第182話、サラ「覚悟しなさい!もうアナタの好き勝手にはさせないわ!」
書き上がりました!
これからもよろしくお願いします!
「サラ先輩!!」
「メリルちゃん久しぶり。ごめんね遅くなって」
サラの胸に飛びつき、メリルは泣きながら歓喜を漏らした。
「待ってました!ずっとずっとサラ先輩が来るのを!」
「こりゃ、本当に苦労したんだねー」
泣き噦るメリルに手を置き、よしよしと優しく撫でる。
「それじゃあ、どうもこんにちは。WDCのマッドサイエンティストさん」
メリルを横腹に抱きながら、サラは振り返って巨大soldierを見上げた。
「うちの娘が大変世話になったみたいで、お姉さんとても機嫌がヤバイよ」
『ハハハハッ!まさか戦闘学が序列第一位を投入してくるとは。確か政府で仕事をしていた筈だが?』
「アレは仕事という名の隔離よ。役立つ能力を持っていると苦労者よね」
『ああそうだったね。君は対象の性能を完璧以上に仕上げる能力を持っている。さぞ取引きや公演に勤しむ議員達が喜ぶ能力だろう』
soldierの巨手が砕かれた石床に差し込まれ、大量の瓦礫を鷲掴みにする。
『本当に厄介だよ。怪我をしない相手というのは』
「それでもやるんだ?倒せない相手と」
『それは君達も同じだろう。もしこのMaryを倒す手段があれば、ぜひ見てみたいものだね!!』
ジョンは嬉々と叫んで、その剛腕で投擲を放った。
「くっ!」
向かってくる瓦礫をサラは跳躍して躱す。
「女の子に泥を投げるなんてっ、本ッッ当っっにぃ最低な野郎ねぇえ!」
『もう女の子という歳ではないだろう』
「二十歳はまだ女の子よっ!」
メリルを背後に投げ、サラは拳を握り締めた。
「くらいなさいっっ!!」
空気を切るような衝撃音。サラの拳がMaryの装甲に凹みを生み、その巨体が小さく揺れ動いた。
「硬っっああ!?」
『くっ、これが『万全到達』の力か』
ジョンの口から小さな驚愕が漏れ出る。
『人体強化の最大限。さらに壊れない肉体…。つくづく君は厄介だね』
「これが『万全到達』の本領よ」
口端を吊り上げて、サラはMaryの頭上を見上げた。
「だからさ!今からアナタはボコボコのスクラップになるけど良いよね!」
『なっっ!?』
瞬時に巻き起こった連続する衝撃音。Maryの背後を襲ったのは少女達の拳だった。
「私が第一位になれた理由は、この部分がきっと大きいわ」
詩織は細胞で作った剛腕を、鈴子は捻れた球体を、そしてメリルは粒子の渦を両手に掲げた。
「人体強化と能力の同時発動。私の『万全到達』はそれを可能にする」
『アアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!?』
大爆砕。
装甲がボロボロに凹み、損傷痕からバチバチと電漏が流れ出る。
だがすぐに少女達を振り払い、Maryは一方的な猛攻から退いた。
『遠慮の欠片もないね』
「遠慮する敵じゃないからよ!」
直後、詩織は突進した。それに鈴子とメリルも後を追う。
「もう負けないっ」
「さっきはよくもやってくれましたね!」
今までの鬱憤を晴らし切る。そう闘志を燃やして、少女達はMaryに接近した。
『まるで水を得た魚みたいにピチピチ踊る。だが新鮮な魚は嫌いじゃないよ』
Maryの背骨が詩織に伸びる。それを詩織は飛び越えて、Maryの装甲に衝撃を鳴らした。
『やるねぇ。やはり新鮮だ。ピチピチしている。あの二十歳の序列第一位と比べたら天地の差だ』
「ムッ!?それはどういう意味?詳しく聞かせて貰えないかな?」
『聞こえなかったかい?二十歳の君はもう魚売り場に並ばない鮮度だと行っておるのだ』
「ッッ!?い、言わせておけばぁああ!!」
憤怒を叫んで走り出すサラ。
「サラ先輩!?貴女が前に来ては駄目です!」
