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第199話、夜織「ねぇ、そこにいるのは誰かしら〜?」

遅い時間になりましたが、何とか書き上がりました!

これからもよろしくお願いします!╰(*´︶`*)╯


3日前にも投稿していますので、もし読んでいない方がいれば確認をお願いします!

──怖い。


部屋に入って最初に思った言葉がそれだった。


「これは仏壇ぶつだんでしょうか…」


「いくつもありますね。まさかこれらを隠す為に、あれだけのセキュリティーを…?」


円形の部屋に、円状に並べられたいくつもの仏壇。

その扉は閉ざされており、中は見れない状態である。そこに好奇心が触れたのか、榛名の手が扉に伸びた。


「おいちょっと待て。それは本当にまずい」


「確かに私も倫理的にいけないとは思いました。しかしここまで来て中を覗かないのもどうかと…」


まるっきり反省してない。

さっきのトラップでりなかったのか?


「とにかく駄目だ。てか怖い。仏壇に囲まれた事なんて今まで一度もなかったぞ」


「安心してください。私もありませんから」


「私は今すぐにでもある人の仏壇を作ってやりたいですね」


相変わらず灯花さんの闇がふけぇ…

って。それよりも榛名だ。


「とにかく駄目だ。帰るぞ」


「嫌です!せめて一つくらい!スッと見て、パッと閉じますので!」


「それでまたトラップが作動して、大変な目に遭うのがオチだ」


本当にありそうなんだ。だから何かが飛び出る前に退散したい。


「もしかしたらその仏壇も、決められた順番通りに開かないと槍が飛び出てくるトラップとかが仕掛けられているかもしれないぞ」


そうなったら俺は死ぬ。この中で一番弱いのは俺だからだ。

さっきの榛名の運動神経を見て、真っ先に死ぬのが俺だと確信した。

所詮しょせん、元バスケ部並みの運動神経なんだよ俺は。


「順番通りですか?であれば予想は出来てます。入ってきた扉から左隣の仏壇、そこから時計回りに開けていくのが正解です」


「ん?どうして分かるんだ?」


「仏壇の年季ねんきですよ。よく見ると経年劣化が薄く見えます。恐らく数ヶ月周期で新しいものを隣に並べていますね」


どんだけなの榛名さん?

その観察力をもっと他の分野に活かせなかったのか?


「だが正解とは限らないだろ?年季順ねんきじゅんなんて憶測おくそく過ぎる」


「では根本的な話をしましょう。まず仏壇にトラップを仕掛ける事自体が無いと思います。仏壇は仏様ほとけさままつる小さなお寺なんですよ」


あれ?

榛名が常識人らしい事を言ってる気がする。


「そこに罠を仕掛けるなんて罰当ばちあたりもいいところです。常識がなっていません」


常識がなっていません。って、それ榛名が一番言っちゃいけない言葉なのだが…


「そんな訳でけましょう」


「いやそれこそ罰当たりに抵触するだろ!?」


正論を語ったと思えばいきなりの矛盾むじゅんだよ。

やっぱり榛名は榛名バカだった。


「もう部屋には入ったんだ。俺は家に帰らせてもらうぞ」


「は…!?待ってください広樹さん!今帰っては駄目です!」


突然と慌てた表情で灯花が止めに来た。

どうしてだ。灯花さんだけは味方だと思っていたのに。


めないでください。こんな榛名トラブルメーカーと一緒の部屋には居たくありません。俺は家に帰らせてもらいますよ」


「近づいてます!限りなく広樹さんの方が死に近づいてますよ!その台詞せりふが一番ヤバイです!」


なんでだ。此処ここよりは安全な筈だ。もう詩織との問題はどうでもいい。退学した方が早いのだ。

そして家には俺の大切な物が待っている。

一億円の当選宝くじがな。ながめているだけで顔がニヤけてしまう。幸福に満たされる。俺のマイヒロインとも言えるだろう。


ああ早く帰って、今日の恐怖と苦労を癒そう。愛しているよマイヒロイン(※ストレスで錯乱中)


だから灯花さん!俺を離してください!


