表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
197/221

第197話、榛名「潜入捜査ですね!」灯花「犯罪ですよ。でも私は賛成です」大鍋『男なら喜ぶだろ?可愛いのをグツグツ煮込んだんだぜ』

大変お待たせしました!

書き上がりましたので投稿します。


※途中でキツい展開が待っています!

答えを明確に出していませんが、気がつけば吐気を催す可能性がありますので、なるべく深掘りせず柔らかい気持ちで読んで頂ければ(たぶん)大丈夫(と信じたい)です!(ただ念のためにお腹いっぱいの時を避けて読むか、エチケット袋のスタンバイをお願いします)楽しく読んでもらえたら嬉しいです!


ちなみにかなり前の年越お笑い番組でやっていたシーンと酷似していますので、R18や危険表現などには引っかからない筈……と信じたいです(^^;)


前置きが長くなって申し訳ありません!

今回は長文で仕上げましたので、長く楽しめると思います!

どうかこれからもよろしくお願いします!

「「…………」」


「…ああー…今になって気づいたと思うが……」


顔を伏せる少女達。

目の前にはひらかない扉がある。

つまり二人に対して言う事は、


「アポ無しは駄目だろ。常識的に考えて」


「「これは違うんです!誤解です!」」


息ピッタリだ。流石は序列者に振り回される苦労人達──『振り回されたい』って呼ぼうかな。


「ちゃんとアポは取りました!このシルバーケースを見てください!この中には夜織先輩が注文した武器が入ってます!本来これを渡す為に来たんです!広樹の事情はいでだったんですよ!」


コイツ絶対ロクな死に方しねぇ…

いやもう駄目だ。中身が本格的に駄目だ。人間性が壊滅してる。


「私もです!このバッグを見てください!この中には序列第二位の悪事の証拠が詰まっています!これらを見せて姫路先輩には序列第二位の制裁をお願いしたくて訪れたんです!あの天乃バカを亡き者にしたくて訪れた筈だったんですよ!」


序列第二位も絶対ロクな死に方しねぇ…

本当に苦労してるんだな。

だって目が染まってるもん。にごってるもん。どれだけ追い詰められたらこんな目になるんだ?闇が見え隠れしてるぞ。


いや駄目だ。その目をジッと見てはいけない。

ナニカに飲み込まれそうな気がして怖い…


「つまり入れ違いになったと?」


「「それしかあり得ません!」」


本当に息が合うな、振り回され隊…


「じゃあ扉の前で待ってるか?」


「そうすると御近所に迷惑がかかります。近くの喫茶店で時間を……無理ですね」


ここはマンションが立ち並ぶ住居地帯。喫茶店はなく、あってもコンビニくらいだ。


「適当に歩くしかないな」


「そうですね」


「榛名もそれで良いか?…………ん?…榛名さん?」


「何ですか?」


扉の前で何やら端末をピコピコやっている榛名。


「君は一体何をやっているのかな?」


「ハッキングですね」


「ハッキングですね──じゃない!なんでハッキングしてるの!?」


「──はぁ〜、広樹。この扉をよく見てください」


榛名の指が扉に向けられる。

そこには他の扉にない、分厚い機械が取り付けられていた。


「これは最新式の電子ロックです。恐らく戦闘学の厳重保管庫で使われる程の難関なんかんレベル。こんな電子ロックを見せられたら、どうか挑戦してくださいって言ってるようなものなんですよ」


馬鹿だ。コイツは苦労人じゃない。苦労させる側の人間だった。

もう振り回され隊は解散だ。


「ま、もう終わりですけどね」


榛名が笑みを漏らすと、扉の内側から鈍い音が断続だんぞくし始めた。まるで何重にも閉められていた鍵が、一斉に開き出した様に。


「この扉は難関レベルとか言ってなかったか?」


「世間一般的には難関レベルですね」


「じゃあなんで榛名さんは三〇秒くらいで開けられたのかなぁ?」


「天才って怖いですよね。私にとっては簡単でした」


ああ本当に怖い。アホが才能を持っている事がこんなに恐ろしいとは思わなかった。

だって序列者達が恐れる詩織の姉を敵に回したんだぜ?

