第85話、榛名「序列十位と序列九位…………広樹とは今日でお別れみたいですね」
書きあがりましたので投稿します!
昨日も投稿しましたので、確認お願いします!
『それにしても分からないね』
『ん?何が分からないんですか?』
天乃の呟きに森子が疑問を飛ばす。
『あの二人が付き合えた理由だよ。本当なら出会う事すら難しい筈なんだ』
『ええ、それは私も思ってました。だから会見でそれを問い質そうと』
イベント終了後の新たな楽しみ。森子は既に記者心を胸にしていた。
『うん、でも一つ可能性が浮かんだんだ。これは恋愛系によくあるテンプレなんだけど』
『それは…?』
天乃の導き出した思考に、森子は興味を持って聞いた。
『二人をくっつけた第三者がいたのかもしれない。つまりは、二人の関係を応援するお節介役がね』
広い湖に浮かぶ大きな客船。そのウッドデッキの船首には、苦い顔をした広樹と鈴子がいた。
「今話す様な事柄じゃなかったな」
「……うん」
私は失敗した。
人の事を言う前に、自分の事を知るべきだった。
その結果、私は大切な関係を失いそうになった。
「ごめん……広樹」
「気にするな。今は別に悪く思っていない。鈴子も反省したみたいだからな」
初めて会った時と同じ。
優しい広樹が目の前にいる。
だから感じてしまう。
今の私がどれだけ汚れているのかを。
「私は今まで……一人で」
過去を思い出し、言葉を漏らす。
「相手の気持ちを考えられなかった」
今までの生活習慣が築きあげた弊害。
自分の事しか考えられなくなった己の思考を呪う。
「我儘……私はいつから」
「もういいぞ」
頭をポンと叩かれた。
広樹が軽く手の甲で叩いたのだ。
それに私は微涙目で、視線を合わせる。
「後悔している。その思考に辿り着けたのなら無問題だ」
広樹は依然と変わらない。
その優しい顔と声で私を慰める。
「今は一人じゃない。これから学べる機会はいくらでもある」
広樹が親指を己に指して言う。
「出来る限り俺が協力する。嫌な事はさっきみたいに厳しく言うし、良かった事はちゃんと褒める」
広樹は本当に優しい。
誰にも頼らないと言ったあの時と同じで、誰かに優しくする一方の広樹が目の前にいる。
「本当にいいの?」
「お前が本気だったらな」
なんでこんなにも優しくなれるんだろう。
私にはそれが分からなかった。
だから聞いてみたい。
「どうして……優しくなれるの?」
「ん?」
「最低な私を叱って、優しくしてくれる……どうして見放さないの?」
立場がある先生達を除いて、私を見てくれた人間は広樹以外は誰もいない。
だから不思議と聞きたかった。
広樹が優しくいられる理由を。
「私みたいな酷い女をどうして…?」
「俺は最低な男だったんだよ」
広樹は衝突に自分を貶した。
その一言は私にとって驚き、信じられない内容だった。
「少し前に、俺は大きな失敗をしたんだ。この歳になって枕を濡らすくらいにな」
「……泣いたの?」
「ああ泣いた。その夜はイジケ事を呟きながら、自分の失敗を何度も思い出したよ」
「……何を……失敗したの?」
聞いてはいけない事だと思う。
相手の気持ちを考えていない行動だと思う。
でも知りたい。
広樹が優しい理由がそこにあるなら。
「やっちゃいけない事をして、大勢が大怪我をした」
「……」
「俺がその人達にもう一度会うと、色々と問題になったらしい。だから謝れもしなかった……そして失敗をした俺を優しく慰めてくれた奴がいたんだ」
広樹は心の中で、一人の少女を思い浮かべた。
それは自分が迷惑をかけた人物の一人。
「最低な俺を慰めてくれた。今の鈴子は、その時の俺なんだよ」
