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第84話、榛名「あのシーンの再現だけは見たくないですね」博士「君の見ている朝ドラの事かい？」榛名「はい。そして最後は残酷なバットエンドに……私は高みの見物で良かったです」

書きあがったので投稿します！

これからもよろしくお願いします！

鈴子が俺の娯楽を責めるなら、俺も鈴子に本音を言ってやる。

「俺の目元がどうしてこうなったか分かるだろ？」

「うっ……」

そうだ。この目の隈が出来た理由は他ならない。鈴子が原因だった。

昨日の夜、一回クリア限りでのゲームに付き合った。一度クリアすれば終わりだと、軽い気持ちで承諾して鈴子とパーティーを組んで戦った。

だが……

俺は静かな怒りを声音に宿して、目尻を下げた鈴子に説教を開始する。

「激し過ぎだ。ちゃんと俺の息に合わせてくれ。じゃないとずっと終わらなかったぞ」

「う……」

チームプレイ専用でのボス討伐クエスト。

それはプレイヤー同士の息が合わなければ、一生クリアする事が出来ない、超難易度クエストだった。

「ただ早くすればとか単純な考えじゃない。激し過ぎるのも以（もっ）ての外（ほか）だ」

「うぅ……」

ソロプレイとチームプレイは違う。お互いの動きが合わなければ、それはただのソロプレイと変わらない。そのクエストは、そんなプレイを跳ね返す様に設定されていた。

「何度注意しても直してくれない。ただ自分が満足すればいいだけ」

「ち、違う」

鈴子のソロプレイ歴は長かった。だからこそ、お互いが満足する結果が見えず、一人だけが満足する結果となっていた。

「違わない。俺は苦しくて痛かったぞ。それはお前が自分勝手に激しくしたからだろ」

「で、でも」

本当に痛い目にあった。俺が近距離で戦っているのにも関わらず、手榴弾をポイポイ投げてきた。完全なパーティーキラーだ。

「確かに経験が浅いのは分かるよ。てか、俺の初めての相手がお前で、お前の初めてが俺だった。最初は俺も下手で、お前も下手だった。でも数回もやれば気づくだろ。何故か俺だけが痛い事になってるという事に」

「ぅ……」

俺はいつも組む様なフレンドはいなかった。フィールドで適当な戦いに参戦したり、たまに誘われて一緒にに戦うスタイルを持っていた。

だから、二度三度四度と続けてパーティーを組んだのは、鈴子が初めてだった。

そして二度三度四度と殺されかけた。

あれ、おかしくない？

「もう俺の中の色々が限界だ。お前もついていけない俺に不安があるだろ？」

ここまで息の合わない相手はそうはいない。

だから結論をはっきり言おう。

「相性が悪かったんだ……もうやめないか。お互いの為に」

「っ！？」

顔から血の気を失う鈴子。

それは彼女が広樹から最も言われたくなかった一言だった。

「だから」

「も、もっと優しくするから」

「いや、それだとお前が満足できないだろ」

「広樹が満足すれば私も満足する…」

「それは我慢だ」

「我慢なんてしてないっ。私は広樹としたい…」

「鈴子……」

「お願いだから……」

少女の名前を呼ぶ。

本気の瞳をする鈴子は、僅かに肩を震わせている。

それを無視する選択しは、広樹には持っていなかった。

「俺は、お前を満足させられない男だぞ」

「私も広樹を満足させられない女だよ。だから──」

一歩踏み出し、瞳を大きく開く鈴子。

「見つけさせて──広樹の満足を」

『もうきゃぁぁあああああああああ！！』

『落ち着いて森子ちゃん！！会話だけで判断するのはまだ早いよ！！』

『黒ですよ！もう真っ黒です！弁論の余地なんてありませんよ！相性の不一致とか別れるあるあるですよ！！』

実況席が、スタジアムが、戦闘学が熱狂の嵐となっていた。

多重能力者（イレギュラー）と序列九位（じょれつしゃ）の関係事情が生放送で口外されたのだ。

当然それは、生徒だけではなく教職関係者も口を開けた。

『そして信じたくもないです！だってまだ一年生ですよ早過ぎます！一年生で保健体育の実技授業は駄目です！！』

『みんな聞いてるんだから言葉を抑えようか森子ちゃん！確かに早過ぎるけど、不純異性交遊かもしれないけど！激しい関係にあるけれど！昨日の夜に相手を寝かさないほど激しくした鈴子ちゃんの欲望に驚きだけど！』

