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第60話、天乃『さて、始めようか!』

書きあがりました!

最後まで読んでいただけると嬉しいです!


感想アドバイス助言など、コメントをお待ちしています!


一言もらえるだけでめちゃくちゃ嬉しいです!


これからもよろしくお願いします!

第三区、超巨大スタジアム。


収容人数十万人を可能とし、ドーム変形設備が完備された、戦闘学で最大の大きさを誇る競技場である。


その超巨大スタジアムが第三区に三つ存在する。


上空から見下ろせば、三本の巨大歩道きょだいほどうによって、三角形状に三つのスタジアムが結ばれている様に見える。


第三区の敷地の大部分を埋めたスタジアム。


そこには今、観客席入場抽選に当たった入場者が集まっていた。


超巨大でも、毎年ながら入場希望者全員を収容する事は出来ない。


プロモーションは戦闘学の一大イベントの一つであり、それをスタジアムで観戦したい者も多い。


それ故に、抽選式で入場券を配布していた。


当選した者はスタジアムで、当選しなかった者は学校建物内にあるシアター室などで観戦をする。


戦闘学に住む多くの人間が見つめる大イベント、プロモーション。


様々な気持ちが飛び交う今日この日。

輝かしい期待を背負い立つ生徒たちが、三つのスタジアムに現れる。















スタジアム場外に位置する駐車場、そのスペースを使って設けられた数多くのテント、その一つの中で詩織たちが準備に取りかかる。


海香みか空斗そらとが黒い戦闘服を着込む中、詩織だけが戦闘学の制服だった。


だが、その制服は普段着ている物とは異なる点がいくつかある。


黒い膝当てと肘当てを装着し、拳にはゴム質のグローブを履き込んでいる。


制服に隠された中には、強化素材で作られた薄い防護服を首から太ももまでにかけて包み込み、それを隠す制服も強化素材が使われていた。


今回のイベントでは実力者の存在を分かりやすくするために、詩織には制服を模して制作された戦闘服を着る事になっていた。


主に初参加者や詩織の顔を知らない者たちへの配慮。


挑むなら覚悟を決めて来いという運営側からの表明だった。


上着と白シャツの間にあるホルスターに、黒い拳銃を二丁差し込み、マガジンもしまい込む。


榛名からもらった特別な作品そうびも、上着が被る腰のポーチへと収める。


これで詩織の準備は整った。


「海香、空斗、昨日はゆっくりできた?」


「完璧です!久しぶりにベット上で漫画に没頭しました!」


「言われた通り、ちゃんと休んできました」


準備が済み、黒い戦闘服に身を包む二人は満足と返す。


「詩織さんもどこか機嫌が良さそうですね」


海香の言葉に、詩織は微笑みを瞳に浮かべながら、後ろ腰にある物を右手で撫で、口端を吊り上げた。


「絶対に勝たないといけない理由が出来たのよ」


「絶対に?」


「そう、だから絶対に優勝する」


右手を戻し、詩織は座っていた椅子から立ち上がって用意していた小リュックを背中に背負う。


「じゃあ行きましょうか」













三つのスタジアム内が熱狂に包まれている。

その中でも一際ひときわ大きな声が上がるスタジアムがあった。


その理由は観客席から高い位置にある実況席。


そこに座る白シャツ黒髪美青年、戦闘学日本支部が誇る序列第二位の存在。


『やぁやぁ!今回のプロモーションで実況兼BGM係を担当する、光崎こうざき天乃あまのだ!第一スタジアムからよっろしくねーー!』


彼の容姿と実力には大きな人気があり、多くの女性から堂々と王子様と呼ばれるくらいだった。


その影響がイベント開始前にも関わらず、熱狂として現れていた。


本人がいない二つのスタジアムにも、彼の映像は宙に浮かぶ大型立体モニターに映し出され共有する。


そして彼の隣に座るのは、戦闘学の制服を着込んだ女の子。


『同じく、実況担当を仰せつかりました、小島こじま森子もりこです。よろしくお願いします……あの光崎先輩、BGM係とはいったい?』


『うん?BGM係はBGM係だよ!まぁ後のお楽しみって事でご期待!』


そう言ってカメラ目線の天乃は、賑わいを見せる観客に伝える。


『じゃあ!とりあえず今回のプロモーションの説明をするね!』