「家で帰りを待っている大切ながいるんです!意地でも帰りますよ!」


「大切なって!?それ余計に近づきましたよ!?今崖っぷちに立たされている事を自覚していますか!?」


ええい離せ!抱きつくな!

なんでそんなに危機迫ききせまった顔をしてるの!?

俺が一番危機的状況なんだよ!?

貴女には戦闘力があるけど俺には無い!灯花さんには俺の気持ちが分からないんだ!


「俺には生きる理由があるんです!夢を叶えるまで死ねないんですよ!」


「もう駄目です!レッドカードです!絶対に行かせません!この部屋から出たら貴方は秒で死にます!」


秒で死ぬのは榛名だろ!?このまま巻き込まれてたまるか!俺は学生金持ちライフを送りたいって言うのにどうして邪魔をする!?

くっ!?強い!?やはり戦闘力者!ビクとも動けない!


「早く出ないと榛名が!!あの馬鹿がやらかしますよ!」


「その前に貴方が死んでしまいます!榛名さんよりも広樹さんが危険です!」


まずいまずいまずい!?早くしないと本当に榛名が──


「私を呼びましたか?出来れば静かにしていただきたいのですが」


俺にしがみつく灯花さんの背後で、榛名がノートを読みながら俺達に聞いてきた。


そう、ノートを読みながら……ノート?


おい待て、待て待て待て。

なんか色々とひらいちゃってるぞ!?


「仏壇を開いたら、遺品らしき物がたくさん並べられていました。これは日記みたいですね」


コイツ本当にやりやがった!?


「それにしても……ええ、これは驚きの事実が発覚しました…」


お、驚きの事実…?

ヤバイものを見つけたんじゃないだろうな?

知ったら裏で抹殺される恐ろしい何かとか。


「日記の1ページ目には、こう書かれています…」


────────────────

○月○日


今日、私の妹が生まれた。とても可愛くて、天使のような子だ。

嗚呼、この子を大切にしていきたい。

絶対に守り抜いてみせるわ。

────────────────


…………妹?

それって詩織の事か?だがどうして仏壇に?


「写真立てもありました。見てください」


そこに飾られていたのは、可愛い寝顔を見せる赤ちゃんの寝顔だ。

という事は…


「恐らくですが、詩織にはもう一人の姉妹がいたのでしょう。それがこの子だと思われます」


た、確かに驚きの事実だ。

てかコレって無闇に触れてはいけない秘密だよな…


「そして最後のページにはこう書かれてます」


────────────────

○月○日


今日、私の天使が死んでしまう。

嗚呼ああ、なんで、どうして私を置いていくの?

もっとアナタと一緒にいたかった。なのに私はのがれられない誓約に縛られ、アナタと共に永い時を過ごせなかった。


どうして私に戦闘力が宿ってしまったのだろう…

捨てたいと望んだのに、大人達は聞き入れてくれなかった。

まだ私は小さな子供なのに、飛び級という方法で無理やり戦闘学に連れて来させられて…


嗚呼、嗚呼、嗚呼!

私と天使の中を裂く全てが大っ嫌い!!

戦闘学なんて滅んでしまえばいいのに!!



