけど、どうかな?』
『え〜と…』
森子は天乃に画面を見せてもらい、その曲名を確認する。
そして、
『立場が逆転……いえ、ピッタリだとは思いますが……』
『今回は彼等に向けた曲だからね。この曲を流せば少しは彼等もカッコよく見えるだろう』
それは集団による一方的な殲滅劇に相応しい曲だった。
だが、今回の場面では曲には相応しくない事がある。
それは、
『殲滅される側が逆……』
序列者の実力を確認した今、これから起こる戦いも同じ結末を辿るのだろうと予感していた。
それは森子だけではなく、観戦者全員が同じ思いである。
『逆でも構わないさ。要は格好が良ければ全て良し。突き進む男達にこの曲を流せば、熟練の戦士達に見える筈さ』
そう言って天乃は、ある曲を再生した。
『乗り物がボートなのが少し残念だけどね』
それは軍用ヘリコプターの編隊飛行を想像させる曲だった。
『ワルキューレの騎行』
ワーグナーのオペラ、『ニーベルングの指環』の第二部第三幕の前奏曲で使用された曲である。
『さて、彼等はこのBGMに相応しい結果を残せるかな?』
「ヒャッハッハッハッ!」
「ところでボス!どうやって船内に乗り込むんですかい?」
「フック付きロープをたくさん持ってきたぁ!これで綱引きみたいに壁を登りやがれぇ!」
「さすがボス!常に先の事を考えてるぅう〜!」
「よせやい!俺はボスとして当然の事をしてるだけだぜぇ!」
「「「「「「ボス〜!」」」」」」
大勢の仲間に熱い眼差しを向けられる先導者がいた。
それは男同士の友情が成した一つの絆だったかもしれない。
雨風で髪をツヤらせ、エンジン音を鳴らし、笑い声が集団で広く響き渡る。
その様々な条件が揃って、とある事象を招いていた。
──集団心理。
人は集団となると思考停止状態に陥り、自分の行動を深く考える事を忘れ、集団に全てを委ねてしまう現象。
それが個人の思考を鈍らせ、勢いだけで突き進んでいたのだ。
故に可能性を考える事もしなかった。
集団で攻め込めば勝てると思っていた。
虐めや暴力において、勝つのは人数が多い方だと認識していた。
人数の多さが全てなのだと、思考を完結させていた。
それが戦闘学に無知で、序列者の恐ろしさを知らない新入生達なのである。
「行くぜぇ!お前らァアアアア!」
それが彼等の失敗だった──
──ッッ!─ッッ!
大きな破裂音が響き渡る。
それを機に全員が慌てて周辺を見回した。
そして見つけたのは、速度を着々と落としていく二台のボートだった。
「おいぃ!どうした?」
「そ、それが…」
青い顔をした仲間が、震えながら見たものを言う。
「エンジンが吹き飛んで…」
「はぁ!?」
「突然エンジンが吹き飛んだんだ!」
「こっちもだ!」
そこにあったのは、木っ端微塵に破裂した剥き出しのエンジン部。
二台ともが同時に起動停止を余儀なくされたのだ。
「原因はなんだぁ!?」
「分から──」
──ッッ!──ッッ!
再び破裂音が響き渡った。
そしてまた、新たに二台のボートが速度を落とし始める。
その理由は誰もが予感していた。
「どうなってるんだぁ!?」
「俺達にも──ッ!?ボス!上です!」
「っ!?」
「な、なんだありゃあ…?」
彼等は自分の見た光景を疑った。
それは彼等にとって、産まれて初めて観測した現象だった。
「鳥……いや、早過ぎて分からない!?なんだあれは!」
そしてそれは、正体を知られないまま、音速を超えた速度で降下した。
読んでくれてありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!
ワーグナーが作曲した『ワルキューレの騎行』を引用しました。
詩織の戦闘場面で使うか迷いましたが、今話の集団で攻め込む場面に使うことにしました!
野蛮に見える野郎集団でも、この曲を流せばカッコよくなります!