第188話、詩織「ずっと側にいるわ」『詩織BADEND』
書き上がりましたので投稿します。
よろしくお願いします。
※前半の表現が少々キツイです。もしちょっとでも気分が悪くなった方がいれば、次話から読むことをオススメします。
次話から読んでも内容が伝わるようにしますので、どうかよろしくお願いします。
「…………んっ…ここは?」
うっすらと目が覚めると、薄暗い天井が自分を見下ろしていた。
「確か……そうだ、宝くじを……ん?」
意識が段々と定まり、ふと身体に感じた違和感に気がつく。
「動かない…?」
起き上がろうとするが力がまったく入らず、瞳と口しか動かなかった。
「あら、起きたのね」
「っ!?」
視界の外から聞こえた声。それは聞き覚えのある声音だった。
「詩織…か?」
「当たり前じゃない」
軽い足音が近づいてきて、詩織の顔が目の前に現れる。
「ちょっと明かりを付けてくれないか?身体がうまく動かないんだ。それと気分も少し悪い」
「仕方ないわよ。ずっと眠っていたんだから」
「ずっと眠っていた?」
「ええ。もう三日は経つわ。ここはオーストラリアの病院よ」
三日も寝ていたのか?
でもどうして…………うっ、なんか酷い目に遭ったような……
思い出してはいけないと本能が囁いてくる。
「腹部大動脈と下大静脈、大腸と小腸、脊柱と中身の靭帯、それらが綺麗に両断されていたの」
「……」
吐きたくなった。胃に消化物があればベッドに嘔吐していただろう。
え?本当に?色々と怪我しすぎじゃね?死んでもおかしくないよね?
それと靭帯を両断されたって聞いたけど、まさか身体が動かない理由って…………
「し、詩織……まさか」
怖い。だが聞かなければならない。
自分はもう動けない身体になったのかを。
「俺の身体はもう──」
「そこは安心していいわ。ほら」
詩織が何かを差し出してくる。それはまるで右手のように見え、ご丁寧に患者服の袖が付いていた。
「これは一体…………え?」
「フフッ、気がついた?」
それは親近感のある距離。まるで自分の右手を見る時の近さだった。
つまりそれって……
「あ…安心?…何を……言っているんだ?」
言いたくない。だが震えた口が漏らしてしまう。
「さ……触られた感触どころか……持ち上げられた事すらも分からなかったぞっ…!」
声にしてしまった。どうせ結果は見えてしまっているのに。
「やっぱり…俺はっ…」
浮き上がる恐怖が身を冷やす。そんな自分に詩織は、
「最初はグー」
「へ?」
右手が勝手に動く。握り拳を作って詩織の手と向き合っていた。
「じゃんけん、ぽん」
詩織はパーを出して、自分の手もパーを出した。
なんなんだ?一体にどうなっているんだ?
俺は何もしてないぞ!
「フフフッ…」
広げられた手と手がゆっくり近づき、指を絡め合って恋人繋ぎを作る。
そして詩織は頬を赤く染めて、顔を枕元に近づけた。
「匂いがしない。でも我慢するわ。そんなのは些細な事よ。首から上は本物。それで私は満たされるもの」
怖い!?今の詩織は普通じゃない!
く、首から上は本物?満たされる?
一体何を言っているんだ!
「あら?大丈夫?呼吸が乱れているわよ。それに汗もたくさん……どうしてそんな顔をするの?」
「ひっ!?」
な、なんだその瞳は!?いつもの明るい色がない!?
「まるで怖いものを見るような表情……ねぇ、どうして?」
「だ、だって……詩織……お前の瞳が……ガァッ!?」
首を絞められ言葉を切られた。
「瞳が…何?」
痛い痛い痛いっ!?爪が食い込んでる!!
一体どうしたって言うんだ!?
「ァッ!し、詩っ、織っ!ッ!」
「っ!?ご、ごめんなさい!私ったら!」
首にあった手が離されて、慌てた様子を見せる詩織。
そして──
「ああっ……私はっ……ごめんなさいっ……で、でもっ……広樹も悪いのよ!……そんな瞳でっ……私を見るから……嫌だったのよ」
両手で顔を覆い隠しながら、懺悔と言い訳を重ねる少女。
やがて荒々しかった呼吸は落ち着きを見せて、両手の奥から笑った表情が現れた。
「フフフッ!ハハハハッ!そうだったのね!てっきり私が怖いのかと思っていたけど、勘違いをしてしまったわ!」
詩織はベッドから離れ、鼻歌まじりに歩き出した。
「今の自分を知るのが怖かったのね。フフッ、なら教えてあげる」
部屋に備え付けてあったクローゼット。そこを開いて、詩織は大きな影を取り出して戻ってきた。
「ベッドを起こしてあげるわ」
ベッドのリモコンが操作され、上半身がゆっくり起き上がる。そして薄暗い視界の中で、詩織の隣に立つ謎の影を見た。
それは円柱の形をした巨大な何か。中に液体が入っているのか、上部がたぷんたぷんと揺れているのが分かる。
「あ、ごめんなさい。暗くて見えづらかったわよね」
詩織は端末を取り出し、そこに光を照らし出す。
そして見てしまった──
「っっっっ!?」
底知れない吐き気が身を襲う。そんな物が現実にあっていい筈がない。
「ホルマリン漬けにしたのよ。縫合せずに入れたから、ちょっと中身が乱れてるけど」
その円柱の中にあったのは男性の身体だった。
首から上はなく、腹が赤く染まった異形。そんな震え上がるような身体に、広樹は見覚えを感じた。
「な、なぁ…その身体って…」
「あら?いつも見ていた筈なのに、忘れてしまったの?」
「っっ!?」
そんな馬鹿な!じゃあ今の俺はどうなるんだ!こんなの信じられるか!
「じゃあ次はこっちを確認しましょうか」
「!?」
分からない。力を入れてない筈なのに、身体が勝手にベッドから立ち上がった。
そして詩織が腕を絡めて、鏡の前へ連れてこられる。
「手足の着色は済んだけど、胴体はまだなのよ」
そう言いながら、詩織は背後から自分を抱き締めて、服のボタンに両手をかけた。
「細かい部分もまだ作り終わってない。でも安心して。そこにある元の身体を見ながら、綺麗に再現して見せるわ」
恍惚な表情が揺らいで、パサっと服が床に落ちる。そして詩織は今になって気がついた。
「あら、ごめんなさい。やっぱり部屋の明かりを付けるわね」
端末のライトでは面倒だと、詩織は電気のボタンに指を添える。
「や、やめてくれ……」
円柱を照らす小さな光が、僅かながらに今の自分を教えてくれていた。
だがもし部屋の光がついてしまったら?それをはっきりと見てしまったら、自分の何かが壊れると本能が叫んでいた。
「フフッ、遠慮する必要なんてないのよ。大丈夫だから」
詩織がカチっと音を響かせる。
そして部屋は照らし出され、鏡にソレが映り込んだ。
「どんな姿になっても、私がずっと側にいるわ」
「ハァ!!?」
……ゆ…夢…だったのか?
手は……動く…動くぞ!
良かった!本当に夢で良かった!
なんであんな悪夢を見たんだ!洒落にならないレベルで怖かったぞオイ!
ん?だがお腹に違和感が………
「んっ……」
「────」
血の気が引いた。悪夢の続きを見ているのかと錯覚してしまった。
そこには詩織がいる。しかも自分のお腹を枕にして眠っているのだ。
「んっ……んん?」
ナースコールぅうううう!
詩織が目覚める前に来てお願いしますぅうううう!!
二人っきりは嫌だぁああああ!
読んでくれてありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。