第220話、葉月「どうしてアナタが?」サラ「この子の護衛よ。それにしても日本支部の第一位がお出迎えなんて豪華ね」
書き上がりました。
よろしくお願いします。
「数え役満というべきでしょうか」
白姫葉月。
アイリ・エデルマン。
サラ・ホワイト。
その三人が介した場面を見て、さやかはそんな言葉を呟いてしまった。
場所は空港の滑走路。
戦闘学の航空機から降りてきた戦闘学関係者の中にアイリ・エデルマンがいる。
それは当然として、そこにオーストラリア支部の序列第一位であるサラ・ホワイトが付いてきたのは予想外だった。
「どうしてアナタが?」
「この子の護衛よ。それにしても日本支部の第一位がお出迎えなんて豪華ね。まぁ私もオーストラリア支部の第一位だからお互い様だけど」
葉月が英語で問うと、サラは事実を述べながらアイリを撫でる。
そして、
「本当に日本支部の第一位なのか疑いたくなるわねー」
「どういうこと?」
「本来なら日本支部までアイリを届ける予定だったけど、急遽この場に第一位がきた。もちろん日本支部からの連絡もきている。だけどどうしても疑問を持ってしまうのよね」
サラの身体が黄金色のオーラに覆われる。
それは【万全到達】の光であり、即時の身体強化最大出力および全てのダメージ無効を発動した証明だった。
「白姫葉月は何にも興味を示さず、我儘でほとんど動かない子と聞いているわ。なのにわざわざ空港まで迎えにくるなんて、ちょっとくらい偽物の可能性を疑ってもいいと思わない?」
長い足が葉月に振り下ろされる。
それを防ぐように滑走路のアスファルトが壁を整形して受け止めた。
「情報通りの能力ね」
壁に亀裂が走る。
「まだ続けるの?」
「続けるわ。こんな機会は滅多に無いもの。ちょっとした遊びよ」
「……もう終わる」
「っ!?舐められたものね!たとえ日本支部の第一位でも相手にしているは同じ第一位なのよ!そんな簡単に負ける私じゃ──!?」
瞬間、黄金色のオーラに崩れ去る。
そしてサラの腹に向かってアスファルトの突起物が押し込まれ、「かはっ!?」と悲鳴を漏らして滑走路に転がされる。
「もう【万全到達】の弱点は把握してる。膨大な処理を行わせればいいだけ」
「っ……ちょっと……情報と違うわねっ……だってここまでの力量は」
「オーストラリア支部がどこまで知ってるかわからない。でもそれは、日本支部が知ってる範囲まででしょ?」
「な!?」
しゃがみ込んで葉月は語った。
「私は全てを教えてない。でもアナタが来てくれたから、少しだけ見せることにする」
足元のアスファルトが罅割れる。
それは葉月とサラの周囲に留まらず、さやかやアイリ、他の戦闘学関係者や航空機までたどり着き、止まらず追い越していく。
そして葉月の力は一呼吸も経たぬうちに滑走路全域を覆い尽くした。
「っ……もういいわ。それ以上やると日本支部の校長が発狂するわよ?」
その一言で罅が消え去る。
まるで幻を見せられたと思わせるほどの力に、サラは諦めるように両手を上げた。
「世界中から言われてるわ。日本支部の序列者は規格外ってね。その頂点がここまでくると人間なのかも疑いたくなるわね」
葉月との実力差を再認識し、サラは立ち上がらず膝をつきながら少女を見上げる。
「お互いに色々とお話したいことがあると思うのだけど合ってるかしら?なにせ日本支部からわざわざ出てきてのお出迎え。それともう一つ」
サラは視線が一台の車に向かう。
「滑走路をボロボロした能力だけど、航空機の足下まで巻き込んだのに、どうして日本支部の車だけには行かなかったのかちょっと気になったわ。まるで大事なものを乗せているみたいに」
その言葉に葉月は航空機に視線を向けて言い返す。
「そっちは航空機に注意が向いてた。なんで護衛対象のアイリ・エデルマンよりも、航空機の心配をしたの?」
サラの瞳が驚愕に染まり、空笑いを漏らした。
「見た目通りの少女として扱っては駄目みたいね。しっかり周りを観察してる」
能力だけではない。
