第72話、榛名「捨てる物なのに捨てられないんですよ!」
投稿が遅れてごめんなさい!
書きあがりました!
これからもどうかよろしくお願いします!
「ラ〜ラ〜ラ〜ララ、ラ、ラ、ラ、ラァ〜」
場所は施設の地下、『緑川榛名・専用保管庫兼開発室』と付けられた扉の奥からは、麗しい少女の歌声が響いていた。
「ファー!」
「何やってるの?」
声色が盛り上がった瞬間、その背後から放たれた質問の声に少女は動きを止める。少女が振り返ると、そこには訝しげな瞳をした広樹が立っていた。
「注文された弾丸を作ってるんですよ」
「作ってる?……なんか違わないか?」
広樹の瞳にはエプロンと三角巾を着た榛名が写っていた。更にその両手にはアルミ製のボウルと泡立て器があり、歌いながら何かをかき混ぜていたのだ。
「どう見ても、お菓子を作っている女子にしか見えない」
「素人目線だからですよ。これでもかなりのプロ作業を行なっているんです。濃度、温度、泡度、混ぜ速度、その他諸々も含めて」
そう言いながら榛名はかき混ぜ作業を再開させる。
「本当は特殊な装置を使わないと不可能な作業なんですが、私だったら料理道具で可能なんです」
「…………ヤバくね?完全に別の何かが生まれようとしてるよね」
「大丈夫です大丈夫です!まぁ見ていてくださいよ!もう大詰めなので!」
作業台に置かれた空の四角い容器に、ボウルの中身をヘラを使って流し込む。そして容器を数回作業台に打ち付けて、大きな装置に入れた。
「…………これ、電子レンジだろ」
暗めのある黄色い光が開け口から見えていた。ブーーンと音を鳴らしながら、装置に付いたダイヤルはゆっくりと回転、それはまごう事なく電子レンジのソレだった。
広樹が疑いの眼差しで不安の声を呟く中、榛名は台車を押して部屋を歩き回り、棚や溝に置いてある箱を開けては、中身を取り出して台車に乗せて行く。
電子レンジらしき装置が動き続ける最中に、榛名は広樹に頼まれていたもう一つの仕事にも取り掛かっていたのだ。
「これで終わりですね」
そう声を漏らした榛名は、広樹の近くにある作業台に台車を寄せる。
「今渡せる物はこれで全部です。少し特殊な物も注文にあったので、それは後日に配送でも大丈夫ですか?」
「たぶん大丈夫だ。支払い先の口座番号を教えてくれ」
「はい!」
榛名は開いたタブレット端末を広樹に見せる。そこに書かれた情報を広樹がスマホに打ち込み、それをここにはいない一人の少女に送信した。
「すぐに振り込まれるはずだ」
「注文した品々から予想はしていましたが、やっぱり広樹の買い物じゃないんですね」
「俺のチームメンバーのだよ。たった一人だけどな」
その返事に納得の色を顔に出した榛名は、台車に乗せられた品々を専用のケースにしまい込みながら、ある事を思い浮かべていた。
「装備からは人の性格が見えるんですよ。だから分かるんです」
摘まみ取った品をチラつかせて言う。
「これらを注文した人は、かなり危ないです」
「危ない?」
「そのチームの方は、性格や考え方が変わった持ち主だったりしませんか?」
「……」
榛名の言葉に同意だと無言になり、広樹は頭を掻きながら今回の注文を頼んだ少女の事を思い出す。
ネトゲ廃人、それが少女に相応しい言葉だった。その少女は外出をなるべく控えたく、広樹に頼み込んで装備の調達をしてもらっていた。その結果が今の現状に行き着いたのだ。
「予想より多いな、全部俺の住所に送ってくれるか?」
用意された品々を見て、持ち帰りきれないと判断した。広樹がその頼みを口にすると、榛名はすぐに疑問を浮かべる。
「チームの方の住所にではなくて?」
「名前と住所を知られたくないんだってよ」
「変わった方ですね。どうせイベント当日になれば分かっちゃうのに」
ケースの蓋を閉めると、薄笑いをする榛名は専用の用紙を広樹に手渡した。
「これに名前と住所を書いてください」
言われた通り書き込み、榛名はそれを確認する。そして用紙を専用のファイルに入れた頃、電子レンジらしき装置から『チーン』と音が鳴った。
