第79話、博士「そうかぁ、いや気にしなくてもいいよぉ。そんなに自分を責めないでくれぇ。そうだねぇ、じゃあ今度一緒に外食するのはどうだい?」
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「あのマスクは君の作品かい?」
「そうですよ〜。後輩を恐怖のどん底に突き落とす様な、そんな頭蓋を希望してたので〜」
「ホラー映画さながらの恐怖シーンだねぇ」
そこは豪華な椅子が並び、ソファー、テーブル、冷蔵庫など、高級感に溢れている。
特別な関係者しか入れない場所、VIPルーム。
窓から観客席を見下ろせる場所に設置されている部屋である。
「それにしても、詩織が任務でイベントに参加してたなんて、私は知りませんでしたよ〜」
「教職員と一部関係者以外には秘密だったんだぁ。君に話せたのは今回の功績があったからこそだねぇ」
三人用のソファーには、ワイシャツを着崩し、ダラァ〜と寝そべる少女。
そのソファーの横に立つのは、言葉の語尾に癖を持った長髪白衣の男性。
緑川榛名と博士がそこにいた。
二人の他にも、教職員やイベントの準備に携わった者など、累々の人間がそこで椅子に座ってイベントを観戦している。
その中にいるのにも関わらず、榛名は礼儀を意識しないで、広いソファーで寝転んでいた。
彼女は、いつも通りの日常姿勢。
日常会話をするように、博士に口を開く。
「序列十位の実力を新入生に見せつけて、思春期あるあるな行動を抑止する。──戦闘学も大変ですね〜」
それが詩織の参加理由だ。
新入生の多くは、まだ現実を知らない未教育生。
そんな彼らが戦闘力を手にしたらどうなる?
「僕は強い!僕には力がある!僕は誰よりも優れてるんだ!はははは!僕に勝てる奴なんて誰もいない!全員僕の言いなりだ!……プゥっ!笑えますね〜」
演劇さながらの台詞を吐き、最後に笑いを吹く。
遠い過去にそれをやった生徒がいたのだ。
彼は自分の力に溺愛し、それを自分の欲望を満たす為に使用した。
「そんな彼らが最後に求めるのは何か。答えは『最強』。故に最後に狙われるのは──」
「序列者だねぇ」
博士が結論を唱える。
つまりは序列者の実力によって、反抗出来ないほどの強い恐怖心を植え付ける。
自信に溺れないようにするための『調教』。
それが戦闘学の目的だった。
「詩織ちゃんがいい感じに恐怖を植え付けたからぁ、今年も反抗する生徒は現れなくて済みそうだねぇ」
「でもいいんですか?あそこまで怖がらせたら──」
「学園を辞める生徒が現れる……それも計算の内だよぉ」
その程度で心を折る生徒は、戦闘学にいるよりも一般の学校に戻った方が良い。
才能があったとしても、中身に問題があれば手放す。
それが日本支部の方針だ。
「僕の予想だとねぇ。あのビルにいる半分の生徒は出ていくんじゃないかなぁ」
「半分…勿体無いですね」
「反抗されるよりはいいよぉ。それぐらい、戦闘力者は恐ろしいからねぇ」
過去のとある出来事で、戦闘力を持った大人が大きく減少。それにより、暴走する生徒を抑え込める大人が不足。
だからこそ、今回のイベントは重要視されていたのだ。
「今年も平和に過ごせそうだねぇ〜」
「ジジ臭いですよ」
のんびりな声を上げる博士に、榛名はゴロォとしながら、その顔を見上げる。
「私も戦闘力が欲しかったな〜」
「欲しいと思って手に入るものではないからねぇ」
「ほ〜し〜い〜!博士も〜ん!戦闘力者になれる道具だして〜!」
「私をどこかの誰かと重ねないでくれぇ。そのキャラは君の方がお似合いだよぉ」
榛名と博士の関係は、親子と変わりのない雰囲気がある。
この部屋にいる教師の目が、和やかな光景を見るものへとなっていた。
「相変わらず仲がいいですね」
「あぁすいません、恥ずかしいところをお見せしましてぇ」
「いえ、和やかでいいじゃないですか」
榛名のソファーの隣。高級感あるシート椅子に座る教職員から、笑顔を向けられた博士と榛名。
「私と博士の間には、人には言えない嬉し恥ずかしい関係があるんですよ〜」
「ぇ!?」
「いつもの冗談なのでぇ、気にしないで下さい」
「は、はい。まぁそうですよね。年齢差もありますし。そして何より、博士は既に」
「ええぇ、結婚して妻がおります」
年齢がそこそこの博士には、既に伴侶となった女性がいた。
それは博士を知る戦闘学関係者なら、誰もが周知している事である。
「連れてこようと思ったのですがぁ、都合が合わず…」
「それは、残念でしたね…」
妻をここに連れて来たかった。そんな気持ちがある中で、代わりみたいな存在が今隣にいる。
「モグモグ…」
ソファーでゴロォーとし、行儀悪くポテチを食べる榛名。
その態度に博士は呆れてため息を吐き出す。
「もう一度言うけどねぇ。ちゃんと座ってくれないかい?周りが許してるけどぉ、私は──」
「モグ…。私はお疲れモードなので〜す。イベントの為に不眠不休で頑張ったんですよ〜。これぐらいは許してください〜」
「はぁ、君って娘は…」
榛名がこの場で観戦出来た理由。
それは彼女が今回のイベントに使われている擬似塊の開発者だったからだ。
そのおかげでイベントは難なく開く事が出来た。
「いやぁ〜、試験も免除されて、VIPルームで優雅に観戦。もう天国ですね〜」
