第64話、鈴子「私の服装…変かな?」
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「お待たせしましっ、…ジューシーハンバーグカレーのお客様は…」
「私です」
「は、はい!では」
一瞬言葉を詰まらせた店員は、きっと鈴子の姿に驚いたのだろう。
それでも、流れるように皿をテーブルに置き、伝票を紙筒に入れて、仕事を全うした店員は速足で姿を消した。
……うん、ごめん。
「あの店員に謝りたくなったんだが」
「どうして?」
知らない顔をするコイツをチョップしても良いだろうか。
そんな考えを頭によぎらせながら、フォークとナイフを両手に持つ。
「まあいいや。でも」
これだけは言わねばならない。
「絶対に買わせるからな。『普通』の服を」
「大丈夫。帽子と濃いめのカラーレンズサングラスがあれば文句は無い」
つまりは顔を見せないファンションを所望。どこのハリウッド女優だよ、と突っ込みたくなる。
だが、そのパーカーを脱いでもらえるのならどうでもいい事だった。
そう思いながら食べていると、突然とコール音が響いてきた。
鈴子の方から、
「ごめん」
「いいよ。それより出た方がいいんじゃないか?」
その言葉に、鈴子は身体を小さく縮こませた。
「……うん……だから出ないよ……どうしても」
少し不機嫌さが漂う声色に、広樹は食事を一度止める。
「資料?そんなの要らない……変わらないよ、じゃあね」
少女は最後に強く別れを告げてすぐに通話を切った。
「機嫌が悪そうだが、どうしたんだ?」
その気持ちが浮き彫りになっていた鈴子。
広樹はその理由について質問をする。
「学校からお願いされたんだよ」
「お願い?」
まあ、予想は出来るが、やはり聞きたい。
「学校に来いって?」
「違う」
え、違うの?
不登校生へのお決まり的な連絡だと思ったが、どうやら違ったようだ。
「イベントに出て欲しいって」
「プロモーションか?」
「そう。私の力が欲しいって…でも嫌だ」
引きこもりにはハードルが高い。いきなりの大舞台だ。もし鈴子の立場に立っていたのなら、絶対に断る自信がある。
「詳しい資料を送られてきても困る…」
その最中、鈴子のポケットに受信音が流れた。
「なんか鬱憤溜まってるな」
鈴子は再び持ったフォークとナイフで、肉を切りながら言う。
「私は必要最低限の任務をやっているのに、追加でお願いまでされる…」
「任務って言うより、研究だな」
「私の力は色々と便利って言われる。だから、それ相応の評価もされている。だからって新しいお願いをされても、私は最低限の事しかやらない」
モグモグしながら、自身の意思を限りなく出し続ける。
「私はゲームがしたい。なのに、その時間まで減らされたら私は暴走する」
「俺に被害を与えるのだけは止めてくれよ」
「一緒にゲームをしてくれれば文句は言わない」
あれ?なんか変な関係が構築された?
「でも学校はね、最近私に変な任務を与えようとしたんだよ。私が一番の適任だって」
「任務?」
研究ではなく任務。引きこもり鈴子が適任だと思う任務。その言葉に小さな興味が芽生えた。
「任務って、どんな内容だったんだ?」
「監視、対象者とチームを組んで、自宅の隣に引っ越して、友好な関係を築き上げると共に、危険な事をしないか見張る仕事」
「……どうしてそれが」
鈴子に来るのだろうか、と思った。引きこもりよりも、ちゃんとした人間にやらせた方が良いのではないかと思う。
だが、その考えを口にするよりも、鈴子が口を開いた。
「でも、今はその任務を断って良かったって、今は強く思えるの」
「どうしてだ?」
その質問に、鈴子は口端を吊り上げて微笑む。
「私が引っ越さなかったから、今あるものがあるんだよ」
「……うん、さっぱり分からん」
勿体ぶった言い方なのに、憎めない顔をする鈴子。
なんだよその笑顔。滅茶苦茶可愛いじゃないか。
「それに、もうその任務は他の人に全部ひっくるめて就いてもらったから、もう何も言われない」
満足にそう言って、鈴子は一際デカい塊を口に頬張る。
「ん……だから、これからも思う存分、広樹とゲームが出来る」
「ちょっと待て、俺が暇な時限定な。今日はサービスしたが、基本は一日二時間まで」
「小学生のルール?そんな事を言うなら…」
「言うなら?」
「広樹の自宅に」
「言わせねーよ」
変な悪寒に襲われて、その言葉に言葉を被せた。
引きこもりに常識はないのかと、一周回って可愛く見えてきたのは気のせいだろうか。
「それよりも喋りすぎた。冷める前に」
「そんなに慌てなくても」
「服を選ぶ時間が減るだろ」
それに意識が無いのか、鈴子はゆっくりとモグモグを繰り返す。
急ぐどころか動きが遅くなってないか?
「コイツ……はぁぁ、ちょっと手洗いに行ってくる」
「行ってらっしゃい。陽が落ちるまでには帰って来てね」
「どんだけ距離があるんだよ」
お茶目っ気と言うのだろうか。鈴子が良くか悪くか、どこか変わった事を改めて意識した。
とりあえず、鈴子のボケにツッコミを入れて、席から立ち上がる。
「俺が戻るまでには三分の二は食べてろよー」
「私はフードファイターに転職しないよ」
本当に変わったと意識させられた。
そう思いながら笑みを浮かべて、厠に向かう……
…………。
……。
「ん、広樹?なんで十秒くらいで戻って来たの?」
鈴子の声に反応を示さず、広樹は席に素早くついた。
そして顔を両腕で覆って、テーブルに体重を預ける。
「広樹、眠いの?」
「……すまん鈴子。早く食べ終わってくれ」
「なんで?」
「頼む。今日の夜も付き合ってやるから」
その言葉に鈴子は動き出す。
モグモグモグモグモグモグ……と、後払いの約束ながら、少女は張り切って口と手を動かした。
だが、広樹はその最中、一切自分の皿には触れない。
触れるどころではなかった。
「なんでいるんだ……詩織」
鈴子に聞こえない声で、広樹はそう呟いた。
これからもよろしくお願いします!




