第192話、メリル「血を流してでも走るんデス!」ルーカス「あんなイカレ女が戦闘学にいるのかよ」
お久しぶりです!
書き上がりましたので投稿します!
これからもよろしくお願いします!
「ねぇメリル。私の眼は今どうなっているのかしら?」
「じゅ、充血してマスネ…」
「へーそうなんだー。きっと私も同じ事になってる。鏡があれば見てみたい」
そこには眼を痛めつけられて怒りを露わにした少女達がいた。
「という訳でねメリル。アナタの為を思って言うわ。その腕に抱えている女を今すぐ差し出しなさい、『ピ──』してあげるから」
躊躇のない殺害予告。
それぐらい彼女はキレていた。
「い、嫌デスっ」
「じゃあ二人まとめて『ピ──』だよ」
「こ、これは何かの間違いデス!お願いですから事情を整理させて下サイ!そうすれば納得して──ッ!?」
必死に弁明を叫ぶメリルを無視して、詩織と鈴子が能力を見せる。
シュルシュルと凪ぎる触手と、ムワ〜〜と異臭を放つ靄。
ゆっくり近づいて来る二つの恐怖に、メリルは震えた瞳で彼を見た。
「ひ、広─」
「「まずは口(ね)。突っ込んであげる(わ)」」
脈絡もなく『広─』と言った。それだけで彼女達の足に力が入ったのは必然だった。
一気に縮まる三人の距離。そしてメリルの口を蹂躙しようと能力を向けた。その刹那である。
「来ないでぇエエ!!!」
眼を眩ませる光の奔流。振動する粒子の渦。
それはメリルが反射的に出現させた『振動粒子』の壁だった。
素手で触れば即座に挽肉。やり過ぎな程の鉄壁な防衛姿勢。
だが──
「ひぃいいいいッッ!?」
関係ない。目の前にいる二人は臆する事なく、粒子の渦に片手を突っ込んだ。
それは『黒槍出現』で包んだ右手と、『誘導改変』に覆われた左手。力を持った二人の前では『振動粒子』はただの小細工に過ぎないのだ。
その手に掴まれたら最後、一生モノのトラウマを植え付けられる。理不尽に身を嬲られる未来が脳裏によぎり、メリルは遂にと禁句を叫んだ。
「広樹ィイッッ!!」
限界必死の涙声。その声に反応して、広樹が一歩近づいて来たのが見えた。その姿に『助かる!』と希望が見える。
が──
「ッ!?」
眼前に覆い広がった黒い触手。それを見た瞬間に悟った。私は詩織を本気で怒らせてしまったのだと。
もう間に合わない。
秒もかからず自分は終わる。
せめて抵抗と、私は自分の背中を盾する事しか出来なかった。
そして──
…………。
…………。
……………………ん?
やってくる筈の痛みが来ない。
そして何故か『グチャッ』と、何かが潰れる音がした。
どうして?と震えながら瞳を開くと、目の前には彼が立っていた。
「ひ、広樹……?」
彼は私の背後を見つめたまま動かない。それを不思議に思い、私も恐る恐ると振り向いた。
「…………うぇ?」
前方部が大破したタクシー。
道路に倒れた詩織と鈴子。
辺り一面に広がった黒い肉片。
明らかにソレは、タクシーに二人が轢かれた光景だった。
────。
────。
(ど、どどどどうしてこうなったぁあっっ!!?)
よく分からずヒートアップしていた三人。そして何故かメリルに名前を呼ばれて、迷いながらも一歩踏み込んだ。
それだけの筈だったのに。
「Oh my Godッッ〜!?」
響き渡る悲鳴。その声の主はタクシーに乗っていた運転手だった。
その叫びの先にはピクリとも動かない詩織と鈴子がいる。
そこには少女達をタクシーで轢いてしまった事実があった。
そしてその原因はというと…
(お、おおお俺の所為ななななのかかかかっっ!!?)
一歩だけのつもりだった。ちょっと近づいて詩織と鈴子に声をかけるつもりだったんだ。
なのに何故か足に不思議に力が入り、上手く歩けず転びかけて──詩織達を道路に突き飛ばしてしまった。
(いやいやいやっっ!?こんなに吹き飛ぶのはおかしい!?てか瞬間移動してなかった俺!?何もかもが分からない!?)
転びかけた身体を立て直そうとしたら、突然と二人の背中が眼前にあり、そのまま突き飛ばしてしまったのである。
(か、身体も何故か光ってるし!俺は一体っっ!)
「広樹…」
「っ!?」
見上げるように見つめてくるメリル。
(あ、ヤバイ。これは本当に取り返しがつかない)
メリルはオーストラリア支部の一員だ。その彼女は今すべき行動を決まっている。
こんな事態を引き起こした俺を……
「ここで待っていて下サイ」
……へ?
「タクシーの運転手に話をつけてきマス」
な、なんの話を?
────。
────。
(ヤバイヤバイヤバイ!?俺はアジア系の少女を二人も轢いちまった!?どうしてこんな事に!?)
