第59話、詩織「私の新しい力」
書きあがりました!
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「ーー起きなさい」
片付けられておらず、ファンタジーな小道具が散らかる部屋には、灰色を混ぜ込んだ緑髪の少女が寝ている。
ベットの脇には丸めた作業着が置かれているということは、眠る直前まで仕事をしていたことが分かる。
「起きなさいよ、榛名」
詩織が手で掛け布団を軽く揺する。
その布団を被るのは、詩織が装備製作の専属にしている少女、緑川榛名だった。
グゥグゥ寝ている榛名は、未だ掛け布団に手を置いている詩織に、瞳を閉じた顔を向けて、
「……広樹……勘弁しへ……くだはい」
…………。
「……なんでふか……土下座でふか?……そんなほとで…許ひませんよ〜…」
…………。
「……反省でふか……じゃあ切腹を見へてくだはいよ……いや、撃腹がいいでふ…ほら、銃を」
…………ブチッ
「撃頭の方がいいんじゃない。だったら私がやってあげるわよ」
詩織は濃く染めた瞳で、懐から一丁の拳銃を取り出す。
そして、銃口を向けるのは自分の頭…ではなく、
「十秒数えるわ、それ以内に起きなかったら撃つから」
その言葉に何かを感じ取ったのか、榛名の顔が真っ青に染まる。
風穴が空いた。
そこから中身が空間に弾け飛び、飛び散ったものが辺りに落ちる中、詩織の目の前には、ベットの端で身を縮こませる少女が一人。
「殺す気ですか!?」
「起きてたの」
「起こされたんですよ!詩織の殺気で!」
顔を真っ赤にしながら、薄い羽毛を肩に乗せる榛名は吠える。
「本当に何を考えてるんですか!」
「当てるつもりはなかったわ」
「枕に穴がありますよ!完全に頭部を狙ってたじゃないですか!」
「肌を掠める程度に狙ったつもりだったんだけど」
枕に指差し、怒りと恐怖心を全開にする榛名を前に、詩織は反省の色を見せずに、発砲で発熱した銃を懐にしまった。
「で、済ませたの?」
「無視ですか!?ベットを破損させた上に無視ですか!」
榛名が顔を赤くさせながら詰め寄る中、詩織はそれに見向きもせずに、棚に並べてあるケースを物色し始める。
「どれなの榛名」
「ちょっと勝手に触れないでくださいよ!」
慌てながらも、榛名は並んだケースの中から一つ抜き取り、それを広い机の上に置いた。
「最悪の寝起きです……コレですよ」
「注文通りに仕上げたんでしょうね」
「余計な機能とふざけたデザインを付けない事…ええやりました、やりましたよ!」
過去の記憶を振り返りながら、強い怒りを顔に出して榛名はケースを開く。
中にあったのは、スライドに紅い模様が彫られた二丁の黒い塊。
「超強度により壊れる心配はほぼ無し、硬さを重視した分、重量があるから小回りには不利になりました」
「注文通りね」
「でも、これじゃあ拳銃の利点が損なわれますよ」
その武器の利点は小回りが利き、狭い空間でも、とっさの行動に移れる点だ。
だが、それも重量を上げてしまったら意味がない。
重さによって小回りが利きづらく、行動に遅れが生じてしまうのだ。
「本当に何考えてるんですか…」
故に、詩織の手に持つ武器に榛名は小さな心配があった。
「今回は壊れない事が重要点なの。ちょっと荒れるかもしれないから、私より先に武器が壊れたら駄目」
「プロモーション…まあ、確かに駄目ですけど…」
前回の詩織の戦いを知る榛名が納得の顔を薄く見せる。
武器の使用は禁止だったが、その時の詩織の戦闘を鑑みれば、確かに強度のある武器が必要になる。
過去を思い出しながら、榛名は詩織の手にある銃に触れた。
「壊れないからって、乱暴には使わないでくださいよ。壊れる時には壊れるんですから…」
