第55話、校長「どうして序列者はみんな……」
書きあがりました!
今回は少し早い時間の投稿にしました!
驚かせて申し訳ありません!
これからもよろしくお願いします!
ごめんなさい!早すぎますが、少し修正を加えました!
「お願いします詩織さん!」
「私達とチームを組んでください!」
場所は戦闘学高等部の屋上。
詩織の目には二つのつむじが見えていた。
「校長が用意した生徒と組むつもりだったんだけど、いいの?私と組んで参加したら…」
「詩織さんと参加してみたいんです!その方が間近で詩織さんを見られて勉強になります!」
「そのためなら評価は捨てても大丈夫です!」
大きな声で意思を表明する二人に、なんとも言えない表情で吐息を吐く。
だが、その言葉には確かな気持ちが感じられた。
「……分かったわ」
恐る恐るの声に、詩織は沈黙後に明るい声で二人の意思に応えた。それに歓喜の声を上げる二人。それに詩織も笑みをこぼした。
二人は以前の銀行警護任務の際に一時的にチームを組んでいた『透視』と『重力操作』の男女だった。
ちなみに同学年。
「でもいいの?プロモーションはアピールによって序列入りの参考にもされるのよ」
プロモーションには役割があった。
一つ、入学したばかりの生徒たちに在学生の技量を見せて、手本を教えるため。
二つ、イベント中に自分の力をアピールすることによって評価を得るため。
つまり、序列入りの可能性がこのイベントに含まれているのだ。
そして序列者がいるチームがあれば、誰が活躍するのか、誰に注目が集まるのか。当然、一人しかいない。
「序列入りを目指したくないの?」
「それを詩織さんが言いますか…」
暗い顔を見せる二人。
それは何かを思い出したような表情をしていた。
「……ごめん」
苦笑いを浮かべながら、詩織は小さく呟く。
暴れたのだ。破壊したのだ。『無双』したのだ。
それは詩織が序列を承っての最初のプロモーション。
結果を言えば、彼女は前回の優勝者だった。
「あの戦いを見せられた後で、序列入りを目指そうとする生徒はいませんよ。序列最下位でアレです。イベントだって力試しで参加する人がほとんどですよ」
「本当にごめんね。あの時は色々とあって……とにかくごめん」
「だから今回はしっかり勉強させてもらいます!」
張り切った少女の言葉と、真剣な瞳を作る少年を前に、詩織は『分かったわ』と応えて、今回のイベントでも最高の戦いを見せようと誓った。
「入るよ校長」
「うん?君が会いに来るなんて珍しいね」
場所は校長室。
明るい声を上げて姿を見せたのは、変色した混ざった髪色をした男である。
長袖の白いシャツと黒いジーンズを着こなし、その腰には黒い鞘に収められた刀があった。
「今回のプロモーションの準備について聞こうと思ってね。苦戦してるって聞いたから」
「順調とは言えないね。今回はルールをかなり変更したから」
「そりゃ、白髪がますます増えそうだね」
困った顔を見せる校長に男は笑みを浮かべた。彼は校長に近づき、開いたパソコンの画面を覗き込む。
「どこが困ってるの?」
「生徒の安全、言えば『オーバーアタック』と『偶発的な事故』の対応手段だ」
苦しい声で挙げたのは、校長がここ数日間悩んでいた問題だった。イベントと公表されているが、実際は訓練である。もちろん事故の発生も視野に入れなければならない。
「それは難しいね……ちなみに銃弾に対する生命危機防止手段の方は?」
「完成はさせた。ただ確実に生徒の安全を保障できるものではないが…」
「一応訓練なんだし、確実性はそこまで要らないと思うよ」
「……うむ」
彼の言う事にも一理ある。確かに安全が保障された訓練には欠けるものが存在する。安全から生まれる安心感、それが恐怖を和らげる事によって、立ち向かう為の精神力が鍛えられなくなるのだ。