朗らか笑顔で榛名は博士を見上げて言う。
その表情には『やりきった感』が見え、認めるしか他なかった。
「……今思い出したけどぉ」
「ん?何をですか?」
「詩織ちゃんが持っている双方の黒銃」
スタジアムに設置してある巨大モニター。そこに映し出されている詩織の武器に、博士は気付いた事を伝える。
「あれだったらぁ、試験に難なく合格してたと思うよぉ」
「…………」
「なんでエクスカリバーなんて提出しようと思ったんだい?」
「…………だって、カッコいいじゃないですか……」
頬を膨らませる榛名。
それは自分のワガママを貫こうとした子供の顔だった。
だが、それは現実として叶わず、博士が止める形になったのだ。
「趣味で作るのは許すけどぉ、公的な場所ではやめなさい」
「…………」
「返事は?」
「…………いつか認めさせてやるっ」
「諦めなさい」
諦めの悪い教え子に、博士は師匠として説得する。
時間は進み、詩織が巨大ホールで暴れている様子がモニターに映し出された。
「みんな涙目ですね〜」
「君の製作したマスクが大きな原因だと思うよぉ。あれはかなりの恐怖心を擽ぐるからねぇ」
薄暗いホールで紅い瞳を光らせながらの高速機動。
人体強化を使える人間の中でも、厳しい鍛錬と才覚が無ければ、あそこまでの領域にはならなかっただろう。
あの場所で詩織よりも強い者は存在しない。
詩織の絶対強者としての立ち回りがそう幻想した。
「んっ〜〜っと。トイレにでも行きましょうかね。もうこの辺の先は予想が出来ます」
両手を絡ませて背伸びをし、榛名はモニターから視線を外す。
この先は詩織による処刑タイムなのだと知っていた。
「博士はどうします?」
「僕はもう少し観ているよぉ。詩織ちゃんの生映像の戦いは滅多に観れるものじゃないからねぇ」
「訓練記録がありますよ」
「任務としての精神で戦っている。だからこそ目が離せないんだぁ。訓練に現れない何かを、詩織ちゃんは起こすかもしれないんだからぁ」
「…………」
「君はそれに期待しているんだろう。詩織ちゃんについては、君の方が詳しく理解していると思うからねぇ」
博士は長髪の隙間から、榛名の瞳を視線で射抜く。
「きっと何かが起こる。今回のイベントにはイレギュラー要因が存在するからねぇ」
それはイベントの開会式。その最後に登場した二人の参加者の事だった。
「広樹くんが参加するのは知っていたけどぉ、まさか鈴子ちゃんと組んでいたとはねぇ」
「…………」
「聞いていたかい?」
「……知ってたら話してますよ。特に序列九位の存在は」
榛名は真剣な表情を作って、ソファーの上で姿勢を正す。
「私は広樹の味方でもありますが、一番は詩織です。だからこそ、それを知っていたら詩織に真っ先に教えていました」
詩織から献上される賞品は関係無く、榛名は純粋な気持ちで詩織の味方になっていた。
だからこそ、心を苦しくさせていた。
「広樹から注文された品々……あれが全て第九位の希望した物だった……」
今になってはもう遅い。
広樹に渡した数々の武装は、普通の参加者が持つ物ではない。
名前を聞いておけば、注文を断る事はしなくても、詩織に忠告だけは出来たかもしれなかった。
詩織と広樹の再戦を楽しみにしていた筈が、序列十位と序列九位の戦争が起こる可能性が現れた。
それは即ち、
「災害……」
戦闘学に存在する暗黙の禁忌が起ころうとしている。
序列を承った者達同士の戦いは、教職員全員が恐怖するものだと聞いていた。
それが起こるかもしれないんだ。
だからこそ、心のどこかで恐怖する。
「……博士。さっき言ってましたよね。詩織が何かを起こすって」
「ああぁ、言ったねぇ」
「私はマズイ事をしたかもしれません…」
それは過ちだったかもしれない。
「私は詩織に…パンドラの箱となる武器を渡しました。それはきっと、詩織が何かを起こす引き金になるかもしれません」
「パンドラの箱……厄災が詰まった箱……君はいったい彼女に何を渡したんだい?」
「……それは──」
間を置いて、榛名は博士に眼をやり、過去の事実を伝えようとする。
だが、
『──ッ!?』
突如と部屋の空気が変貌する。
それは周囲に居座っていた教職員関係者の空気がそうさせた。
榛名と博士は、詩織の話で周りをよく見えていなかった。
故に一歩遅れて、それに気づいたのだ。
「どうして貴女が…」
凍りついた空間の中で、誰かが言ったその言葉は、この場の誰もが抱いた質問だった。
それは本来この場に現れる人ではなかったからだ。
「…………」
それは何も答えない。
それは薄い空色をした白髪を揺らして、ゆっくりとシート椅子に座った。
そして、その隣には黒スーツを着たスレンダー女性が付き添う。
「私達も観戦目的なので、どうか気にせずにお願いします」
付き添う女性が笑顔で言い放つ。
だが、その言葉を容易く受け取れる思考は、この場の誰にも持っていなかった。
それは本来、この場に現れる存在ではない。
誰も想像し得なかった光景がそこにあった。
「葉月、飲み物は要りますか?」
「…………アップル」
「すぐに用意しますね」
そこにいたのは戦闘学日本支部が誇る頂点──
──序列第一位。
白姫葉月がそこに座っていた。
これからもよろしくお願いします!