第190話、メリル「私にそんな趣味はないデスヨ!!」
大変お待たせしました!
書き上がりましたので投稿します。
どうかこれからもよろしくお願いします。
「ここがメリルの病室…」
扉の横に『Meryl・Candeloro』の名前がある。間違いなくメリルの病室だ。
「い、行かなきゃな…」
覚悟を決めて扉に触れる。すると背中に激しい狂気を感じた。
『──私達に逆らうの?』
『──逃さないよ?』
「っ!?」
そこにいない彼女達の声がする。
カチャっと軽い音が鳴り響き、背後から拳銃と狙撃銃を向けられる自分を錯覚した。
「い、嫌だ…」
『怖いのは最初だけよ』
『きっとハマるから』
いや絶対に無理だから。最初もハマるもない。
そこに踏み込んだ時点で終わりなんだよ、男として。
『軽い気持ちで、ねっ。一度だけ経験してみましょうよ』
『刺激的な体験ができるよ。保証する』
麻薬を打つ前の台詞に感じるのは何故だろうか…
だがそう感じたという事は、絶対にやってはいけない事なのだろう。
そうだ。軽い気持ちの一度が危ないのだ。麻薬も同性愛も、その一度で身を滅ぼしてしまう。
だから同性愛に手を出すべきじゃないんだ。
『ちょっと待ちなさい。麻薬と同性愛は違うわよ?』
『何を言ってるの?』
いや同じだ。両方とも手を出してはいけない危険物だ。
さあ!消えてくれ!俺の意思は固くなったぞ!
同性愛は麻薬と同じくらい危険なんだ!
『待って!まだ話は──』
『その考えは間違って──』
「ふぅ……」
消えた。跡形もなく綺麗さっぱりと彼女達は消えてくれた。
そして掴んだ取手に力を入れる。
この扉の先に希望が待っている。
よし!メリル!お願いだ!
どうか俺を彼女達の同性愛スパイラルから救ってく──
──『私は女だけど!それでも女のアナタが好きなの!』
「……へ?」
女?それでも?
部屋の中から怪しい発言が飛び出たんだけど。
『そ、そんな……わ、私達は女同士なんだよ!そんな恋愛許される筈ない!』
……ちょっと待て。待って欲しい。
え?本当に?そんな訳ないよね?さっきの幻聴の続きだったら大歓迎だぞ。
ま、まさかメリルがそういう如何わしい作品を見ている筈が……
『同性愛の何がいけないの?愛に歳の差なんて関係ないって言葉があるなら、性別も関係なくていいじゃない!』
いや関係ある!そこ一番重要!
『関係…ない?』
そこ共感しちゃいけない部分だから!
『わ、私も好き…ずっとずっと好きだった!』
落ちた!?落ちちゃったよ!?
同性愛者が告白した相手が、実は同性愛者である確率ってどれくらい?
天文学的数値すぎるだろ。
親が泣くから考え直そう。ちゃんと孫の顔を見せてあげて。
……………………アッ。
アア、ソウダァ。俺ノ勘違イダッタンダ。
きっとストーリーが面白いだけで、メリル自身が同性愛じゃないんだぁ。
よーし、行こう。
…………頼むから勘違いであってくれ。
そして扉をノックすると、
「ハーイ、どうゾー」
その声を聞いて部屋に入室する。
そこにはベッドでパソコンを見ているメリルの姿があった。
「あ、広樹デシタカ。無事に目覚めたんデスネ。良かったデス。その後、身体の調子はどうデスカ?」
「あ、ああ……特に問題ない……です」
あれ?なんか瞳の色がおかしくないか?
数秒前まで拷問を受けていたような、かなり弱りきった瞳をしているんだけど…
「敬語なんてやめて下サイ。前にも言いまシタガ、そういうのは苦手なんデス。……ん?どうしたんデスカ?顔に汗が見えマスヨ?」
そりゃあ汗くらい出ますよ。なにせ…
『ダメっ、キリンさんが見てるっ』
『キリンも同性愛が多いから問題ないわよ』
明らかに停止した方が良い部類の音声が流れっぱなしなんですよ。
動物園でのキスシーン?
え?気にしている俺がおかしいの?
