第193話、サラ「これが原因かしら…」さやか「子供は影響されやすいですから」校長「君も十二分に変人集団の一員だよ」
お久しぶりです!
書き上がりましたので投稿します!
これからもよろしくお願いします!
静けさ漂う薄暗いモニタールーム。そこでメリルはある事実を知らされた。
「ど、どういう事ですか?広樹がsoldierとの戦いを覚えていなかった、って」
「言った通りよ。彼からそう聞いたわ」
「そんな筈ないです!そんな訳が…!」
困惑するメリルにサラは懐から端末を取り出すと、
ザザッ〜〜
『ちょっと質問が。俺が最愛の人を救ったって?』
『ええ救ったワヨ』
『……全く身に覚えがないのですが?』
ザザッ〜〜
『そんな訳ないじゃなイ。アナタは『結合崩壊』を搭載したsoldierと戦った筈ヨ』
『…………』
『待っテ……え?本当ニ?』
『…………あっ。蟷螂っぽいロボットの事ですか?』
ザザッ〜〜
「研究部に頼まれて声紋を取っていたのよ。これで理解してくれたかしら?」
「うっ…」
確かに事実であるとメリルを声を詰まらせた。
「で、でも彼は病室で謝っていました!私の怪我に強い責任感を感じていたんですよ!」
病室での会話を思い出すメリル。
「きっと何かの勘違いで─」
「それがそもそもの勘違いだとしたら?」
メリルの言葉に被せたのは、サラの導き出した推測である。
「彼と会話して思ったのよ。これは『食い違うタイプ』だってね」
「食い違う?」
「彼の中で色々と食い違いがあったのよ。でも私が綺麗に解消してあげたわ…………勿体なかったけど」
詩織と鈴子の同性愛事情。
その関係性はサラにとって大好物であったが、その場の流れで早々と解決し、広樹の誤解を解いてみせた。
「先輩が広樹と会話して何を感じたのかは知りませんが、もし彼が何も覚えていなかったのなら、病室で謝られた理由がありません」
「そこが『食い違い』よ。よく思い出してみなさい」
サラはメリルに病室での会話を鮮明に思い出すよう促した。
「彼は謝っていたんでしょ?」
「はい。そして私の怪我を申し訳なさそうに…」
「それは本当に『soldierに襲われて負った怪我から』かしら?」
「っ!?」
「彼は一言でも口にしたの?soldierや戦闘に関係する単語を」
その質問にメリルは答えられなくなる。その戸惑いにサラは答えを悟った。
「彼が知っている限りで、アナタは何回襲われたの?」
「……二回……いえ、三回かもしれません」
人型soldierとの戦闘時と、暴走した詩織の緊急時。そして……
「病室で交わした会話と、その時の状況を重ねてみなさい。辻褄があっているかもしれないわ」
「……合ってます…怖いくらいにピッタリです」
メリルが思い出したのはテロが起こるよりも前。
広樹のメールで訪れた、待ち合わせ場所での出来事である。
「詩織と内守谷さんを任されて……広樹だけがいなくて……」
触手と悪臭による理不尽な拷問。
そんな酷い仕打ちを広樹のメールがきっかけで味わされた。
そして病室での会話を思い出すと、偶然にも当て嵌まるのだ。
『ずっと心配していたんだ』
=詩織達を任せた事を。
『あんな酷い目にあったんだから』
=広樹は彼女達が起こす危険な行動を察していた。
『知っていたのか?その上で飛び込んだのか?』
=勝手に私が承諾済みだと勘違いしていた。
その上で私は宣言していた。そして勘違いされた。
『私は役目を果たしたんデス!あれは義務だったんデスヨ!』
=友達としての義務。
『私は一人の人間として大切な人を助ける為に戦いました!この傷は戦った事への勲章!それを私は誇りに思い続けマス!後悔なんてしまセン!』
=情緒不安定な二人を落ち着かせる為に名誉な負傷をした。
「ぅうううう〜〜!」
「もう終わった事よ。忘れて次に──」
「私には大事な瞬間だったんですよ!それで危うく私は彼に…っ!?」
「彼に?」
メリルは顔を赤くして口を閉じた。
「危うく彼に何をしようとしたの?」
「何でもありません。それよりも続きを話して下さい。もう彼が記憶を失っているのを前提に聞きますから」
「その顔からすると、余程の大失敗をしそうになったみたいね」
「うるさいですよ!?早く続きを!」
声を荒げるメリルに、サラは笑いながら推理を続ける。
「話が脱線したわね。つまり彼は何も覚えていない。仮に演技をしていたとしても、その行動事態が矛盾するわ」
「分かってます。つまり演技をしても、広樹には何もメリットが無いという事ですよね。これで嘘の可能性は消えました」
広樹はsoldierと戦った。それを無かった事にしようとしても第三者の目がある。つまり意味が無いのだ。
「だから本当に記憶が無かったのよ。そして私はソレを取り戻そうとしたわ」
「空港での『万全到達』はその為に……ぅぅ」
「あれ?…どうして拳を構えているのかしら?」
「アナタの所為でっ…。アナタが最初からちゃんと説明していれば…!」