「私が……広樹」
「俺は慰められて救われた。鈴子はどうだ?」
「私……?」
私は……
もう永遠に友達を作れない、作らないと思っていた。
ずっと自分に嘘をつき続けて、壊れるのを待つだけだと感じていた。
私は鈴子が怖かった。
変われず、変わろうとせず、ただ逃げ続ける鈴子が怖かったんだ。
一日を終える度に、それは段々と大きくなっていた。
もう戻れない。帰れない。
鈴子はずっと堕ちていったんだ。
その現実が、私には辛くて寒くて悲しかった。
でも今は違う。
「私は……嬉しかった」
「だろ」
「何が嬉しかったのかは分からない……多過ぎるよ」
「おかしな答えだな」
「私もそう思う」
私と広樹はお互いに小さく笑った。
どれが嬉しいのかも、良かったのかも、悲しかったのかも、欲しかったのかも分からない。
判断出来ない様々な気持ちが、広樹と初めて会った時から胸に溜まり続けた。
でも、それが結論だったらしょうがない。
しょうがない…
しょうがない…
しょうがない…
しょうがないよね……
「広樹……」
「なんだ?」
「やっぱり私は、私なんだ」
「………ん?すまん、本当に意味が」
「大丈夫だよ。ちゃんと広樹の事を考えるようにするから……」
「だったら謝る事はないぞ。相手を考える事は大切な事だ」
「うん。広樹が大切……でも、まだ自分を優先したい私がいる……ねぇ、どうすればいい?」
「そんな時は自分を優先すればいい。結果的に自分が嬉しくなかったら、それはただの自己満足だ。でもそれで相手に迷惑をかけたら駄目だからな」
「…………うん分かった」
もう迷わない……
「ありがとう」
「どういたしまして……?」
広樹は鈴子の声音に小さな不信感を感じた。
たが、
「ん、雨が降ってきたな」
降り始めた雨によって、その疑問はロウソクの火の如く消えた。
俺は雨が降ってきた事に気付いた。
ここで生まれる選択肢は普通は一つ。
屋根のある船の中に入る事だった。
だが、
「そういえば──」
「雨が嫌なら、私が──」
選択肢は広樹と鈴子の存在によって、二つ追加された。
「私の能力で…」
広樹がまだ知らない鈴子の能力。それは雨問題を解決出来る手段にもなったのだ。
だが、次に広樹が出したのは、
「折り畳み傘が一本あるんだが……でも屋根の下に入れば解決す──」
「使う」
言いかけた事を黙り、鈴子は己の欲望に従った。
「出しておいてなんだけど、船の中に入れば解決だぞ。それに一本しかないから狭いし」
「大丈夫。それに船の中の空気は汚れていたから駄目。蜘蛛の巣もあった」
それはこの客船に来た時に気づいた事だ。
何かの実験に用いる為に設置された船だったらしいが、今はあまり手入れもされておらず、浮かぶだけの動かない鉄の塊になっている。
故に中身はボロボロだった。
「じゃあ入るか?」
「うん」
「ちなみにさっき何か言いかけてなかったか?」
「なんでもないよ」
能力を棚に上げて、鈴子は傘を優先した。
黒色の折り畳み傘が広げられる。
どこから見ても普通の傘。
その傘を見て、鈴子は小さく疑問を浮かべる。
「どうして傘を持って来たの?」
「これは普通の傘じゃないんだ」
「普通じゃないの?」
「色々とあって、結果的に無料で貰った武器なんだ」
「武器?」
「見えないだろ」
鈴子が疑問を抱く瞳を向けるのもしょうがない。
榛名の製作した武器は、おもちゃと日常道具と大差が無い。
銃弾が飛び出る傘とは、夢にも思わないだろう。
「まぁ、傘だけが武器らしい見た目をしてないからな。他はちゃんとしてるのに…」
榛名から買い取ったもう一つの武器。
博士から貰った自信作の武器。