本当に怖いよ。お前の命知らずさがな。


「じゃあな榛名。好奇心に殺されるって、まさにこの事だ──っ!」


ガシッと腰に圧迫感が生まれる。


「待ってください広樹。これは作戦です。これから素晴らしいプランを話しますので逃げないでください」


腰に抱きつくな榛名。どの口が言うんだ。

さっきまで好奇心に動かされていたじゃないか。作戦には到底思えない。

お前を引きりながらでも俺は逃げるぞ。

引き摺られてボロボロになる前に離せ天災てんさい


「よく考えてください。相手は序列者達が恐れる存在。そんな相手にまともな見返りや根拠も無しにお願いできると思いますか?相手は言わば戦闘学の重役的ポジションに立つ人なんですよ」


いやでも、相手の身内に苦しまされているなら、その姉に相談を求めても良いんじゃないかと俺は思う。

それは駄目なのだろうか?


「貴女の妹さんに迷惑しているから助けてくれ…。それを先輩が信じると思いますか?詩織は常に優秀な成績を納めて来たんですよ?」


うっ…それは確かに…。


ああ。そうだった。確かに詩織は優秀な生徒としてとおっている。教師と生徒から尊敬の眼差しを向けられていた。


その上で詩織の姉に助けを求めたとして、信じてもらえるかどうか…。いや、きっと戯言ざれごとだと聞き流される。むしろ家族に難癖なんくせを付けられたと思われるかもしれない。


「だからちょっとでも可能性を上げるんです!夜織先輩の部屋に潜入する事で、彼女の情報を収集、研究、資料作成、プレゼンをして、初めて夜織先輩にお願いが出来るんですよ!」


「あれ?どっかの会社の営業マンになろうとしてない?それとプレゼンってなんだ?」


「プレゼンは口説くど文句もんくです。つまり彼女の心を掴む話題を発見して、それをきっかけに会話を進めるんです。最初から好印象を持たれれば勝機はありますよ!」


言いたい事は何となく分かった。だが流石に不法侵入は駄目だろう。


それに最初から交渉が難しいのなら、どうして俺を連れて来たんだ?

どう考えても自分が不法侵入したくて適当に考えた理由にしか思えない気が──



もみもみ…………



ん?あれれ?榛名さん?



君は俺の手を握って、どこを触らせているのかな?


「扉の内側に広樹の指紋がべったりと。後は部屋を荒らせばどうなる事やら〜。下着とか下着とか下着とか下着とか下着とか下着とか〜」


っ!?何やってんの!?本当に何やってんのコイツ!?


