第204話、榛名「奥にいるアナタは誰?」
書き上がりましたので投稿します!
よろしくお願いします。
「ハッ!!?」
目が覚めた。周囲を見渡せば布団に入らず眠ってしまった彼女達がいる。
「夢…?……は、はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
胸の奥から全てを吐き出した。
あれが夢で本当に良かった。
灯花さんが序列第二位の頭の中を……うっ、吐きそうだ。もうあの悪夢を思い出すのは止そう。
時計を見れば深夜を回っている。まさか本当に泊まってしまうとは。
念の為に自分の身体を確認する。榛名と一緒の部屋で寝たんだ。改造手術とかされてもおかしくない。
……よし、特に異常無し。
それじゃあ別の部屋に行くか。
夜勤の人にお願いすれば、部屋を貸してくれるかもしれない。
彼女達を起こさない様にソッと立ち上がり、荷物を確認する。
問題無し。じゃあ行くか。
それじゃあ扉から……あ、そうだった。
シャッターで閉ざされていたのを忘れていた。
くっ、リモコンを探すしかないか。
どこだ?机になければタンスの中か?
駄目だ。全然見つからない。
あと探していないのは……
「うへぇへ〜」
この何を考えているのか分からない寝顔。
近づきたくない。だがそのポケットにあるのだとしたら…
「くっ」
眼前まで近づいた。警戒心もなく眠っている。これなら簡単に探れそうだ。
そして慎重に手を伸ばした時、ある事を思い出した。
この部屋には榛名を監視するカメラがある事を。
側から見れば、今の自分はどう写っているのだろう?
完全に寝ている少女を襲う変態じゃないか?
「っ!?」
危なかった。もしここで手を入れていたら、間違いなく変態認定されていただろう。
だが探れない以上、この部屋から出るのは難しい。どうすれば……
ッ─ッ─ッ─ッ
ん?扉の奥から小さな音が?
ッ─ッ─ッ─ッ
うまく聞き取れない。
だがこんな時間にどうして扉から?
…………誰かいる?
「…………ッ!?」
悪寒が走る。
こんな真夜中に、しかも榛名の部屋に、呼び出し音を鳴らさずに扉に何かをする誰かがいる。
これは絶対普通じゃない。
「は、榛名っ、起きろっ…!」
小さく声をかける。
だが起きない。
だったら、
「ふがっ!?」
口を押さえて顔を近づける。
(ムゥぅぅッッ!!?)
(喋るな)
(っ!?)
榛名が一瞬で涙目になった。
静かにしてもらおうと言ったが、まさか怖がらせた?
いや、この榛名に限ってないか。
(うぅぅぅ〜)
あれヤバイ泣いてる!?ガチ泣き!?
ていうか今の状況は確かにマズイ。
口を塞いでいる時点で襲ってる絵面だ!?
(待て!本当に待って!違うから!)
(むぅうう!!)
違う!襲おうとしてる訳じゃない!
とにかく目を開けてこっちを見て!
(扉だ!扉!誰かが入ろうとしてるんだよ!?)
(むぅううう!……ムゥ?)
ようやく榛名の瞳が扉に向いてくれた。
(開けようとしてるんじゃないか?さっきから変な音が聞こえるんだけど)
それを聞いて榛名が扉に近づいて、隣の操作版を見る。
(!?)
慌てた様子でパソコンを取りに走る榛名。ケーブルを操作版に繋ぎ、目にも止まらない速さでキーボードを叩き始めた。
(これ絶対にマズイやつだよな!?なぁ!?)
(当たり前ですよ!?完全にハッキングを受けてます!)
必死さを剥き出して榛名が言う。
(こ、これは一体っ!?相手はどれだけの─!?)
キーボードを壊しそうな勢いだ。
そして榛名の瞳が徐々に震えを強くする。
(くっ!?)
最後にはキーボードに叩きつけていた。
その苦渋に満ちた顔が敗北を語っていた。
(十秒で開いてしまいます…)
(いや諦めるなよ!)
(レベルが違うんですよ!素人には分からないでしょうが相手は化け物だったんです!)
ていうか中に入ろうとしているのは誰だ?
いや、考えなくても分かっている。
その浮かんだ可能性を、本能が拒絶していたのだ。
(やっぱり夜織さん?)
(聞きたくなかったですその名前!?)
慌てた榛名が、灯花さんにボディープレスを浴びせた。
「ぐうぇ!?て、敵襲ッッ──ムグ!?」
(静かに!?とにかく私達ごと透明化して下さい!?)
(は、はいぃいい!)
咄嗟の一方的な要望に応じる灯花さん。
(クローゼットに隠れますよ!早く!)
榛名の指示で近くのクローゼットに入る。
そしてすぐに床下を確認した。
(詩織から逃げる時に使った隠し通路だな!)
(はい!その通りです!ここから逃げますよ!)
希望が見えた。そして床下の板を開ける。
だが──
【埋めておいたよby博士】
((博士ぇええええ!?))
