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第194話、天草先生「お帰りなさい!」序列第三位「ようやく帰って来たな」

書き上がりましたので投稿します!

よろしくお願いします!

戦闘学専用ジェット機。

その機内には一般人はおらず、乗務員を除いて広樹達しか乗っていなかった。

そして寝息を漏らしながら、彼女達は椅子に縛られ座っている。


『お願いシマス!オーストラリア圏内から出るまで縛っておいて下サイ!』


まるで化け物を前にした様な瞳で、メリルは揺るぎなく二人を縛ったのだ。


『この二人だったらパラシュート無しでスカイダイビングとか余裕でしてキマス!!絶対にシマス!必ずするんデスヨこの二人は!だからどうかッッ、どうかお願いシマスッッ!』


必死にお願いするメリルの顔が今でも思い浮かぶ。

でも分かる。確かに二人はヤバイ。そしてそんな二人を引きってボロボロにしたメリルもヤバかった。


…………あ、


お、俺もヤバくない?

メリルの異常過ぎる行動で忘れていたが、自分も二人に大変な事をしてしまっていた。


道路に突き飛ばして殺人未遂を犯し、果てには詩織をガラス扉に蹴り上げてトドメを刺したのだ。


こ、これはヤバイっ。本当にヤバイ!

それに今は飛行機の中だ。遥か上空の逃げられない鉄の密室。


もしそんな場所で二人が目覚め、自分を見つけたら…


こ、殺される…っっ!!?

謝りたいけど許される範疇はんちゅうを遥かに超えている!


いや俺が悪いのは分かる!許してくれるなら何でもやろう!だがあくまで出来る範囲……!


死ねと言われたら逃げるしかない。だが言われた瞬間に詰みなのだ。まばたきする間も無くヤられてしまう。


に、逃げないと!とにかく空港に着くまでは隠れなければ!!



────。

────。



「……」


トイレに引き籠った。

男性トイレという事もあり、普通だったら女性である二人が入ってくる可能性は極めて低い筈…


…………あ、間違っていた。二人を普通のカテゴリーに含めてはいけない存在だった。


男性トイレに入るくらい、彼女達にとってはプッチンプリンの蓋を開けるくらい簡単だろう。いや、プッチンするくらいの手間に過ぎない筈だ。

羞恥心しゅうちしん欠片かけらもない。ヤルと決めたらヤル女達なのだ。


そして心をプッチンさせた彼女達が、男性トイレで俺をプッチンと…………無理無理無理!


まだやり残した事がたくさんある!

それに宝くじ!ようやく思い出したんだ!


くっ、生きて帰るんだ。そして辞めてやる。

校長に退学届を渡して、平和な学園生活に戻るんだ。


「……宝くじ?」


…………さ、一億円で許してくれないかな?


ふと出た思いつきだ。罪悪感がある。何かちゃんとした形で謝罪を示したい。

お金で謝罪とかかなり最低だと思うが、今の自分にはコレしかない…


す、鈴子だったら可能性があるかもしれない。

鈴子=ゲームだ!高性能なパソコンがきっと欲しい筈!

たとえ詩織と山分けしたとしても五千万円。そんなパソコンでゲームをやれるのだから、喜ばないゲーマーがどこいる。


鈴子なら勝算はある。

だが、もう一人危ないのが残っている……


……詩織だ。


彼女こそが一番危ない。鈴子みたいなお金を使う趣味などの情報が一切無いのだ。

下手にお金を見せれば、逆に怒りを買うかもしれない。

そうなれば女子に暴力を振るい、お金で許してもらおうとした死体じぶんの完成だ。


あ、泣きたくなってきた。

本当に最低だよ俺。


くっっ!!本当にどうすれば!

謝れば殺されるっ。

逃げても糞野郎の烙印を押されてしまうっ。

どっちも詰んでるじゃないかッッ!


こんなの自分一人で解決なんて無理だっ。

だ、誰かに助けを……



────。

────。



『PPP!PPP!』


ん?誰でしょうか…………え?


「……は、葉月っ」


「ん?」


「ちょっと席を外します」


「……そう」


主人に許可をもらい部屋を出た。


「んん……『あ、ああ〜』」


ネクタイの裏に着いた変声機を使い、見た目とはそぐわない声音を出して、彼女は端末を耳にする。


「『よう!どうしたんだ広樹!』」


『斉木、今大丈夫か?』


「『おう!今暇だぜ!』」


電話の相手は広樹だった。


『……すまん。かなりマズイ状況なんだ。相談に乗ってくれないか?』


「『なんだなんだ!まるで今にも死にそうな声だな!』」


『いや、死にそうじゃなくて殺されるんだ。これから』


…………へ?