本気の拳がサラに振り下ろされた。
「ちょっ!?危な!」
「私がどれだけ怖い目にあったか分かりますか!?危うく死にかけたんですよ!!」
「ごめんなさい!なんだか知らないけど謝るわ!だから拳を下げなさい!」
怒りを爆発させた涙目のメリルを、サラは抵抗しながら必死に宥めた。
「ハァハァ……そ、それでね。思い出させようとしたんだけど。結果は言わなくても分かるわよね?」
「……思い出せなかった」
「ええ。私が気絶してまで力を注いだのに、全く手応えを感じなかったわ」
サラは戦闘学が認める序列第一位だ。その彼女が本気を出しても叶わなかったのだとしたら、それは信じられない結果であるとメリルは驚愕する。
「も、もし広樹が能力で抵抗していたら……いえ、でもそれでは」
「また矛盾が生まれるわね。抵抗する理由がないもの」
「やはり本当に…」
サラの仮説に強い信憑性を感じるメリル。
そして次に彼女は真実に迫る事例を挙げた。
「記憶の修復。それに失敗した事例は過去にいくつかあったわ」
「っ!?そんな事があったんですか!?」
「これは弱みだから上層部しか知らないし……いえ、WDCも知ってそうね」
支部の情報が敵組織に盗まれた。その過去を悔しく思いながらサラはメリルに教える。
「『万全到達』。それは対象を万全にする能力であり、万全以外には目指せないのよ。つまり『思い出さない方が万全』って事ね」
「?…つまりどう言う意味ですか?」
説明の本質に気づかないメリルに、サラは指を一本立てる。
そして自分の胸にトントンと叩いた。
「彼は胸に重傷を負っていたわ。その傷の大きさは人型soldierとの戦いで見たわよね」
「は、はい…」
「じゃあ─」
サラの顔から笑みが消える。
「あの痛みに耐えながら、アナタはまともな精神で戦える?」
「っ!?」
突如、酷い吐き気に襲われるメリル。
だがサラは止めず言葉を続けた。
「普通では戦えないわ。ただし精神を壊して、全神経を戦闘だけに集中させていればもしかしたら…。ここまで言えば理解してくれたかしら?」
「痛覚を忘れる程に…精神を追い詰めて……だから…」
「そう、全て飛んでいたのよ。あるいは本能が記憶に蓋をしたのかもしれないわね」
「……」
「過去と言っても本人は何も覚えてない。でもソレを思い出してしまったら、彼はどうなるのかしら……」
「っ…」
「知らない過去を思い出すという事は、その経験をもう一度自身で体験する事。つまり現実では無いけれど、あの戦いをもう一度味わう事になるのよ」
それを聞いたメリルは胸元をギュッと握り締めた。
「あれを……もう一度っ…?」
想像するだけでも辛い。それ程までに彼の傷は酷く痛々しかった。
「呼び起こされた記憶が本人に悪影響を与えてしまう。だからこそ『万全到達』は否定したのよ。それを思い出させたら駄目だってね」
「……そうだったんですね」
そう言い残し、メリルはサラに背中を向けて扉に手をかけた。
「戻ります…」
「まだ私の推理は終わってないけど?」
「もう十分です…本当に」
暗く染まった声音を最後に、メリルは部屋から出る。それを見送ったサラは軽く溜め息を吐き出して、頬杖をついた。
「……『俺の大切なメリルに何をしているんだ?』。限界だった精神で、よく言えたものね」
端末に残ったデータを再生する。それはメリルに忍ばせていた盗聴器から得た録音だった。
『俺のだぞ?……お前が好き勝手に……していいものじゃないんだ』
『まず…一発だ』
(かなり切羽詰まっていたみたいね。声音から伝わるわ。君の余裕の無さが…)
途切れ途切れに聞こえる彼の声。
そこには燃え盛る怒りと、油断を許さない必死さを感じた。そして見つけてしまう。
「ふふっ…」
隠せず微笑んでしまう。ソレは胸を震わせるのには十分過ぎる内容だったからだ。
(こんな大事な秘密を曝け出してしまう程に、君はメリルを守りたかったのね……)
端末に新たな記録を映し出すサラ。それは彼女しか知らない特別な情報であり、死の淵を彷徨いながらも現場で目覚め、テロの事後処理に混ざって手に入れた記録である。
『い、一体なんなのだ!?貴様は一体!?』
その視点は広樹を映し、歪んだ声音が自身から響き渡る。それは人型soldierから抜き取った記録映像だった。
(これは相対してないと分からないわね。世界中の戦闘学を知り、彼を敵として目の前にしないとまず気付かない)
広樹の動きを見て、サラはある事実に辿り着いていた。
(戦いが長引くに連れて洗練されていく。まるで隠されていたソレが目覚めていく様に……ああ、だから戦えたのね。君は身体に染み込ませていた武器でsoldierを倒した訳だ)
画面に映る自分の腕が、積み重なった駆け引きの末に跳ね飛ばされる。
瞬きする暇も与えない。
流れ作業の様に。次に繋がる様に。
その動きは規則正しく手順を踏み込んで繰り出されていた。
(日本じゃない。オーストラリアでもない。でも原点が一緒なのは明白。一体どこなのかしら?)