「本当にどうしたんデスカ?足も震え始めて…まるで産まれたての子鹿みたいデスヨ?」
何食わぬ顔で言葉を続けるメリル。
『やっぱり無理!キリンさんが群れになって私達を見てるよっ!』
だがその手元には依然と止まない女同士の熱声が続く。
し、指摘して良い事なのか?
でもパソコンを止めてくれないと、まともに話せる気がしない。
「あ、ああ、メリル、ちょっとパソコンについてなんだが…」
「ああ!これデスカ!私のお気に入りなんデスヨ!」
お気に入り?その同性愛ストーリーが?
もしそれが事実なら俺は立ち直れなくなる。
「同性愛って素晴らしいデスヨネ!異性には分からない気持ちも、同性なら察してくれるんデスカラ!」
やめてくれ。
俺の純粋な気持ちを汚さないでくれ。
弱りきった瞳をしながら何を熱く語ってくれているんだ。
「あ、ごめんなサイ。日本じゃあ難しいデスヨネ。私達の文化は…」
「……ああ」
今の俺はどんな顔をしているかな?
いや、きっと変な顔をしている筈だ。
だってさ、見えるんだよ。
目の前にいるメリルの顔が、徐々に青くなっているのがね。
それに肩も震えている。
きっと俺の気持ちが表情に出ているからだな。きっと引かれている。
「じゃ、じゃあな……とにかくメリルが無事で安心した。それを確かめに来ただけなんだ…」
諦めよう。こんな話を聞かされた直後に、恋人ごっこをお願いするのは無理がある。
「っ!?…わ、私の…無事をデスカ…?」
頬を赤くするメリル。
「ああ。ずっと心配していたんだ。あんな酷い目にあったんだから……」
そうだ、思い出した。メリルはあの黒い怪物に襲われて、身も心もズタズタにされたんだ。
あの触手に絡まったパンツを見て、この上ない絶叫をしたのを覚えている。
「もっと早く…いや、もう言い訳にしかならないな」
「っ!?広樹は何も悪くありまセン!あれは私が選んだ結果デス!」
いや、選んだ結果デス!って言われても、罪悪感がハンパない。
ホテルに行く前に、俺はメリルを騙して詩織達を押し付けた。
その行き着いた先があの怪物に襲われた結果なら、俺にも責任がある筈だ。
「そ、そんな暗い顔をしないで下サイ!私は役目を果たしたんデス!あれは義務だったんデスヨ!」
役目?義務?一体何を言って…………っ!?まさか!?
「…知っていたのか?(俺がテロに巻き込まれた事を。)その上で飛び込んだのか?(俺を助ける為にホテルへ)」
「当たり前デス!(私は重症を負うのを覚悟シテ、最後の一撃を放ったんデス!)私はオーストラリア支部の一員として……いえ──」
メリルは言う。そこに曇りのない青瞳を輝かせて。
「私は一人の人間として大切な人(※詩織)を助ける為に戦いました!この傷は戦った事への勲章!それを私は誇りに思い続けマス!後悔なんてしまセン!」
メ、メリルぅうううう!!
やばい!良い娘すぎる!こんな娘が現実にいて良いのか!?
まるで映画に登場する英雄だよ!正義のヒーローだ!
そして大切な人って…………え、やっぱり俺?俺なのか?
だが会話の流れ的にそれしか言いようがない。
でも待て。だったら矛盾する。
メリルは同性愛者じゃないのか?あんなに同性同士の恋愛を熱く語っていたんだ。きっとその思いに偽りは無い。
一体どういう──
「……もう……嘘は嫌デス」
「嘘?」
「はい!もう覚悟を決めマシタ!」
パソコンを跳ね除けて、メリルは叫ぶように言い放つ。
「支部が違いマス!国も違いマス!それ以外にも障害はたくさんあるデショウ!その上で聞きマスヨ!」
決死の覚悟を秘めた瞳で、少女は一世一代の賭けに出た。
「それでも広樹は私の事が─ッッ!!?」
瞬間。
メリルの声は途切れ、部屋に鈍い音が小さく鳴った。
「ァ……ァ……!?」
少女は瞳を震わせて膝下を見る。そこには小さな膨らみを作った白布があった。
(し、詩織ィイイイ!?)
ギリギリだった。それも数センチ。後少しで身体に刺さっていた。
詩織が能力を使って、ベッドに黒棘を出現させたのだ。
(殺す気デスカーッッ!?)
