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第53話、統括者『……ムフフ』

書きあがりました!


『一昨日も投稿しましたので、順番の確認を!』

「魔笛ですか……確か」


『ああ、あの人気オペラだね』


「それを八歳の少女が…」


そのオペラは天草先生も当然知っていた。そして、知っているが故に信じられなくもあった。事件に関わってどうしてオペラが出てくるのだ。


『過去に救助されてきた戦闘力者の中で、そういった変化が見られた者は一人もいなかった。多くは心的外傷による精神不安定が主だったんだけどね』


「原因などはお調べに?」


『色々と検査もしたけど、原因不明…とりあえずは現状観察にして、私が直々に面倒を見ているよ』


「ぇ!……」


不意に漏れた。


『おーい、そこの日本トップくん、何か言いたいことでも?』


校長の漏れ出た言葉を、統括者は確かに見逃さなかった。


「い、いえ、統括長が自ら世話をするのは、少々驚きでしたから」


校長は微汗をかきながら笑みを返す。

だが、彼の思考は止まらず、唾を飲み込んでしまう。


「……」


『喧嘩なら買うよ?』


「申し訳ありません!」


その沈黙に失礼な考えを感じたのか、統括者は一言そういった。


表情が見えないが、その言葉には怒りがあった。その答えとして、校長は本気の謝罪を見せる。


『まぁその話については後で聞くとして…続きを話すよ』


一呼吸を置いて、再び語り始める。


『彼女が戦闘学に入りたいと言った理由は、調和操作ハーモニー・オペレーションにあったんだ』


「能力にですか」


『彼女はね、能力を使って自分の脳に何か影響を与え続けている。私の勘だけど、何かを探しているみたいなんだ』


「記憶に干渉を」


『分からない。でも、そこからが色々と問題になってね。その解決のために』


ここからが統括者が用意した本題の説明だった。


『アイリちゃんを日本支部に送るから、世話を頼みたい』


「それは……お断りを」


「えっ!?」


沈黙もあったが、淡々と統括者に断りを入れた。

そんな校長の姿に素っ頓狂な声を上げる天草先生。

貴重な人材が来ることを拒むとは思っても見なかったからだ。


『とりあえず理由を聞こうか』


「他の支部からの反発ですよ。日本支部は序列者だけでも文句を言われているのに、未知の力の持ち主を入れた際には」


『そこは大丈夫だ』


言葉を遮り、統括者は曖昧な姿を揺らす。


『それを決めたのは、エデルマンご夫妻なんだ』


「っ…それはいったい」


『ご夫妻はね、最後までアイリちゃんを戦闘学に関わらせるのを反対していたんだ。でも、アイリちゃんの反発が強すぎてね……』


語られるのは、三者面談に似た光景での出来事。


『話し合いの結果、最も安全な国にある支部に入れることになったんだ。まだ八歳だけどね』


「安全な国…何故日本が?」


『君は何も知らないんだね…』


無知な校長を前に、呆れた声を上げる統括者。


『お金はかかるけど、とても安全な国。それが世界から見た日本の評価なんだよ』


それが日本だった。

それを忘れているのが日本人の悪い癖でもある。


「しかし、アイリ・エデルマンの出身国の支部への説明はどうなさるおつもりですか?その国で生まれた戦闘力者は、その支部で預かるという規則が」


『はい、そこも大丈夫』


再び遮る統括者。


『今回のアイリちゃんの誘拐に際して、その支部への信用が無くなってね。主にご夫妻からの言葉が大きかった。だから、今回の件については認めることにしたんだ』


「……」


問題を潰した言葉に、校長は沈黙を見せる。


『沈黙は肯定ということで良いね。じゃあ彼女を送る日なんだけど…『プロモーション』の後で良いかな?』


統括者が口にしたのは、近々行われるイベントの名前だった。


「ええ、大丈夫です」


『じゃあ決定だ。にしても今回のプロモーションは波乱がありそうだね。主にあの男の子で』


その予感は日本支部の全教職員が持っていた。何故なら今回は彼がいるからだ。


だが、それに対応するのが校長の役目である。


「広樹くんについてなら、参加をしないように説得するつもりです」


『ほお、確かに思いつく理由を並べれば説得になるかもしれないが、本人が認めなければ意味がないよ』