冷たいコンクリートが穴を塞ぎ、置き手紙が貼られていた。
(お前本当に信用落ちたな!?綺麗にコンクリート流し込まれてるぞ!?)
(今更ですよ!そして逃げられないなら静かにして下さい!もう私達は袋のネズミなんです!)
息を殺して身震いを限界まで抑え込む。
恐怖が膨らみ続ける中、遂にと扉が開く音が聞こえた。
カタ…カタ…カタと、微かな足音が部屋で鳴る。
(一体誰が入って来たんですか?)
そう軽く聞くのは、まだ状況を呑み込めていない灯花さんだった。
(夜織さんです)
(…え?)
(夜織さんです)
…………バタンと、もたれかけた灯花さん。
(灯花さん!?)
(なんでストレートに言ったんだよ!?メンタルが弱い灯花さんだぞ!いきなり聞いたら倒れるわ!)
身体を覆っていた感覚が抜けていく。
灯花さんの透明化の効果が抜けてしまったのだと分かった。
そして近づいてくる小さな足音。
(バレた!?これは確実にバレたよな!?)
(広樹の出番です!今こそチートっぷりを発揮しちゃって下さい!)
(持ってないぞそんなの!?)
(嘘です!私知っているんですからね!広樹はチート無双できる力を持っているって!)
どこでそんな勘違いをしたんだよ!?
そんな力を持っていたら、こんな場面に遭遇しないし隠れていない!
(さぁ一発かまして下さい!背中押してあげますから!)
(おいおい押すな!?止めろ!押すな押すな!)
ぎりぎりのところで耐える俺。
(知っていますか広樹)
(え?)
(『押すな』って、実は『押せ』って意味も含まれている事を!)
榛名のドロップキックが背中を抉った。
榛名ぁ貴様ぁああッッ!?
勢い強くクローゼットの扉を破壊して、照明の下に自身が晒された。
「さぁチート無双です!敵の息の根を止めちゃって──「誰の息の根を止めるのかしら〜?」ッッ!?」
聞き覚えのない声音が聞こえた。
あのマンションで聞いた夜織さんの鋭い声とは似つかない鈍い声。
ゆっくりと起き上がり、その声の主を目で追うと、
「へぇ〜、私の息の根を〜。榛名ちゃんは止めたいのね〜」
「いえ滅相もございません!!」
垂れ下がった白衣を身に纏う、小学生くらいの小さな女の子がいた。
「傷ついたわ〜。私は榛名ちゃんのこと〜、可愛いと思っていたんだけど〜」
「いえ!私はいつまでもアナタ様の可愛い榛名ちゃんです!」
「せっかくついたままの電気を消しに来てあげたのに〜、殺されそうになるなんて残念ね〜」
少女は自分に手を伸ばして言う。
「初めまして〜、あなたが広樹くんね〜。夫から話は聞いているわ〜」
「お、夫?」
夫って誰だ?
いやそれよりもだ!小学生くらいに見える女の子に夫!?
「あら〜。紹介されていないのかしら〜」
「だ、誰にですか?」
「夫よ〜」
いや誰!?
「広樹、この方は博士の奥さんです」
「……Pardon?」
え、聞き違いだよね?
「榛名ちゃんの言う通りよ〜。初めまして〜。博士の奥さんで〜す」
この少女が奥さん?小学校に通ってそうな見た目なのに?
まさか博士はロリコン?
「ぅ……やはり……噂は本当だったんですね」
「灯花さん!?」
「不覚にも気を失っていました」
フラフラと立ち上がった灯花さん。
そして瞳が博士の奥さんへと向く。
「確か、夫である博士に薬を飲まされて幼女にされたと──」
「同僚がふざけて広めた噂ね〜」
「っ……では、謎の組織に無理やり薬を──」
「それも違うわね〜」
「っ……では改造─」
「きっとそれも違うわ〜」
どれだけあるんだよ噂…。
「単純に成長しにくい体質なだけよ〜」
その一言で片付けるには難しい外見なんですが…。
「でも〜こんな体質な私を〜、あの人は好きになってくれて〜、私は幸せ者だわ〜」
不純な何かを感じてしまう自分がいる。
いや、純粋に愛して奥さんと結婚したかもしれない。だが今になってあの怪しい風貌がロリコンに見え始めてしょうがない。
本当にあの博士を信じていいのだろうか。
「話し過ぎたわね〜。もともと電気を消しに来ただけだから〜、私は実験室に戻るわね〜」
そう言って扉に向かう奥さん。
「あ〜それと榛名ちゃ〜ん」
背中を見せながら奥さんが言う。
「覚えておいてね〜」
そう冷たい声音を残して、その小さな背中が扉へと消えた。
「…………」
沈黙する榛名。
だがはっきり言おう。
「自業自得だからな」
それだけを言って、俺も部屋から出ていった。
読みに来てくれてありがとうございます。
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