股の付根にある硬い突起物に、メリルは恐怖して涙目になる。
これは恐らく警告だ。次は危害を加えてでも止めると、詩織は伝えているのだ。
(こ、これは…従うシカ…っ)
メリルは言いかけた言葉を胸にしまい、広樹に再び視線を向ける。
「広樹…あの、私は…………ぇ?」
そこには背中を向けた広樹がいた。
「広樹…?」
────。
────。
裏切られた。全てが嘘だった。
俺は薄々とだがメリルに好意を抱いていた。もし仮に告白されたら、前向きに検討できるくらいの気持ちがあった。
だが違ったのだ。その証拠が彼女の膝下にある。
(あれはっ、間違いなく…っ!)
天井に向かって突き上げられた白布。その下には何が隠れていると思う?
あの立派としか思えない自己主張。凛々しくも真上に聳え立った異質物。
それは間違いなく、性別を裏付ける証拠。
そう、メリルは『男』だったのだ。
その時点で分かる。メリルも詩織達の計画に加担していた同性愛者だったのだと。
出会ったばかりの自分に優しくしてくれた理由が今やっとはっきりした。
(そんなのって無いだろっ……今までのメリルは嘘だったのかよっ…)
メリルは『男』で『同性愛者』であり、『ほぼ初対面の俺に優しく』、『詩織とは昔からの知り合い』だった。
ここまでの事実を並べれば、否定する余地もない。
メリルは計画的に俺を狙いに来ていたのだ。
(もし気づかなかったら……俺はっ…!)
後ちょっとで喰われていた。
もしこのままメリルと関係を進ませていたら、いずれ入籍をしていたかもしれない。
(に、逃げないと…っ)
早く出よう。じゃないと何をされるか分からない。
もしかしたら拘束されて無理やり毒牙に……絶対嫌だ!!
「広樹?」
呼ばれた。だが振り返らない。
その下心丸出しの下半身を見たからには、もうメリルと顔を合わせられない。
だが最後に言ってやろう。俺は男には興味がないって事を。
「メリル、俺は──」
「メリルぅうう。お姉さんが見舞いに来たわよぉおおおっっ!」
扉が乱暴に開き、短い金髪の女性が現れた。
「アレ?君は日本の…」
英語で何かを呟きながら、女性は顔を近づけてくる。
「んーー」
「な、何でしょうか?」
つい日本語で質問してしまう。それに彼女は頬を掻いた。
「私、日本語、苦手なのヨネ」
いえ、それぐらい出来るなら十分かと。
「私の名前はサラ・ホワイト……で、日本語、合ってるのヨネ?」
「サラ・ホワイトさん、で良いなら…」
「さん?…ああ、名前の最後につける日本語ネ」
サラは病室を覗き込み、「ん〜?」と眉の間にシワを作った。
「どういう状況?そこにぶら下がっていると危ないワヨ」
ぶら下がっていると危ない?何を言って…………え?窓の外から人が──
し、詩織!?えぇ!?なんで窓から現れるの!?
「よく分かりましたね」
「年季が違うだけヨ。次やる時は殺気を漏らさない事をオススメするワ」
「……」
詩織は服を払って、何事もなかったようにサラに一礼した。
「じゃあ行きましょうか、広樹」
「っ!?」
早っ!?瞬きする間もなく眼前に現れた!?
そして右手を掴まれてる!?
「では私達はこれで。もう時間がありませんから」
「目的地まで送っていくワヨ?」
「お気遣いなく」
時間がない?
まさか同性愛パーティーの入場時間の事か!?
まずい!このままじゃあ連れて行かれる!!
「お礼がしたいノヨ。もう時間はないけどネ」
「「っ!?」」
こっちも早っ!?サラという人もやばい!
意識する間もなく回り込まれて、その上で道を塞がれたんだけど!?