「『ちょ、ちょっと待て待て!冗談だろ〜!』」


もし事実だったらヤバイ。おもに自分の主人が。


「『と、とにかく何があったか話してくれ』」


そう頼むと、広樹は弱々しくも話してくれた。


日本に帰る直前に空港でやってしまった出来事。

その詳細を聞き、私は口元を手で覆った。


「『っっ!ぷっ!っっ!』」


『……笑ってない?』


「『っっ……ん?何を言っているんだ?お前が苦しい思いをしているのに、俺が笑う筈ないじゃないか』」


ごめんなさい。正直笑いました。

でもこの話題だけで葉月の機嫌がしばらく良くなるのは確実ですね。


「『そうだな。状況から考える限り、広樹は何も悪くない。悪いのはその外国人の女の子を襲おうとした二人なんだろ?』」


『そ、そうだけど…』


「『だったら向こうも文句は言わない筈だ。もし文句を言ってきたら人間か疑うレベルだな』」


ま、人間離れした実力を持っていますが…

中身も少々…


「『お前は正しい事をしたんだ。それを誇りに思え』」


『あ、ああ…』


元気が戻ってきましたね。

それと念の為に釘も打っておきますか…


「『それとも何か?広樹は二人と親しくなりたいのか?だったらもうむず─』」


『いやそれは無い』


「『…そ、そうか』」


迷いもなく言い切りましたね。

私の知る限り、二人の容姿は良い部類の筈。

やはり深く関わっていくと、見た目よりも中身を見るようになるんですね。


「『怖かったらそのまま隠れててもいい。会ったら会ったで、俺は悪くないって言ってやればいいんだ』」


『っ…さ、斉木は二人の恐ろしさを知らないから……本当にヤバいんだぞ?』


はい。また葉月の喜びそうな言葉を頂きました。

これなら一ヶ月は平穏な日々が送れそうですね。


「『考え過ぎだ。大丈夫。仮に見つかっても、その二人は人間なんだろ?さすがに殺すまでは』」


『あの二人は必ずヤル』


……葉月の笑顔が見えました。

え?そこまでですか?仮にも戦闘学の一員なんですよ?

広樹の中で二人の評価は、一体どこまで下がっているんですか?

もう地面どころか、マントルまで行ってそうです。


「『…………はぁ…思いつきだが、これからの行動の参考として聞いてくれ』」


『た、頼む…』



────。

────。



──調子が悪いって言って、乗務員に付き添ってもらえ。

──第三者が近くにいれば、簡単には手を出さない筈だ。


斉木からそう聞き、俺は即行動に移した。


「っ…っ…」


乗務員がいるのは前方側。そして今自分がいるのは後方側のトイレだ。


通路は左右に二つ。その右側の方に詩織達が縛られている座席がある。

その座席から離れるように、俺は左側の通路を中腰で進んだ。


足音を立てず、息を殺して前方側を目指す。

そしてようやく中間に着いた頃。


(詩織達は……)


念の為と確認をする。だがやり過ぎな程に拘束されていたのだ。

起きていたとしても、まだ座席に座らされて……



ねじり壊れた座席。『詩織・LOSTロスト


溶解し泡を出す座席。『鈴子・LOSTロスト



そこに二人の姿はなく、無残な姿に変わり果てた座席があった。

瞬間、この機内がホラーゲームに成り変わる。


(…………あ、死んだ)


数秒後の自分を悟る。どんなに息を潜めたとしても、あの二人からは逃げられない。

だってそうだろう?



もうそばにいるんだから。


「「広樹」」



────。

────。



「「どうして土下座してるの(よ)?」」


「え?」


俺はすぐ土下座した。

もういさぎく、苦しませずに終わらせてくれと身を投げ出した筈だった。


だが、


「い、いや、だって俺は二人に…」


「私達に?広樹に土下座される事なんて、覚えがないんだけど…?」


お、覚えがない?


「そ、その包帯だらけの顔は?」


「この包帯?そうよ。コレの事を聞きたかったのよ。包帯の下が何故か痛いし、何か知っていたら教えて欲しいのだけど」


……え、覚えてない?


