第187話、宝くじ「私のためにっ…そんなっ…嫌っ…嫌ぁああ!」エリス「一体に何が君をそこまで動かしていたんだい?」
書き上がりましたので投稿します。
どうかよろしくお願いします。
ジョン・マイヤーは打ち震えていた。
『結合破壊』によって有利な立場に立っていた筈が、その力を物ともせずに立ち向かってくる存在がいる。
それは閃光。それは無情。あるのは純粋な闘争のみ。
その面影に思考はなく、憎しみと憎悪だけが戦いの影に見えていた。
『い、一体なんなのだ!?貴様は一体!?』
右腕も引き千切られ、両腕を失うsoldier。
最早その姿は満身創痍。だがジョンの戦意は消えるどころか──
『──フッ、フフフッ、ハハハハハハハハッ!』
醜悪に嗤って、その頭部を地面に叩きつけた。
『貴様は何も分かっていない!このsoldierを倒すという事は人を殺す事なのだよ!』
ジョンは暴露する。それを知れば、目の前の少年が困惑すると踏んで、意気揚々と高らかに叫んだ。
『これは本物の脳を搭載したsoldierだ!つまり生命維持装置も備わっている!その意味が分からんではないだろう!』
偽りか真実か。それを証明できるものは何もない。だが人を殺してしまう可能性を危惧させれば、その動きは必ず弱いものへと変わる。
それが戦闘学の弱点なのだと、ジョンは逆転を悟った。
『人殺し!不可抗力にも貴様は一人の命を奪うのだ!その十字架を背負う覚悟が貴様に──っ!?』
瞬間。soldierの腹部が折れ曲がった。宙を飛びながら瞳に映したのは、無慈悲に攻撃を加えた広樹の姿である。
躊躇も戸惑いもない。そこには明確な殺意があった。
「奪わせないっ……」
『!?』
石床が砕け散る。そして広樹の姿が掻き消えた。
ジョンの反応を置き去りにし、二度目の殺意がsoldierに叩き込まれる。景色は一瞬で吹き飛び、周囲に硝子の砕け散る音が響き渡った。
『く、狂っている!?貴様は人を殺そうとしているのだぞ!』
ジョンが喚いた先に広樹がいる。砕け落ちた硝子を踏んで、ホテルの中に歩んでくる。
やがて訪れる敗北に、ジョンは悪足掻きと周囲を見回した。
『──っ!?ハ、ハハハハッ!どうやら運は私の味方らしいぃ!!』
そこにいたのは集められた人質達。それにジョンの悪意が伸ばされようとする。だが──
『っ!?』
倒れる影が一人。いや一人だけじゃない。その場にいる全員が眠るように倒れていく。
その原因は何か。それは唯一倒れずにいた幼女が知っていた。
「これも計算なのかい?いや必然的でもあるね。私は全ての場所にいたのだから」
年相応の反応もしなければ、全てを見透かしているような軽い立ち振る舞い。そこに立っていたのはエリスだった。
「好き勝手に暴れてくれたね。ジョン・マイヤー」
『私の名を!?貴様、一体何者だ!』
「答える理由がどこにあるんだい?」
エリスの背後から複数の人影が現れる。それは武装したテロリスト達。だがそこに本人達の意識はなかった。
「連れて行ってくれ」
エリスの言葉でテロリストの身体から触手が生える。そして倒れた人質に巻きつき、廊下の奥へと運び込まれた。
「うん、『黒槍出現』。私にも操れる素晴らしい能力だ。これで人質の心配はいらないね」
この場に残ったのはエリスとsoldier、そして広樹だけである。
『クッ!』
「詰みだよ。もう逃がさない。私達に挟まれたからには」
『だ、黙れぇええええッ!!』
怒声と共にsoldierが走り出す。その先には笑みを浮かべたままのエリスがいた。
「頼むよ」
soldierの背後を見て、エリスは白髪を揺らして屈み込む。
そして装甲の砕け散る音が鳴り響いた。
『っ!?』
「背中を向けたんだ。当然の結果だね」
無防備を狙った渾身の一撃。痛快までに入った広樹の拳は、soldierを壁へと薙ぎ払った。
「──っ」
「?」
立ち眩むように身体を揺らす広樹。遂には膝をつき、白シャツに真っ赤な血が滲み出した。
「っ!広樹くん!」
床に崩れ落ちる直前で、広樹の身体をエリスは抱き留める。そして徐々に露わになっていく傷に手を添えた。
「これはっ……」
信じられない。そう抱いてエリスは言葉を失う。
片脚に受けた銃痕もそうだが、何よりも酷いのは腹部の刺し傷だ。
そこには溢れんばかりの出血が流れ、骨も内臓も丸ごと両断された貫通痕がある。
そんな死を彷彿させる致命傷を負いながらも、彼は怯むことなく戦っていたのだと、エリスは広樹の本性に震えた。
「広樹くん、君は一体…」
『──広樹くん…ね』
「っ!?」
聞こえた声音に瞳は見開き、壁に倒れたsoldierに身構える。
「お前は……ジョン・マイヤーじゃないね。その声は久しぶりに聞いたよ」
『ふふっ、私も久しぶりに君を見た。まだその容姿を持っていたんだね』
「これはお気に入りだ。まだではなく、永遠にストックし続けるさ」
背中で広樹を支えながら、片手で自分の顔をなぞるエリス。
「それで?ジョン・マイヤーはどうしたんだい?」
エリスの質問に、声の主は不愉快そうに答えた。
『ちょっとお仕置きをね。彼はやり過ぎた』
「やり過ぎた?」
『このsoldierさ。彼は私のルールに反して、こんな人形を作り上げた』
壁から立ち上がる人型soldier。放電を漏らしながら歩み寄り、エリスの眼前で立ち止まった。
『死んだら戻らないというのに、まったく…』
跪き、その頭部をエリスに差し出すsoldier。
『機械は作れるけど、戦闘力者の脳は作れないから』
「……また、奪いに来るような言い草だね」
『合ってるよ』
薄ら笑いを浮かべる声の主。
『そこの彼も手に入れたいと思っている。重症みたいだけど大丈夫?死なれたら困るんだけど』
「心配される筋合いはないよ。君を困らせたいのは山々だけど、私も彼には死んで欲しくないからね」
既に血は止まり、安らかな寝息を立てる広樹がいた。それはエリスが施した手段によるものである。
「私を誰だと思っている」
『やはり良い。相も変わらずッ──素晴ら─ッ─能力だ。是非とも欲─ッ─ね』
ノイズを含んだ声。それにエリスは笑い返した。
「時間切れのようだね。そんなに欲しいなら来るといい。いつでも相手になるよ」
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