第66話、鈴子(危なかったっ…危うく能力で広樹を)
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「お前はラッパーでも目指すのか?…」
「偶然だよ」
野球帽とサングラスを着けた上に、中二病デザインのパーカーを着用。
完全に歌を仕事にする人のファッションになっていた。
「それは無しだ。どこから見てもアウト」
そう言って帽子とサングラスを取り上げる。
「俺はレディースに疎いからな」
本当に分からない。だって女の子じゃないし。
「鈴子は」
「ファッションゲームをやった覚えは無いよ」
言う前に答えた鈴子は、深々とフードで顔を隠す。
いい加減にソレを脱いでもらわないと、本当に目立ってしょうがない。
「どんなのが着たい?」
「顔を隠せて、薄着がいい。Agilityで」
さりげなくゲーム用語が入っている事を思いながら、要望を理解する。
顔を隠す。薄着。Agility。
その条件に合う服装を思い浮かべながら、フードで顔を隠した鈴子を見つめた。
「白シャツと黒デニムスカートでいいんじゃないか?それと麦わらハットと伊達眼鏡で顔も隠せば…」
「……それって、広樹の好み?」
「……」
あれ、鈴子の瞳から鋭い光が見えるんだけど、それは気のせいかな?
確かに露出が少しある衣類を選んだよ。でも、それはAgility、つまり動きやすさを考えた結果だからしょうがないよね。
……何を答えろと?
「好みじゃない」
漫画と同じ事を言おう。
「好みじゃなくて、鈴子に似合うと思って選んだ」
「…………」
その答えに鈴子は黙り込んだ。
……無言は怖い。フードで表情が見えないから余計に怖い。
言った後に感じたけど、痛すぎるっ。
アレ、鈴子さん震えてない?
フードをぷるぷるさせて震えてるね。
え、笑ってるの?
「こっ……これにっ…するっ」
泣いていいですか?
「灯花ちゃ〜ん。今の鈴子ちゃんの表情はどうなってると思う〜?」
「どうして私に聞くんですか?」
「同じ女の子だしね〜、気持ち的に分かると思うからだよ〜」
広樹と鈴子から離れた位置にあるマネキン。その背後で天乃と灯花は強化した聴覚で、視線の先にいる二人の会話を逃さず聞いていた。
「で、どう?」
「……爆発寸前。免疫が無い女の子にあの言葉は…」
言った後に、灯花はサングラスをかけた天乃に振り向く。
「これ以上見ても時間の無駄と思えてきたのですが…」
「いやいや、結構レアな現場にいると思うけどな〜」
心底瞳を輝かせる好青年は、笑顔でそう答える。
その姿を前に、灯花は溜息を吐き出した。
「まだイベントの準備だってあります。そろそろ戻らないと何を言われるか…」
二人にはまだ残す仕事があった。昼食後に済ませる予定だったのだが、天乃の興味本位が仕事放棄と言う現状を作ってしまったのである。
「見てても得るものなんてありません。さっさと」
「得るものがあればいいんだよね」
「…は?」
その言葉に灯花は抜けた声を漏らした。
「大丈夫。ちゃんと考えがあってこの場にいるからね」
「……一体何を得るんですか?」
灯花が疑いの込めた瞳をする中、天乃は笑顔を絶やさない。
「さぁ〜」
「貴方って人はっ…」
天乃はそれ以上は語らなかった。
だが、その笑みの意味を知っている少女、頭を痛くしたかの様に、額を触る。
「もうどうにでもしてください」
「よし!」
付き人の協力も得られたと、天乃は小さくガッツポーズをとる。
少女の能力の便利性を知っている好青年は、手段が増えたと顔を緩ませていた。
「あっ……」
「どうしたの、灯花ちゃん?」
「……貴方の予想はどこまで当たるんですか」
広樹と鈴子から離れた位置に、灯花を視線を向けた。
そこに天乃も視線を向けると、そこには…
「詩織ちゃん!本当に運命は恐ろしい!」
「声を下げてくださいっ、気づかれますっ」
詩織の発見に盛り上がる天乃は、我慢を出来ずに声を上げて、それを灯花は止めに入る。
「これは目撃されたらヤバそうだね」
ニヤニヤする天乃の横で、灯花は苦い顔をする。
「で、これからどうするんですか?」
「とりあえず距離を近づけさせない様に……あれっ?」
天乃が振り返って広樹達がいた場所に視線を戻した。
だが、そこには。
「消えた……」
「アレじゃないですか?」
天乃から笑みが消えた頃、灯花は声と指で方向を示す。
示された先には、二人分の靴が乱雑に置かれた試着室。
それに天乃は興奮した。
「えっ、ちょっ、まっ、マジで!だってアレってそう言う事だよね!」
「黙ってくださいっ」
「ゴヘェッ」
腹に肘突きを入れて黙らせる。
灯花は試着室に視線を向けながら伝えた。
「二人の靴の特徴は覚えていたので、あそこで確定ですよ」
どうしてここにいるノォオオオオオオ!?
心の中で叫びを上げる広樹は、鈴子と共に一つの試着室に入っていた。
当然、鈴子が入ったばかりの試着室に侵入する形で。
入って間も無くの侵入だったので、鈴子はまだ一つも脱いでいなかった。
「ひ、広樹…」
フードを震わせながら、鈴子は怯えた声を漏らす。
それに広樹はようやく今の状況を理解した。
少女が入った試着室に侵入したこの状況を。
アレ?軽く犯罪じゃね…
なんで入っちゃったの?
馬鹿か俺は…
「お、落ち着けっ、これは変な考えとかじゃなくてっ」
「っ、分かってるっ」
そう言いながらも、鈴子は両手でフードを深々と押さえる。
これは見られたら終わる!だって怯えてるよね!
鈴子が弁論をしたとしても、第三者に見られれば確実に終わる!脅したと勘違いされて!
そしてもし…
詩織に見つかったら……
「頼むっ、声を出さないでくれっ」
「っ!?っ、っ!っ!?」
どうしてしゃがみこむの!?
これからもよろしくお願いします!