第189話、校長『すまない広樹くん、戦闘学の為に犠牲になってくれ』詩織『さあパーティーに行きましょう』鈴子『きっと楽しいよ』
大変長くお待たせしてしまい申し訳ありませんでした。
書き上がりましたので投稿します。
どうかよろしくお願いします。
「っ!っ!っ!っっっっっっっっ!!」
連打連打。とにかくナースコールを連打した。
「ZZZ〜」
「っ〜!!」
もう怖かった。薄暗い病室で目が覚めたと思ったら、目の前で詩織が寝息を立てていたのだ。
彼女は黒い棘を生み出して相手を刺殺する事もできれば、逃走する相手をバイク並み速度で走り追いかける事もできる。
それだけでも恐ろしいのに、終いには暴走する事で何もかもを蹂躙し尽くせる半骨半肉の巨人にもなれるのだ。
そんな彼女が寝起きの直後にいたら、誰でも心臓を凍らせるだろう。
でも優しい一面があるのも知っている。合同任務の帰りに自分を慰めてくれた時の事を思い返せば、彼女は思っているよりも怖くないかもしれない。
だが怖い!それでも怖い!二人っきりは無理!まだ心の整理が済んでいません!どうして詩織がここにいるの!?お願いたがら起きないで!
「ZZZ……ん?んん〜?」
「っ!?」
「んん…………ZZZ〜」
「ふ…ふぅぅ」
お、落ち着け、平常心を保つんだ。とにかく今はナースが来てくれるのを待とう。それまでは沈黙に徹するんだ。
「ZZZ〜」
いまだに彼女の本性を掴めない。いや益々と掴めなくなった。最近知ったばかりの事だが、彼女には同性愛疑惑もある。しかも相手は鈴子であり、向こうも満更ではないという感じがした。
昨日の夜。彼女達は夜遅くまで同じ部屋にいた。その一夜にも何かあったかもしれない。いや何かあったに違いない!
その翌日にあんなメールを送ってきたんだ。お互いの事を想い合っている風の同性愛宣言メール。彼女達は完全にデキテいる。他人が入る余地もない程に。
だが考えてみよう。どうして彼女が病室にいる?
一見すれば入院している自分に付き添ってくれていた風にも捉えられる。
でもその理由が分からない。自分の近くにいて彼女に何のメリットがあるのだ。
何もない。何一つだ。
だが彼女は馬鹿ではない。その行動の裏には必ず何かある筈だ。
考えろ。彼女はどうして病室にいた。何が目的で付き添ってくれていたんだ。
「…………宝…くじ?」
っっ!!?まさか!そうか!そうなのか!
分かった。分かってしまった。全ての点と点が繋がった。何という壮大な計画だったんだ。
彼女達は最初から仕組んでいた。その最初とは自分が戦闘学に転校してくる以前の事。
どうして自分に戦闘学への転校話が舞い込んできたのか。それ自体が彼女達の計画の始まりだったのだ。
当初は校長が当選金を狙いに誘い込んだと思ったが、あんなに設備が整った機関に資金不足なんてあるものか。
初めて訪れた校長室での会話で、校長は震えながら謝っていた。てっきり当選金が目当てなのを見破ったからだと思ったが、それは丸っきり違う。
校長が謝っていたのは、彼女達の計画に巻き込んでしまった事にだったのだ。
学園のために自分を誘ったと言っていたが、そこからが勘違い。
学園のために転校して欲しい。確かに校長はそう言っていた。
じゃあもし転校しなかったら、学園はどうなっていたのか。
あの震えた声音を思い出せ。あれは見破った事に震えていたのではなく、あの場に恐怖する原因が居座っていたからに違いない。
そしてその原因とは彼女、姫路詩織である。
校長は彼女に脅されて転校話を持ちかけたのだ。もし従わなければ学園の命運は無いと、校長は苦渋の決断に走り、頭を下げてでも転校をお願いしてきた。
詩織の恐ろしさはよく知っている。なにせ巨人になれるのだ。
そして脅し言葉はきっと、
『戦闘学の外壁くらい、簡単に蹴り飛ばせますよ?…………いえ、例え話です。本当にしようとは考えていませんから』
せ、戦闘学が巨人に支配される!?その瀬戸際に校長は立っていたのか!