あの子が今日、死んでしまうわ……

────────────────


「という感じで、殴り書きされてますね…」


ああ、確かにこれは驚愕ものだ。

そして本当に覗いてはいけない秘密だった。

夜織先輩の辛さと憎しみが伝わってくる…


そうか、夜織さんの妹が…

もし詩織に会ったら、この日記が頭によぎりそうだ。

絶対口から出さないようにしないとな。


「仏壇の一つ目からコレです。正直もう次の仏壇を開けるのが怖くなりました。次は任務で亡くなった仲間のものかもしれません…」


だな。一つ目から重過おもすぎる。

だから帰ろう──


「しかし探究心たんきゅうしんには勝てませんでした。二つ目の仏壇をオープン・ザ・ドアです」


そう言って榛名がもう一つの仏壇を開けた。

おい誰か、コイツの頭をかち割ってくれないか。


「っ!?こ、これは……どういう事ですか!?」


「は、榛名…?」


開けた仏壇に声を荒げる榛名。そして飾られた写真立てを凝視した。


「また子供の写真です……それと二冊目の日記」


置いてあった日記を開き、榛名は読み上げる。


────────────────

○月○日


今日、私に新しい妹が生まれた。

可愛くて優しい、一人で立ち上がれる天使のような女の子。

生まれたばかりなのにもう歩けるなんて天才よ。きっと誰よりも優れた才能が眠っているに違いないわ。


だからこそ、次は永く一緒にいてみせる。

ええ、だからこそ、



まずは校長からよね。

────────────────


…………ん?あれ?ちょっとおかしい点があったぞ?

生まれてすぐに歩ける?それ絶対に普通じゃないぞ。


「なぁ、榛名…念の為に聞くが、普通生まれてすぐ歩けると思うか?」


「そんな訳ないじゃないですか。筋肉がまだ発達してないのに歩けたら化け物ですよ。エイリアンですよ」


「だ、だよな…」


じゃあこの仏壇で祀られている天使とはなんだ?

読んだ情報をまとめれば、夜織さんの三人目の妹に当たる。

だが、その妹の仏壇があるという事は…


「最後のページを読み上げます…」


────────────────

○月○日


私の天使が死んでしまう。

また私は大切な妹と永く過ごせなかった。


邪魔をしたのは戦闘学とその校長。


そして私の父だった。


私は歪んでいる。

そんな事を父はのたまい、私と妹を切り離した。

だから妹が死ぬのだ。私が近くにいなかった所為で、また妹が死ぬ。


戦闘学も、校長も、父も、全て滅んでしまえばいいのに。



モウ、全部コワシテイイワヨネ

────────────────


「「「…………」」」


あれ?なんか怖い。

え、本当に怖いんだけど。


「ちなみに三つ目の仏壇にも、似たように写真と日記がありました」


おいおい。もう読まなくても予想できるぞ。


「次は生まれてすぐ喋りましたね」


エクソシスト呼んでぇええ!!

もう怖いを通り越してリアルホラーだよ!?

姫路家って何なの!?毎回どういう過程でそんなヤバイ赤ちゃんを産み落としているの!?


「これは流石の私でも……怖いです」


だよね灯花さん!それが普通だよね!


位牌いはいには【私の天使】としか書かれていませんし、この妹さん達は一体…………」


仏壇の中心に置かれていた位牌を持ち上げる灯花。そしてふと裏側を見て、


「ひぃっ!!?」


悲鳴を上げて位牌を落とした。


「どうしたんですか灯花さん!?」


「ひ、ひひ広樹さん……これは本当に大変な事かもしれません」


「え…?」


「裏側を見てください…それが妹達の正体です…」


灯花に促され、位牌を拾う。そして裏側に彫られた文字を見た。


「……姫路ひめじ詩織しおり?」


知っている名前だった。

そして突如俺の手は震え始め、その位牌を落としてしまった。


「なっ…ぁ……!…ま、待ってくれ……つまり…これは…」


「恐らく、全てが詩織さんの仏壇です…」


全てが?

この部屋に置かれた全ての仏壇が詩織のだって?