「さあ行きましょう!私ずっと気になってたんです!あの序列者達に恐れられている伝説の元第一位!!そのお部屋で家探やさがしなんて滅多にないレア体験です!」



────。

────。



「さて、今回の司会進行役はこの俺、序列第三位の真守義ますぎ降磁ふらしおこなう」


眼鏡を光らせる黒髪短髪の強面青年は円卓で宣言し、


「それではまず、この会議室でってった仲間、序列第四位に向けて──黙祷もくとう!」


「……は?」


予想外の言葉に少女だけが困惑した。

少女だけがだ。


詩織しおりの除いた全員が、澄まし顔で瞳を閉じる。そこにふざけた気持ちは一切ない。四人は真剣な意思で黙祷に没頭した。


「────止め」


「「「っ」」」


「え?……え?」


「では始めよう。序列者集合会議、後半の部を開始する。天乃あまの、資料を映せ」


詩織だけが困惑する中、四人は会議へと進み出した。

部屋の壁に取り付けられたモニターが、天乃の操作によって映像を映し出す。


『おめでとう!』

『ようやく部屋から出られたんだね!』

『おめでとう!』

『先生は信じてたぞ!』

『おめでとう!』

『少し見ない間に美人になったじゃないか!』

『おめでとう!』

『貴女が教室に来る日をずっと待っているわ!』


何かのBGMを流されながら、教師陣が拍手しながら『おめでとう』と口にする。

その映像を背後に、天乃も拍手を奏でた。


「おめでとう!鈴子すずこちゃん!」


「何をやってるんだ馬鹿」


降磁に叩かれる天乃。


「痛っ!?っっいやね!せっかくに制作したのに勿体ないじゃん!見てよこの編集!イベントの後で教師陣がこぞって映像を送ってくれたんだよ!愛されてるね鈴子ちゃん!」


それは新入生歓迎イベントをきっかけに天乃が作ったメッセージ映像。

天乃は笑顔で鈴子に聞く。


「それで鈴子ちゃん。今どんな気持ち?」


「最悪だよ」


ザシュと、天乃のひたいにペンが突きさった。


「ねぇ降磁。いきなり頭は無いと思わない?」


「尻よりはマシだろう」


「まぁ確かにね」


何事もなかった様にペンを引き抜く天乃。


「僕じゃなかったら死んでたよ鈴子ちゃん」


「死なないからやったんだよ」


悪びれる様子もなく、鈴子は二本目のペンを用意した。


「早く消して」


「うん。分かったから二本目は置こうね」


そしてモニターが移し替えられる。


「じゃあさっそくだけど──」



────。

────。



「灯花さん。アナタは本来止める側なのでは?」


「すみません。私としても今の状況はありがたいんです。それと呼び捨てでいいですよ」


灯花は苦笑いで語り出した。


「ちょっとでも可能性が上がるのなら、私は犯罪にだって手を染めます。それであの人が変わってくれるのなら。私の日常に平穏が訪れるのなら何だってやりますよ」


うん。ヤバイ。こんなに暗い笑顔は見た事がない。

もう末期まっきとしか思えないくらいに追い込まれてる。

一体今まで何をさせて来たんですか天乃さん…


「それにこういう仕事は慣れてますから。私達を特定させる証拠は残しません」


「慣れてる?」


「ああ。広樹は転校したばかりで知りませんでしたね。灯花さんは潜入任務のスペシャリストなんですよ」


冷蔵庫を物色しながら榛名が言う。


「透明化、もしくは物体を擦り抜ける事も可能な能力『透化とうか』。彼女はどんな場所でも見つからずに行けるんですよ。大統領の寝室や、ラスベガスの金庫とか……ゴクっ…ゴクゴクっ…」


何それチート?

そんな能力があればどんな敵に対しても逃げ放題じゃないか。めちゃくちゃ羨ましい。


「でも情報では…ゴクっ…物体の擦り抜けは難しくて…ゴクンッ…かなり集中力がいるとか…ンン…失敗すれば地中に沈んでしまうとか聞きました。やはり三次元にある肉体を、別次元の存在へと改変させるのは大変なんですかね?以前から気になってました」


「研究者達には亜種三次元あしゅさんじげんと呼ばれています。誰にも見えず、触れられない別次元。大変と言われればそうですが、私は訓練をしましたので一応咄嗟いちおうとっさには入れますね」


「ゴクゴクっ…それは凄いですね。訓練でどうにかなる範疇はんちゅうを超えちゃってます。ここまで聞くとが見え隠れしちゃいますねー」


「っっ…」


「やはり何か細工を?脳髄のうずいの奥とか」


「……」


気まずそうな表情で灯花は視線を彷徨さまよわせる。

その反応に榛名は察した。


「深く聞かない方が良さそうですねー。まあ序列第二位の付き人が、ただの戦闘力者な訳ありませんから……ゴクゴクゴクっ」


「「…………」」


さっきから気になってたんだが。


「榛名。お前が非常識な人間って言うのはよーく分かってる。だけど…」


俺は榛名の手に握られた物を見て言った。


「流石に勝手に飲むのはアウトだよね!?馬鹿なの泥棒なの!?」


小瓶こびんを持つ榛名を叱りつける。


「いえ、これも情報収集です!見てくださいこのドリンクを!」


ただのドリンクなのだが?