校長は何かを決めた面持ちで、キーボードを弾き始めた。
それを見た彼は、口端を吊り上げる。
「最初に聞いた二つの問題なんだけど」
「ん?」
「僕が解決してあげようか」
男は軽々しく言った。校長を悩ませる問題を簡単そうに解決すると言い放ったのだ。
「僕も今回のプロモーションに参加したいんだ。スタッフでね」
「それは構わないが、どう解決を…ああ」
「分かってると思うけど、僕だったら即時に行動が出来る。参加者が大怪我をしたら救助に行くし、危険な戦いがあったらすぐに止められるよ」
「確かにそれなら…」
やや晴れさせた校長の表情を見て、彼は薄い笑みで呟いた。
「それをする代わりにお願いがあるんだ。交換条件として実況役をやらせてくれないかな?他の仕事も手伝うよ」
「実況役か…また何か企んでる?」
「……」
「企んでいるんだね」
目の前にいる彼がどんな思考を持っているのか、戦闘学のトップである校長はそれを詳しく知っていた。故に何か企みがあるのだと看破したのだ。
「今回は何をするつもりなんだい?」
「殺伐とした訓練を盛り上げたい、それだけだよ。利害は一致するんじゃない?」
良い理由に聞こえるが、それを提案した彼に理由があり、校長は油断を怠らない瞳で彼を見つめる。
開催日まで時間が少ない事実と、彼の協力があれば問題は解決する。
その二つが校長に選択を迫り、決心を固めさせた。
「分かった。実況役として推薦しておく。それと他の仕事は……」
考えるそぶりを見せる校長に、彼は両手を差し出す。
「無理に出さなくてもいいよ。実況役をさせてくれるお礼の気持ちだから……うん、ちなみに質問なんだけど、今回のプロモーションには彼は参加するの?名前は言わなくても分かるよね」
それは彼が興味を抱いている人物である。
当然、校長はそれが誰なのか予想がついていた。
「広樹くんなら参加しないよ。任務で疲れたのか、今回は観戦すると言っていた」
校長は一部嘘を混ぜ込んだ。その理由は目の前の彼に問題があったからだ。広樹の実力を知りたい者は教員生徒関係者を含めて多くいた。そして質問をしてきた彼もその一人。
そして彼の場合は興味のある事には執着的で、手段を選ばない考え方もあった。
故に諦めさせる嘘が必要だった。
「じゃあ今回は諦めよう。疲れてるならしょうがないか」
希望通りの反応に校長は口元を緩ませて、身体の体重を背もたれに預ける。
「今回も参加する序列者は詩織くんだけなんだけど、他に参加してくれそうな子はいるかい?」
「それを僕に聞く?僕も序列者だよ」
「立場が同じなら、説得もできると思ったのだが」
「出来ないね。序列者は興味のある事以外はやりたがらないから。詩織ちゃんだって、校長が命じたから参加してるんでしょ」
「だったら私が君に命じたら、参加してくれるのかい?」
「断るよ。戦うよりも実況が楽しそうだ」
きっぱり言う男に対して、分かっていたと校長の表情が言っていた。
「そうか…」
今回のイベントに参加を命じた少女を思い浮かべる。
「やはり今回も『ピピピピッ』はい」
『校長。詩織です』
会話の腰を折る電話の相手は、思い浮かべていた少女だった。
『イベントに参加するチームなんですが、私がメンバーを選んでもよろしいでしょうか』
「ん、誰かに頼まれたかい?」
『前の銀行警護任務に参加した二人です』
その言葉に校長は過去の任務を思い出し、二人がどのような人物かを記憶から掘り返した。
「あの二人なら問題は無い。でも最優先目的は分かってるね」
今回のプロモーションにおいて、詩織に果たしてもらわなければいけない仕事があった。
当然、詩織はそれを忘れていない。
『大丈夫です。確実にやり遂げてみせます』