そして、多くあるモニターが移り変わる。


そこに映し出されたのは今回のイベントに用いられる戦場ステージ


『今回は前回よりルールも含めて色々変わったのは知っているよね!今年のプロモーションは一味違うよ!何故なら第七十七区から第八十区をぶち抜きで使うんだからね!』


『ーーーーーー!!』


大きな歓声が上がる。

映し出されているのは、都会の街並みと変わらないビルの群れ。

森林のある公園もあれば、ショッピングモールもある、また客船が浮かぶ巨大な湖があった。


『今回使用する実験区画は、書いて字のごとく様々な実験に用いられてきた区画だ。点検整備をちゃんと済ませたから、思う存分に戦い競えるね!』


天乃のテンションはスタジアムに伝播し、重なる熱狂が踊る。


『じゃあ次は、今回の重要ポイントの説明だ』


移り変わったモニターには、弾薬、小型刃物コンバットナイフ、塔、首輪チョーカーが並んだ。


『銃器や刃物の使用が許可されたのは知っているよね!でもやっぱり危ないと思うよね〜だから安心感を持ってもらうために、知ってると思うけど僕が改めて説明するよ!』


イベントで使用する銃器刃物などの装備には、特定の弾と刃が用いられる。


ある研究者が戦闘力の能力データから制作した化学物質、擬似塊フェイク


擬似塊フェイクは、特殊な粒子に触れた瞬間に、ナノサイズに分解され気体に変化する特殊な物質。


それを弾と刃に用いられる。


また、刃については擬似塊を構築させる装着型装置を配布、消滅してもすぐに擬似塊を構築できる。


特殊な粒子は試合前に必ず参加者全員に浴びてもらい、身体全体隈なく付着させる。


その粒子も能力データから開発されたものであり、身体に害はなく、特定の除法を使わなければ取れる事はない。


その粒子を貼り付けた肌や衣類には、擬似塊が効かないという事だ。


もちろん、目などの粒子を付着できない箇所を、意図的に狙うのは禁止である。


『つまり!擬似塊の装備による殺傷の可能性はとっても低い!当たってもプロボクサーのパンチ並みの打撃だからね!銃器刃物については心配しなくていいよ!』


怖い単語も混ざる中、好青年の笑顔に納得の声を上げる観客。

そして天乃は次の説明に移る。


『じゃあ次はあの塔の説明だ!区画中くかくじゅうにたくさん建ってる鉄塔てっとう、ルールブックに載せて分かってると思うけど、これを意図的に壊すの禁止ね』


それは先の尖った鉄塔。二十メートルの高さを持つそれは、区画中至る場所に設置してあった。


その塔の説明は、ルールブックには意図的な破壊は禁止としか書いていない。

また、追加説明は実況が行うとあった。


『光崎先輩、どうして壊しちゃ駄目なんでしょうか?』


『それはね〜〜イベントが始まってから説明するよ!その方が楽しめると思うからね!』


イケメンの笑顔に森子は頬を赤く染める。

勿体ぶった表明をしながら、天乃は笑顔をカメラに向けた。


『じゃあ次は首輪チョーカーの説明をするよ!』


首を曲げる際、邪魔にならない程度の大きさを持った機械が取り付けられた首輪。


その役割は分けて三つ。


一つ目は粒子の影響測定、これは擬似塊が粒子に分解された際、どの部位に接触したかを解析し、傷害計測を行う機能。


二つ目は身体状況の確認、身体に受けた物理的な傷害ダメージを計測する機能。


三つ目は敗退の確認、本人が首輪に十秒触れるか、敵に三秒触れられたら、イベントからの敗退が決定。


つまり首輪は参加者の傷害ダメージを測定し、戦闘不能基準値に達するか、敗退確認が決定されれば、その時点でリタイアとなる測定機械だ。


『もし、リタイアした者を襲う奴が現れたら、退学以上の処罰があると思ってね』


明るいながらも、鋭さを宿したその言葉に、観客の興奮ボルテージがやや下がった。


だが、次に天乃は両手を叩いて注目を集める。


『リタイアの確認ができたら、現場に待機させている大型機械要員ドローンが即時救出に行くから、遠慮なくルールを守った上で戦ってね!治療スタッフもいるから!』


安心を醸し出す言葉に、観客の興奮ボルテージは再び上がり始める。


概要の説明も終盤に入り、天乃は始終笑顔で明るい声を響かせた。


『参加者全員が持っている戦闘力!様々な場面で使ってもいいけど、過度な攻撃アタックと、相手を瀕死状態にする使い方は禁止!戦いに応じてその判定は実況を含めたスタッフが決めるからね!』