目の前にいるのは少女の皮を被った知性ある化物だとサラは受け入れる。
「あの航空機には極秘の運搬物が積まれているわ。この件について知っているのは私とオーストラリア支部の校長、そして本部の人間だけよ」
アイリと戦闘学関係者をすり抜けて、航空機の後部にある貨物扉を開く。
そこから錆まみれのコンテナを地上に降ろした。
「オーストラリア支部に敵組織の内通者がいた件もあってね。もし仮に残っていて、さらにバレたら襲撃される可能性も上がるから、日本に持ってくるまで情報は伏せることにしたのよ」
錆まみれのコンテナ。
それは迷彩として意図的に作られた外装であり、サラは表面を剥がしていく。
「本当は日本支部に運んでから正式に手続きして依頼する予定だったのだけど、ここに白姫葉月が来たことで説明が楽になるわ。これは貴女にお願いするはずの依頼だったから」
最初の見た目から一変し、それは傷一つない鋼鉄の箱となっていた。
ボタンもなければ鍵穴もなく、まるで目の無い巨大なサイコロを彷彿させる。
オーストラリア支部の技術が編み出した特別な保管庫。
それにサラが指でなぞると、箱は変形して隠されていたものを明かす。
それは液体に満たされたガラスケース。その中には固定された脳があった。
「脳…」
「ええ。soldierにされた仲間達のものよ。そして見てのとおり損傷を激しくてね」
「オーストラリアでのテロ?」
「そう。そこで脳に致命的な損傷を与えることを前提にして作られたsoldierがあってね。それに使用されていた脳なのよ」
「…………」
葉月は並べられた脳を流し見する。
「どう?」
「……これはオーストラリア支部からの依頼になる?」
「なるわ」
サラの回答に葉月は脳に視線を戻し、その中の一つに指を向ける。
「……この一つだけは難しい」
「あーー、やっぱり…」
それは脳の半分が機械の頭蓋骨に覆われていたものだった。
「情報から察すれば、テロで使われた人型soldierに直接搭載されていたオーストラリア支部の元第一位の脳ですね」
さやかの言葉にサラは首を縦に振る。
それは詩織や鈴子、サラやメリルが最後に苦戦を強いられたsoldierだった。
「ええ。そしてオーストラリア支部は生命維持までしかできなかったのよ。でもその維持には限界がある。だから急いで治して上げたいの」
経緯を説明され、葉月は考え込むように瞳を閉じる。
「…………」
「そんなに難しいの?」
「…………」
瞳は開いた。だがそこに光はなく、死んだ魚のような瞳でスマホを取り出す。
「葉月?」
「……校長にかける……六位を呼ぶ」
「っ!?」
さやかが吹き出す。
「だ、大丈夫なんですか?」
「校長に全部伝える。大丈夫かは校長が決める」
葉月は校長に連絡する。
その最中にサラはさやかに近づいて小声で聞いた。
「日本支部の序列第六位というと……まさかあの」
「安心して下さい。酷い事にはなりますが、死なせないことはお約束できます」
────。
────。
そこは空港から一番近くにある大学病院。
その屋上に一台のヘリコプターが着陸した。
「送迎〜ありがとうございます〜」
パイロットにお礼を言いながら安全ベルトを外す少女。
長い栗毛を押さえながらヘリコプターを降り、視界に写った人物達に率直な感想を漏らす。
「校長から聞いていましたが、日本支部とオーストラリア支部の第一位が揃っているのは圧巻を感じますね〜」
葉月とサラを含めた関係者の前まで近づき、少女は姿勢を正した。
「戦闘学日本支部所属、序列第六位、栗葉甘音、ただいま現着しました〜。私の能力が必要ということは、死を前提にした色々をやるんですよね〜。いやぁ〜楽しみだぁ〜」
柔らかく安心させるような笑顔にも関わらず、おちゃらけた声で本音を晒す甘音。
日本支部の序列者はイカれた者ばかりと各支部から卑下されるが、正にそれを体現した者が彼女である。
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