第54話、詩織「ーーーー」
書きあがりました!
『昨日も投稿しましたので、順番の確認をお願いします!』
前回の話を少し修正しました!
「おはよう広樹くん」
「……おはようございます」
デジャブ…
何故か少し前の詩織と、目の前にいる校長の姿が重なったように見えた。
場所は広樹が住むマンションの玄関。朝8時に鳴らされたインターホンを聞き、扉を開けてみたら白髪が混ざった校長がそこにいた。
「ちょっと話があるのだが、上がらせてもらってもいいかい?」
「ええどうぞ」
少し戸惑いがあるものの、校長を家に上げる。
「ほー、カノンか。素晴らしい曲を聴くんだね」
「ええ、まあ…」
校長の耳に聞こえてきたのはパッヘルベルの『カノン』。
リビングに置いたコンポから、その曲が家中に流れていたのだ。
「防音完備だったので…もしあれでしたら曲を止めますが」
「いやいいよ。この方が話しやすい」
「そうですか。ああ、ソファにどうぞ」
返事をしながら、ソファに座ることを勧める広樹。それに校長は軽く頷いて腰を下ろした。
「今何か入れますよ」
「ああ、ありがとう」
広樹はそう言って、キッチンに立つ。
(やっぱり…あの件だよな…)
当然その中身に打ち震えていた。理由は当然、以前の任務に他ならない。
思考を止めずに、手慣れた動きで珈琲豆(粉タイプ)をカップに入れ、電気ポットからお湯を注ぐ。
砂糖とミルクを棚から取り出して、カップを乗せた小皿を持って、校長のいるソファーに身体を向けた。
「ありがとう」
カップを受け取り、お礼を言う。
「それで、今日はいったい…」
「まずはお礼を言わせてほしい」
「お礼ですか?」
「ああ」
疑問の声が上がる。当たり前だ。お礼を言われることをした覚えがなかった。
だが、校長はそんな広樹に真っ直ぐ向かって、頭を下げた。
「今回の件は本当にありがとう」
「ちょっ、校長、俺はお礼を言われることは何も……俺は失敗を…」
「何を言っているんだい?君は良くやってくれたよ」
「いえ本当に、俺は何も、寧ろぉっ!?」
「それ以上言うなら、もう一発するよ」
広樹の途切れ途切れの言葉を遮ったのは、校長のチョップだった。
「もうこの話は終わろう。君はもう何も考えなくていい。分かったかい?」
「…………ええ、分かりました」
デジャブだった。
ホテルを発つ時に慰めてくれた詩織の姿が、校長と重なって見えた。
戸惑いがあるものの、その言葉を心身に受け止めて、広樹は憔悴を見せた顔で思考を停止させた。
「それより本題があるんだ!」
校長は力強い声を上げる。暗い顔を見せる広樹がそうさせていた。
「広樹くんのクラスは今閉鎖中だろ。それと合わせて情報の伝達に不備があってね。広樹くんにイベントの知らせが届かなかったんだ」
「イベントですか…」
広樹の反応に、校長は笑みを見せた。
「ああ、その名も『プロモーション』だ。説明するとねーー」
『プロモーション』。
五月下旬に行われる新入生歓迎イベント。入学したばかりの中等部の生徒を交えた合同演習。
参加対象は中等部と高等部。自由参加。
それぞれが戦闘力を活かした演習を行う。
チーム戦であり、中等部は六名〜八名、高等部は二名〜三名で受け付け可能。
「ーーと、ここまでが昨年の話だったんだが、今年は追加ルールがあってね」
『追加ルール』。
今年は戦闘力以外の技術向上を狙うため、銃器などの装備の使用を許可。
装備は検査を受けて、合格した物以外の使用を認めず、弾薬は演習専用のを配布する。
「ーーまだ追加ルールはあるんだが、簡単に説明するとこんな感じだ」
「そうですか…自由参加ということは」
「ああ、分かってるよ。君の言いたいことは」
校長は見透かしたような瞳で広樹を見る。
「君は戦闘学に来たばかりだ。だから、いきなり参加したいとは思わないだろう」
「……ええ、まあ」
本当の理由があった…だが、互いがそれに触れることはない。
(戦闘力を持ってないことがバレるっ)
(広樹くんを参加させたら私の精神が崩壊するっ)
偶然にもお互いの思考が生んだ奇跡。
それによって二人が納得する位置に着地したのだ。
「では、広樹くんは参加をしないんだね」
「ええ、今回は観戦を…観戦席はあるんですか?」
「ああ、あるよ。それと実況もあるんだ。観る者たちが状況の理解をしやすくするためにね」
「じゃあ観戦させてもらいます」
「分かった。……念のために聞くけど、登録の締め切りが数日後なんだが…参加しないよね」
恐る恐ると念を押して聞く。
当然、間違いがないように確かめるためだ。
「はい。たぶん頼まれても参加はしませんよ」
当然それが広樹の答えだ。その言葉を聞いて、校長は安心した表情を見せる。
「じゃあ私は戻るとしよう。コーヒーご馳走さま」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
扉が閉まる。
聞こえていた曲が耳から消え、校長は廊下を歩き出す。
そして…
「広樹くんの参加への懸念はなくなったね」
「ーーーー」
「では、詩織くん。今から君に任務を言い渡す」
暗く重たい雰囲気を帯びた校長の前には、姫路詩織が立っている。
「今回のプロモーションで、序列十位の立場を持って、参加者全員をーー」
読んでくれてありがとうございます!