「……分かりました」
「ふふっ、ありがとう。嬉しいワ」
────。
────。
「申し開きはあるかしら?日本支部の総責任者さん」
オーストラリア支部の総責任者。校長の立場に座るジェシカ・ウィリアムズは、モニターに映る男に不機嫌の矛先を向けていた。
『あ、ああ……そうだね……こちら側にようこそ?』
「戦争ね!オーストラリア支部は総動員して日本支部へ討ち入りに行ってもいいのよね!ねえ!」
布団を蹴り飛ばして、血管を浮き上がらせるジェシカ。だがすぐに、
「うっ!?」
腹を抱えて蹲り、ベッドの上で痛みに悶えた。
「ジェシカさん。激しい運動は厳禁と伝えた筈ですよ。貴女の胃は──」
「知ってるわよ!でもしょうがないじゃない!この男が喧嘩を売ってきたのよ!」
側にいる担当医の注意を振り払って、ジェシカはモニターを指差して声を荒げる。
「もう支部も私の胃も滅茶苦茶よ!戦闘力を強要する研究者はいるわ!それが敵組織の内通者だったりするわ!情報が色々と利用されるわ!上層部から管理不足で怒られるわ!わ!わ!わぁあああーーよ!」
『ほとんど君の責任だよね?それ』
「私の胃にトドメを刺したのは日本支部よ!」
机にある資料を乱暴に掴み取って、それを日本支部の校長に見せつける。
「どうして日本支部のこの三人がオーストラリアにいるのかしら!?これで私の胃も限界突破よ!馬鹿でしょう!アナタも上層部に怒られればいいんだわ!」
『ふっ、もう既に怒られているよ。そして減給もされた』
「何よそのやってやった感!?」
『君もストレスの極地に立てば分かるさ。見なさい。今の私の姿を。君にはどう見える?』
「病室のベッドでお世話になっている患者にしか見えないけど!?」
しかもジェシカより窶れた顔である。それがストレスの極地に逝立った者の顔であれば、ジェシカは未来の自分に一層強い恐怖を抱いた。
『私が道先案内人になってあげよう。大丈夫。さぁこの手を取るんだ』
「ひぃいいいい!?そんなの取れる訳ないでしょう!」
枕をモニターに投げつけ、床に機材が散乱する。そして音声機器の具合が悪くなったのか──
『君も─ッ──ッッ──こちら側──だよッッ──ザザザザザザザザッッ』
「嫌ぁああ!?なんなの!?私になんの恨みがあるって言うのよ!」
『見える─ッ─君の背後に──まだ──ザザザザザザザザッッ』
「背後に何が見えるのよ!?脅し!?脅迫!?早く教えなさいよ!!」
『楽しみに待っているよ──ザザッ──ブツッ!』
そして通信は切れた。
「は!?ちょっと!?担当医!すぐに日本に繋ぎ直しなさい!」
ジェシカの指示に担当医は無理だと両手を振る。
「機器が完全に壊れています。代わりを用意するよりも、端末で連絡を取った方が早いかと」
「くっ!」
取り出した端末で電話をかけるも、一向に繋がる気配を見せない。
「もう嫌ぁああああ!どうして私がこんな目に!限界よ!そして何なのよ日本支部!あんな台詞を残していくなんて狂ってるの!?」
「身も心も満身創痍に見えました。私も医療に長く携わってきましたが、あのような表情は初めて見ましたね」
「もう死人よ!いえ死神ね!次は私を連れて逝く気なんだわ!」
恐怖を叫びながらジェシカは泣く。そして涙が枯れた頃に、小さく呟いた。
「それで……彼は無事目覚めたのよね?」
「ええ、ジェシカさんが最高の治療チームを用意してくれたお陰です」
担当医は思い出す。ジェシカの手配の下、オーストラリア支部の治療系統能力者を召集し、広樹の治療の当たらせた事を。
それが相まって、彼を万全の状態にまで治療する事が叶ったのだ。
「もしこれで何かあったら、もっと重い処罰が課せられていたでしょうね」
「その処罰に関して少々疑問が」
「良いわよ。言ってみなさい」
「失礼ながら」
担当医は申し訳なさそう顔で言う。
「情報漏洩をしてしまったのにも関わらず、処罰が小さいと思いまして…」
「…………」
「ジェシカさん?」
顔を青くするジェシカ。そして彼女は声を震わせて言った。
「危なかったのよ。もしサラを呼び戻していなかったら、確実に首が飛んでいたわ」
「サラ?確か彼女は政府で長期任務に入っていましたね」
「ええ。政府に派遣していた彼女を、私が無理に呼び戻したのよ。先方からの見られ方が悪くなるのにも関わらずにね」