「強度はあくまで保険だから大丈夫よ。今回も前回と同様で私以外の序列者は参加していないから、無理な戦い方はしないつもり」
「だったらまあ……あっ」
榛名の口から何かを思い出したのか、小さく声が漏らしてリモコンを手に取る。
「どうしたの榛名?」
「朝ドラ」
「…あなたそんなの観てたの?」
榛名の新しい一面に、詩織は意外だと声に出る。
「私が小学生の頃にやっていたアニメを、実写化した作品だから、なんとなく」
「だったら、私も知ってる作品……ん?」
『ねぇ、奥さんと私、どっちが好き?』
『君に決まっているだろう』
「…………何これ?」
「ドラマだけど」
おかしなセリフに詩織は堪らず訪ねる。
それに榛名は簡単に返した。
「小学生の頃にやってたアニメって言ったわよね」
「これ深夜アニメの実写」
詩織の声を背後に、榛名は画面から目を離さずに答え続けた。
『あの女じゃないともう満足できないんだ!』
『酷いっ』
「これ完全な昼ドラじゃない?」
「まあ、その雰囲気も出てますね」
ポテチを食べる少女たち。
詩織の今日の予定は、装備の受け取りと調子の調整であり、特別やる事はなかった。
海香と空斗にも、最後の調整として鍛錬を禁止にし、好きな時間を過ごすように伝えてある。
それを伝えた詩織も自由に時間を使っているのだ。
故の流れで、詩織も榛名の観るドラマに興味を持ち、置き畳に座って、ちゃぶ台に肘を置き鑑賞していた。
「それにしても、この男最低ね」
「ん、なんで?」
「新しい女と浮気して、奥さんを捨てようとしてるじゃない」
詩織の出した言葉に、榛名は頭を掻いた。
「これは浮気相手が悪いんですよ」
「どうしてよ」
首を傾げながら、詩織はポテチを摘む榛名を見る。
「これはセカンドシーズンで、ファーストシーズンは旦那と奥さんはちゃんと良好な関係だったんです」
「それが?」
過去の話を聞くが、詩織は未だに疑問を拭えない。
そんな詩織に、榛名は立て続けに事実を伝えた。
「この旦那に一目惚れした奥さんは、たくさんの努力を重ねたんです。色々な苦難を超えた先で付き合って結婚した…でも、現れたんですよ」
榛名は画面に映る可愛らしい女を見つめる。
「人の男を言葉巧みに奪う泥棒猫が」
「もしかして、奪った?」
「そうです。可愛らしい見た目と誘惑で旦那の心をペロリしたんです」
「……だったら、浮気相手が悪いわね」
榛名の言葉に、詩織は考えを見直した。
『もう私の男なのよ。あなたは捨てられたの。さっさと消えて』
『そんなっ…どうして…』
「最低ね、この女」
「ええ最低です。奥さんが先に見つけた男なのに、横から奪ってこの言い草ですから」
詩織も榛名の思考に侵食され、同じ感情が芽生えていた。
画面がCMに移り変わり、榛名はウェットティッシュで手の油を拭き取って立ち上がる。
「詩織、もう一つ渡したい物があるんだ」
「注文した物ならもう受け取ったけど」
「最近面白い研究データが手に入ってね、少し真面目に作った装備が…え〜と」
CMが流れる中、榛名はクローゼットから一つのトランクケースを取り出して、詩織の目の前に置いた。
「イベントの装備検査に通過できるように一部カスタマイズしたから、イベントで使って欲しいな」
楽しみを胸に、榛名はそのケースを開ける。
中に収められていたのは、先ほど渡した二丁の拳銃と同じ色彩をした装備。
「これって…」
「博士に頂いた能力研究データから制作した装備だよ」
「博士の能力研究……もしかして擬似再現化?」
博士の専攻研究を知っている詩織は、当然その考えに至る。
その丸くした瞳に、榛名はフンスと鼻を鳴らしていた。
「あなたが作ったの?博士のデータから」
「そ!まだ博士に見せていない、私の過去最高のオリジナル!」