『キャァアアアア！天乃さん何言ってるんですか！？そんな事を堂々と言っちゃったら駄目ですよ！！天乃さんも自重してください！！』

実況席の二人の白熱トーク。

その話題性と驚愕性は観戦者の心を掴み、二人の白熱はスタジアム中、戦闘学中に伝播した。

序列九位と多重能力者のカップル関係。

繰り返された激しいアレコレ。

戦闘学生徒の中でも、最上位の実力者と分類される二人に淫らな関係があった事実。

そのニュースに誰もが心をいろんな意味で熱くした。

『これは緊急会見ですね！イベント終了後に会見しましょう！記者の一役になって色々と聞いてみたいです！！』

『確かに聞きたい！僕も記者役をやろうかな！数台のカメラも準備して、実際にあるような舞台（セット）を作ろうかな！』

『是非やりましょう！二人の関係を洗いざらい吐かせましょう！！そして祝福してあげましょう！！』

『だね！祝いの花束の準備もしよう！持ち上げられないくらいのどデカイ花束を！！』

天乃が端末を使って、何処かへメッセージを送る。

イベント終了後には全てが整（ととの）い、二人の関係は大々的に暴露されると、天乃の行動が森子にはそう見えた。

『それにしても、やっぱり驚きですね……』

『ん？何がだい？』

森子の独り言に、天乃が反応する。

『鈴子さんが広樹さんと付き合えた事にですよ。色々と障害があった筈です。主に鈴子さんの方にですが……』

『あぁ〜、確かにそうだね』

『前々から気になってたんですが、どうして鈴子さんは引きこもる様に？……色々と噂はありましたが、本当の理由が未だ不明なんですけど』

森子の疑問は戦闘学の大体の生徒が持っていた疑問だった。

序列九位は授業と任務に参加せず、研究に協力する時以外は自宅にいる。

結論として、引きこもりと揶揄される少女だったのだ。

それは戦闘学中の生徒が認知している事であり、それだけ謎も深かった。

『どうして鈴子さんは、引きこもったんですか？』

序列二位の彼ならもしかしたら知っていると、森子は隣の好青年に質問を投げかける。

それに天乃は微笑みを持って答えた。

『詳しくは言えないね。そして事実は複雑なんだ。彼女が家に閉じこもった理由はね』

笑みに似合わない重々しい声が出た。

その声音が鈴子の訳の重さを知らしめる。

『でも、色々と悪い噂があったからね。虐めとか、事件を起こしたとか』

それは鈴子にあった数少ない噂の数々。

天乃はそれを訂正しようと考えた。

『あの娘（こ）は何も悪い事はしてないし、虐めや事件もなかった。……詳しくは言えないけど、一言でヒントを言うなら……』

それは序列九位の過去の一端。

『耐えられなくなったんだ』

天乃の言葉に、森子を含めて聞いた者達の目は丸くなる。

──序列九位は何かに耐えられなくなった。

その答えに、新たな思考の渦が回った。

『はい！暗い話は終了！後は各自で考えてね！』

『は、はい！ありがとうございます！天乃さん！』

森子の中で、これ以上は聞いてはならないと心に過（よぎ）る。

その感に従い、少女は追求をやめた。

『とりあえず、イベントが終わったら祝いたいね。カップル成立の事もあるけど、鈴子ちゃんが積極的に外に出られた事にも』

研究以外で外に出られた事。

大勢が集まるイベントに参加した事。

同年代の異性と会話が出来ている事。

以前のデートと、今モニターに映っている結果が、内守谷鈴子の引きこもりからの改善が見えた。

それは天乃にとって、祝い事に等しい。

『祝いのメッセージビデオでも作ろうかな』

『メッセージビデオですか？』

『鈴子ちゃんは多くの教職員から気にかけられていた生徒だからね。その彼女が今やイベントに参加して、特定の相手も出来た。だから何か祝いのメッセージを成長したあの娘に贈りたいと思ったんだ』