近接戦をする最中に、メリルは背後から近づいてくるサラを呼び止める。だがその激怒は収まらず、サラも近接戦に参入した。
『ハハハハッ!本当につくづく笑えるね!なんだその動きは?新鮮さの欠片もないぞ!』
「くぅっっのぉおお!!」
「お願いだからキレないで下さい!これ絶対に罠です!」
ジョンの度重なる挑発にサラは怒涛の連続打撃を叩き込む。
そんな今のサラにはメリルの言葉が全く聞こえていなかった。
だがサラの怒りの大きさに呼応するように、Maryの装甲が段々と剥げていく。詩織と鈴子の奮闘も加わって、既に巨大soldierは崩壊目前だ。
「これで終わりよぉお!!」
石床を踏み砕く程の高速跳躍。その右脚を天高く突き上げて、Maryの胸に遠慮無縁の突貫を繰り出した。
「はぁああああっっ!!」
全てを突破した終幕の一撃。サラの身体はMaryの胸を貫通し、その巨体は崩壊音と共に地に沈み込んだ。
「はぁはぁはぁ……ふん!ざまぁないわね!」
「…………」
「…………」
「…………」
「どうしたのよ三人とも。もう少し喜んだら?」
緊張を切らさない少女達に、サラは気の抜けた声をかける。
だが依然と三人の瞳から警戒心は消えない。
「サラ先輩。気をつけてください。あれは絶対に何かあります」
「私も思うわ」
「私も…」
メリルの言葉に賛同を示す詩織と鈴子。その姿勢にサラは周囲を見回した。
「今なら対戦車ライフルで撃たれても平気だけど……特に見つからないわね」
呑気にそう言いながら、サラの瞳が草陰に止まる。
「あれ?もしかしてジョウソン大臣?それと…………あれ?なんでテロリストの親玉が隣にいるの?」
「くっ…俺の顔は割れているのか」
脚に傷を負ったダニエル・ジョウソンと、テロリストのボスであるケニーを見つけたサラは、銃を片手に質問した。
「とりあえず大臣を引き渡して貰っていいかな?」
「ああ、もう好きにしてくれ…」
抵抗を一切見せずに、ケニーはダニエルの背中を押した。
「畜生…もう何が起こったのか理解できねえよ…」
自分からうつ伏せになり、持っていた武装を全て投げ捨てる。
「悪かったなダニエル。脚を撃っちまって」
「ケニー……」
何かを思うような瞳をするダニエル。そんな彼を脇目に、サラはケニーに聞いた。
「soldierのコントロール端末はどこ?音声認証システムとは別に、専用端末がある筈よね」
「ああ、さっきの部屋にある。だがご覧の有様でね…」
詩織達とMaryの戦闘で、あの部屋にあった物は全てが外に放り出された。故に瓦礫の一部となって行方不明である。いや既に壊れている可能性が高いだろう。
「きっと壊れてるぜ」
「…………」
サラは黙り込む。心にあった僅かな心配が、ケニーの言葉によって大きくなったからだ。
もしジョンがMary以外にも、他のsoldierを操作できるとしたら──
「メリルちゃん、あのデカいsoldierの所に行くわよ」
「あの土竜みたいのですか?」
「情報が正しければ、あのsoldierの中に脳が保管されている筈だわ。そうよね?」
サラの視線がケニーに向いた。
「ああ。だが仲間を配置しているがな」
ケニーの返答を聞いてサラは言う。
「メリルちゃんと私で脳の確保に向かうわ。詩織ちゃんと鈴子ちゃんは施設内のテロリストを──「脳の心配はいらんよぉ」ッッ!?」
突然と聞こえた老人の声に、少女達が一斉に向く。
「そう構えるではない。サラ、久しぶりだのぉ」
「先生!?」
サラは驚愕しながら、老人の方へと向かう。
「ご隠居の身でどうしてこの場に?」
「ああ少し友人に誘われてのぉ。それでテロに巻き込まれたのじゃ。それにしても久しぶりに運動したわい」
「脳の心配がいらないというのは?」
横から入った詩織の質問に、老人は揚々と答えた。
「ワシと友人で制圧してきた。ちょうど君達がその巨大soldierと戦っている間にのぉ。あの激しい戦いがあってこそ、ワシ達も行動しやすかった。感謝するぞ」
