第43話、天草先生「ピリピリじゃなくて、プリプリだったら良いわよ」
投稿がギリギリになってごめんなさい!
書き上がりました!
ぜひ!読んで欲しいです!
まだ修正していない話もありますが、早めに修正していきます!
6月29日に助言があり、間違いを修正しました!
バスとタクシーが何台も停車発進を繰り返す広いロータリー。
屋根がないことで、日差しが広樹の顔を照らしていた。
『じゃあ広樹くん!空港でーー』
と天草先生から空港で待っているようにと言われ、教えてもらった通りの交通機関を利用して空港の入り口までやって来たのだ。
(まだ二時間以上あるな…)
時刻は午前九時三十分、出発は午後一時の便。
様々な人種が行き交う広いロビーに足を踏み入れながら、腕時計に向けて溜息を漏らす。
(適当に見て回ろうかな)
店舗コーナーが建ち並ぶ空間を二階に見つけ、広樹は近くのエスカレータに向かった。
「詩織ちゃん、ちょっとだけピリピリしてない?」
苦笑いの女性の恐る恐ると言った様子の声が、彼女の耳に入る。
「別にしていませんよ。なんでそう思うんですか?」
「だって雰囲気がちょっとね」
感じたままを、重苦しそうに言う。
「今から戦場に行くような、憎い敵を狩りに行くような、とにかくそんな雰囲気が出ているのよ」
「何でもないですよ」
「…今から空港に向かう?広樹くんの所に」
「大丈夫です」
「でも」
「原因は、今から会いに行く連中にあります。捨て台詞の一つでも言ってやらないと日本に戻った後も溜め込んでしまいます」
黒い車の車内。運転席には微汗を掻きながら前方を見る天草先生、助手席には重い雰囲気を出し続ける姫路詩織が座っていた。
困ったような顔つきの天草先生は、片手でボタンを押して窓を開く。
「捨て台詞もいいけど、正式には臨時的な報告会なんだから、攻撃的な態度はやめなさいね」
外から入ってくる風に髪をなびかせながら言った。
「中心的な部分は作戦中の行動始終の簡単な擦り合わせね。そして話に忍ばせて広樹の話に持って行くつもりだと思うわ」
「……」
詩織は反対側の窓に顔を向け、溜息をつく。
「もしもですが」
詩織は力を抜いた声を出し、天草先生の横顔を見る。
「もし、彼らがまた行き過ぎた言動をしてきたらどうしますか?」
「ああ、それっぽいのが飛んできたらすぐ帰るつもりだから大丈夫よ。どうせ後にも報告会はあるんだし」
「……そうですか」
「何があっても危害だけは加えないでね。後は日本に帰れば終わりなんだから」
そう。日本に帰れば全てが終わる。天草先生は勝ち誇った笑みを浮かべて、近日に開かれる報告会を思い浮かべた。
「後は校長先生が色々とやるわ」
「……はい」
「ヤッホーシオリー!それとあまくさセンセイ!」
眉根を寄せて入室した詩織に、片言が混ざった声が飛び込み、その表情が少し和らぐ。
「おはようメリルちゃん。日本語うまくなったわね」
「おはようメリル、それと別に英語でもいいのよ」
「NO!ベンキョウになるからこれでイイデス!」
メリルは笑顔で不安はないと詩織に返した。
任務中では、早い意思伝達のために使い慣れた言語を使用していたが、彼女は詩織と会う時には日本語を常に使う。
初めて彼女と会った合同任務でどこか気に入られ、この関係が数年たっても続いていたのだ。
「そう、早く流暢に話せるといいわね」
「ハイ!」
一通りの会話を終えて、入室したばかりの部屋を見回す。
警察署に設けられた広めの会議室。部屋の前方にはホワイトボードがあり、それを見るように設置された長机が後方の壁まで続いている。
後方の扉から入室した詩織の目には、大勢の背中姿が映っていた。
「召集時間の三十分前に来たのだけど、すでにほとんどの支部が到着しているのね。でもちょっと…」
「ハハ〜、もう私もムネが苦しいデスよ。オトナたちはみんなピリピリ?オドオド?なんか重いオーラを出してイマスから」
濁った雰囲気を感じ取った詩織は、苦笑いの少女に言葉を漏らす。