どういう事だ。意味不明だ。分からない。

じゃあ今まで俺の近くにいた姫路詩織は一体なんだったんだ。


「日記の日付を見る限り、全てが一年周囲で亡くなっています。そして写真も一年毎いちねんごとに成長したものが使われている…」


つまりどういう事だ。


「…………複製体ふくせいたい


「ふ、複製体?」


榛名が漏らしたのは意味深なワードだった。


「でも流石の戦闘学も、そんな人道にそむく事、する訳が…」


「いえ、場合によってはありますよ。何よりこの空間に辿り着くまでのセキュリティーが物語ものがたってます」


「じゃ、じゃあ詩織は本当にっ…」


「覚悟しなければなりませんね。今私達は、戦闘学の闇に触れてしまったかもしれません」


少女達の間で暗い何かが漏れ始める。

まだ戦闘学に来たばかりの俺では、彼女達の会話から真実を考える事は出来ない。

だが、知っていけない何かに辿り着いた事だけは分かってしまった。



────。

────。



「毎回君の葬式に参列させられる僕達の身にもなってよ!前回のお坊さん役やったの鈴子ちゃんなんだよ!?悪いと思わない!?」


「意味不明!どうして姉さんが私の葬式をひらく必要があるのよ!私は死んでないわ!」


「ああ確かに死んでない!それは僕達も同意見だ!でも彼女の頭はおかしいんだよ!」


天乃は震えた声で事実を叫ぶ。


「十二歳の詩織が亡くなった!十三歳の詩織が亡くなった!十四歳の詩織が亡くなった!彼女にとって詩織ちゃんの寿命は一年で終わるようになってるんだよ」


「何馬鹿な事を言ってるのよ!アナタの頭がおかしいんじゃないの!?」


「あぁあああ!!姉が姉なら妹も妹かぁあああ!!?」


刀と触手が打つかり合い、お互いの意思が火花となって咲き乱れた。



────。

────。



「帰りましょう。これ以上踏み込めば私達は消されます」


何に?


「ええ、帰りましょう。私達が処分される前に」


だから何に?誰に?どういう事?


少女達は何も教えてくれず、帰宅作業を始めた。


「私はシステムの修正及び、改ざんを担当します。灯花さんは」


「目に見える物でしたら既に片付けています。ただ謎の溶解液によって破損した床だけは…」


「仕方ありませんよ。今は私達・・が潜入したという証拠だけを消す事に専念しましょう」


榛名は端末を鳴らし、トラップに何らかの操作を施し始める。


「ではこの廊下と扉、玄関扉を修正すれば終わりですね。最短で終わらせます」


「外の見張りに入りますか?姫路先輩が来たら時間稼ぎを」


「ええお願いします。ではこれを」


榛名はポケットから小型タブレットを出し、灯花に手渡した。


「これは私が製作した武器に反応する端末です。夜織先輩には私の武器を渡した事があります。この家に無いという事は、恐らく持っている筈なので」


前にもあった。

確かお気に入りの顧客に渡す武器には発信機が付けられているとか。

それで詩織から逃げて……ああ、本当にヤバかった。


「ありがとうございます。それでどのような確認すれば?」


「単純です。まずブザーがなれば、五〇〇メートル以内に発信機を検知した事になります」


ピピッ


「そう、この音です。そして更に近づけば距離を知らせてくれます」


『距離四八〇メートルです』


「「「…………」」」


…………ああ本当に分かりやすい。

なぁ榛名。俺達は生きて帰れるのか?


「や、ややややヤバイです!?これは本当に来ちゃってます!」


「ど、どうすれば!とにかく私は時間稼ぎを…!」


「そ、そうですね!十分間だけお願いします!」


「任せてください!まだ距離は四〇〇メートル程あります!偶然を装って遭遇し、世間話を始めて稼いでみせます!」


そして自信を燃やして部屋を出ようとする灯花。だがすぐに端末が、


『距離二〇メートルです』


たった数秒にも関わらず、距離がほぼ寸前までに減らされた事を教えてくれた。


「どういう事ですか!?そんな馬鹿な事がっ!?こんな事があってたまるもんですか!!」


「落ち着いてください榛名さん!?とにかく今は冷静に!任務では冷静さを失った人間から真っ先に消えるんですよ!」


「っ!?はいっ…そうでしたね…計算外の事が起こって…ハァハァ…」


本気の取り乱し様だった。

そして榛名は呼吸を落ち着かせて、次の行動に入る。


「もう玄関扉の改ざんは間に合いません。とにかく今はこの部屋の扉を閉じます。灯花さん」


「ええ分かりました」


連携した動きで、少女達は部屋の扉を閉じ、更にはトラップの再起動まで施した。


「これで何とか時間は稼げます。トラップもシステムに有害操作を認識させましたので、防衛システムが起動しました」


閉ざされた扉の方から機械音が響き始め、徐々に熱気が伝わってきた。


「超高熱出力レーザーブレードに加えて超誘導加熱ちょうゆうどうかねつ。もうこの廊下はレーザーが飛び舞うレンジの中そのもの!ただの人間では生存できない空間へと変わりました!」