「パッケージングされず更には数日前の日付がペンで書かれています。これは間違いなく夜織先輩の手作りドリンクです!」


だからなんだ?


「作った料理が料理人の心をあらわす。そんな台詞を漫画で読んだ事はありませんか?」


「無い。それとドリンクって料理に入るのか?」


「じゃあこれから知っていきましょう。今度漫画貸しますから」


もう着いて行けないよ榛名さん。


「それにしても味が独特ですね……灯花さん。一本どうぞ」


「…………ええ、貰います」


「えっ、ちょっと灯花さん!?」


「呼び捨てでいいですよ──確かに榛名さんの言う事には一理あります。バレない程度に飲む分には大丈夫でしょう。データは多いに越したことはありません。幸いにも練習中なのか、小瓶たくさんありますから」


え、えーー?俺が間違ってるの?

そしてゴクゴクと飲み始める灯花。


「それにしても本当にたくさんありますね……んぐ、確かに味が……それと何でしょうか。独特な後味が残りますね。ややエグ味もありますし…今までに味わった事のない風味がします」


「それです。かなり違和感があるんですよね。しかしここが夜織先輩を口説く鍵になるかもしれません」


冷静に分析する灯花と榛名。

真面目風に言ってるけど、今君達がやっているのは犯罪だから。俺はちゃんと止めたからね。


「恐らく特別な材料が使われていますね。味的には栄養ドリンクに近しいですが、今までに口にした事ない味も混ざっている……しかしこれはチャンスです」


「チャンス?」


「話題ですよ!このドリンクをきっかけに、会話を膨らませるんです!この冷蔵庫一杯の小瓶を見れば、夜織先輩のドリンクへの執念は半端じゃない!」


「確かにこの数は尋常じゃありませんね」


冷蔵庫内にぎっしり詰められた小瓶の数々に、榛名の発言に説得力が増す。


「まずこのドリンクの材料を特定しましょう!少なからず会話の種になります!」


「ええ。このエグ味も気になります」


二人を放っといて良いよね。もう二人の世界だし。

それにしてもキッチン周りが気になっていた。

さっきから嗅いだ事のある香りがするし…


「しかし榛名さん。このドリンクだけで特定するのは無理があります。レシピを探しますか?」


「そこは私の便利アイテムの出番です!大きさ的にポケットには入らなかったので、こっちから…」


アタッシュケースの中から取り出したのは、細長い針の付いた小型の機器である。


「じゃじゃじゃじゃ〜ん〜、【君の正体しょうたい探し機】〜〜」


「【君の正体探し機】?それはどんな道具なんですか?」


「よくぞ聞いてくれました!これは針の先端で触れた物質を解析して、戦闘学のアーカイブから情報を検索する機械なんです!」


榛名が解説する中、俺はコンロに置かれた大鍋に近づいた。

やはりここから嗅ぎ覚えのある香りが…


「本来は毒や麻薬などをあばき出す為に使いますが、今回はこのドリンクの材料を暴きましょう!戦闘学のデータは幅広いです!必ず見つけてくれます!」


戦闘学のデータからドリンクの材料を特定するって、校長が聞いたら大泣きすると思うな…


っと。それよりも大鍋の中身はなんだ?蓋を取るくらいならバレないよな……もう二人が色々やってる訳だし。


「でますよーでますよー!一体どんな材料が使われているのでしょうか!」


「場合によっては姫路先輩の強さに繋がっているかもしれないですね。このドリンクが今の先輩を作り出しているのなら、私もレシピが欲しいです」


「確かに!それは私としても欲しいところですね!」


飲み口に針を刺し込み、興奮しながら結果を待つ榛名と灯花。

そして特定が終わり、画面に単語の羅列が表示された。


【果糖ブドウ糖液糖】

【高麗人参エキス】

【ガラナ】

【マカ】

【マムシ抽出液】

【トンカットアリ抽出液】

【L-シトルリン】

【コブラ抽出液】

【ハブ抽出液】

【エゾウコギ抽出液】

【ローヤルゼリー抽出液】

【豚睾丸エキス】

【姫路詩織-DNA】


…………ん?