「そんな空気の中で、よく明るくしていられるわね」
「シオリがキタからデスよ。わたしもさっきまでオーラにガマンできなくて、机にカオを伏せていまシタ」
「お疲れ様」
苦笑いをしながら吐息を吐き、メリルに柔らかい言葉を伝えた詩織。
その詩織に対して、次はメリルが疑問の意思を持った瞳を向ける。
「ん?シオリ、ヒロキはどうシタノ?」
『!!』
彼女の一言が出た瞬間、視界に映っていた背中が同時に揺れ動くのが見えた。
詩織はその光景に反応を示さず、淡々と答える。
「欠席させたわ。ちょっと無理をしちゃったみたいだから、休ませることにしたの」
「やっぱり昨日の任務デスか」
「ええ、だから私と天草先生だけで参加するわ」
察しがついたメリルは質問をやめる。
彼女は彼の行いを目の前にした一人だ。
故にこの事実に疑問の声は返すことはなかった。
「そろそろ座るわ。ずっと扉にいてもしょうがないし」
「わたしのとなりに座りマスか?」
「今回は遠慮。雰囲気的にその方がいいし」
「そうデスか…」
落ち込んだ面持ちを見せた少女は、最後に軽い一瞥をして、席の方へと向かった。
「では、予定時刻になりましたので、一部の支部の強い希望に基づき、臨時の報告会を始めさせていただきます」
任務開始前に作戦の説明をしていた男性がホワイトボードを背後に、明るい表情と軽い声で視線を集める。
「今回の報告会はあくまで臨時的なものです。なので予定や都合がある支部もあることを考え、途中退室をありとさせていただきます」
彼以外が静かにそれを聞き、ようやく本題に入り込んだ。
「ではジャック・ブラウンくん。Aチームのリーダーを担当した君から話を聞かせていただけますか?」
「はい!」
仕切り役の声に反応し立ち上がる金髪の少年。
詩織のいたチームのリーダーを担当したジャック・ブラウンは、緊張しながら任務中の出来事を口にし始めた。
「通信断絶後、私たちはsoldierとの交戦を開始。そしてーー」
時間のことを考えたからか、ジャックの説明は必要最低限に縮小され、時間もほとんどかからなかった。
そして、次に報告を求められたBチームのリーダー、そしてCチームのリーダーである。
詩織が知らなかったBチームとCチームの苦難もこの場にいる全員が共有し、仮であるが、一つの任務報告書が完成されつつあった。
「ーーそして広大なルームでAチーム、Bチームと遭遇。後はジャック・ブラウンの説明した内容の通りです」
「ありがとうございます。では、主だった情報はまとめられましたので、のちの報告会にこの報告書を使わせていただきます」
最後の報告を終えて、会議の記録を取っていた男性がパソコンの操作を終了した。
やがて、報告会の終了が目前と思われたとき、一人の男の声が上がった。
「あー、日本支部、ちょっとよろしいですかな」
「なんでしょうか?」
緊張を含んだ言葉に、天草先生は何も崩さず自然体にしながら男の質問を聞いた。
「日本支部の報告はこれで終了ですか?」
「はい。そうですが」
汗を額に滲ませる男は、苦虫を噛むような顔つきになる。
「いえ、まだ残っていると私は思うのですが、主に日本支部のもう一人について…」
「もう一人とは、荻野広樹くんについてでしょうか?」
「ええ、彼のことについて」
「何もありませんよ」
その一言によって詩織以外の全員が瞳を見開かせる。
詩織がハァと小さい吐息を吐き出す中、天草先生は言葉を続けた。
「彼は私たちとホテルに戻った後、疲れを訴えましたので休息を与えました。彼の負担を考え、報告は後にするべきだと考えた判断です」
冷静に伝えられた説明に、動揺の色を見せ始めた教師陣。
そして、また一人と質問をする者が現れる。
「しかし、それでは私たちも納得が」
「彼の戦闘服に内蔵された記録媒体の共有を求めたい」
納得の行かない声が上がる中、一つの要求が上がった。
記録媒体。
それは戦闘学が用意した戦闘服に備わる、小型カメラと録音機が搭載された記録装置。