勝ち誇った笑みを浮かべ、榛名は宣言する。


「これでしばらくは安全です!今のうちに脱出方法を─」


瞬間だった。

ソレは榛名の横顔をかすり、髪を焼き落とした。


「あっぅぅぅッッ!?」


小さな悲鳴を上げて、床にうずくまる榛名。

そして少女の背後に見えたのは、小さな穴がポッカリ空いた鉄扉だった。


そして穴の奥で、謎の黒色が見え──


(隠れて!!)


いきなり身体が投げ飛ばされ、扉の近くに打ちつけれる。

そして飛び込むように榛名を抱えた灯花さんが駆け寄ってきた。


(息を殺してください!声もです!)


(あ、ああ…)


(とにかく榛名さんの傷を確認してください。私はその間に対策を練ります)


そう言われ、腹の上で痛みを訴える榛名に目を向ける。


(おい榛名。顔を見せてくれ)


(うぅ、痛いです…)


手で覆っていた耳には、赤いあとがあった。まるでそれは…


ねっしたフライパンの鉄の部分を触った時の親指みたいな火傷痕やけどあとだな)


(そんな日常生活で負うような傷と一緒にされたくありませんよ!?)


元気を取り戻したようだ。だが本当に傷が浅くて良かった。

完全にあれはビームソード的な何かだったと思う。それも榛名が持っているオモチャではなく、本物ガチの方だ。


(私の耳を焼いたのは恐らく【擬似再現化】。能力を人工的に顕現けんげんさせる武装です)


(ぎ、擬似再現化?)


(忘れましたか?広樹も前に見た事がある筈です。イベントでの客船の戦闘で)


榛名の言葉を聞いて思い浮かんだのは、甲板かんぱんで激闘を見せる二人の少女だ。

一人は細長い黒刀を、そしてもう一人は三段式リボルバーを片手に、異質な闘いを繰り広げた事があった。


(恐らく夜織先輩が今使ったのは博士の作品です。しかも傑作品。あれは何でも溶解させてしまうんです)


(それは厄介ですね。しかしどうやって廊下で生存できているのでしょうか。レンジと一緒であれば…)


横から灯花が聞いてきた、


(ええ、とっくに脳髄を飛散ひさんさせて死んでいます。それにも関わらず)


火花を散らせ、けずり斬られていく鉄扉。


(恐ろしいです。問題なく動けています。しかし徐々に扉を斬っているのは、レーザーの方が避けられないからでしょう…)


分析して答えを導き出す。そして脱出方法を考え始める少女達。


廊下には恐ろしい化け物。

壁の中には物体を溶かす液体に覆われている。


あれ?逃げ場ない?


みだ)

(詰みです)

(詰みですね)


諦めモードに入ってしまう。しかし、



「ねぇ、そこにいるのは誰かしら〜?」



ガンッと扉が打鳴らされ、奥底から暗い声音が聞こえた。


(((ヒッ!?)))


「ねぇ怒らないから。この扉を開けてくれないかしら」


それ絶対に開けちゃダメなやつだ。

榛名と灯花も涙目で首を縦にコクコク振っている。


「……そう。開けないのね。じゃあさ、一つ忠告ね」


(((ッッッッ!)))


心臓の鼓動が速くなる。

皮膚と衣類があるのにも関わらず、側にいる二人の鼓動まで聞こえてきた。


ああ聞きたくない。だが耳を閉じる勇気すらも、今の俺達にはなかった。

そして彼女は一言、



「この扉を開けたら○すわ」



聞こえた。聞こえてしまった。

それは確実な死刑宣告。

彼女が扉を破壊した時、俺達に訪れるのは逃げられない死だと悟った。


(まずいまずいまずいッ!?おい榛名!戦闘学最強の序列第零位が敵に回ったぞ!これ俺達死んだんじゃないか!嫌だぞ!俺はまだ死にたくない!)