その返事に校長は心配が晴れた色を瞳に浮かべて、『なら良い』と端末の先に伝えた。
『以上です。登録をお願いします』
「ああ、頑張ってね」
それを最後に会話は終わる。
校長は端末を机に置き、目の前の男を見た。
「早速仕事だ。詩織くんのチーム書類を作成、部署まで届けてくれ」
「流れるように仕事を作ったね」
「ちょうど良いだろう」
「僕は便利屋じゃないんだけど…」
頬を膨らませる彼に、校長は溜息を吐きながら、その頭に視線を向けた。
「気になってたんだけど、その髪はどうしたんだい?金髪に染めようとして失敗したみたいな感じだけど」
言った通り、髪は完全に失敗した色を示している。それに彼は眉の間に皺を浮かべた。
「失敗したんだよ」
「やはりか」
「安物のヘアカラーで失敗してね。せっかく金髪に染めたのに、数日でこの有様」
「染め直しは?」
「日を見てやるつもりだよ」
膨れたままの彼は過去の過ちを語りながら、自分の髪を触る。
「ちなみにどうして金髪に染めたんだい?君の立派な黒髪が台無しだよ」
「……まあ、憧れで染めてね」
似合わずの照れ顔を作る彼に対し、校長は何とも言えない瞳を作った。
「何に憧れたんだい?」
「僕の英雄だよ」
照れ顔から眩しい顔に早変わりを見せる。だが、それよりも校長は男が発した内容に興味を持っていた。
「英雄?君にそこまで言わせる人物となると、歴史の偉人とかかい?」
校長の質問を聞いて、彼は懐から一つのケースを見せびらかした。それは俗に言うディスクケースであり、その表面と裏面には二次元のキャラクターが写っている。
「…………アニメ?」
「僕の憧れはこの中にいたんだ」
熱く語る男に対して、校長を目頭を押さえた。
「最近は戦闘学に農業を取り入れるという立派な提案を出してくれたのに、君はどこでまた変人に戻ったんだい?」
言う通り、校長の目の前にいるのは、序列者の権限を活用して戦闘学が保有する敷地に農業施設を作ろうと提案した人物だった。
「君の書いた企画書は完璧だった。統括長も文句を言わずに承諾してくれたのに、君は」
「あ、ごめん、それもアニメの影響」
「……アニメ?」
「農業ものの学園アニメを観てね、僕もやりたいと思って提案した」
彼が語った内容に、校長は目眩に支配される。そんな思いつきの考えで書かれた企画書を、自分が通してしまったのかと、心の中で後悔を呟く。
「少しキレたよ」
「うん?」
静けを持った呟きの後、校長は表情を爆破させた。
「君はアレか!考えたらすぐにやりだす子供なのか!そんな理由であの企画書を作成したのか!」
怒鳴り散らすのは、目の前の彼に溜まった鬱憤の数々が原因だった。校長の頭に白髪が生えている原因は、彼の今までの行動も含まれていたからである。
「ちょっ、ちょっと落ち着こうか。このまま怒ってたら白髪が増えるよ」
「誰のせいだと思ってる!」
年齢にとらわれない喋り方をする校長の前で、男は両手を前に出して、『落ち着いて』のジェスチャーを行う。
「実は真面目な理由があるんだ」
真剣な表情を作っても、事実を隠すことはできない。彼に対する校長の信頼度は限りなく低くなっていた。
「僕は本当に考えたんだ。どうやったら新しい自分を目指せるか。五年前に大勢の大人が戦闘力を失っただろう。だったら残された世代がちゃんとしないといけないと僕は思うんだ。」
「……それで?」
「僕は序列二位の立場を持っているけど、まだ足りないと思った!」
「つまり序列一位に?」
「違う。新たな希望を創り出すんだ」
「希望?」
「アニメだよ」
「……」
黙り込んだ校長は何もかも終わった瞳で、目の前の変人を見つめ続ける。
「まずは能力を強化しようと考えたのが始まりだった。でも、この学園には僕以上の同一系能力者は存在しないだろ」
「……」