「姫路詩織…DNA…?」


…あれ?おかしいぞ?

なんで聞いたことがありそうで無いはずの成分が表示されてるの?

え、なんで、本当になんでだ?



────。

────。



姫路ひめじ詩織しおり分泌物保存計画ぶんぴつぶつほぞんけいかく


部屋のモニターにそう表示され、詩織は呆れ顔で降磁に向いた。


「先輩。また天乃バカ馬鹿バカな事をやっていますよ」


「…………」


「…?先輩?」


沈黙する降磁。

彼だけではなく、詩織を除いた全員が一言も発さず、ただ天乃の次の言葉を待っていた。


「既に分かっていると思うけど。これは序列者全員の悲願ひがんだ。自分だけが助かれば良いとか、関係無いとか思っていると、明日は君の番になるだろう」


「何を言ってるのよ!?私の分泌物がどうして貴方達の悲願が関係してくるのよ!」


「「静かに」」


「はぁ!?」


鈴子と降磁に止められ、困惑する詩織。

天乃だけの戯言かと思いきや、そうではなかったのだ。


「もう訪れるんだ。あの時期が。あの季節が。汗を大量に分泌する四大季節の一つ。地獄のサマーシーズンがね」


「「「ゴクリ」」」


「葉月まで喉を鳴らすのはいくらなんでも可笑しいわよ!?」


もう訳が分からないと発狂する詩織。だが他の序列者は冷静に会議を続けた。


「何としても夏が来る前に詩織の分泌物をヤツから保存する方法を見つけ出す!でなければ僕等の咥内こうないは詩織ちゃん一色だ!」



────。

────。



鍋の蓋を開けると、そこには思いもしなかった物が入っていた。本来であれば食材を入れるべき場所にも関わらず、真っ先に見てしまったのは無機物な非食材。


タオル・ジャージ・靴下・靴、そして女物の下着である。

特にジャージが何枚にも重なっていた。


なんでこんな物が?としか言葉が浮かばない。


女物の下着ともなれば少なからず興奮を覚えるのが男であるが、流石に鍋の中にあっては何も覚えない。むしろ気持ち悪い。


だが何故鍋の中に?


臭いも強い。悪臭だ。まるでずっと煮込んできた様に思える。


一体、姫路夜織は何の目的でこれらを鍋に入れていたんだ?

まさか煮込んできたのか?


どんな意図があってこんな事を…?


「なぁ榛名。鍋の中に訳の分からない物が……榛名?」


背後に振り向くと、そこには静寂に支配された少女達がいた。

一言も発さず、ただドリンクと機器を見つめている。


やがてフゥーと深呼吸をして、


「榛名さん。これ壊れてますよ」


「ですね。普段の私だったら故障なんて疑いませんが、流石にこれは故障しか考えられません」


──【姫路詩織-DNA】

──【姫路詩織-DNA】

──【姫路詩織-DNA】


「本当に壊れちゃってます。なんで詩織の名前が出ちゃうんでしょうか…………ん?広樹、どうしましたか?」


「いや…何でもない」


よく分からないが、この鍋については教えてはいけないと思う。自分の本能がそうささやいてくるのだ。もうそこに触れてはいけないと、危険信号を発している。


忘れよう。無かったことにしよう。

そうすれば皆んな幸せなんだ…きっと。


「そういえば気になる部屋がありました。そちらを見てみましょう!」


静寂を吹き飛ばして、榛名は廊下へと出る。

そして奥にある鉄扉に目を向けた。


うん。最初の扉もそうだったが、どうして人の住んでいる家なのに、こんなにも扉が厳重になっているのだろうか。


もしかしたら俺達は、開けてはいけないパンドラの箱を開けているんじゃないか?