「じゃあ他のsoldierが動き出す心配は?」
「もう無いぞぉ。脳はワシの友人が付きっきりで見ておる。誰もsoldierを動かす事はできん」
それを聞いて少女達の中に安堵が生まれる。全てが終わったのだと、そこには安心しかなかった。
「じゃあ……」
鈴子は小さく疑問を呟く。
「あの余裕の理由は……」
ジョンの声が頭から離れない。Maryが一方的にボロボロにされながらも、ジョンの声音には確かな余裕があった。
その理由は一体……
「手を上げてボスから離れろ!」
「「「「「っ!?」」」」」
周囲が一瞬で凍りつく。
そこにいたのは小さな女の子を人質にした男だった。
「リリー!?」
「そうだ!そこにいる大臣の娘だ!分かったらすぐにボスを引き渡せ!」
男は銃をリリーに突きつけて、ボスの身柄を要求した。
「あー、草陰に隠していたんだけどね……リリーちゃん?もしかして人体強化とか使えなかった?」
「っ!っ!っ!」
リリーの身振りにサラは頭を抱えた。だがすぐにサラは笑みを浮かべた男に向く。
「撃っても良いよ」
「な、なんだと!?本当に撃っちまうぞ!これは脅しなんかじゃない!」
「だって傷つかないもの。今のリリーちゃんは」
「ああ、そういう事かぁ」
サラの余裕の顔に老人は答えに感づいた。
「その娘にはサラの能力がかかっておる。引き金を引いても、お前さんの手が吹き飛ぶだけじゃ」
「なっ!?」
テロリストが怖気つき、ケニーは地面に平伏したまま言った。
「もうよせ。俺達の負けだ」
それを聞き、男は銃を落とした。
「パパ!」
「リリー!」
走ってきたリリーを涙ぐみながら抱き締めるダニエル。
それを見届けたサラは、ゆっくりと男に近づいた。
「リリーちゃんを人質にしたみたいだし、一発殴っても良いかしら?」
「おいサラ。それは行かんぞぉ」
「冗談ですよ」
サラは手錠を出して、男の片手を握る。
「それじゃあ確保っと」
『本当に君は厄介だったよ』
────ッッ!!
サラの背中から何かが突き抜け、背後にあった樹木に弾痕が生まれ、
「なっ……」
その血飛沫が芝生を赤く染め上げ、サラは何も言えぬままドサッと転がった。
「サラ先輩!?」
「待てメリル!」
メリルを制止させ、老人は鋭い眼光で男を睨みつける。
「お前…人間ではないな…」
『保管していた脳は奪われたが、まだあったのだよ』
男は己の頭部を指差して、醜悪な笑みを作った。
「そうか…くっ…まさか『人間型』が現れるとはのぉ。しかもサラの能力を貫通しよるとは…」
『そこの娘達にも教えたが、私は今回のテロに備え、オーストラリア支部の序列者全員を分析済みなのだよ。そして用意周到に準備を進めてきた』
「っ!どこから情報が…」
『最近オーストラリア支部で不祥事がなかったかい?研究者が生徒の戦闘力保持を強要した不祥事が』
その言葉にメリルの肩が大きく揺れた。そこから導き出される答えは、
「スパイがいたって事ですか!」
『彼は最後に失敗をしてくれたよ。研究熱心なのは良いが、欲望が表に出てしまったみたいだ。だが既に口封じは済ませた。バレるのは時間の問題だったからね』
オーストラリア支部の研究職員にWDCのスパイがいた事実。それを聞き、老人の瞳がより鋭さを見せる。
「サラを倒せた理由が情報漏洩……それだけではないのじゃろう?」
老人の心臓を刺すような声音に、人間の皮を被ったsoldierは再び頭部を指差して言った。
『全ての秘密は、この脳にある』
読んでくれてありがとうございます!
今回登場した老人ですが、エリスと共に訪れていた老人です!
そしてオーストラリア支部の不祥事については、第127話と第128話で登場しています。
今回はその二つの伏線を使いました!
どうか次話もよろしくお願いします!