第42話、詩織「広樹…私は…」
書き上がりました!
ぜひ!読んで欲しいです!☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
ちょっと応募も考え始めました(//∇//)
少しずつ読みやすくしていきます!
8月29日に助言があり、間違いと、読みやすくなるように修正しました!
「召集ですか…」
「ええ、今日のことで色々と話し合いたいらしいわ。それも明日の朝。どうにも後日の報告会まで待ちきれないみたい」
ホテルの夜。
部屋に備わったソファーに身体を沈み込ませている女教師と、白いベットの上で傷の手当てをしている女子生徒の姿があった。
「もしかして、広樹のことでですか?」
「それしか理由はないわ。分かっていたことだけど面倒よね」
はぁぁ、と目に掌を被せ重たい息を吐き出す天草先生。だが、次にその口元は何か嬉しそうに小さく吊り上がった。
「まぁ、向こうの優先目的は広樹との接触なのは確実ね。だって、彼らは何も知らずに広樹の前で色々と」
「計画が読めてきて、ほんの少し引きました…」
包帯で巻かれた肩を撫でながら、言葉を遮る詩織。今回の魂胆のような考えを感じ取った少女の瞳は、天草先生の思考を看破したのだ。
「ちょっと子供染みてますよ」
「頭脳戦よ。それに全部向こうの自業自得じゃないの」
「それは否定しませんが」
「フフッ」
小さく笑う天草先生に、詩織は内心で苦笑した。
やっと仕事が終わったのだと思った矢先に、次の面倒ごとが降りかかったのだ。
白いシャツを羽織り、治療道具を片付けながら、明日のことを考える。
「それで、明日の召集に応じるんですか?」
「勿論、ちゃんと行くわよ。『広樹くん抜き』でね」
しれっと、笑顔で返された。でもそれだったらという疑問が詩織の口を動かす。
「それなら最初から行かなくてもいいじゃないですか?」
「断ったら、彼らが強行的な手段をとって接触する可能性もあるのよ。だから、行くと言っておいて来るのは私と詩織ちゃんだけ。もしも広樹くんが来なかった理由を聞かれたら『任務で頑張り過ぎて疲れが』とか言ってやればいいわ」
それだけ聞けば筋は通っている。だがどこか悪意のある言い回しだった。
「……妙に相手の傷を抉ってますが、何か恨みでも」
「恨みなんてないわよ。ただ」
天草先生は嘆息して背伸びをする。
「私は自分の生徒を見下す大人が許せない教師なだけ。まぁ、そう誘導した私だから何とも言えないわね」
苦笑交じりの言葉に、詩織はむしろ嬉しそうな様子で自分の考えを口にした。
「今回の任務で天草先生は一度も嘘をついていないので、文句を言われる筋合いは無いと思います」
天草先生が何かを言う前に、相手から言ってきたのだ。それに文句を言われない筋合いがもう一つ。
「それに広樹が実力者だと公言していましたし」
相手に真っ向否定された天草先生の発言だ。それを邪魔なホコリを払うように無視し、広樹を追い出した彼らの責任は大いにある。
それを聞いた天草先生は嬉しそうに頬を緩ませた。
「彼らが広樹くんを貶した発言事態も私の誘導した流れだったんだけど、それを行う私をどう思った?」
次に見せた冗談を思わせるニヤけた教師の表情に、詩織は眉根を寄せながら吐息を吐く。
「当然心中を痛める教師に見えましたよ」
詩織は天草先生がどういう人なのか知っている。
彼女は生徒を傷つけることを最も嫌う理想の教師だ。
その彼女が今回の誘導を行ったのは、きっと苦渋の末の決断だったことは詩織の中で分かりきっていた。
何かを確かめるような質問をした教師に小さな対抗心を抱いた詩織は、適当な嫌味を口にする。
「まぁ、別の手段があれば、今頃広樹はクラスメイトと授業をしていますよ。今現在、どこかの担任教師のせいで広樹は授業に出られませんけど」
「っ、痛いところを突いたわねぇ。私もそれについては後悔しているわ。なるべく早く広樹くんをクラスに復帰させたいとも思ってる」
苦いものを飲み込んだような顔で、天草先生は弁明に似た感情を表に出す。それを見た少女は、先程に見たニヤけ顔を真似し、はぁぁと落ち込む教師の前に立った。
「今のままでもいいですよ。私も授業に参加しなくてもよくなりますから」
「……言ってくれるわね」
余裕そうな表情をする詩織の態度に、天草先生は今度こそ屈託のない笑みで顔を上げた。
「詩織ちゃん!改めて言うけど無事に帰ってきてくれてありがとう!」
早朝、着替えを終えた広樹はホテルの一階ロビーで詩織と天草先生を待っていた。
そして、
「どんな顔をしていれば…」
俯きながらソファーに座る彼は、
「誰にも会わせる顔が…」
今もなお、苦しむ顔をしていた。
その理由は当然昨日のことだ。あの不祥事が今後にどう悪影響をもたらすことかは容易に想像ができる。
全てを危険に晒したのだ。
複数の支部が共同で行った作戦で。
下手をすれば全員が死んでいたかもしれない。
その思考が止まらず、広樹は落ち込みを加速させていたのだ。
