第44話、斉木「じゃあ、そろそろ行きますか」
お久しぶりです!
長く投稿が遅れて申し訳ありませんでした!
書きあがったので!ぜひ!読んで欲しいです!
今後も出来る限り頑張っていくので!
どうかよろしくお願いいたします!
申し訳ありません!9月17日に修正を加えました!
空港内のとあるカフェの席。
広樹は向かい側には、白髪の少女が腰を下ろし、白いカップを口につけていた。
「何でここに?」
広樹の率直な質問が少女の耳を打つ。
「……任務で来た」
「任務…俺も任務でこの国に来たけど、もう終わったぞ」
そうだ。もし少女の役割が任務の途中参加者だった場合、作戦が終了した今、ここにいる意味はもうなかった。
しかし、
「……それとは別」
否定した少女はカップをテーブルの上に置き、続けて言う。
「……助ける仕事」
助ける仕事。
その足りない言葉を聞いた広樹の中で、誰を、何で、何から助けるのかという新たな疑問が生まれかける。
だが、生まれる前に広樹の心に寒気と震えが訪れていた。
「人助けか。……ぁぁ」
広樹は前日起こした問題を思い出したのだ。
早朝の頃から徐々に回復した精神も、蘇る記憶によって再び影がかかる。
「……どうしたの?」
無表情ながらの葉月は広樹に質問を投げかける。
少女の声に、広樹は淡々と言った。
「俺も任務があったって言ったよな」
「……うん」
「それでみんなに迷惑をかけたんだ」
唸りながら口を動かす広樹。
昨日の記憶によって、消えかけていた鬱が再発。
顔色を徐々に悪くしていった。
「……」
ふと目があった少女に、広樹は小さく息を吐き出し、
「悪い、ちょっと変な空気にさせた」
「……構わない」
葉月は小さく首を横に振る。
だが広樹は、年下に見える少女に愚痴を言ってどうするんだ、と心の中で嫌悪を抱き視線を下に傾けた。
その様子を見た葉月は、ゆっくりと一息吸い込み、
「……今度…私と行く?」
「…?どこに?」
「任務」
広樹は葉月の提案に目を丸くし、次に揺れ動く。
少女はなおも、視線の結び合わない広樹の瞳を見つめながら言葉を重ねる。
「……私と来れば…誰にも…迷惑かけない」
「……」
その言葉一つ一つに、広樹は段々と考え込むように表情を俯かせる。
「……私がメイン…広樹はサポート」
「……」
「……簡単な仕事」
「……」
「……私と組めば…落ち込まないよ」
重なる言葉の数々に広樹はゆっくりと顔を上げて、葉月の青い瞳を見た。
「広樹くん!朝ぶりー!」
広いロビーに備わったソファーに座る広樹の背後に、明るい女性の声がかかり、その声を聞いた広樹はゆっくりと首を動かした。
「お疲れ様です天草先生。詩織も」
「ただいま広樹」
詩織も広樹の顔を見て言葉を返す。
「広樹くん。私たちが来るまでに変な大人に話しかけられなかった?ん?」
広樹は、何かおちょくる言い方で質問する天草先生に首を傾げ、
「変な大人ですか?…いえ、なかったですよ」
「なら良かった!ほらね、最近外国って物騒だから、ちょっと心配だったのよ!」
「はぁ」
「適当な言葉を重ねて誘拐とか」
「はぁ」
「何か優しい言葉をかけられて、ほいほいついて行ったらどうしようかと心配で」
「先生、心配し過ぎですよ」
詩織の横槍に、天草先生は少女に首を回し、
「だって〜!広樹くんなのよ!」
「だっても、なにも無いですよ」
そう言って、高い位置にあるモニターに視線を飛ばした。
「そろそろ時間ですよ」
真っ直ぐすぎる言葉に、ブゥーと声を上げながら荷物をかけ直す。
「ちょっとは心配してもいいと思うのにねー、ねー広樹くん」
「いや、もう俺も高校生なので、そんなに心配されると逆に困るといいますか…」
「そういうことですよ、理解してください天草先生」
少年の返答に便乗するように、少女は言葉を紡ぎ、教師は小さく頬を膨らませた。
「いいわよっ、詩織ちゃんと広樹くんは私の気持ちを理解してくれない不孝者、いえ不孝生徒よっ」
プンプンさせながら、先頭を歩き出す天草先生。
その後方を三歩遅れて歩き出す詩織と広樹。
「どうして、私の気持ちを私が担当している生徒に理解してもらえないのかなー」
「まだ言いますか…」
「私がどれくらい生徒のことを思っているのか知っているのかなー」
「……」