「いえ、彼は絶対に参加は断るはずですよ」


『強く言うね。その根拠はなんだい?』


自信溢れる校長に、統括者は明るい声で理由を聞いた。


「彼は力を見せることを嫌っています。プロモーションの説明をすれば、彼は参加を辞退するでしょう」


それが校長から見た、荻野広樹の像だった。力を隠し、勝利を得る。故に今回のイベントにそれを行うのは難しく、参加を断る可能性はとても大きかった。


『嫌っていたのかい?それは初めて知ったね。…なるほど』


統括者は納得を見せる。映像を見たからか、校長の自信溢れた言葉を聞いたからか、だが、それは混じり気のない納得の声だった。


『じゃあ話は終わりだ。アイリちゃんの資料を送る。後で確認してくれ』


「了解しました」


『じゃあ、私はこれからアイリちゃんに説明を』


「ぇ!……」


『喧嘩だね、そうだね、私もアイリちゃんと日本支部に行こうか?』


「……ぁぁああ!もう!統括長ぉお!もうハッキリ言わせてもらいますよ!」


ついにキレた。その理由は当然、厄介ごとを押し付けられたことが引き金だった。


「統括長の近くに未成熟の女の子を置いている時点で恐ろしいんですよ!!」


『言うねぇえ!!私の何がいけないんだい!!』


統括者もキレた。


「葉月くんから聞きました!本部で統括長から逃げ回ったってね!」


今回の任務の都合上、葉月は本部に一度訪れていた。そして日本支部に帰還後、その事実を聞いたのである。


「統括長の偏愛は異常過ぎるんですよ!」


『異常とはなんだい!汚れもない綺麗な光景がそこにあるだろう!』


「見た目と性別よりも年齢を考えろって言ってんだよ!」


校長の姿が若々しく見え始めたのは、天草先生の錯覚だろうか。

統括者を目の前にして、色々と解放した校長の姿が十代の少年に見え始めていた。


『君が小さかった頃はまだ可愛かったのに、今はもう老いぼれになったね!今の君には何も湧かないよ!』


「まだ四十代だ!そんなに老いぼれてはない!それにアンタの方が数倍歳とってるの知ってるからな!」


目を丸くする天草先生の前で、怒涛の言い合いが繰り広げられる。


だが、女性教師の中で、統括者に失礼な口の聞き方をしても良いのかと、恐怖心が芽生え始めていた。


「校長、そろそろその辺で…」


「邪魔をっムゥ!?」


『やっと黙ったね』


何をしたかと言うと、天草先生が校長の口を右手で塞いだのだ。

上司の失敗を部下が助ける流れである。


『話は以上だ。今回の非礼の数々は天草くんに免じて無かったことにするよ』


「ムグゥ!」


「校長!これ以上日本支部の恥を見せないでください!」


遂には人体強化を発動しようとする校長だったが、その前に統括者の姿が薄れ始めていた。


『アイリちゃんの管理体制の準備を頼んだよ。じゃあね』


その言葉を最後に統括者の姿が消失。残ったのは口を塞がれた男と、塞ぎ続けている女の二人だけとなった。


「……」


「校長、手を離しますよ」


一言告げて、天草先生は校長の口から手を離す。微妙な湿りを見せるてのひらを、出したハンカチで拭き取りながら、沈黙する校長を見た。


「無礼を働いて申し訳ありません」


「いや、私が爆発していたのがいけないんだ…はぁぁ、あの人とは会うだけで精神がどうにかなってしまうよ」


「校長は統括長と仲が深いのですか?それに偏愛や年齢、性別とは…」


天草先生の中で、さっきの言い合いには多くの疑問があった。


「ああ、天草くんは統括長のことに詳しくなかったね」


遠い目をしながら、校長はゆっくりと腰を下ろした。


「だがすまん、もう今日は本当に疲れたから、その話は今度にさせてくれ」


老け込んだ。若々しく見えた姿から一転して、老いぼれの姿になったのである。


「私は少しここで休んでから帰るから、天草先生はもう行きなさい」


「…分かりました。では、私はこれで」


疑問を残す形で天草先生は部屋から姿を消す。


部屋に残ったのは校長のみとなった。


「はぁ、今日は本当に…………」


暗い部屋の中で、背もたれに体重を乗せる男は、今日を振り返って瞳を閉じる。


「……貴女と関わると、ロクなことにならない」


懐かしむように、そう言った。

読んでいただきありがとうございます!

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