第24話、榛名「戦闘学の敷地には様々な訓練教育施設があるんですよ。そこで何かの免許を取ることも可能です。特別に規定年齢も何とかしてもらったり…」
遅い時間になりましたが!投稿しました!
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助言をもらい、間違いを修正しました!
間違い、訂正場所を教えてもらい、9月17日に訂正しました!
ドゴーン!
「おいこれって!?」
「気にする暇はないですよ!」
上から聞こえたのは、何かを粉砕した音だった。広樹は改めて詩織の恐ろしさを知ることになった。
「はいヘルメット!」
リュックを背負った榛名に差し出されたのは、黒いヘルメット。
「おいお前、これって」
目の前に置かれていた物に目が点になった。
ここは駐車場。隠し通路を使って研究所の地下に来たのだ。
「早く後ろに乗って下さい!」
「……お前免許は?」
「詩織に捕ま」
「乗ります!」
詩織の名前に反応して声が上がる。
そうだ、今は選ぶ時間なんてないんだ。
扉が開く。
その開く隙間から見えたのは、下に伸びる茶色の長髪。
「……っ!?」
ブゥーーン!
突然と現れた黒いバイクが詩織の髪をかすめて通り過ぎた。
だが、詩織の動体視力が乗っている2人を確かに見た。
ヘルメットで顔が隠れていたが、少女はそれを見逃さなかった。
(榛名…広樹…どこに行くの?……まさかデート!?)
デートを許さないと掲げるその瞳はドス黒いものになっていた。
詩織は十秒間動かなかった。
その十秒間の中で、出来る限りの強化を脚力に行っていたからだ。
強化の限界とまではいかないが、その十秒という僅かな時間で、許される限りの強化を詩織は成した。
ここから始まるのは二回目のデスレース。
「おい!今かすったぞ!?」
「まだ運転に不慣れなんです!黙ってないと舌噛みますよ!」
研究所の駐車場から飛び出すように現れたのは、黒いバイクに乗った榛名と広樹だった。
「どこに行くんだ」
「私にも分かりません!でも逃げるしかないでしょ!」
バイクを走らせ、車が行き交う一般道に出た。そして偶然にも青信号が続き、高速道路にそのタイヤを走らせる。これで詩織から距離が…
ピピッ
『距離八〇メートルです』
「「ッ!?」」
その知らせに反応し、後ろを見た。
そこに見えたのは、その脚で多くの車を抜いて行く女子高生だった。
「来たぁああ!?てか誰あれぇえ!?」
「私にも分からないですよ!?そして滅茶苦茶怖いです!」
ドライバーもその姿に驚いたのか、詩織が追い抜いた車が次々にぶれていく。
それほどまでに、その光景はすごいものだった。
「さすが第十位!人体強化でバイクの速度について来れるとは!」
「褒めてる場合じゃないだろ!?追いつかれるぞ!」
「大丈夫です。戦闘力は個人差がありますが、使い過ぎるとクールダウンが必要になります。あそこまで使っていれば、さすがの詩織でもそろそろ脚を止めなければいけませんから」
戦闘学に来たばかりで、その辺りの教育はまだ受けてないのだろうと、榛名は丁寧に広樹に説明した。
「一度止まってしまえば、逃げきれますよ…」
「あいつ、トラックの上で休んでるぞ…」
「っ!?スピードを上げます!」
彼女は走るトラックの上でクールダウンを開始していた。
速度は榛名のバイクに劣るが、それでも距離を長く引き離されることはなかった。
「広樹!私のリュックの中から…」
「すまん、速度が速すぎてお前から手が離せん」
「わいせつで訴えますよ!?」
榛名は吠えるが、詩織以上に怖いものが無い広樹には、その言葉がスズメの鳴き声に聞こえる。
目の前にトンネルが見えた時、広樹はある考えが閃いた。
「おい!できる限り速度を上げて距離を引き離せ!俺に考えがある!」
「ええと、これ以上速くするのは怖いのですが……私は免許を…」
「捕まったら何をされるんだろうな…」
「全力で上げます!」
脚でギアを操作し、グリップを一気に回す。
「あいつがクールダウンを終えるのはどれくらいだ?」
「あと一分くらいかと」
「なら、目の前のトンネルであいつに見えない位置から適当なトラックに寄せろ。多分狙いは俺だ。後は分かるな!」
「はい!」
トンネルに差し掛かり、広樹は今までやったことがない事をやろうとしていた。
滅茶苦茶怖い。だが、常人離れした走りを見せる女から逃げ切るにはこれしかないと覚悟を決めたのだ。
風を切る黒い影がオレンジ色のライトで照らされるトンネルに入った。
榛名はトラックの隣を並行するように速度を合わせて走らせる。
そして、広樹はゆっくりとトラックの下、足掛け部分につま先を挟み込んだ。
「あの!最後に言わせてください!」
「こんな時になんだ!」
「……生きて帰って来てくださいね!……プッ」
「この場面で死亡フラグを建てるなぁあ!」
榛名はトラックから離れ、速度をまた上げた。
そして、広樹は地面スレスレの中で、足掛けを鉄棒のように伝って、トラックの底に身を隠す。
狙いは恐らく自分だと判断したその思考は、この結果が最善策と思いついたのだ。
目標が姿を消せば、諦めるのは必然的。
だが……
「おかしい!?ちょっと詩織!なんでまだ追いかけて来るの!?ねぇ!」
「……」
走る友達に涙目で叫ぶ。
だが、その脚は止まることを知らなかった。
何故かと言うと、
(榛名なら透明化に似た迷彩道具くらい…)
榛名はおもちゃを作る変人だが、機能に関しては誰よりも才能があったと詩織は知っていた。
だからこそ、詩織は榛名を装備の専属にしたのだ。
「ねぇ!詩織!」
スケープゴートは走り続ける。
トラックが止まった。
広樹はゆっくりとトラックの底から這い出ようと、四つん這いになって進む。
「うっ!?」
「がぁ!?」
二人の声が重なり、ドサっと重い音が鳴る。
広樹は誰かに踏まれ、踏んだ本人は勢い強く転んだのだ。
「すいません、大丈夫ですか?」
なんとか立ち上がり、転んだ人に声をかける。だが配達員の制服を着た男に返事はなかった。
(やっ、やっちまったー!?)