そして詩織が転校話を持ちかけた理由は紛れもなく当選金。その使い道は恐らく、
『ちょっと世間の荒波と戦いたいんです。その為には活動資金がどうしても必要で…………ああ、深く考えなくて良いですよ。校長は何も言わずに手続きさえしてくれれば良いので』
そして彼女は続け様にこう言ったのだろう。
『戦闘学のお金を着服すれば犯罪。でも個人の資産からの寄付なら合法。私の言っている意味、分かりますよね?校長?…………ああ、勝手に察してくれると助かります。私はそれを否定も肯定もしませんから』
アウトォオオ!どんだけ醜悪なの!?もう悪女だよ!悪女!
『私達の愛は本物です』
本物だけど汚い!絶対に異臭を嗅ぐわせているよその愛!
『無理な説得はしなくて良いです。じゃないと脅迫ですからね。彼にはゆっくり知って貰うんです。同性愛の素晴らしさを』
知りたくない!?そんなの微塵も興味ありません!
ん、まさか詩織と同じチームを組んだのも計画の内?校長を脅迫して職権乱用をさせたとか……怖!?でも考えられる!
思い出してみれば、転校後から今にかけて彼女達と離れて過ごした記憶があまりにも薄い。
合同任務では詩織と。新入生歓迎イベントでは鈴子と。そして今は二人ともいる。こんなのが偶然である筈がない。
しかも二人は序列者だ。日本支部で頂点に数えられる実力者。
そんな彼女達が平凡な転校生と理由もなく一緒に同じ時間を過ごすわけがない。
は、嵌められたぁああ!?
じゃあ客船での本気バトルも演技!?
最初は仲が悪いと思わせておいて、その後に仲直りする展開。
新入生歓迎イベントでは激しく争い、バスケの試合で愛が生まれるドラマ。
それを見せる狙いはつまり、荻野広樹に同性愛因子を生み出す為。
…………あ、駄目だ。逃げよう。
このままでは喰われる。だが今からでも遅くない。彼女達とは縁を切って、何もかも知らなかった事にしよう。
もしも諦めてくれなかったら………そうだ。
同性結婚を認めている国を紹介するのが良いかもしれない。今から頑張れば可能性はある。移住とか亡命とか。
よし、調べよう。偶然にも手で取れる位置に端末があった。
検索検索……
………………。
………………。
へ?オーストラリア?
同性結婚を認めている国を調べたら、オーストラリアが出てきたんだけど……
え、これも計算の内?
オーストラリアに行こうと提案したのは鈴子だ。それを踏まえれば辻褄が合ってしまう。
……………………もしかして、詰んでる?
い、いやいやいやいや!?まだだ!まだ終わってない!
きっと彼女達の考えはこうだ!
『広樹にはオーストラリアでホモに目覚めてもらうわ。同性愛パーティーを探して参加させるのよ』
『うん……きっと目覚めてくれる』
目覚めたくないぃ!に、逃げないと!
ちゃんとした理由を作って参加を断るんだ!
で、でもどんな理由を立てれば諦めてくれる?
体調が悪いと言っても、次回を狙われるだけ。確実に同性愛には興味は無いと知ってもらわなければならない。
考えるんだ。同性愛に興味はないと、どうやって示せばいい。言葉だけでは確実性に欠ける。
同性愛の反対は異性愛…………はっ!?
好きな異性がいると認知させれば助かるかもしれない!
そして更に思いついた!彼女に協力を頼んでみよう!
好きな異性がいるんじゃなくて、付き合っている異性がいるにした方が諦めてくれるに違いない!
断られても良い。ただ好きという設定を作るのは本人の自由だ。詩織達に宣言してもいい筈!
よし!そうしよう!
メリル、君が好きだ。
これでいこう。
────。
────。
「──で、私からの説明は以上だけど、何か聞きたい事はあるかい?」
「ありません」
病室で担当医から治療の経緯を説明された。
だけど内容なんてどうでもいい!今はとにかくメリルと連絡を取らなければならない!