「ここはさっきの扉よりも強固ですね。五分はかかりそうです」


指をコキコキ鳴らして、ハッキング作業に入る榛名。

もう注意する気にもなれず、俺はただ見守った



────。

────。



るしかないよ。あの分泌物愛好家ぶんぴつぶつあいこうかはこの世にいてはいけない存在」


鈴子の案から火蓋が切られた。


「それは無理だね。彼女は戦闘力こそ失っているけど、僕達の弱点を知り尽くしている。それに恐ろしい武器も持っているからね」


それを天乃が否定する。その次に手を挙げたのは降磁だった。


「では詩織を監禁するというのはどうだ?夏の間だけでも、戦闘学の最深層ちかに閉じ込めておけば、あの実妹愛好家じつまいあいこうかでも手は出せんだろう」


本人の意思を考えない非人道的な提案。自信ありげに語った降磁だが、天乃は首を横に振る。


「それって後が怖いよね?妹を監禁したなんて知られたら、僕達は地獄以上の景色を見せられるよ、きっとね」


「くっ…確かにそうだな…」


「もう何もないよ…」


降磁と鈴子の顔が苦渋に満ちる。

そんな二人とは違い、天乃はまだ希望はあると、最後の同士に目をつけた。


「序列第一位……君の意見を聞かせてはくれないかな?」


「「っっ!?」」


この円卓において、その少女の右に出る者は一人もいない。

透き通るような純白の髪と、何もない虚空の青空を思わせる青い瞳。


戦闘学日本支部の頂点。最強の座に立つ少女。


序列第一位──白姫葉月に、天乃は真剣な眼差しを向けていた。


「君がその気になれば、彼女と言えども─」



「無理」


「「「っっ!?」」」


この部屋で初めて聞いた少女の一声。

だがその返答は、誰もが考えもしなかった。


「……それってつまり、君でも夜織先輩には勝てないって事かな?」


「…………」


「ここまできて黙らないでくれよ葉月ちゃん!君だけが僕達に残された最後の希望なんだよ!無惨に殺されていった序列第四位の仇を取るんだ!さあ葉月ちゃん!あのシスコンサイコパス女を血祭りに上げようじゃないか!」