愚痴愚痴言う天草先生を目の前に、呆れた言葉を漏らす詩織と、無言で淡々と歩く広樹。
「天草先生のそういうところがちょっと嫌いです」
「うわー詩織ちゃんが私の事が嫌いだってー」
「別に生徒の事を大切に思っているのは良いんですよ。でも思い過ぎるのは逆に嫌なんです」
「まあっ、今の私が思い過ぎているですってー、今でも私にとっては普通というレベルなのよ。なんなら、これから私の思い過ぎているレベルで扱ってもいいのよ」
半分オネェ口調を混ぜた天草先生の言葉に、詩織は気持ち悪いものを見たように、顔色を薄くした。
「本当にやめて下さいよ」
「私の本気は、赤子を抱きしめる繊細さと愛情を持つレベルよ」
「気持ち悪いです」
「そして段々と実の子供のように触れて」
「……」
「私好みの私服を買って着せて、ピクニックに行くレベルだわ。あっ、当然だけど、私の手で着替えさせてあげるから」
「……ゥ」
両腕を身体に巻きつけ、くねくねしながら冗談かも分からない愛情を口に漏らす天草先生。
その背後で吐き気に似た気分に襲われる詩織。
会話に入らない広樹は、淡々と聞き流しながら歩き続ける。
詩織はそんな広樹に視線を向けた。
「広樹、さっきから何も喋らないけど、どうしたの?」
「ん?いや、女同士の会話だからかな」
広樹の無感情が伝わる顔つきと、意思が入っていない声音。
その少年の雰囲気に違和感を詩織は感じた。
「…何かあった?」
「……」
「朝と雰囲気ちょっと違うから」
詩織の求める声に、広樹はただ歩くだけで口を開かない。
「言いたくないならいいけど…できれば理由を知りたい」
切って繋いだ詩織の言葉。
少女の明るい色をした瞳が、広樹の横顔を見続ける。
その言葉に釣られて、天草先生も先頭を歩きながら背後を意識した。
「…ごめん、詩織」
「ん、昨日の任務のことならもう終わったことよ。それに広樹は何も」
「そうじゃないんだ」
少女の声に重ねるように、少年は言葉を続けた。
「本当にごめんな」
「……何がごめんなの?」
一瞬遅れて、詩織は広樹に質問を向ける。
言いづらそうな表情をする広樹の顔が、今まで感じたことの無い違和感を覚え、詩織は半分好奇心、半分恐怖心で広樹を見た。
「葉月」
霞んだ灰色をした短髪。
黒いスーツを着込み、片手にアタッシュケースを持った女性は、空の白いカップを膝に置いた少女に話しかけていた。
「まあ、あれですね」
「……」
「振られましたね」
しみじみした言葉を続ける女性に、少女はカップの底に視線を落とす。
「……さやか」
「はい、何でしょうか」
さやかと呼ばれた女性は、片膝をつき、少女の目線の高さで言葉を聞く。
「……何で断られたのかな」
「さあ」
「……私が原因?」
「どうでしょうか」
「……また溶かされたい?」
「いえ」
さやかは葉月の宣告を断る。
「久しぶりに女性になったので、しばらくはこのままでいたいですね」
「……だったら、言葉を選んで」
少女は感情の持たない顔をしながら淡々と言う。
「……また斉木になる?」
「それは嫌です」
葉月の質問に、さやかは瞳を揺らしながら、言葉を続けた。
「それに広樹くんが戦闘学にいる以上、斉木を出してもしょうがないでしょう」
「……斉木も転校させる」
「いやいや、そんな都合の良い話が通るわけないでしょう」
「……」
「それに斉木の国籍を政府に作らせて、高校に転校させるのも苦労してましたよね」
「……」
黙り込んだ少女に、さやかは過去と現実を叩き込んだ。
それが斉木の存在だった。
「はぁー、話を戻しましょう」
「……」
さやかは溜息をこぼしながら、暗くなった少女の顔を見つめる。
「葉月はどうしたいのですか?」
「……広樹とーー」
最後の言葉だけは、さやかの耳に確かに届き、その瞳に光りを宿した。
「では、私から一言あります。さっきのアプローチは良かったです。葉月なりに頑張ったと思います」
アタッシュケースを葉月の足元に置き、カップを両手に持って、返却口に視線を回す。
「チャンスは作りました。では私は飲み終わったカップを返しに行きますので、十分お暇します」
「……チャンス?」
一転してさやかの発した言葉に疑問が生まれる。
だが、その疑問を口にする暇を与えずに、さやかはその場から去った。