その両方は、ちゃんとした武器の形をしていた。
そしてそれは、イベントで無料配布されたトランクケースに収納されている。
「使うのが楽しみだ」
「…………」
「なぁ鈴子……」
その瞳色で何を考えているのかが簡単に分かった。
「羨ましそうに見るのはやめてくれないか」
「…………駄目?」
「それは使いたい、と捉えていいのか?」
「うん」
ケースの中の武器については、鈴子に説明を事前にしていた。
鈴子はその機能に惹かれたのだ。
「まぁ……そうだな……」
否定をせず、言葉を詰まらせる。
今は何となく、鈴子に甘い気持ちがあった。
説教を受け入れて、微涙を流して反省をした。
そんな少女に一度優しくなりたいと思ったのだ。
「交代で使うのはどうだ?」
その提案に、鈴子は首を強く縦に振った。
「じゃあ決まりだ。じゃあ必要な時に使ってくれ」
鈴子の欲求を叶え、広樹はやや口端を吊り上げる。
やがて自然と会話は止まり、雨音だけが流れた。
「なぁ鈴子、今日の天気って──」
『雨降る空、開かれた傘、そして中に入った二人の影──条件は揃いました!特別機能を起動します!』
「「え?」」
声がハモる。
どこかで聞いた事のある声が、雨音と共に耳に聞こえたのだ。
やがてその声元は、手に持っている物なのだと理解する。
「この傘か」
『たぶん広樹はこう言いますね!『この傘か』って!では答えます!はい!この傘ですよ!』
どこからツッコめばいいのか分からない。
予感はあったが、まさか折り畳み傘に声を発する機能が付けられるとは思わなかった。
言葉の内容からして、録音されていた声なのだと分かる。
てか、どうやってあの短時間でここまで仕組めたのかが分からなかった。
『では!相合い傘をしている二人の為に!私が一曲歌わせていただきます!』
「なぁ鈴子、この傘を閉じても──」
『あ、閉じても歌い続けますよ〜』
俺の思考を先読みしやがったよこの傘。
録音されているデータなのに、何から何まで予想されている気がしてならない。
『では聞いてください!』
傘からメロディーが流れ始める。
ここから榛名がカラオケみたいに歌うんだろう。
改めて自分が持っている物の正体が分からなくなった。
『嗚呼〜、アイラァビュウゥ〜、アイラァビュウゥ〜──』
ラブソングっぽい歌詞が流れる。
本人とは似つかわしくない甘々しい声が紡がれる。
本当に何を考えているのか分からない。
なぁ榛名…
どうしてこの傘にこんな機能を増やしたんだ…
『確定的な証拠が出たね』
『ええ出ました。完全な物的証拠が。この映像を視聴した観戦者全員が証人です』
天乃と森子が真剣な顔つきで語る。
モニターに映るのは、仲睦まじく相合い傘をする二人の男女。
そして響き渡るのは、甘々しい愛の歌だった。
『第三者の存在。あの二人を親密な間柄にした立役者がいた』
『凄いサポートですね。武器を用意しただけではなく、二人の仲を更に深めようと考えた追加機能』
『傘型の武器、今日の天候、二人の居場所、二人が組む事、二人の関係。第三者である彼女は全てを知った上で計算し、この舞台を創り上げた』
何処かのVIPルームにいる少女のお株が、尋常ならない速度で急上昇。
天乃と森子の真剣な態度はスタジアム中に伝播し、観戦者のほとんどがその傘から紡ぐれる『愛歌』に集中する。
今回の件、点と点になっていた謎が一つに繋がり、誰もが掴みたかった答えに辿り着いたのだ。
『つまり!あの愛歌を歌ってる第三者こそが!二人の恋仲を築いた、恋のキューピットだったんだ!!』
天乃は高らかにそう叫んだ。
読んでくれてありがとうございました!
これからもよろしくお願いします!