テロに向かう直前まで、サラは政府で長期任務をこなしていた。にも関わらずテロが発生した直後にサラを現場に導入できたのは、ジェシカが以前より頼み込んでいたからに他ならない。
「もし私が政府に連絡していなかったら、サラの導入が遅れていた。そうなっていれば、殺されていたかもしれない少女がいたのよ」
「少女……もしや、リリー・ジョウソンの事でしょうか」
「ええ、大臣の娘。彼女の証言で皮一枚繋がったの」
本当にギリギリだったとサラ本人からも聞いていた。その努力と結果も考慮され、ジェシカの処分は軽くなったのだ。
「はぁ……どうすればいいのかしら」
「どうすれば、とは?」
「お礼よ。日本支部の三人のね。それとも叱るべきなのかしら」
テロの功労者。勝手な判断でテロに介入した事を除けば、彼等は偉大な結果を作ってくれた恩人達だ。
それに関してお礼か叱りか。ジェシカは迷う。
「それは後日でも良いのでは?体調の事もありますが、何より事後処理がまだ残っています」
ジェシカの身体とテロの後始末。その両方を鑑みて担当医は後日を考える。
それにジェシカは首を縦に振った。
────。
────。
『元気そうだったね。ジェシカちゃん』
「貴女の目は節穴ですか?」
病室のベッドで校長は溜め息を吐き出していた。
目の前にはモニターが二つ設置されており、その片方の画面には笑みを浮かべる幼女の姿がある。
『節穴じゃないよ。本来の処罰を与えていれば、きっと泣き顔を見ていたんだからね』
「…………」
校長は黙る。確かにジェシカの処罰は軽かった。その理由は恐らく、それに見合うだけの何かがあったのだろう。
『今回のテロでの死傷者ゼロだったんだよ。敵も味方も含めてね』
「他にもあるのでしょう?」
『ふふ、まあね』
白髪の幼女、エリスによって画面の脇に並べられていく情報の羅列。それに目を通した校長は、息を飲んで疑った。
「本当なのですか?」
『本当だよ』
エリスは笑う。その笑みには達成感に満ちていた。
『取られた情報は大きかったけど、奪えた情報も大きかったって事だね』
今回の件でテロリスト達は全員捕まり、そこから得られた情報がある。
soldierの入手経路と、計画を差し向けた政府関係者の情報など、隠蔽工作もあり完璧な情報としては得られなかったが、エリスには十分な手掛かりとなった。
『WDCと内通していた政府関係者がいてね。もう笑うしかないって程に情報が出てくるよ』
満足そうに笑顔を浮かべるエリスだったが、校長は一つ不審に思った事を口にする。
「その政府関係者の情報についてですが、よくテロリスト達が素直に口を割りましたね』
『ああ、それなんだけど。soldierに設定されていたプログラムの事を伝えたら、アッサリ答えてくれたんだよ。まぁ既に襲われた後だけど…』
「プログラム?」
『そう。【最後はテロリスト達を皆殺しにしろ】って、まあ情報漏洩を防ぐ為にWDCと政府関係者の両面が仕組んだんだろうけどね』
だがsoldierは倒され、テロリストも無事だった。それによって敵側の計画は破綻し、反撃に繋がる情報を得られたのである。
『ちなみに捕まえたテロリスト達だけど、情報も簡単に吐いてくれた訳だから、一部本人達の希望もあって罪の償い方をちょっと変えてあげたんだ』
「償い方を?」
エリスは笑顔で事情を話した。
『懲役付きで地雷処理の仕事をしてもらう予定なんだよ。元紛争地に埋まっている地雷とかをね』
「そ、それはまた……」
どんな経緯があって彼等を働かせる事になったのか。それを聞く以前に、彼女が突拍子のない決定をするのは、今から始まった事ではないのを校長は知っていた。
きっと今回の件も裏で何かがあったのだろうと、校長は何も聞かずに意図を汲み取る。
『ちゃんと教育はするし、今まで世間に迷惑をかけた分、きっちり命がけで働いてもらうよ』
エリスは一段落と、テロリスト達の今後を語り終える。そして、
『それともう一つだけど…………』
「どうなされたのですか?」
ふいに冷めた雰囲気を見せるエリスに、校長は疑問を言う。
『…………WDCの元締と会ったんだ。生身じゃなかったけどね』
「っ!?」
『懐かしかったよ。そして憎くもある。言葉に表せない気持ちで一杯になったね』
感傷に浸るような面影を見せて、エリスは軽く息を吐いた。
『本当に……また会いたいよ』
読んでくれてありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。