第4話、詩織「私はストーカーではありません!え、ずっとあの男を見てたから、いえ誤解なんです!だからお願いします!手を引っ張らないで!お願いだから連れて行こうとしないで!」
ちょっと出すの遅れました。
でも書きあがりました!
助言があり、7月9日に訂正しました!
詩織は今、激しい恐怖に襲われている。
戦闘学の生徒である姫路詩織は、日本第一銀行にいる。
いま彼女は自分に課せられた任務を実行していた。
彼女が通っている『戦闘学』は、才能があるエリートを教育し、日本に貢献させるために創設された、警察・自衛隊とは別の特別組織だ。
戦闘学では政府・企業・自治体などから国の認可を受けた仕事を『戦闘力』を持った生徒に遂行させるというカリキュラムがある。
中・高・大の一貫の学校であるが、ほとんどの学生は中学で入学した者が多く占め、転入してきた者はほとんどいない。
彼女には才能『戦闘力』を持っていた。小学生の頃に行った検査で戦闘力があると分かる。
小学校卒業後、戦闘学に入学した彼女は神童と呼ばれるほどまでに力を伸ばしていった。
そして現在、高等部一年生になった彼女は戦闘学にいる学生の中でトップ十以内の実力を持った学生と認定された。
彼女が今回与えられた任務は銀行の警護だった。政府が日本第一銀行を襲撃しようとしている組織の情報を掴み、襲撃予定日が今日なのである。
政府側は変装させた警察・自衛隊を銀行内に待機させようと考えたが、その場合、警戒した組織が動かない可能性があるとして断念した。今日を逃せば次の情報を掴めるのがいつになるのか分からない。
そして確実に捕まえるために戦闘学の生徒を派遣すると決めた。
彼らは学生であり子供だ。そして一般人の大人よりも遥かに身体能力を強化できる人間。
故に怪しまれない戦闘学の生徒、詩織と以下二名の生徒が潜入している。
そして銀行の建物から百メートル離れた位置にあるビル、店、トラックには警察・自衛隊・戦闘学教員が待機している。
出来る限りの布陣を固めていた。
だがそこに最大のイレギュラーが発生。
始まりはあの目立つ男を見つけたことからだった。
(あの男、さっきから怪しい……てかおかしいわね)
その男を見つけて思った詩織。
(警戒対象?でもあんなヤバイ人が犯罪組織の人間なわけないはず……はず?)
犯罪者なら目立つことはしないはずだ、だが二階にいる彼女は遠目からでも状況が理解できていた。
男の周りには人はいない。いや、離れていっている。理由は簡単だ。男が放っている雰囲気だ。スーツとサングラス。どっかの映画に出てくるスパイの服装だ。
「分からないわ……」
そして彼女は驚いた。
(いったい何が起こったの!?)
彼に近づく警備員が二人。彼らが彼に接触することによって、彼を外に連れ出すなどの事態収拾ができると思っていた。
この場に彼がいるだけで任務への集中に支障をきたす。詩織は早く彼にこの場から退場してほしいと思っていた。
だが、警備員が彼の横で立ち止まり話しかけようとしたとき、偶然にも彼の番号が呼ばれたのか、彼は立ち上がって、カウンターに歩き始めていた。
そして私が驚いたのは、
それを見つめ、汗をかき震えている警備員の2人にだ。
(あの警備員たちの表情はなにっ!?)
彼らが何かに恐怖し、動けないでいるように見えた。
(彼らはいったい何であの状態になったの)
まさか、
彼なのか?情報では彼らは熟練の警備員だ。なのに、どうして彼に対してそこまで恐怖を抱いたのだ。
彼はただ立ち上がっただけだ。詩織にはソレだけしか見えてなかった。
見えない何かが起こってる……?
詩織は確信した。アレはマズイと……
彼が近づくにつれて、カウンターに座る女性の顔は恐怖の色に染まっていく。
私には分かる。
詩織は仲間と共に幾度となく険しく、恐ろしい任務に就いた。そして何度も死を覚悟した場面があった。
まさに『今の彼女の顔』は『あの時の仲間の顔』だ。
今の彼女が見せる顔は一般人が見せる顔じゃない。死神を目の前にした顔だ。
(何なのよ!いったい何が起こってるの!?)
分からない!彼はただ歩いて来ただけなのに、どうしてそこまで彼女は恐怖しているの。
側から見たら、彼の姿は馬鹿にしか見えない。なのに、どうしてそこまで恐怖しているのか。
「まさかっ!」
詩織は声を上げてしまった。自分が導き出したこの事態の仮説に。
(能力の偶発……)
昨日、戦闘学に転校生がやってきた。
彼は元の学校で能力を偶発的に出したため、委員会が彼を再検査した。その結果、能力ありと診断され、彼は戦闘学に入学した。
だが、このように再検査で発覚した事例は滅多にない。本当なら小学生の頃の検査で確定するものだからだ。
そして気づいてしまった。
(こんな偶然あってたまるか!この銀行に!この日に!このタイミングで!能力を偶発的に発動した男が現れた!そんな偶然はありえない!)