「れ、冷静に受け入れられるんだね……君のような少年は初めてだよ」
担当医は独り言を漏らしながら立ち上がった。
「じゃあ私はこれで。メリ……次の患者のところに行かなくては」
(今メリルって言いかけた!?)
扉に消える担当医。彼を今すぐ追いかけたいが、その前に声をかけなければいけない相手がいた。
「じゃあ広樹、早速で悪いけれど─」
(早速!?今から同性愛パーティーに誘う気なのか!?)
「これを─」
詩織が懐から一枚の紙切れを差し出す。
(まさか同性愛パーティーのチケット!?)
駄目だ。その紙の表記を読んでしまったら、詩織からの言葉が続いてしまう。
その前に逃げなければ。
「詩織っ、すまん。ちょっと先生に聞き忘れた事があったんだ。少し行ってくる」
「ん?そう……分かったわ」
よし!ぎりぎり回避!早く追いかけないと。
「じゃあ私も行くわ。行きながら説明させて」
「っ!?」
しつこい!?同性愛パーティーから逃さない気か!
「ひ、一人で聞きたい事なんだ……詩織には聞かせたくなくて……」
「っ……分かったわ」
よし!早く追いかけよう!
「ねぇ、広樹」
「ん?」
「旅行の荷物、全て預かってるから」
……………………へ?
詩織さん?チケットをペラペラ振りながら何を言ってるの?
「早く帰ってきてくれると助かるわ」
「は……はい」
扉をゆっくり閉める。
だ、駄目だ。詩織も本気だ。
どこにも逃さず、本気で同性愛パーティーに参加させる気なんだ!
早くメリルに会わなければ間に合わなくなる!
「先生ー!」
「ん、荻野くん?どうしたんだい?」
相変わらず日本語がうまい。だがとても助かる。
「次はメリルのところに?」
「そうだけど……ああ、確か知り合いだったね」
やっぱりメリルも入院していた!これはチャンス!
「はい、それで俺も一緒に……っ」
あれ?考えてみたら、これは一緒に行っても良い事なのか?
「君も?……そうだね……」
やはり二つ返事では難しい事だったみたいだ。
「じゃあ先に行っててくれないか?」
「さ、先に?」
「ちょっと忘れ物があってね。私が病室に着くまでなら、自由に会話してくれて構わない」
先生は廊下を指差して言う。
「向こうにエレベーターがある。十階に上がって、正面にある扉が彼女の病室だから」
そして先生は来た道に足を向けた。
「じゃあまた後でね」
「あ、ありがとうございます!」
時間が出来た!しかも二人っきり!このチャンスを逃さない為に早く向かおう!
……………………。
……………………。
「ん?そこに隠れて何をしているんだい?」
広樹と別れてすぐ、担当医は物陰に潜んでいた詩織を見つけた。
「先生……この病院のエレベーターって、遅い方ですか?」
「…………うん、安全性を重視しているからね。遅い方だと思うよ」
それを聞き、詩織は脇目も振らずに走り去った。
「…………殺気かな?危険な臭いがするね。さすが日本支部の序列者だ」
担当医は微汗をかきながら、近くの自動販売機に顔を向ける。
「メリル、すまない。私は一服してから向かうよ」
────。
────。
「ねぇ、メリル。私は思うのよ」
開けられた窓に腰かけて、詩織は青空を見つめて言う。
「この気持ちの正体は何だろう、ってね。……広樹がメリルを求めていると、胸の奥がズキズキするのよ」
胸に手を当てて、見えない気持ちを意識する。
「どうしたら良いのかしら……ねぇ、教えてよメリル」
「ムゥウウッ!?ムブゥウ!!」
ベッドの上には触手に縛られたメリルがいた。
「アナタ言っていたわよね。この気持ちは恋デス、って。本当にそうなのかしら?」
「ムッ!?ムッムッムッ!!」
触手に縛られながらも、メリルは同意だと激しく首を縦に振る。
「……」
詩織はベッドに立ち、メリルに顔を近づけた。
「分かっているわよね?」
「ムッ!ムッ!ムッゥウウウウ!!」
読んでくれてありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。