…………。


「ぼ、暴走タクシーが突っ込んできたんだ」


ごめんなさい。嘘つきました。

やっぱり命が惜しいんです。


「そう。それで私達は気を失ったのね」


「後ちょっとだったのに」


す、鈴子さん?

指の骨をコキコキ鳴らすのはやめて欲しいな。雰囲気だけで殺されそうです。


「だから広樹は土下座していたのね」


「気にしなくても良いのに」


「え?」


何か誤解されてる?


「今回は私達の落ち度よ。守れなかった責任を感じる必要はないわ」


わ、分からない。何を言っているんだ。


「じゃあ鈴子。私は荷物を確認をしてくるわ」


「分かった」


そう言って詩織は扉に消え、俺は鈴子にうながされるまま座席に座った。


「じゃあ、はいコレ」


「……」


あ、ちょっと安心感が。

手渡されたポータブルゲーム機を見て、俺は日常に戻ったのだと感じた。



────。

────。



ゲームをする詩織の姿がシュール過ぎる。

最初は覚束おぼつかず、初心者丸出しのカクカク操作だったが、今では本人の順応力の高さからか……


「鈴子、閃光銃弾が遅いわよ」


「詩織も、もっと周囲に気を配って」


「…………」


彼女は短時間で熟練者並みのプレイを極めていた。

目の前の大型エイリアンが、止まない連撃に抵抗できず、遂には悲鳴を上げて倒れると、


【Mission!Complete!】


しかばねとなったエイリアンから素材を剥ぎ取って終了。


ゲームを始めて数時間が経ち、ようやく日本が窓から見え、シートベルトの点灯音が鳴り響く。


「着陸ね」


そう呟いた詩織はゲーム機の電源を落とし、鈴子に手渡した。



────。

────。



長い手続きを終わらせ出口を出ると、家族の帰りを待つ人やプラカードを持った案内人ガイドが視界を埋める。


だがそんな人混みの中に、異様な雰囲気を漂わせた二人組がいた。


「お帰りなさい。三人とも」


広樹と詩織のクラス担任を受け持つ女性教師、天草あまくさあいは笑ってお出迎えの言葉をかける。そして隣には、


「遅かったな。姫路ひめじ内守谷うちもりや


彼女に首輪・・の手綱を握られる、黒髪眼鏡の屈強青年が立っていた。


ドサッと荷物を落とす少女達。


「……どうして、アナタが?」

「嘘…校長が外に出す訳ない」


…………え?まずはその首輪じゃないの?

その疑問を呟こうとするも、先に青年の方が動き出した。


「姫路、内守谷。俺がどうして迎えに来たか分かるな?」


眼前に立って鋭い声音を二人に突き付ける青年。


「お前達をにがさない為だ」


……いや、逃さない様にされているの貴方あなたなのでは?

そんなツッコミを入れたかったが、彼の威圧に口を噤んでしまう広樹。


「大人しく同行してもらうぞ。もし抵抗する様なら、俺なりの手段を─」


「「同行する(わ)」」


両手を上げる彼女達。その迷わない姿勢に天草愛は瞳を丸くした。


「ま、真守義ますぎ君。二人は女の子なんだから、もう少し優しく…」


「この二人を女の子という枠組みに入れるな。そんな人種ではないんだこの二人は」


あ、この人とは共感できそう。

真守義ますぎさん、って言うのか。


そんな事を思っていたら、彼は彼女達から視線を外し、次に俺の方へとやって来る。


「初めまして…だな。自己紹介をさせてくれ。俺の名は『真守義ますぎ降磁ふらし』。あの二人と同じで、序列者のメンバーだ」


「……っ!は、初めまして…荻野広樹です」


戸惑って返事が遅れてしまった。二人に向けていた堅い表情が一変して、さわやかな笑顔になり片手を差し出して来たのだ。そして聞き捨て出来ない言葉があった。


じょ、序列者……


「恐縮しなくて良い。お前も一時は序列者の枠組みに入れられていたんだからな」


「……え?」

「「え?」」


俺の後に詩織と鈴子も同じ反応を示した。

え、俺が序列者?