そして一つの結論を導いた。
(彼は敵組織の人間!?)
詩織は急いで仲間の二人に連絡を取った。
「今カウンターにいる男を敵組織の人間と断定。対象者は戦闘力と能力を持っています。速やかに確保の準備に移ってください」
『了解しました。状況は能力で把握しています。のちに敵の無力化をはかります』
『こちらも能力の発動はいつでも可能です』
「敵の能力は不明です。気を抜かないでください」
詩織が連絡を取った二人は、戦闘力を持っていると同時に、能力『透視』、『重力操作』をそれぞれ持っている。
仲間たちには天井の裏に潜伏してもらい、透視で相手の位置を掴み、重力操作で敵の動きを封じ、詩織が捕獲するという作戦だ。
今回の作戦では敵組織の人間を一人捕獲できれば良いと判断された。
詩織の能力があれば数は関係ない。確実に生きた人間がいればいいのだ。
もしも、彼を捕獲した時、敵組織の構成員が動き出しても、重力操作で封じ、意識を刈り取ればいい。だが、場合によっては命を奪うかもしれない。だから最初に出てきた構成員を捕獲するつもりだった。
そして彼は恐ろしい行動をとった。
(内ポケットから何かを!?まさか、凶器まで持っているの!?)
ただでさえ戦闘力と能力の両方を持っているのに武器の所持まで。彼への警戒レベルはさらに上がった。
「作戦開始!」
私は急いで指示を出した。
そして彼の頭上にある天井から空間のゆがみが生まれ始めた。
あれは重力操作を行う時に現れる現象だ。これから彼のいる場所は強力な重力に襲われ地面に身体を押し付けられるはず。
だった……
(消えた!?)
天井に生まれていた空間のゆがみが突如として消滅した。
どういうことだ!
詩織は無線機にそう伝えようとした瞬間、今の彼を見て気づいてしまった。
彼が今、天井に顔を向けて見ているのを。
そんな、まさか!
詩織はありえないと思いながら、今の状況を必死に受け止めようとしていた。そんな時、無線機から連絡が入った。
『詩織さん……対象者は私たちの存在に気づいている模様です。透視している私の目が……彼の目と合いました……』
『能力も解除しました……あれはまるで……最初から気づいていた。もし今能力を発動していたら、彼は何らかの行動を起こしていた可能性があります……』
そうだ。この作戦は最初に発見した敵構成員を捕獲しなければ、続行不可能なのだ。
そして、現在彼には仲間二人の場所が掴まれている。もしかしたら私もだ。
なんなんだ彼の能力は。
相手を恐怖させる洗脳系
相手の動きを止める拘束系
相手の居場所を見つける感知系
相手の体内に害を発生させる侵食系
彼の一部始終を見た限り、これらの力を持っている可能性があった。だが、おかしい。戦闘力と一緒に身に付けられる能力は一種類までのはずだ。
現在確認されている戦闘学の生徒が複数の能力を持っていた記録はない。発見されていないのだ。
現在、対象者の力は未知数。
居場所を掴まれた時点で詩織たちが何者なのか認識された。
銀行建物内には銀行関係者を含めて、一般人が大勢いる。
仲間二人の能力が発覚した可能性あり。
他の敵構成員のいどころは不明。
圧倒的な不利。
今の詩織が考えられる限りの情報を整理した結果がこれだ。
だが、まだ彼に知られていないことがある。
詩織の能力だ。
(私が行くしかないか)
詩織は決意を固めて無線機に、
「私が対象者に接触をはかります。相手が一般人に危害を与える前に捕獲しなければなりません」
続けて作戦を伝えた。
「隙があれば、私ごとで構いません。重力を限界まで発動してください。最悪、私と対象者の生命は保証しなくていいです」
『ですが!それでは!?』
「彼を野放しにしてはいけません。彼は敵でありながら一人で私以上の力を持っている可能性があります」
『っ!?』
「時間がありません。作戦を開始します。」
苦渋の決断でした。
彼は恐らく強者。
そんな彼と真正面から相手しなければいけないのだ。
負けるかもしれない。
今までに感じたことのない敵だ。
今までにない力を持っている敵だ。
本能が言っている、負けるかもしれないと。
でも、詩織は彼に対して思ってしまったことがある。
彼が味方だったら……
詩織は席を立ち上がり、彼がいる場所へと歩き始めた。
頑張っていきます。