最後に顔を上げて見ることができたのは、半分慌てながらの早歩きを見せる女性の後ろ姿。
「葉月」
名前が呼ばれる。
首を回して見ると、そこには慌てた様子で立っている広樹がいた。
「…どうしたの」
突然の再会に声を詰まらせる。
だが、焦る広樹はそれに気づく暇もなく、ただ口を動かした。
「俺のスマホを見なかったかっ、気づいたら失くなっていて、そろそろ待ち合わせの時間だから、早く見つけないとっ」
静かな雰囲気のあるカフェで大声は出せない。広樹は慌てながらもそれを守り、最低限のボリュームで葉月に言葉を続けた。
「来た道を探しながら来たんだけど見つからなくて、後はここくらいなんだ。もしここじゃなかったら…いや、このカフェから出てすぐにぶつかった黒スーツの女、何か違和感が…」
その言葉を聞いた葉月は、青瞳を足元に向けた。そこには、さやかが隠すように置いたアタッシュケース。
その取っ手の所に何故か置いてある…
「…これ?」
スマホを手に取って、広樹の前に掲げた。
広樹はとっさにそれを葉月の手ごと掴み、はぁぁ〜と空気を吐き出した。
何かが抜けた表情をして一呼吸。
「良かったぁぁ〜」
出たのは安心から生まれた言葉だった。
彼はもうこの国を発つ。今見つけられなければ、もう探せないのだ。
広樹の中で大きな脱力感が訪れる。
「サンキューな。持っててくれて」
どうしてここに広樹のスマホがあるのか。
本当の理由を知る少女はただ返事を返すことしかしなかった。
「じゃあ、そろそろ時間……葉月」
すぐに歩き出そうとした足を止め、広樹はゆっくりと、
「さっきの誘いなんだけど、断ってごめんな」
謝罪を口にした。
それは葉月の提案を断ったことへの再び謝罪だった。
「言い方が悪いと思うけどさ、今の俺にとっては葉月の提案はとても嬉しかったよ」
「……」
「お前がやる仕事なら、俺も手伝える内容だと思った。それも落ち込まずにやりがいのある仕事と思えたんだ」
広樹は葉月の表面上だけを見ていた。
彼女の年齢も、力も、正体も知らない。
故に見た目で彼女の仕事を想像していた。
「葉月自身を断ってるんじゃないんだ。もしもだが、昨晩の前の俺だったら喜んで葉月の誘いをのんでいたと思う」
改めて自分の心情を言葉にする広樹。
それ葉月は淡々と聞き続けた。
「でも、昨晩、俺とチームを組んでいる友達に励まされてな」
葉月は知っている。
広樹が口にする友達が誰なのかを。
「今までその友達に良い感情を持っていなかったんだ。でもそれが昨晩に綺麗に消えて、逆に自分に嫌悪を持ったんだ。その友達を悪く思ってたから」
第十位。
自分よりも九つ順位が下の彼女の面影が、広樹の背後に見えた。
「だから、改めて近くで見たいと思った。次は悪く思わずに、ありのままを見たいって。そろそろこっちに来るから、まずはもう一度謝るよ。そこからまた始める」
葉月は理解できなかった。
当然だ。言葉足らずだ。知りたかった。
少女にとって、彼の説明は足りな過ぎた。
だがそれを口にせず、うん、と声をもらして。
「……分かった」
「ああ、じゃあまた戦闘学で」
「……待って」
その止めの言葉に、広樹は動きを止めて葉月を見た。
会話が終わり、この場から去ろうとした広樹。
彼が振り返れば出入口がある。
自動扉でもなければ、手動扉でもない。
開きっぱなしの扉が彼の背後の奥にあった。
扉の外に灰色の髪をした彼女がいた。
手首をブラブラさせ、次に指を大きく上へ下へとグイッと曲げて伸ばすストレッチを見せる彼女。
流れる動きで次に見せたのは、ボクシングで言うジャブに似た動きだ。
動きはまさにジャブ。
異なるところがあるとしたら。
何故か拳は軽く開き、相手の腰の高さに向けてシュッシュッと腕を伸ばしていることだ。
人の目も気にせず。
ーーもう一度チャンスを作らせる気ですか?
葉月の耳にそう聞こえた気がした。
「どうしたんだ?」
と彼の声が耳に入る。
外にいる人物を見て、表情に見せないが葉月は焦っていた。
依然としてシュッシュッしている彼女はその場から動かず、熱のこもった瞳で葉月の瞳を見つめ続ける。
ーー新しい関係。
少女は椅子から立ち上がる。
「……広樹」
チャンス…
「……アドレス…交換したい」
これからも頑張っていきます!