「校長から借りた生徒証。それを返還して貰って良いか?」


断る理由もなく、黒色を光らせた生徒証を彼に渡した。


「あの、俺が序列者って?」


「ん?何も聞いて…いや、生徒証を確認していないのか?」


そう言って彼は、返されたばかりの生徒証を見せる。


「『序列第十位──荻野広樹』。姫路が昏睡状態から目覚めるまでの間だが、お前は詩織の代わりにになっていたんだ」


…………読めなかった。いや読もうとしなかったんだ。


だがこれで納得した。テロが発生する前のホテルの出入口で、その生徒証を見せた時の警備員の反応。あれは戦闘学の一員としてではなく、遥かに高い実力を持った序列者に対するものだったのだ。


「広樹が…序列十位…?」


はっ…!これはマズイ!真守義さんの背後から感じる禍々しい気配は気のせいじゃない!詩織さんだ!だってそうだよ!序列十位は詩織の肩書きだ!それを奪っていたとなれば怒りくらい買う!


「いつ目覚めるか分からない昏睡状態。それと一緒に眠らせておくにはしい肩書きだ。そして無闇に空席を空ければその座をめぐって生徒間の争いになる。その予防策として校長は彼を選んだ。俺としてもこれ以上の策は無いと思うが……その殺気はなんだ?」


やっぱり真守義さんも感じてた!?

校長何してるの!おかげで詩織の怒りを買っちゃったよ!校長は詩織に俺をボコボコにさせたいの!?本気で学校やめるぞオイ!


「彼に嫉妬するのはお門違いだ。そんな事も理解できないのか?」


真守義の言葉に詩織は、


「……彼に?違いますよ」


「ほう?ではその殺気はなんだ?誰に矛先を向けている?」


「たぶん私」


その質問に答えたのは、詩織の隣にいる鈴子だった。


「分かっているじゃない」


「『自分を差し置いて鈴子を序列者に残すの?あの引き籠りを?』そういう事でしょ?」


自己の評価をきっちり見極めている鈴子は、詩織の思考を看破する。


「だけど今回は詩織を守る為だよ。昏睡中の機会を狙って、亡き者にされる危険だってあった。数少ない序列者の椅子に空席を作る為にね」


「くっ!」


あれ?なんか鈴子さんが真面目に見える?

そして詩織が説教される立場に見えるのは気のせいだろうか…


「無用な争いを避ける為の最善策。校長は良い判断をした」


「ほぉ?随分と話が通じる様になったじゃないか。校長から聞いていた通りだ」


真守義から関心の瞳を向けられる鈴子。


「私も戦闘学の一員。誰かを救い、誰も傷つけさせない。それを目指して私は行動している」


え?そんなキャラには見えないぞ?


「本当に変わったな。俺の中でだが、姫路とお前の評価は逆転している。任務に参加せず、引き籠もっていたお前だったが、届いた記録映像が決め手になった」


「き、記録映像?何の事よ」


「ふんっ、お前の醜態しゅうたいさらす映像の事だ」


関心の瞳から打って変わり、軽蔑の念を宿した瞳で詩織を見る真守義。


「能力を暴走させ、そのに味方までを窮地きゅうちおとしれた。メリル・キャンデロロ、彼女にはちゃんと謝ったのか?内守谷にも御礼おれいは言ったか?」


「っ!?鈴子っ、アナタまさか!」


瞳を震わせる詩織の前には、いつの間にか真守義の隣に立つ鈴子がいた。


そしてニヤリと。

小さく口端を吊り上げる少女の顔に、詩織は全てを悟る。


「う、裏切ったのね…!」


「何を言ってるの?」


鈴子は詩織にささくように言う。


「仲間と思った事なんて一度もないよ」


「ッ!?」


よく聞こえなかったが、今の一言で詩織の背後に阿修羅が見えたのは確かだ。

え、何この状況?


「それで真守義先輩。例の話は通りそうですか?」


彼を先輩と呼ぶ鈴子。

やはり歳上なのか。


「あの話か?確かに今の姫路は不安定だ。それをかんがみて、再検討するとの事だ」


「よし…」


グッと小さく笑う鈴子に、詩織は不安を感じた。


「れ、例の話?何を企んでいるのよ鈴子!」


「何も?」


シレっと目を合わせない鈴子の反応に、真守義が横から入った。


此処ここでは話せない内容だ」


そして一瞬、その視線を広樹に向けた。


「姫路、分かるな?」


「…………っ!?」


真守義の瞳の動きで、詩織はようやく気づいた。


「危険と危険は合わせてはいけない。洗剤の『混ぜるな危険』だよ。詩織」


勝ち誇った表情で言う鈴子。


「詩織の特別・・任務。私が肩代わりしてあげるね」


ブチっ

あ、なんか切れた音が…


「姫路」


「っ!?」


「指一本でも動かしてみろ。俺なりの手段を取らせてもらうぞ」


荒縄あらなわを出してけわしい表情で睨む真守義。


ん?荒縄あらなわ


「…………ええ。何もしないわ。亀○縛りなんて御免ごめんよ」


「なんだ?抵抗しても良いんだぞ?」


「嫌よ。アナタが喜ぶだけじゃない」


いやちょっと待て。理解が追いつかない。

当たり前のように言ったけど、亀○縛りとは?喜ぶって何を?