打ち所が悪かったのか。男から意識を奪ってしまった広樹は激しく動揺した。
もし、高速道路からの一連の流れが校長に知られたら、停学どころか退学もあり得る。
それはダメだと広樹は思う。
(月々五〇万円の生活がぁぁ!?)
広樹は欲望に忠実だったのだ。
次の広樹の行動は早かった。
まず転んだ配達員の土をはらう。
そして作業員を持ち上げ、運転席に移動させる。
持っていた荷物と伝票を回収する。
つまりは荷物を代わりに届けて、受領印付きの伝票を受け取り、運転席に放置。
意識を奪われた配達員が、転んだ記憶を思い出す可能性は少ないと考えた。
だから、『配達員が荷物を届けて、運転席で寝てしまった状況』を作り出そうとしたのだ。
(後はコレを)
広樹は両手で箱を持ち、黒いタイルが貼られたマンションに入っていく。
(三〇三号室…内守谷鈴子)
伝票に書いてあった部屋番号と名前を確認し、広樹は入り口に設置してある呼び出しインターホンに部屋番号を打ち込んだ。
ブルルル、ブルルル、ブルルル、ブルルル、ブルルル、ブルルル、ブルルル、ブルルル…
(…留守っ!?)
本気でヤバイと思った広樹。
このまま届けられなかったら、受領印の無い伝票を返すことになる。
そうなれば、考えていたシナリオが崩れてしまうのだ。
運転手が目覚め、受領印の無い伝票と荷物を発見。身体の痛みによって、誰かに運転席に乗せられたと理解する。終わりに警察だ。
これが最悪の結果である。
受領印付きの伝票があれば、転んだ事を夢と思ってくれる可能性がある。
届けた後に運転席で寝てしまった。それなら身体の痛みくらい些細な事だ。
犯人が代わりに届けたなんて誰も思わない。
作らなければならない。今の生活を維持するために。
だから、広樹は必死に呼び出しコールを続けた。
(頼む!出てくれぇええ!)
必死に願う広樹に答えたのか、コール音が止み、人の吐息が聞こえてきた。
『……た……』ガチャ
その言葉を最後にスピーカーが切れた。
それに反応するように一階のゲート扉がゆっくり開く。
(……え?)
謎の言葉と、開いた扉に疑問が浮かび上がる。
(……でも開いたから…入るか…)
運転手を気絶させた時点で余裕が無い。
考える時間が一秒でも惜しい広樹は、おずおずと扉をくぐった。
エレベーターが三階に着いたと知らせる。
広樹は狭い個室から出て、三〇三号室を探し始めた。
(見つけた)
少し歩いて茶色の扉に目を送る。
インターホン鳴らすが、しばらくしても返事がする気配が無い。
再び広樹の精神は不安定になり始めた。
そして、
(寝てるんじゃねぇ!)
広樹はボタンを連打した。
部屋の中で内守谷って人が寝ていると判断した広樹の思考回路は、焼き切れるほどに回転していた。
十秒ほど経って、中から物音。
何かを引きずる音を立たせながら、ガチャと鍵が開けられる音が鳴る。
そしてゆっくり扉が開かれ…
「っ!?ぐはぁ!?」
広樹は押し倒された。
「あのすいません!ちょっとどいてって!?臭っ!?おおおおえっ!?」
押し倒されながら感じる異臭に表情を歪ませた。
その臭いは、ハエがたかるゴミ袋と同じものだった。
広樹はなんとか覆い被さる人影から脱出し、押し倒した者の正体に視線を飛ばした。
それは苔が生えたと連想させる色をした長髪の少女。
だが、身体から発する異臭は普通の少女が放つものではなかった。
極め付けには少女の周りを飛ぶ黒い粒たち。
(ハエが飛んでいるぅぅ!?)
本気でヤバイと思う女が現れたことに、広樹は驚きを隠せないでいる。
印鑑を貰いたいが、彼女が起きる気配が無い。
(くっ……拇印でいいよな!)
広樹は玄関で発見した赤インクのペンで、少女の親指を塗りたくり、伝票にべチャりと押し込んだ。
(よし!あとはこの女を中に押し込んで……っ!?)
広樹は自分が置かれた状況を理解してしまった。
目の前に倒れた少女がいる。
もしもこのまま玄関に放置し、扉を閉めたとしよう。
意識不明の倒れた少女。病気なのか分からないが、時間が経ち、不審に思った管理人が発見した頃には死亡していたとする。
調査した警察が広樹の指紋を発見。
逮捕。
(やばいやばいやばい!?)
広樹の体温が急激に下がる。殺害容疑がかかりそうな状況に落ちいったことに、精神が崩壊しかけていた。
(……やってやんよ!)
一つの考えを導き出し、広樹は動き出した。
これからもよろしくお願いします!