机の操作板に触れて、部屋中のモニター全てに電源を入れる。
そこに映し出したのは、世界中に点在する戦闘学の格闘訓練映像だった。
(見覚えがあるのよね。その動き。その呼吸。その駆け引き。その積み重ね)
サラの主要とする戦闘方法は格闘戦。『万全到達』で無敵となった肉体を使い、敵を近接戦で制圧するのが主だった戦い方である。
故にサラは格闘戦においての専門家。オーストラリア支部のマニュアルだけに留まらず、世界中に手を出していた。
だから分かる。サラでなければ気付かなかった。
画面に映る広樹の背後に、見えない誰かが立っている事に。戦闘学に準ずる何者かが一緒に戦っている事に。
(くっ…それにしても甘い、動きが淡過ぎるわ……そして何より…)
練度の足りない体捌きに胸焼けを起こしそうになるサラ。だがそれよりも彼女は、彼を苦しめている力に気持ちが一杯になった。
(いまだに分からない『謎の万全到達の持続』。でも不完全過ぎるわよっ…!こんなの生き地獄じゃないっ…!)
繰り返される怪我と治療の連鎖。
『万全到達』が正常であれば、そんな事は起こりうる筈がない。
(やっぱり彼の能力?……不完全だけど持続が出来る能力だとすれば……)
それ以外に思い浮かばないと白旗を挙げかける。
(これしか辻褄が合わないわね……もっと情報があれば)
結果として真相に辿り着けなかった『謎の万全到達の持続』と『見覚えのある格闘技術』。
もう行き止まりだと、サラはモニターの電源を落としかける。その時だった。
『Prrrr!Prrrr!』
着信音が鳴り響き、サラは端末を耳に当てる。
「はい」
『今良いかしら?』
「ええ大丈夫ですよ。校長」
電話の相手はオーストラリア支部の校長、ジェシカ・ウィリアムズだった。
『急用な案件なのだけど、アナタの『万全到達』の情報を取引に使って良いかしら?それと最新のDNAサンプルも渡す事も視野に入れてね』
「い、いきなりですね。それとDNAサンプルまで……何処の国ですか?」
サラは自分の価値を知っていた。故に使われ方も察している。
『日本よ』
「っ!?」
『やっぱり驚くわよね。只でさえ三人を送り返したばかりなのに』
「…………」
『サラ?』
「……校長」
サラは小さく問うた。
「見返りは……。私の情報を提供して、何が返ってくる予定なんですか?」
『ああ、それは──』
思い浮かべたのは一人の少女。
自分の価値に見合う存在など日本支部には一つ、いや一人しかいない
『日本支部の序列第一位、白姫葉月のDNAサンプルと能力情報。こんな機会は滅多にないわ。なにせ他国に情報を流す際は、本人の許可がいるもの』
脳裏に過った一人の影。
それは彼女の姿ではなく彼の姿だった。
そしてゆっくりと歩き出し、一つのモニターに視線が止まる。
「…………」
『サラ?突然黙ってどうしたの?』
ジェシカの声を忘れ、サラはその映像に釘付けとなった。
「…………分かりました。情報は好きに使って下さい」
『え、ええありがとう。それよりもアナタ─』
「すみません。ちょっと用事が」
返事を待たず通話を切るサラ。
そして机の操作板に触れ、再生と逆再生を繰り返し見た。
「……………………はぁぁ」
真剣だった瞳が崩れ、改めて頬杖をつくサラ。
「似てると思ったんだけど……これも違うわね」
────。
────。
「ん?」
短い髪と黒いキャリアスーツ。一見OLに見える彼女、さやかは屈んでソレを見る。
『しぃー・きゅぅー・しぃー』
掃除して出てきたのは傷だらけのビデオテープ。そこに書かれた淡い文字に、彼女は小さく微笑んだ。
「ふふっ…懐かしい物が見つかりましたね」
「?」