そして何より今一番気になっているのは──


「こら真守義君」


チャリッと鎖を鳴らし、彼の首輪を引っ張る天草先生。


荒縄ソレはしまいなさい。公衆の面前でまたやる気?」


「チッ……」


舌打ちした。

え、やっぱりこの人もヤバい人なの?

確か以前に序列者はヤバイ連中の集まりとか聞いたけど、まさか本当に?


「とにかく無事に帰ってきてくれて嬉しいわ。そして今後の事なんだけど」


天草先生は俺と詩織達の間に入り、仲を分けるように立った。


「広樹君にはこのまま帰ってもらうわ。そして二人は別ね。これから数週間は拘束されると思って頂戴ちょうだい


「どういう事?」


鈴子が小さな威圧を示す。だが天草先生はひるむ素振りも見せず、溜め息を吐き出して言った。


「鈴子ちゃん。貴女あなたと詩織ちゃんの勝手な行動で、本来あった予定が崩壊している事は気づいてる?」


「本来?……あ」

「そういえば…」


彼女達もそれに気づく。


「気づいたようね。そう、『序列者集合会議』よ」


「序列者…集合会議?」


「ええ、『序列者集合会議』。つまり序列者を一度集結させて、お互いに情報共有と心境を語り合ってもらう場の事よ」


ふと呟いた言葉に天草先生は優しく返してくれた。


「それと関係悪化の防止策」


「関係悪化?」


鈴子が横から説明を入れる。


「下位が上位の座を欲して、序列者同士の衝突しょうとつが過去にあった……それでお互いの仲を深めて、喧嘩をしない良好な関係を構築する為の集まりにもなっている」


「でもその関係を早速さっそくぶち壊そうしたわよね。鈴子」


「どうせ変わらないでしょ?船で戦った時のうらみ言は忘れてないよ。どうしてアナタが序列九位なの?って」


「くっ」

「むっ」


鈴子と詩織の間に火花が散る。だがその肩をポンと叩き、天草先生は笑顔を近づけた。


「それじゃあそろそろ行きましょうか。貴女達二人は序列者集合会議まで監禁よ」


明るい表情とは裏腹に、言葉が笑っていない。


「天草先生。すまないが、帰る前に確認する事がある」


真守義さんが眼前まで近づいてきた。


「俺はお前を認めている。『合同任務』に『イベント』、『テロ』とお前が示した功績こうせきは素晴らしいものだ」


「は、はぁ……え?」


いや、どこに功績があったのか分からない。

功績ではなく汚積おせきなのでは?


「そして俺とお前は同じ組織にいる仲間だ。今後もしかすれば共に行動する場面が訪れるかもしれない。その時に備えて、お互いの事をよく知っておくべきだと俺は思うんだ」


お互いの事をよく知っておくべき……か。

確かに言っている事は正しい。

だが何かが変だ。どうしてそんなにせまってくるのこの人?


「ハァ…ハァ…つまりだな。俺はお前の能力を確かめたい」


「っ!?」


お、俺の能力!?

いや何も持ってませんよ!

人体強化だけ設定の筈だ!実際には持ってませんけど!


「お、俺は…」


「お前の言いたい事は分かる…ハァ…これまでの行動を見てきたから分かるさ…ハァ…だから人体強化だけで良い…ハァハァ」


何を見てきたの?そして人体強化だけでもって言われても、そんな力は持ってない。

マズイ、何とか言い訳を考えなくては!


てか近い近い近い!この人顔を近づけ過ぎなんだけど!?そして息も荒らいし何なの!?


「全力を込めた拳を俺にぶつけてくれ…ハァハァ…腹でも顔でも…ハァハァ…どこでも大丈夫だ!さぁさぁさぁさぁ!俺にお前の全力を見せてみろ!いや見せろぉおお!」


「ひぅ!?」


ヤバイ!理解できないのが更に怖い!

これが序列者なのか!?やっぱり詩織や鈴子と同類じゃないか!!