人体強化と能力を使用する戦闘。

前回までのイベントで主要に置かれた戦闘である。


基本は本気で戦っても良いが、実力差や状況によっての判定で注意と警告が施される。


『参加者には警告用の小型無線機インカムを持たせるから、スタッフの警告には従うように!』


スタジアム中に響く天乃の声は、入場準備を済ませた参加選手全員に伝えられた。


『それじゃあそろそろだね、森子ちゃん』


『はい、間もなく開幕時刻になります!』


少女の声に、スタジアムが大きく揺れる。スタジアムだけではない、戦闘学中のほとんどが盛況せいきょうに包まれていた。


そして、モニターに映し出されたのは、閉じられた入場ゲート。


『それでは、待ちに待った大イベント、プロモーションの選手入場式を始めます!』


少女の宣言に歓声が響くスタジアム。空間が揺れる中、そのゲートは開かれた。













「始まってる…」


入場開始の宣言から数分経って、チーム控え室にいる空斗は、緊張を顔に浮かべながら小さく呟く。


「まだ第一スタジアムでしょ。ここは第三スタジアムなんだから、私たちの順番にはまだ数十分あるわよ」


海香の言う通り、詩織たち三人がいる場所は三つある内の一つ、第三スタジアム。


選手の入場は三箇所に別けられ、一、二、三と順番に行われていたのだ。


そして、前回の優勝者であり、序列者の称号を持っている詩織がいるチームの入場は、運営側の願いもあって最後となっている。


そして、


「宣誓、私たち…」


ブツブツと音読を繰り返す詩織。


立場が重なった結果、今回の選手宣誓せんしゅせんせいは詩織が選ばれたのだ。


「詩織さんは緊張とかしないんですか?」


「ん?緊張はないわね。むしろ授業と思えるわ」


「授業ですか?」


「命を賭けた戦いじゃない、ちょっと大きめの合同演習。そう割り切ったら楽よ」


「さすが序列者…」


改めて経験と実力の差を感じる二人。それを横に詩織は再び用紙に視線を移す。


だが、ブゥゥ、とベンチに置いてあった詩織の端末が振動する。


再び集中を切って、その端末を耳に当てた。


『やっほー詩織、今日の調子は良い感じ?』


「大丈夫よ、榛名はるな


電話の相手は榛名だった。詩織は受け取ったばかりの装備に意識を漏らしながら、榛名と声で向き合う。


「今スタジアムにいるの?」


『いるよ。それもスゴイところに』


「スゴイところ?」


ニヤケた顔が声から伝わる中、疑問を浮かべる詩織に答え合わせと、榛名は自分の居場所を口にする。


『優待席!』


「あなた…どんな手を使ったのよ」


『今回のイベントに貢献しただけだよ〜』


優待席、それは特別な人間しか入れない特別席だった。主に校長や教師陣などしか入れないその席に友達がいる。


信じ難い事実に疑いをかける中、電話からノイズがはしり、声質が変わる。


『やぁ詩織くん、元気かねぇ?』


「博士、ええ、身体的精神的にも良好です」


博士は怪しさを持った喋り方で、詩織の調子をうかがう。

それに詩織は自信ある明るい声で返した。


『それは何よりだぁ。素晴らしい戦いを期待しているよぉ』


「はい、ありがとうございます」


『あの装備もちゃんと使ってね!』


飛び込んできた榛名の声に、『あの装備ぃ?』という博士の疑問が呟かれる。


だが、その続きを知る前に通話は向こうから切られ、詩織は端末の電源を落とした。


「詩織さん、榛名という方は?」


海香の疑問を背後に、詩織は端末を含めた貴重品をロッカーにしまい、鍵を閉める。


「私の信頼できる友達…かな」


おかしな装備を作るが、期待を裏切る装備を渡された覚えは一度もない。


そんな榛名が用意してくれた装備を持っていると改めて意識し、詩織は海香と空斗と向き合う。


「準備は大丈夫?」


「問題なしです!」


「精一杯頑張ります」


明るい声を上げる海香と、微汗を額に薄く流す空斗。


二人の姿を見つめて、詩織は新たに気持ちを固めて、それを声に変える。


「三人で勝ち残りましょう!目指すは優勝ただ一つ!」


笑みから決意を宿した目標を出し、二人の勝利への願望を更に強くさせた。












『いよいよ選手入場も大詰めになりました!次の選手が最後の入場です!』