(私だって死にたくありませんよッ!?やり残した事だってたくさんあるんです!博士の作品を超える兵器を作ったり!イケメン男性とお付き合いとかしてみたいです!それをせずに死ぬなんて絶対に嫌です!)


(私も死にたくありませんッ!あの天乃バカよりも先に死ぬなんてぴらごめんです!そして彼氏だって作りたいです!あの天乃バカを蹴落とせるくらいのイケメン男性と出会って、健全で少女漫画チックなお付き合いとかしてみたいです!)


三人の鼓動が頂点に達し、失神寸前である。


(榛名!何か道具はないのか!この状況を打破できる一発逆転の道具だ!)


(そんな都合の良い道具なんてありませんよ!あったらもう使ってます!追い込まれた時点で察してくださいよ!!)


(くっ!本当にっ。もう打つ手が無いのか…!)


(ありません……もう私達は…………ん?)


榛名は首を傾け、何かを思い出したかのようなバックを探る。

そして筆箱台の黒いケースを手に取った。


(榛名、それは?)


(夜織先輩に頼まれていた注文品です。これも【擬似再現化】武装で、正直言えば傑作品ともいえる性能を持っています…)


(っ!?ならそれを使えばっ!)


(駄目です。使ったら私達が危険にさらされます。これはどんなに改造と修正を加えても、命令を受け付けなかった制御不能・・・・な武装なんです。ただ形にしただけの欠陥品けっかんひんなんですよ)


(は…へ?なんでそんな危ない物を…?)


(夜織先輩に頼まれたんです。製作中にコレの存在を知られて、高額な報酬と機密情報で手を打ちました。これは夜織先輩がもっとも手にしたい武装で…いえ正確には)


榛名の口から、聞いた事のある能力が呟かれた。


(『黒槍出現』。夜織先輩は妹の能力を欲して、制御不能でもいいからとコレを作らせたんです)


そして榛名は黒いケースを見ながら、震えた声で宣言する。


(これはあくまで最後の手段です。扉が破壊された瞬間に起動させて、後は運に任せるしかありません…)


あ、榛名の目から光が消えている。

これは本当に死ぬやつだ。もう爆弾と変わらない。


(見せてくれませんか?)


(ええどうぞ)


灯花の手に黒いケースが渡る。


(この武装の名前は?)


(武装『黒乱こくらん』。乱暴者らんぼうものから取った名前です。本当にこの子は乱暴で、いくら改善してもすぐに暴れて色々壊すんですよ)


まるで我が子の事のように語り出す榛名。


(どうして制御不能に?何か理由があるのでは?)


(ええありますよ。適性率てきせいりつという壁が立ちはだかっています)


(適性率?それは一体)


端的たんてきに言えば、この武装は使用者を選ぶんです。適性率が低ければ制御不能に、そして高ければ…………)


(高ければ?)


榛名が沈黙する。

そこにはあきらめきった瞳があった。


親不孝物おやふこうものですよ。戦闘学中のDNA情報を試したのにも関わらず、誰一人として合わなかったんですから)


(そう…でしたか……)


憔悴しょうすいしたような表情で語り終える榛名に、灯花は何も言えずただ黒乱を眺める。

そしてふと目が合い、黒乱を差し出された。


(見ますか?私達の最後の手段です)


そう聞かれて、一瞬思考が迷う。

これが詩織の能力をもとにして作られた武装であり、残された切り札か。

まさか最後に命を託すのが、あの詩織の能力とは。どんな運命の巡り合わせだろうか。


一周回って、慌ててた心が落ち着いた。

そうだな。ちょっとくらい触っても、


(どうぞ)


灯花に手渡され、黒いケースを握っ──グニュ


…………あれ?

なんか手に絡みついたぞ?


(おい榛名さん)


(今遺言をメールに残そうとしているんです。邪魔しないでください)


(いやいや榛名さん。ちょっとこっち見て)


(今は一秒でも欲しいんです。無駄な時間は─)


(とにかくこっちを向け)


反対の手で榛名の頭をグイッと向ける。

そして黒乱が絡みついた手……は既に無く、呑み込まれた腕を見せつけた。


(なぁ榛名さん、コレ、俺、ダイジョウブかな?)