「広樹くんおはよう!十分前に集合しているなんて偉いわ!」
振り返ると、昨日と変わらぬ黒スーツを着用した担任教師、天草先生が立っていた。
彼女の元気な振る舞いは初対面の時から変わらずポジティブだった。
「先生、明るいのは良いですが声が大き過ぎです。皆さんから注目を集めていますよ」
その背後には、天草先生と相部屋だった制服姿の詩織が付き添う。
明るい長髪の影から覗かせる首から襟元までに巻かれた包帯を見て、広樹の呼吸にわずかな乱れが生まれていた。
「あの…天草先生…」
「ん?どうしたの広樹くん」
申し訳なさそうな態度を出す広樹の姿に、天草先生は小さな疑問感を抱く。
「昨日の任務のことについてなのですが…」
「うん」
「……本当に申し訳ありませんでした」
「!」
「俺のせいでみんなに(迷惑を)…」
「それは違うわ!」
天草先生は声を被せてそう断じた。
そして、広樹の両肩を強く握りしめる。
「広樹くんのせい(でみんなが怪我をしたん)じゃない。あなたは自分を責めなくていいの。むしろ」
「じゃあ、誰のせいになるんですか」
「それは…」
天草先生は何も言えなかった。
その答えは結論から言えばWDCである。だが、それは任務の遂行上、逃れることのできない被害であり、彼の欲する理由にはならないと分かっていた。
彼が知りたいのは、その被害を大きさについてだ。
もっと最小限に抑えられたのではないか。
誰かを怪我させることはなかったのではないか。
詩織から持たらされた情報を組み合わせても、彼は一人でも任務を遂行できていた。
それと合わせて彼は任務に参加した生徒全員を窮地から救ったのだ。
これ以上の結果を望んだら彼はどうなる。
複数の支部が実行した共同作戦。その危険度が高い作戦で、一人も怪我をさせずに守り抜き、無事に目的を遂行して帰還する。
彼はそれを望んでいたのだ。
じゃあ誰のせいにすればいい。
『全員を守り切れなかった広樹』か『自分を守るので精一杯だった他生徒』か、教師の立場に立つ天草愛は答えを出すことができない。
いや、出してはならないのだ。
それは天草愛個人として己の持つ精神がそれを許さない。
広樹もまた途絶えた言葉に心が激しく震えていた。
さっきまでの明るかった先生が、泣きそうな表情を見せたからだ。
初めて見たその悲しい顔の理由が自分なのだと理解し、喉の奥から吐き気に似た苦しさが立ち上る。
心臓の鼓動がうるさく聞こえてくる。苦しくて早いリズムが胸の中で泣き散らす。
後悔と懺悔がループし、謝罪し切れない感情がその顔に生まれていた。
そして、
「広樹」
ふと側に立った少女は、彼の名前を口にする。
「もういいのよ」
慰めの一言だ。だが、許されない事実がある限り、その一言は何にも響かない。
「…だって俺は」
「もう何も考えなくていい。後は私がやるから、ゆっくり休んで」
詩織はそう言って力をなくした広樹の右手を両の手で握りしめた。
「私がやるから」
その言葉に広樹の視界が捻れるように歪み始めた。
それは涙。
今の広樹の両眼には薄い水分の膜を纏っていたのだ。
それは段々と目尻に溜まり、頬を伝って下へと落ちる。
それは任務の邪魔をしたことへの恐怖も含んだ強い責任感からか、それとも詩織に抱いていた勝手な嫌悪感への謝罪心からか。
だが、この時、広樹が抱いていた詩織の存在観念が完全に壊され、新しい形へと作り変え始めていた。
「大丈夫だから」
「大丈夫だから」
私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が
広樹のせいじゃない。
広樹のせいであってたまるか。
弱かった。邪魔だった。最低だった。
彼に救われてしまった。
あの場所にいた広樹以外の存在全てがその涙の原因だ。
その弱った姿の原因だ。
聞きたくなかった。見たくなかった。慰めたくなかった。
どうして強い彼が泣かなければいけないのだ。
どうして強い彼が自分を責めなければいけないのだ。
見たくない。見せないで。視界に映さないで。
私に広樹を見せるな
私だ。
私が弱かったからだ。
私にもっと力があれば良かったんだ。
私に力があれば広樹を見ることもなかったんだ。
私だけじゃない。
みんなも弱かった。
みんなが救われた。
みんながいなければ広樹は生まれなかったんだ。
カエセ
私に広樹は要らない。
私が見つめたいのは広樹じゃない。
ドウシタラ帰ッテ来テクレル。
分かった。
私だ。
私がやれば帰って来てくれるんだ。
私がちゃんとしていればいいんだ。
もっと強くなれれば、広樹を見られるんだ。
だったらやってやる。
強くなってみせる。
もう広樹を生むものか。
広樹を生む要因は要らない。
私は広樹が見たい。
私は広樹を望んでいる。
俯く広樹とそれを見つめる天草先生は気づかない。
濃く濃く染まる。
絵具をかき混ぜたように捻れる。
それは夜よりも暗く、闇よりもドス黒くなっていた。
その時、少女の中で何かが産声を上げた。
これからもよろしくお願いします!♪───O(≧∇≦)O────♪