第196位、降磁「話をさせてくれ」天乃「これは違うんだ!」
お久しぶりです!
書き上がりましたので投稿します!
どうかよろしくお願いします!
「話をさせてくれ……おいなんだ。その汚物を見る様な目は」
「詩織ちゃん鈴子ちゃん!これは違うんだ誤解なんだ!だからそんな目で僕等を見ないでくれ!!」
犯罪者は皆んなそう言う──ならぬ、男色イケメンは皆んなそう言う。
現に今、彼等は蒸気を漏らしながら抱き合っていた。
「抱き合ってないよ!?どう見ても僕がコイツを羽交い締めにしてるよね!?」
きっと口だけなのだろう。
身体は正直なのである。
「怖い!鈴子ちゃんの目が怖すぎる!そして口にしてないけど言葉が脳内に伝わってくるよ!?」
「コイツはそうだが俺は違うぞ二人とも」
「ちょっと降磁!?君何言ってんの!?」
「事実だ。現に天乃、貴様は俺を羽交い締めにしながら汗を流してハァハァしてるではないか。既にネタは現在進行系で上がっているんだ認めろ天乃」
「君が原因だよね!?自分は正常だとか言い張っているからそれを証明しようとして僕が証拠を晒したんだよね!?この亀○縛りは明らかに正常じゃないね!ねぇ!!」
「はっ。亀○縛りは証拠にはならない。むしろ今のお前は自分を鏡で見た方がいい。完全に変態だぞ。裸で抱きつくな熱苦しい」
「君が抵抗したからこうなったんだよね!?君が破いたんだよね僕の服!!」
パシャ
「撮ったよ」
「よし共有してやれ」
鈴子は端末を操作し、その場にいる全員のポケットから音が鳴った。
「何やってるのぉおお!?序列者のトークにアップしたよね!?ねぇ!!」
「即読みが着いた。それと返信も…」
指を滑らせ、鈴子は言う。
「皆んなのメッセージを要約すると、『ホモでとう。しぃーゆーあゲイん』だって。祝ってくれてるよ」
「うわぁあぁああああっっ!?」
心の底から絶叫を上げ、頭を抱えて打ち震える天乃。
「ふぅ。だから常日頃から注意しているんだ。もう少し弁えろとな。俺まで巻き込まれていい迷惑だ」
既にボタンが取れているが、それでも羽織るには十分だとシャツを着直す降磁。
「ん?なんだ?その何か言いたげな目は」
「ん」
鈴子は画面を差し出した。
「これはっ!くっ!おい天乃!貴様の所為で俺まで変態扱いにされたではないか!どうしてくれる!『調教中ww薄い本のネタありがとう!次は早く仕上がりそうだよ!』と書かれているぞ!」
「うわぁあああ嫌だぁああああああ!君とカップリングされるなんて!またモデルにされて即売会で売られるんだぁああああ!!」
慌てふためく男達の姿に、彼女達は蔑みの目で通り過ぎる。
「日頃の自業自得って言うのかしらね」
「ん」
そう漏らしながら奥に座る少女へ歩み寄った。
「それで、どうして五人しか集まってないの?」
円卓を中心とした小さなホール。今そこにいるのは自分達も含めて五人だけ。
本来であれば十人揃う筈の場なのに、何故残りの序列者がいないのかを問いかけた。
「…………」
少女は答えない。その姿勢が彼女のいつも通りだが、今日はいつも以上に沈黙の雰囲気が際立っている。
恐らくこの密室で変態達と一緒にいた事で気が滅入ったのだろう、と詩織達は察した。
「それでなんで五人だけなの?」
後ろに振り返り、生理的に近寄りたくない相手に詩織は問いかける。
「ひぐっ、…あ、あぁ…それは…暴走した時の対策だよ…ひぐっ」
嗚咽を漏らしながら天乃は語った。
「メンバーを半分ずつに別ければ戦力も半分だからね…ひぐっ…前回の不祥事で…僕達の暴走を恐れた上層部が、妥協したり…頑張って工夫したんだよ…もう半分は既に別の日で終わってるよ」
「そう。でもおかしいわね」
詩織はその工夫に疑問を抱いた。
「残りのメンバーに全体を仕切れる適任者はいたかしら」
ティッシュで鼻をかみ、天乃は涙を拭く。
そして本来の声音を取り戻し、詩織がよく知る人物の名を挙げた。
「それなら夜織先輩がやってくれたよ」
「姉さんが?」
実姉の名前を聞き、詩織の顔から疑問が晴れる。
「納得したわ」
「ああ。それで向こうの会議は平和に終われたらしいよ(表向きはね)」
「(きっと表向きだけだよ)」
「(きっと表向きだけだな)」
「(…………)」
ある事実を知らない詩織を差し置き、知る者達だけが心を一つにする。
「流石は姉さんね。私も早く姉さんみたいに…」
そして想いにふける彼女を他所に、座っている葉月を中心に三人は集まった。
「こっちのグループに入れて良かった。本当に。あっちは罰ゲーム」
「僕もそう思うよ。彼女に会ったら最後、しばらく何も食べられないからね」
「同感だ。流石の俺でも彼女の前では裸になれん」
「……」
葉月の頭上で三人は震えながら思いを打ち明ける。
「で、裏向きはどうだったの?」
鈴子の質問に、天乃は哀れみの目を作り言う。
「夜織さんが退室した後、一人が発狂したらしいよ。そして今も寝込んでるみたい」
「つまり」
「ああ、きっと想像通りの事が起こったんだろうね」
────。
────。
「到着です!此処が夜織先輩が住むマンションですよ!」
元気に告げる榛名。
だが俺は元気じゃない。むしろその逆である。
「おい榛名。俺が今何を言いたいか分かるか?」
「あ、あ、ははは…」
怒りを露わにする俺の姿に、榛名は苦笑いを返した。
「ちょっとゾーンに入ってしまいまして…ノリって恐ろしいですよね!」
俺が戦闘学を辞めたい理由にコイツの存在も足してやろうか。
機会があれば博士に告げ口しても良いよね?俺は悪くないよね?