燃えるように熱弁した天乃だが、依然と聞く側に立っている少女の意思は揺らぐ気配すら起きなかった。


「天乃。コイツは俺達には動かせない。それぐらい知っていただろう?」


「くっ!僕達の最終兵器が…」


望みが絶たれ、絶望に染まる三人。


「どうするの?このままじゃあ…」


「どうするもこうするも…残された手段は一つだけさ」


「ん?その手段とはなんだ?」


降磁と鈴子が見つめる中、天乃は赤いスイッチのある小箱を出した。


「まぁ、実際の話ね。もう根回しは済ませていたんだ。でもしょうがないよね。多少手荒になっても」


邪悪な笑みを浮かべて、戦闘学の序列第二位は己の周到さを語り出す。


「第四位の一人・・が協力してくれたんだ。受けたあだは返さないと気が済まないってね。今日が彼女の命日になるだろう」


「何をしたの?それにそのボタンは?」


「フフフ。色々とやったよー。夜織先輩の端末にウイルスを流して使えなくしたり、密かに入手した詩織ちゃんグッズを餌にして遠くに誘き寄せたり、そして……ククッ…」


勿体もったいぶらずに早く教えろ」


周りくどい話し方に嫌気がさし、答えを急かす降磁。

今打ち明けた情報だけでも、天乃がしでかした事はただの悪戯いたずらでは済まされない。


「ククッ、灯花ちゃんは本当に良い子なんだ」


「…ん?」


「真面目で。清純で。頑張り屋で。正直で。教師陣から信頼も寄せられている。主人ぼくが顔負けするくらいの立派な従者おんなのこだ」


「何を言っているの?」


突然と始まった従者の自慢話。


黒衣こくい灯花(灯花)。序列第二位の付き人であり制御役。彼のイキ過ぎた行動を率先して止めるのが、彼女の役目であり任務。

どうして彼女が序列第二位の付き人に選ばれたのかは、この場にいる誰もが知らない。


だが今出てくる内容ではない事だけは分かる。

何故、姫路夜織の話から彼女が出てくるのか。


「ああ、本当に良い子だ。こんな僕を矯正きょうせいしようと一生懸命に頑張って。なんて出来すぎた子なんだろう。そして果てには─」


こればかりは、と。

天乃は笑いながらも汗を落として言う。


「夜織先輩に情報を渡そうとするなんてね……ハ、ハハッ、本当ヤバい、知られたら僕余裕で死ねるよッ!」


天乃は従者の行動を看破していた。

だが因果応報であると、皆が彼に思うだろう。

それだけの事を彼がしてきたのは、誰もが知る事実である。


「僕の記録が詰まった資料。それを灯花ちゃんが用意して、出かけちゃったんだ…」


「どこに?」


「夜織先輩の家に」


「「あ…」」


事情を知っている者達は悟った。

これは死ぬ。近いうちに彼は壊されると。


「前々から情報を掴んでいたんだ。よく灯花ちゃんの端末をこっそり覗いていたからね」


「お前、最低だな」


「それは向かう。向かわない理由がない」


プライバシーの侵害を余裕でする天乃に、鈴子と降磁の軽蔑が刺さる。


「だから計画を進めたんだ。【姫路夜織暗殺計画】をね──ああ、ごめん灯花ちゃん。心の底から謝るよ」


そして天乃は告げた。

自分が起こし、犯した計画を。


「彼女のマンションに爆弾を仕掛けたんだ。よく海外であるだろう?マンションを爆弾で解体する凄い映像。その起爆スイッチがコレさ」


もう取り返しがつかない場所に彼は立っていた。

灯花が情報を引き渡した瞬間に、天乃の死刑は確定する。

ならばと、全て壊そうと決めたのだ。


「灯花ちゃんなら大丈夫さ。あの子には『透過』がある。崩れる落ちる残骸になんか潰されない。まぁ能力を過剰に使って地中に沈んじゃったら、後で掘り返すさ。灯花ちゃんならギリギリ瀕死ひんしで生き延びてくれる筈」


これが灯花の瞳を濁らせた元凶である。

従者の事を考えないイキ過ぎ行為。

己の願望を叶える為なら、味方だろうとえさにもにえにもする。

灯花が殺意を浮かべるのも納得の所業である。


「もし俺がお前の立場だったら飯の味がしなくなるぞ。お前はそれぐらいの事を平気でやってる事を理解しているのか?」


「ゲームの中にもいないよ。こんなゲス野郎」


「マンションの住民は既に避難済み。いるのは夜織先輩と灯花ちゃんのみ。もし灯花ちゃんが夜織先輩を助けようとしても、亜種三次元に入れるのは灯花ちゃん一人だけ。これで夜織先輩が助かる可能性は皆無かいむだ!ハハハハ!」


「「く、狂ってる…」」


「さあこのボタンを〜」


「させるわけないでしょ!」


ようやくと、ずっと置いてけぼりをくらっていた少女が動き出した。

夜織の妹である詩織だ。

読んでくれてありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ○ックのバイトとECOって。どんな関係図だ、分かりにくい。 てかCEOがどんな存在なのかも分からない。 ↑ECOになってますね
[一言] 違和感の正体が分かった新キャラも変人だったW ワロタ。
[一言] どうせ変態なんだろうとは思ってたけど予想の右斜め上を突き抜けた変態だった。 服からいろいろ抽出してそれをキメるとかそれなんて麻薬……ヒェッ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