内蔵されたプログラムは、ブラックボックスになっており、各支部の分析班に提出しなければ再生できない。
当然、詩織の着用した戦闘服に付けてあり、昨晩それを取り出し厳重に保管した。
今回の報告会もデータを使用したかったが、当然生徒の情報だけでまとめられた。
その記録媒体は今現在、ここにいる天草愛が持っているのだと、誰もが確信する。
彼らが求めているのは荻野広樹の記録データ。
広樹が生徒たちの前に現れるまでの記録がそこにある。
荻野広樹の情報を得たい彼らは、そのデータを是が非にでも自国に持ち帰ろうとしていた。
だが、その要求は絶対に叶えられない。
なぜなら、
「ありませんよ。彼の戦闘服には記録媒体は備わっていません」
「なっ!?」
要求を口にした男は言葉を詰まらせた。それを聞いた者も例外ではない。
「どういうことですか、何故彼に記録媒体を」
「我が支部の校長の判断です」
「何故そのような判断を」
疑問の声を受け止めながら、天草先生は日本を発つ日の前日に校長と話した会話の一幕を思い出した。
『天草先生、今回広樹くんに用意した戦闘服なのだが、記録媒体は付けていない』
『それはどういった理由ででしょうか、彼の記録は貴重ですよ』
『彼は自分の能力を他者に知られたくないらしいからね。たぶん隠して付けてもバレるよ。もう彼を怒らせたくない』
『それは』
『そして力を隠したい彼なら、記録媒体をなくし、仲間を除外すれば本来の力を振るってくれるはずだ』
上がり続ける疑問の声に天草先生は立ち上がった。
「この続きはのちの報告会でもよろしいでしょうか。便の時間が近づいていますので」
それを皮切りに向けられた言葉の雨は止み、残ったのは顔を青くする教師陣の顔だった。
当然、彼らは後々各支部に帰還する。その際にあるのは支部内での報告会だ。
そして待っているのは、貴重な情報を持ち帰れなかった彼らへのーー
「まっ、待ってく」
「では失礼します。行きましょう詩織ちゃん」
言われかけた言葉に耳を貸さず、自分の生徒に退出の準備を促し立ち上がらせた。
靴音を鳴らしながら扉に差し掛かり、「それでは失礼いたします」と天草先生が先に退出。
そして、
「各支部の教師の皆様方」
瞳の色以外、何も変わりはない自然な表情をする女子生徒は、その場にいる教師陣を見渡し口を開く。
「貴方方が最初に広樹に向けた態度を覚えていますか?」
その言葉を聞いて、小さく震える者が現れ始めた。
「言いたかったのはそれだけです。失礼いたしました」
それを最後に、姫路詩織も担任の後に続き退出。
「ブレンドコーヒー、ワンプリーズ」
黒と茶色の色合いを内装に持つカフェ。
広樹は白いカップをトレーと受け取り、窓際の丸いテーブルにトレーを下ろした。
空港内を散策し始めてから二時間。
本屋や雑貨店を見て回り、適当に一息入れようとカフェに入った。
(時間があり過ぎる…)
与えられた時間に不満の気持ちを抱きながら、カップに口をつけ、ほのかな苦味が口全体に広がる。
カップを皿に置き、この不満を解消する方法を考えた。
知らない言語の会話が飛び交う空間で、広樹はポケットからスマホ取り出し、慣れた操作でアプリを開く。
甘いソングが流れながら、五人の女の子が学園を背景にして笑顔を向けていた。
『俺の彼女はこの娘だけ』
ずっと閉じっぱなしだったアプリを起動し、残った時間を費やそうと考えた。
だが、
『ロ〜ディング♡』
そして、
『しっぱいしちゃった〜、もういちど!』
画面を確認して改めて気づいた。ここは日本ではない。
つまりアプリは開けない。
ハァァと長く息を吐き出した後、画面を真っ暗にしたスマホをテーブルの上に置いた。
「久しぶりにエルに会おうと思ったのに」
お気に入りヒロインの名前を口から溢らしながら、右手でカップを取ろうと腕を伸ばす。
「エル……誰?」
「ん?」
広樹はカップを取らずに、声の聞こえた方へと振り返る。
そして、
「…葉月」
「うん」
これからも頑張っていきます!
これからもよろしくお願いします!