「それじゃあ行きましょう!時間は有限ですからね!」
俺の背中を押し出す榛名。
ああ、この背中にある両手を捻りたい。本心からそう思う。現に今のビーム色は赤色だ。
見てるか榛名。俺のビーム、真っ赤になったんだぜ。
「何真っ赤になってるんですか?もしかして私みたいな可愛い女の子に触られて照れてるんですか?えへへへ」
前言撤回。捻るんじゃなくて焼き切ろう。
「あ、そのビーム(仮)は玩具ですから、殺傷能力は皆無ですよ」
へ?
「このようにですねー」
榛名がビームに触れると何も無かった様に擦り抜けた。
正確には赤いビームが榛名の手の平を貫通している様に見えている。
「貫通している様に見えますが、怪我はありません。これはとある能力データから作った装置なんですよ」
じゃあ最初から必死こいて逃げる必要はなかったの?
「ビーム同士はぶつかり合いますが、身体や物に対しては擦り抜けます。剣道ごっこが楽しめる様に目指しました」
安全だったのか…
で、でもいくら怪我をしなかったとしても、この怒りは治らない。
「私もおふざけが過ぎました。改めて謝ります。もし許してくれるなら…」
コツコツと手を突かれる。そこにはビーム剣(仮)が握られていた。
「コレ差し上げちゃいます!このライト─「あのー…」え?」
背後から声が聞こえ、榛名と共に向き直る。
そこには見覚えのある少女が立っていた。
「申し訳ございません。会話が終わりそうになかったので」
短い黒髪に年下を思わせる童顔。
そして腰には物騒にも刀を携帯している。
一つ一つの特徴を捉え、彼女の名前が思い浮かんだ。
「黒衣さん?」
「前にも言いましたが灯花で良いですよ」
数週間前に出会った少女。黒衣灯花。
前回と同様に同い年だからと軽く接して欲しいと彼女は微笑む。
「それで荻野さんと…」
「あ、どうも初めまして。緑川榛名と言います」
「これはご丁寧に。私は黒衣灯花と申します」
簡単に自己紹介を始める少女達。
「緑川榛名さんと言えば、序列第十位の専属になっているあの?」
「はいその通りです。ちなみに黒衣さんは、あの序列第二位の付き人で?」
「はい。私です」
「いつも第二位と…」
「あの第十位の…」
「「…………」」
ガシ!
あれ?なんで握手?
そしてなんで悟った瞳で見つめ合ってるの?
「お互いに苦労しますね」
「分かるんですか?あの序列第二位ですよ?イケメンですよ?モテモテですよ?」
「序列者という肩書だけで、黒衣さんの苦労はよ〜〜〜〜くっっ分かります!」
「っ、感激です。それと私の事は灯花と呼んで下さい。さん付けは要りません」
「私も榛名って呼んで下さい。アナタとは良い関係になれそうです」
労いを交わす少女達。
そして握手を解き、改めて灯花の質問に榛名が答えた。
「姫路先輩にですか?偶然ですね。私も彼女に会いに来ました」
会話をしながらエレベーターに乗り、目的の階に向かう。
「そうですか。荻野さんが退学を…」
灯花は暗い表情を自分に向け、
「それも良いかもしれませんね。正直、序列者に付き纏われたら人生詰みですから」
そ、そこまでなのか?
流石に言い過ぎでは…………あ、目がヤバイ。冗談じゃない事がすぐ分かる。
「一人でも大変なのに、二人も…………三人目が来たら終わりだと思って下さいね」
なんの終わり?ねぇなんの終わりなの!?
読んでくれてありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。