天乃の言葉は一部の教職員の心を動かす。

それは引きこもっていた鈴子を心配していた者達だ。

本来教職員がその本懐を遂げなければならなかったが、結果的な理由も分からないまま、鈴子は外に出られた。

それに祝いの言葉を伝えたいと思う大人達がたくさんいたのだ。

『はい！イベント終了直後にメッセージビデオを鈴子ちゃんに見せるので、彼女に言葉を贈りたい教職員関係者は、お手持ちの端末でメッセージ動画を撮ってね！』

天乃はキーボードを操作し、使い捨てアドレスをモニターの下に表示する。

『長いのは時間的に難しいから、『拍手しながら、おめでとう』のみで作ろうと思います！皆さんのおめでとう動画を僕が選んだBGMを合わせて編集するので、是非このアドレスに送信してね！』

その言葉によって、一部の教職員がそれぞれで動いた。

近くにいた者に頼んで、拍手しながら、おめでとうを言う自分を撮ってもらう。

その結果、次々と天乃のアドレスに動画が届いた。

『これは良い動画が作れそうだ』

「広樹が遠くに行ってしまった気がします」

「これは予想外だねぇ。まさかあの二人が」

VIPルームにいる榛名と博士は、お互いに今知った事実に心を奪われていた。

部屋にいる他の教職員関係者も同じだ。

「今気になってる事があるんですよ」

「ん、それは？」

「どちらが告ったかです」

榛名の中で強い警告信号が響いていた。

鈴子と広樹と詩織の関係が、記憶を底から一つの物語（ドラマ）を引き上げていたのだ。

「もし序列九位の方から告ってたら、あの物語とそっくりに…」

「物語？」

「策略的な甘え上手ヒロイン……」

鈴子がもしそうなら、これは榛名から見れば寝取りである。

そして誰から寝取ったのかは明白だ。

「詩織が奪われた側に……」

本当にマズイ。シャレにならない。ほぼそっくりだ。

実況者の声は戦場（ステージ）には聞こえていなかったが、知られるのは時間の問題。

早ければ、それは数十分後に知られる。

彼女達の対面は必然。

移動する序列者と待ち構える序列者。

あの二人を倒せる者は、敵側には誰もいない。

「最悪は血飛沫沙汰（バッドエンド）」

悟った意思を瞳に宿し、榛名はただ祈る事しか出来なかった。

──最も危ない目に遭う、主人公（ひろき）の無事を……

「葉月……」

葉月は何も語ろうとしなかった。

いつもと変わらない雰囲気がそこにある。

だが、さやかには分かった。

少女の中で何が起こっているのかを。

「葉月……」

ただ呼ぶことしか出来ない従者。少女は依然と沈黙し続ける。

だが、今はそれしか出来ない。

今の葉月を放っておけば、恐ろしい事になると分かっていたからだ。

「葉月……」

他者に聞かれぬ様、さやかは葉月の耳元で囁き続ける。

「今だけは……」

周囲の為に、葉月の為に。

間違えれば全てが終わるのだと、さやかは強く懇願し続けた。

読んでくれてありがとうございます！

前話の前書きで「ガッカリされる内容」について言いましたが、「広樹が最後に言った言葉」で心配していました。

「寝かせてくれなかった」と言ったことによって、読んでくれる人たちに、広樹と鈴子が（性的な）深い関係を作ったと勘違いさせてしまうと懸念していました。

私の書く作品では、（性的な）関係はあまり書きたくなく、笑えるコメディー系アクション作品を目指していくつもりで書いています。

なので、色々と心配な気持ちがありました。

でも！多くの読者の方から感想コメントをもらい、心が晴れました！悪い勘違いがなさそうで良かったです！

前話で今話を読むように進めたのも、この話で広樹と鈴子の仲の誤解を解くつもりだったのですが、問題なかったみたいです！

いつも読んでくれてありがとうございます！

今後も面白い展開を考えて書いていきますので！どうからこれからも読みに来てください！