「……電子レンジだよな「に似た装置です」」
言葉を被せながら装置の開け口を開き、中に入っていた四角い容器を取り出す。
「ほら、湯気も出てなければ、熱くもないでしょ」
榛名の言ったように、その容器からは見た限り熱さが感じられず、電子レンジに入っていたとは思えない結果があった。
作業台に四角い容器を打ち付け、ポンっと中身が外に飛び出る。出てきたのは黒い立体四角形の塊。次はそれをまた別の機械に入れた。
「…………なんて言ったかな」
機械に取り付けられているモニターには、弾丸の図が映し出されており、それがどんな機械なのかが予想出来た。
「確か、中で削ったりする装置……」
「立体模型製作プリンターじゃないですか?」
「それだ」
「まあ、大体似た様な装置ですから」
操作盤に指示情報を打ち込むと、中身が見えないその装置は動き出し、作業が始まったのだと意識した。
「三分で終わります」
「三分クッキングだな」
「カップ麺並みの早さです」
自慢げに言う榛名の横で、広樹は背後に振り返り、明るい光で照らされた部屋全体を見渡した。
「なあ、ここにあるのって全部」
「私が作った諸々ですよ。在庫と試作品も含めてほとんどがここにあります」
榛名がそう言うと、広樹はゆっくりと部屋を歩き始めた。その背後を榛名はついて行く。そして『ん?』と呟いて、広樹は一つの武器に手を置く。
「なぁ榛名、この『絶対に捨てない!』って札が付いたこれは……」
「あ…あは、いや〜それは少し考えが甘かったと言うか…」
瞳を泳がせながら煮え切らない言葉を呟く榛名。苦笑いで頬をぽりぽり掻きながら、その武器に触れて答えた。
「今回のイベント用に製作した武器なんですけどね……使用する場面がほとんど皆無なんですよ……でも廃棄するのも惜しくて」
「皆無?なんか凄そうに見えるんだが」
「今回のイベントはビルや森など、隠れられる場所が結構多いんですよ。だから『ピーピーピー』出来上がりました」
部屋に鳴り響いた機械音に、榛名は言葉を切って説明を止める。白い煙が立ち込める開け口に両手を突っ込み、鉄製のトレーを取り出した。そして、
「はい!完成で「ちょっと待て」」
うん、まずは突っ込ませて。
「本当に早過ぎだろ」
「三分で出来るって言いましたよ」
確かに言っていた。うん分かるよ。言葉の意味もちゃんと理解していた。でも本当に早過ぎるんだよ。
だって、
「箱詰めされた状態で出てくるとは思わなかったよ」
パッケージングされたアルミ製の箱がトレーの上に置かれていたのだ。弾丸そのものが出てくると思っていたが、既に手渡せる状態で出てきた。その結果は到底想像もつかなかった。
「私が製作した装置ですよ。それぐらいの機能はちゃんと付けます」
「天才なのか馬鹿なのか、この言葉にピッタリだよお前」
博士が呟いていた言葉を、次は広樹が呟く結果となった。
「天才ですか……でも、あの武器に関して言えば、天才の美名は返上ですね」
「馬鹿とも言ったぞ」
広樹が小さく訂正する中、少女は部屋の隅にある武器を眺めながら苦笑いを浮かべた。それは先ほどまで説明していた武器。
「細かく精密な製作作業だったので、本当に破棄するのが惜しいんですよ……」
「使用者に危険は無いのか?」
「これは見た目通りの遠距離型です。使用方法を守れば危険なんてありませんよ」
移動し、両手に持ったソレを見ながら説明をする。
「この中にあるーーーー」
「ーーな訳です。あぁ〜本当に勿体無いです。広樹〜これ買ってくれませんか?イベントで使ってくれるなら九割引きでご提供しますよ」
その武器が使われる瞬間を見たい榛名は、値下げした価格を広樹に提示した。
そして広樹は、
「……………………買おうか」
榛名の説明に魅力を感じた広樹は、製作者の危険度よりもその武器への好奇心が勝り、小さくそう声に漏らしていた。
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次回はついに!