視界に広がるのは悲惨な現場だった。
大破したタクシーと、道路で横たわる二人の少女。
彼女達がピクリとも動かない事実に、タクシーの運転手であるルーカスは震えていた。
(今日は普通にタクシーしていただけだ!だがもし取り調べで車を没収されて中身を調べられたら〜ッッ!)
ルーカスのタクシーは魔改造された特別タクシーである。もしその事実が明らかになれば、罪はもっと大きくなるだろう。
(クソ!クソ!クソ!!こうなるんだったら広樹を乗せた時に懲りておけば良かったぁああ!!)
最近知り合い、自慢のタクシーを存分に体験させた日本人の少年。その後に彼は嘔吐して、もう乗りたくないと不満を言っていた。
その言葉を聞き入れ、心を入れ替えていればと今になって後悔する。
だがもう遅い。倒れたまま動かない少女達に、ルーカスは心の底から絶望を覚えた。
「そこの運転手」
「っ!?」
「どうも。私はこういう者です」
背後から声をかけてきたのは金髪を揺らす少女。そしてその手には、少女の身分を証明するものがあった。
『戦闘学』
その肩書を見て、少女が自分に声をかけた理由を察する。
「は、早いな?偶然か?」
「そんな事はどうでもいいです」
「……ああ、そうだよな」
ルーカスは両手を少女に差し出し、『手錠だろ。早くしてくれ』と俯く。だが少女は手錠を出さず、懐から紙を取り出してサラサラと何かを書き手渡した。
「これで車の修理代と口止め料になりますか?足りなければまだ出せますが」
「は……は?」
「た、足りませんか?分かりました!じゃあこれならどうですか!」
二枚目の小切手を手渡され、困惑するルーカス。
そして状況に迷う彼に、メリルは三枚目の小切手を書いた。
「こ、これでどうですか!?もう家くらい買える金額ですよ!ね!ね!もうこれで手を打ちましょうよ!」
「あ、ああ?」
「はいぃい!決まりですね!じゃあ私はこれで!そこに倒れている二人は運んでおきますので!それではーー!!」
少女は倒れた二人に駆け寄り、その足を掴んで引き摺って走り去る。
その光景にルーカスは、何も言えずたじろぐしかなかった。
────。
────。
「さあ広樹!空港に入りまマスヨ!」
「え…ええ?」
「早くぅっっ!」
「お、おお!」
鬼気迫るメリルの圧に俺は従って動いた。
だが忘れていた。今の自分に起きている状況に。
『ガシャァァ!!』
「「っ!?」」
あ、終わった。メリルの後を追おうとしたら、またもや不思議の力が足に入って転びそうになり──詩織を蹴り抜いてしまった。
次はタクシーではなく扉で、ガラス製の出入口は見る影もなくなっていた。
「メ、メリルさん…も、もう本当に」
刑務所に連行される自分を想像する最中にも、メリルは倒れた詩織を再び掴み直し、近くの警備員に何かを見せる。
そしてすぐさま警備員は敬礼をして、何事も無かったようにメリルを見送った。
え?どうなってるの?
「何をしてるんデスカ!?早く行きマスヨ!」
何もなかった流れなの!?出入口がガラスの破片で大変な事になってるのはスルー!?
「早く!!」
「は、はいぃい!」
メリルに急かされ走り出す。
さすがにもう三回目だ。やや転びそうになるが、なんとかメリルの後を追った。
「な、なあメリルさん。二人が全く動かないんですが…」
「居眠りしてるだけデス!いや〜溜まっていた疲れが一気に出たんでショウネ!」
絶対違う!もし寝てるだけだったら起きる筈だ!だってヤバイもん!足を掴んで引き摺ってるからズリズリと痛々しい音が床に響いてるもん!
「ゆっくり休ませまショウ!起きるのは空の上に着いた頃で良いデス!」
それって死んでるよね?空の上って天国しかないよね?え、本当に洒落になってないよ。まじでタクシーに轢かれてたんだぞ。
「エスカレーターも駆け上がりマスヨ!」
「待て!それは本当にヤバイ!」
「急ぐんデス!じゃないと酷い事になりマスヨ!」
いや駄目!それはアウト!
ああ〜〜!?ちょっとぉお!それ以上はやめてあげて!段差の角に当たってる!ズカズカ当たって見るに耐えない絵面になってる!
ち、血も出てるぅうう!通った跡が真っ赤でヤバイ!うつ伏せで顔が見えないけど、絶対に酷い事になってるよ!?
「心配なのは分かりマス!でも信じて下サイ!彼女達は日本支部の序列者デス!こんなのは傷の内にも入りまセンヨ!」
血が出ているのは傷じゃないんですか!?
「血が─」
「確かに血は出ていマス!でもそれは自然に出てきた鼻血デス!きっとチョコレートを食べ過ぎたんデショウネ!」
そんな訳あるかぁああ!
読んでくれてありがとうございます。
忘れられている可能性がありますので書いておきます(^^;
今回登場したタクシー運転手のルーカスですが、バスケの試合と、広樹をホテルに連れて行った運転手として出ていますので、よろしくお願いします(^^;
どうか次話も楽しみにしていてください。