詩織はゆっくりとケースの中にある、黒色を主張とした紅黒のソレに指をなぞらせる。
「禍々しい雰囲気があるわね」
「威圧感あるデザインにしたからね!見た目でかなりの悪堕ち感がっ」
「悪堕ち?」
「なんでもない」
一部ボソリと漏らした口を両手で覆う榛名に、詩織はジト目を向けながらケースを閉めて、端末を取り出した。
「値段は?今から口座に振り込むから」
「ああ、それについてなんだけど…」
榛名は、最初からそれが狙いだったように、口を回した。
「トップ十に贈られる『賞品選択権』を支払いの代わりに……というのはやっぱり駄目?」
榛名の言う『賞品選択権』とは、プロモーションの優秀チームトップ十に贈られる賞品だった。
単位免状や旅行券、新型端末まで多種多様の賞品が揃っており、学生にとって光るものがそこにはあった。
「いいけど…何か欲しいものでもあった?」
海香と空斗は別として、詩織には賞品に対する興味は薄かった。
チームに相談をせずに譲ると言えたのは、賞品選択権はチームの一人一人に贈られるからである。
だが、譲る前に精神に偏りがある榛名に、詩織は何が狙いなのか気になっていた。
「マイルーム獲得権!」
堂々と宣言する榛名に、詩織は『は?』という文字が顔に浮き出る。
「確か、資金無しで希望に叶った部屋を提供してもらえる権利だっけ?」
詩織の言葉に榛名は頷いて、部屋へと視線を向けた。
「ほら私の部屋って散らかってるでしょ。そろそろ置き場も無いから、新しいスペースが欲しいかな〜てっ」
その言葉に、詩織は部屋を一度見回して額に手を当てる。
「捨てなさいよ」
「嫌ですよ!ここある物は全部私の子供同然なんですから!」
ガラクタにしか見えない物たちを、我が子と唱える数少ない友人の一人に、詩織は呆れて溜息を漏らした。
だが、自分への不利益が少ないと理解して、考えを固める。
「いいわ、校長に伝えて榛名に賞品選択権を譲渡してあげる」
「よしっ!じゃあ絶対に優勝ぉぉじゃなくてもいいから、トップ十に入って!」
「優勝よ。じゃないと任務失敗になるから」
「失敗?」
「ドラマ始まったわよ」
「あっ」
テレビに指先を向けた詩織の言葉に、榛名は慌てて元の位置に戻った。
「じゃあこの装備は使わせてもらうわね」
「あ、予備は作れないから大事にしてくださいね」
「え?」
ドラマから視線を離さず、投げかけられた榛名の言葉に、詩織は動きを止めた。
「コア…あ〜つまりは」
出し掛けた専門単語を頭にしまい込み、詩織に伝わる言葉を考え出す榛名。
「それに内蔵してある『重要部』が、偶然作れた試作品でね。既にデータは取り終わったから本体は渡せるんだけど、壊れたら新しいのが作れないって事」
「そんな大切な物を、いいの本当に?」
テーブルに置かれたケースを見ながら、詩織は改めてその中身の価値を再認識した。
そんな詩織に、榛名は未だ見向きもせずに、言った。
「まぁ、頑張ってよ」
「えっ?」
言ってから、榛名は詩織を方へと向いた。
驚いた少女の顔を見て、ただ真顔で、言葉を続けた。
「前の合同作戦で死にそうになったんでしょう。……言うとね、私は詩織に消えて欲しくないんだ」
詩織が思いがけなかった意思が伝わる。その緩みを見せない榛名の表情に、詩織は僅かな緊張を覚える。
「まあ、考える事は色々あるけど、私にとって詩織は掛け替えのない大切な存在って事だよ」
そう言ってから見せたのは、眉を下げて笑う榛名の顔だった。
「応援してるから、頑張りなよ」
簡単にまとめられた榛名の声援。
詩織はその言葉を自分の胸にしまい、満面の笑みを浮かべた。
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