「忘れましたか?これはアナタの我儘から作ったんですよ?実戦でも使えるように私が」
「…………」
「映画に影響されて……ふふっ、あの頃の葉月は純粋でしたね。見るもの全てに好奇心を出して、楽しんで、走り回って…」
懐かしむように想いを漏らし──
「そして最後には」
バチィッ
「っ!?」
さやかの眼前に火花が散った。
「……」
「……ごめんなさい、今は思い出すのは嫌でしたね」
「…………私もごめん」
少女の小さな声音に、その火花は故意に出したものではないと理解する。
「…………やっと」
「…ええ、ようやくです。待ち望んだ条件が揃いましたから」
無垢な青瞳が机に広がった資料を見つめる。
「サラ・ホワイトの『万全到達』。ただそれだけでは取り戻せない。きっと否定されますからね」
写真付きで纏められたサラの資料。それを摘み取り、さやかはもう一枚の資料に視線を向けた。
「だったら否定されない様するしかない。その手段がもうすぐ日本に来てくれます」
そこに映った金髪の幼女の写真に、葉月の瞳が小さく光る。
「『調和操作』。その効果は本人の回復で実証済み。WDCに捕まり、脳を奪われた時の記憶を持ちながらも、彼女は精神を回復させて戦闘学に残りたいと言い切ってくれました」
本来であれば心的外傷を発症してもおかしくない。にも関わらず少女は戦闘学の在学を選んだ。それも八歳の女の子がだ。
普通ではあり得ない。なら別の力が働いた。
それは彼女、アイリ・エデルマンが持つ『調和操作』に他ならない。
「精神を癒す力と、記憶を復元する力。そして葉月の能力を合わせれば」
────。
────。
「では迎えに行きます」
「あ、うん……ね、念の為に言うが、くれぐれも変な事はしないようにね」
「ふんっ、俺は他の奴らとは違う」
機嫌が悪くなる彼に、校長は疲れ顔で再度言う。
「くれぐれも変な事は」
「しつこい…!くっ、何故俺があんな変人共と同じ枠組みで見られているんだ!俺の何処に不満がある!」
「自分の胸に聞いてみなさい。序列三位の君は、十二分に変人集団の仲間だよ」
─ッッ!
拳を叩きつけた机が、ひび割れ粉砕された。
「俺は違う。ア○ルやパンデモニウムと一緒にするな」
「まだパンデモニウムの方が安心だね。君は誰にも危害は与えないが、現れるだけで世間的に大きな問題があるんだよ」
木片を片付けながら校長は溜め息を吐き出して言う。
「君しかいないから頼むんだ。他の序列者は手が離せない。君なら二人を制圧できるだろ?」
「ふんっ、当たり前だ。たかだか十位と九位。雲泥の差だ」
「うん。そうだね。実力としてなら雲泥の差だね」
彼の実力を疑わない校長だが、矛盾にもその瞳には不安しかなかった。
「だが君の場合は、自ら泥糞の差に向かってしまうからね。もちろん君が糞だよ」
「教育者として在るまじき発言だな」
「それぐらい君の信用が薄いって事だよ。見た目は堅物そうな好青年なのに、どうして中身が反比例してしまったんだい?」
校長の瞳に映る姿はまるっきり言葉通り。短めの黒髪に、四角い眼鏡、そして服装は崩さず整えられていた。
まるで厳格な人間を形にした姿である。
「反比例だと?俺は至って真時目な戦闘学の一員だ。何処かの第二位と違って俺はヘラヘラ笑わないし、一般人や仲間を守る為なら身代わりにも肉の盾にもなろう」
「…………」
「なんだその瞳は?今の言葉に不満でもあるのか?」
正しく理想的な発言をしたのにも関わらず、校長の瞳は最後まで変わらず不安に満ち溢れていた。
読みにきてくれてありがとうございます。
ようやく日本編に突入です。゜(゜´ω`゜)゜。
新キャラ登場と伏線も回収しますので、どうか今後も楽しみにしていてください。
これからもよろしくお願いします。