「手本や参考が無ければ強化は難しい。だから探してようやく見つけたんだ。アニメの中にね」
「……」
「それで再現もやってみたんだ。そしたら新しい世界が見えブゥヴェバッァ!?」
校長の人体強化パンチを顔面にくらわせられ、彼は最後まで言い終わる前に黙らせられた。
「君の言い分には聞き飽きた」
いつ立ち上がったのか、気づいたら校長は机を挟んだ先にいた男の前に移動し、人体強化した右ストレートを放ったのだ。
当然、男は吹っ飛び、二バウンドして床に仰向けで倒れた。
「ちょっ、ちょっとストップ!僕は生徒で貴方は校長だ!暴力はいけないよ!」
「君の実力は僕と拮抗しているだろう。だから問題ない」
「日本支部の一番偉い人が『問題ない』って言っちゃったよ!?統括長に知られたら大変じゃない?だからここで終わりにしよう、今なら黙っているから!」
「私の行動が大変なら統括長も大変な人種だよ。あの人は同性愛者だからね。しかも未成熟の女の子には目がないぞ」
「何その事実!?」
会話をしている間にも、校長は着々と人体強化を発動し、肉体は強化されていく。
「今のは頬の感触が硬かった。反射的にかな?当たる直前に強化したんだね」
「待って待って腫れてるから!?赤色を通り過ぎて紫になってるよ!それに一秒以内の強化なんて効果が知れてるよ!」
「鏡も見ずにそう吠えられるってことは、もう二発は」
「マズっ」
顔全体から色を失う。その彼を前にして、徐々に距離を詰めて行く校長は薄い瞳を向けていた。
そして追撃を放とうと、拳を強く握り締める。だが、
「ちょっぉぉぉぉおおぉぉぉぉぐぇぇええ!」
「ん?」
校長は疑問を浮かべた。何故なら、視線の先にいた彼が、突然壁に吹き飛ばされたからだ。
そして、一つの答えが頭によぎった。
「灯花くん?」
「気づかれました?」
少女の声が空間に広がる。姿はない。だが、この場に第三者がいることを校長は見抜いた。
「いや、今の現象を見るまでは気がつかなかったよ。えーと、ん?ここかな」
校長が手を伸ばしたのは、何も無い空間だ。
だが、その掌は物体に触れていた。
手の位置から段々と色が空間に現れ始め、戦闘学の制服を着た少女が姿を見せる。
校長は幼さを持つ少女の頭に手を置いていたのだ。
「場所を特定されるとは、私もまだまだです」
「十分すごいさ」
「殺気があれば気づいていたでしょう」
頭を撫でる大人と笑みを浮かべる少女の光景に、暖かい雰囲気が漂う。
だが一人、無視されている人間がいた。
「灯花ちゃん?おーい灯花ちゃ〜ん。何やってんのかな?僕を投げるってヤバイよ?付き人失格だよ」
壁で崩れた逆立ちをしている男に、少女はケロっとした表情で振り返る。
「えっ、良いんですか?だったらすぐに辞めます。私はこれで自由です」
「冗談だよ!だから本気にしないで!」
短い黒髪を揺らす少女は、本気の瞳だった。そんな少女の言葉に校長も同調する。
「彼の付き人は大変だろう。だったら私と来るかい?」
「ちょっと校長!?」
「良いんですか?」
「待って!誘いに乗らないで!お願いだから僕を捨てないデェヴェバッァァ!?」
四つん這いで近づいてきた序列二位を、灯花は本気で踏みつけた。
「待って!?ちょっとしたご褒美だけども!その黒タイツはとても魅力的だけども!この場で押さえつけるのはやめてぇええ!」
「ありがとう灯花くん。そのまま彼を逃さないでくれ」
「さっきは私が我慢できずに投げてしまいましたから、次は校長がどうぞ」
「校長、前に戦闘学の正門の受付担当者が倒れていたでしょう。それやったのこの人です」
「あー、アレは君だったんだね。じゃあその分も含めてお仕置きの開始と行こうか。ねぇ、光崎天乃くん」
これからもよろしくお願いします!
少しグレーな内容を修正しました。