「鈴子」


「うん、詩織」


迫り来る真守義の胸が、細い腕に止められる。

白ワイシャツの間に手を潜り込ませて、少女達は左右から全力で引っ張った。


「「ふんっっ!!」」


バチバチッッ!と服が左右に裂け、真守義の肉体が外に曝される。

そして見てしまった。


「っ!!?」


「相変わらず吐き気がするわ」

「気持ち悪い…」


「吐き気?気持ち悪い?俺の何を見てその言葉が出てくるんだ?」


ごく自然な態度で、真守義は彼女達に聞く。

だが自然じゃない肉体がそこにあるのだ。


そう、ロープに縛られた筋肉が─


「まさかコレか?亀○縛りの何が気持ち悪いんだ」


いやおかしい。

亀○縛りされた身体をさらして、どうして平然でいられるんだこの人。


「それよりもお前達。ようやく俺に歯向かったな?」


「「……」」


「内守谷の『誘導改変』は鼻を殺し、姫路の『黒槍出現』は肛門を殺す。まさに前門の虎、後門の狼。これほどまでに胸をたかぶらせる二人はいないハァハァハァハァ」


あ、本当にヤバい人だ。

てかもう変態だ。


「さぁ全力で来い!俺がお前達の全てを受け止め切ってみせよう!目でも鼻でも口でも耳でも脳でも胸でも脇でも腹でもへそでもけつでも何でも良い!殴るなりつぶすなり千切るなり焼くなり裂くなり折るなりぐなり何をしても構わん!さぁ何から来る!何からヤルのだ!やっぱりナニからなのか!?望むところだ!さぁやれ!早く!早く!早くっうう!」


もう狂人きょうじん!?こんなのが序列者で大丈夫なのか戦闘学!?


「嫌よ。どうせ最後は私達が負けるんだから」


「散々楽しんだ後で、その荒縄で私達を縛るんでしょ?」


「何を言っている、楽しむだと?俺は歯向かったお前達の体力を削った後で、反省の意思をうながす為に屈辱的くつじょくてきな姿にするだけだ!」


いや今屈辱的な姿になってるのアナタ!


「今の自分を鏡で見てみなさい。屈辱的な姿が広がっているわよ」


「何を言う?これのどこが屈辱的な姿なのだ?」


は?


「鍛え上げた筋肉を強調するがごとくの亀○縛りだ。戦闘で衣類が脱げてしまった際には、この肉体の凄さに犯罪者が敗北を悟り、武器を捨てて投降とうこうするだろう。いや既に投降させた実績があるな」


いやドン引きしたんだよ。そして恐れたんだよ。

こんな異常者を目の前にしたら、何をされるか分かったものじゃない。

捕まって早く逃げたかったんだよ犯罪者達は。


「さぁ姫路!内守谷!全力で─」


「真守義君?」


「ぐっ!?」


鎖を引っ張られ倒れる真守義。それを見下ろすのは天草先生だった。


「言ったわよね?今日は着て来ないでって?」


今までに聞いた事がない程に、その声はドス黒く禍々しかった。


「天草先生……頼む。受け入れてくれ。俺はこの亀○縛りが辞められないんだ」


「ふん!!」


「ぐゔぇばッッ!?」


あ、肘鉄ひじてつを首に。


「詩織ちゃん、鈴子ちゃん。ついて来てくれるわね?」


「「は、はい…」」


二人は逆らわず従った。

そして最後に、


「じゃあ広樹君は別の車を用意しているから、そっちに乗ってね」


「は、はい…」

読んでくれてありがとうございます。


そしていきなりで申し訳ありません。投稿してすぐに危険ワードに○を付けました。もし他に性的描写に引っかかるワードがあれば、助言を頂けると嬉しいです。すぐに編集するか隠します。


次話の投稿も頑張ります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 縛りですか、 なるほど、 おホ、お友達になれそうです(ニコリ) [一言] 作者にお帰りなさい
[気になる点] たいしたことないんですが宝くじ当選金額って1億円だった気が…まぁどちらにしろくじお金に変えないと意味ないですけどね!ちなみに鈴子が推しです!鈴子もっと見たいです! [一言] いつも楽し…
2020/09/17 13:13 退会済み
管理
[良い点] 容疑者は男性、眼鏡、髪は黒、筋肉モリモリマッチョマンの変態だ [一言] 伏せ字にしてますし大丈夫だと思います Sかと思ったらホモ疑惑がでて両刀のMだった あの変態、ヒロイン枠なのか…… …
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