待っていた存在がこれから現れると、大歓声が響き渡る第三スタジアム。


『皆さまもご存知!これから登場してもらうのはあの方がいるチームです!前回の優勝者にして序列を持つ存在!さあ!今回はどんな戦いを見せてくれるのか!』


顔を真っ赤にする実況。島々森子は大きな興奮を胸に叫び散らす。


『入場ぉおおおお〜〜〜〜!』


ゲートから現れるのは、三人一組のチーム。


入場行進する姿と共に、モニターには三人の名前が表示。


その中の一つ、その名前に観衆は大きく沸いた。


詩織を先頭に海香、空斗と並んでの登場に、観客席は熱狂する。


姫路ひめじ詩織しおりさん!内田うちだ海香みかさん!まこと空斗そらとさん!計三人のチームです!やはり雰囲気が違います!』


興奮ボルテージが最大になる中、堂々と選手が立ち並ぶ広間に足を進める詩織たち。


数秒経って歩みは止まり、立ったのはスタジアムで最大の大きさを持つ特大モニターの正面。


次に詩織が一人で前に進み、スタッフから受け取ったマイクを口元に持つ。


『宣誓!私たち選手一同は、日々支えてくれる指導者の先生方、仲間たちに大きな感謝を持ち、正々堂々全力を尽くすこと誓います!』


ーー絶対に優勝する。

ーー力をくれた榛名のために。

ーー私と組みたいと言ったチームのために。


ーーどこかで見ている彼に認めてもらうために。


輝く瞳に様々な思いを詰め込む、制服姿の少女。


開催日と名前を宣誓の最後に添えて、詩織はマイクを下ろした。


『〜〜〜〜!』


そして起こるのは、静寂が破られた拍手声援。


観衆から伝わる思いが選手たちにも伝播し、その瞳に興奮の意思が宿る。


『素晴らしい宣誓でした!ありがとうございます詩織さん!ーーでは!これより実験区画に移動を』


『ちょっとストップ』


『へっ…?』


盛り上がっているところで突然の横槍が入る。

それを発したのは、隣に座る天乃だった。


『運営側からお知らせがあります』


『え、ありました…?』


疑問を呟く女の子を隣にしながら、似合わない敬語を用いる天乃。

何かを溜めたような、隠しきれない気持ちを瞳に宿して、好青年は言葉を続ける。


『私、光崎天乃の失敗ミスにより、参加登録者名簿に不備があったため、本来いるはずのチームの入場が行われませんでした。深く謝罪、お詫び致します』


モニター越しで頭を下げる天乃に、『気にしないでー』『大丈夫だよー』と観衆から慰めの声が上がり始める。

それは天乃の人徳が成せる光景だった。


『気を取り直し、第一スタジアムのゲートから再び選手入場式を再開させていただきます。ーーじゃあ!今度こそ最後のチームの登場だ!』


最後には満面の笑みを浮かべて、興奮の最高潮に達した声を戦闘学中に響き渡らせる。

観衆も天乃に慰めの気持ちも込めて、再び拍手声援を贈った。



















それは制服を揺らす二人の姿。


横に並んで真っ直ぐと、ゲートの影から観衆の前へと姿を現す。


その二人の存在に、スタジアム中に響き渡っていた熱狂の渦は戸惑いの声へと変わり、最後には静寂が支配した。


その姿を知っているからか?

その名前を知っているからか?

詩織と同じ制服姿の参加者が現れたからか?


モニターに映し出された姿と名前に、それは時を止めたように凍りつかせた。


その光景は誰も予想しなかった。


想像もしなかった光景がそこにある。


『さぁ紹介だ!チームは計二人だが、実力は戦場で証明されるだろう!最高にワクワクさせる組み合わせだと思わないかい!』


静寂に大きな声を轟かせ、その光景を現実だと肯定する。


観衆の視線の先で。

参加者の視線の先で。

天乃の視線の先で。


二人は歩みを止めた。






荻野おぎの広樹ひろき内守谷うちもりや鈴子すずこのタッグチームだ!』






















ネェ…ヒロキ…ナンデソノ女ト…イルノ?



読んでいただきありがとうございます!


これからもぜひ!読みにきてください!

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[一言] ねぇ広樹…あなた今、一番輝いてるよ……w
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