(……………………)


(ねぇ榛名さん?その沈黙怖い。怖いよ。もしかしてとんでもない事になってる?)


何も言わない榛名の反応に恐怖が生まれる。

だがその瞳は小刻みに震えており、計算外の何かが起こっている事だけは分かった。


(い、嫌だぞっ!?俺このまま詩織の能力に何かされるのか!?まさか死ぬ?そんなの最悪過ぎるだろ!!)


(…………広樹)


(なんだ!何かの対応策か!?何でもするから早くどうにかしてくれ!)


(では向かいの奥に向かって拳を振ってください。真っ直ぐに)


何を言っているんだ。そんな事でこの腕がどうにかなるのか?


(榛名、こんな時にっ…)


(こんな時だからこそです!今の広樹なら出来ます!とにかく全力で拳を振り抜いてください!そうすればきっと助けてくれます!)


(誰がっ…誰が助けてくれるって言うんだ!?)


(その親不孝物おやふこうものがです!まさかのまさかですよ!こんな最悪な状況で運命の人を見つけるなんて!)


(は、榛名…?)


(いいから早く!大きく腕を構えて!!)


ああもう何だって言うんだ!

やればいいのか!?それで本当にどうにかなるのか!?

くっそ!もう何でもやってやる!


大きく腕を構えて、


(いっけえええッッ!広樹ぃいいいい!!)


はぁああああッッ!!────


(っっ!?)


灯花の瞳が驚愕に染まる。

激震と轟音を鳴り響かせ、姿を見せたのは巨大な剛腕ごうわん

それは部屋の空間を蹂躙し尽くし、視界の全てを貫通した。


崩落する壁。倒壊する一室。充満する土爆風。そして役割を果たしたのか、剛腕は消滅して黒いケースへと戻った。

そして見えたのは澄み渡った青空である。


(灯花さん!)


(は、はい!)


俺と榛名を抱き締め、灯花が宙へと飛んだ。



────。

────。



「ふぅ、ようやくだよ」


「くっ、天乃っ…!」


倒れた少女の頭上で、男は笑みを浮かべてボタンを持つ。


「ごめんね詩織ちゃん。でも簡単に死ぬような人じゃないさ。ちょっと集中治療室に緊急搬送されるだけだから、きっと大丈夫だよ」


「そんな訳ないでしょ!?姉さんは戦闘力を失っているのよ!もしマンションが崩落したら」


最悪の未来が脳裏によぎり、家族の危機に声音を震わせる。


「それは夢物語さ。だがもし詩織ちゃんの妄想通りに進んでくれるのなら……ハハハッ!」


申し訳なさが興奮へと移り変わり、その顔が絶頂に染まった。

そして陶酔した笑みで、囁くように本音を漏らす。


「最高じゃないか」


そして躊躇もなく、軽くボタンが押されてしまった。



────。

────。



突如と背後から地鳴りが響き渡る。

恐る恐ると俺達は背後へと振り向いた。

そして見たのは、


「「「なっ…!?」」」


あった筈のマンションが消えていた。その周囲には土煙が広がりを見せ、倒壊した事を証明していた。


「な、なぁ、まさか、俺達の所為…なのか?」


「そ、そそそそんな訳ないじゃないですか!?偶然ですよ!」


「で、ですよね!きっとそうです!…………それで、どんな偶然なんですか?」


「手抜き工事ですよ!粗悪品や中古品の鉄骨やコンクリートで建てられた建築物だったんです!どこの建築会社でしょうねハハハハッ!!」


こんなにも震えた笑声は聞いた事がない。

だが俺と灯花さんも同調する。それしか出来ない。この光景を生み出したのが自分達であると認めたら、きっと心がどうにかなってしまう。


そして全ての事実から目をそむけて、俺達はその場を後にした。

読みに来てくれてありがとうございます!

これからもよろしくお願いします!

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